安芸優樹は勇者である   作:三奈木イヴ

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あと3話くらいで終わる気がする。出来ればそのくらいにしたいな……。でも終わるのは寂しい
最後まで優樹君と勇者部の物語をよろしくお願いします!


秘められた思い

乃木園子と三ノ輪銀に会ったあとの僕たちは、学校の屋上に来ました。

 

──風先輩に相談するために

 

「──勇者は決して死ねない……?」

 

「……体を供物として捧げる…?」

 

「……はい」

 

「満開の後、私たちの体はおかしくなりました」

 

「身体能力の一部が欠損したような状態です」

 

「それが供物に捧げる事だと、乃木園子と三ノ輪銀は言ってました」

 

「事実……彼女たちも……」

 

東郷さんが風先輩にさっきまでの事を説明してくれた。

……僕にはあんな事を伝えるのは無理だった……。

頭の中がいっぱいいっぱいで……更には姉さんの事もあったからだ……。

 

「じゃあ……あたし達の体は……もう元には戻らない…?」

 

「風先輩……この事はまだ僕たちしか知りません……。なので二人には……」

 

「わかってる。確かなことがわかるまでは話さないわ…。」

 

◆◇

 

「東郷さん……僕は行くけどどうする?」

 

「私も行くわ」

 

「わかった。ごめんね友奈、行ってくる」

 

「うん、東郷さん、優樹君いってらっしゃい」

 

これから僕達が行くのは──大赦の所だ。乃木園子と三ノ輪銀と話をするのもそうだが、一番の目的は姉さんに聞く事がいろいろあるからだ。既に学校の前に大赦の車が止まっているそうなので、早く行かないとな。

 

「あれか…」

 

僕は校門に止まっている車の窓をノックした。

それと同時に車の窓が下がり、仮面を付けたドライバーが顔を出した。

 

「──優樹君、東郷さん……」

 

ドライバーの神官は、僕と東郷さんの名前を呼び、仮面を外した。

昨日の今日だったので姉さんかと思ったけど、違う人だった。でも僕は、この人を知っている

 

「……花本さん」

 

姉さんがいた時点で予想はしていたが……やはり大赦の人間だったか…。

 

「二人とも、準備は良いかい?」

 

「はい」

 

「はい」

 

「……そうか。……乗りなさい」

 

花本さんに促され、僕と東郷さんは後部座席に乗り込んだ。

 

◆◇

 

──空気が重い……

 

正直なところ、花本さんにも聞きたいことはあるんだけど、一向に話し始める素振りが無い。これは僕から切り出すしかないのか……。

 

「花本さん…大赦の人だったんですね」

 

沈黙を破ったのは、僕だった

 

「……ええ」

 

「これは姉さんにも聞くつもりですが、花本さんは──僕たちが記憶を失ったことを知っていますか?」

 

僕の予想通りなら……この人は僕や東郷さんの事を知ってるはずだ……。そして乃木園子たちの言う「わっしー」や「須美」という名前が東郷さんの事だとしたら……

 

「……ええ、私はあなた達の事を知っています。」

 

あなた達……やっぱりそうか。

 

「なるほど…。」

 

「──花本さん、別に私のことは鷲尾でも構いませんよ」

 

「──⁉︎」

 

驚いたと言わんばかりの花本さんが言葉を紡いだ。

 

「気づいてたのか⁉︎」

 

東郷さんも気づいてたんだ。

 

「流石東郷さんだ」

 

「優樹君も?」

 

「ほとんど推測だけどね…」

 

「二人とも……か。」

 

花本さんもまさか気づかれるとは思ってなかったみたいだ。まあ、記憶を失った僕たち二人が辿り着くとは思うはずもないか。

 

「ところで、その話し方が素なんですか?」

 

「うん?ああ、そういう事か。こっちが普段の私だよ」

 

花本さんの空気が変わった…?

 

「君も鷲尾さんも記憶を失っているからね。私のことを覚えてないという前提だったが、さっきまでの話し方は仕事の時の私だよ」

 

なるほど…。仕事をする時と普段で口調を分けているのか。

 

「それで、僕達の記憶の件ですが……」

 

僕の中で仮説は立っている。考え続けたら、仮説は確信に変わった。

 

僕と東郷さんの記憶は──

 

「僕や彼女が記憶を失ったのは、満開をした事による散花によるものでしょう?」

 

「……凄いな」

 

この一言で充分だった。

 

精霊が増える条件は満開をする事にある。僕たちは増えて夏凛だけ1体しかいなかった事を考えるとそこに辿り着いたけど、やっぱり記憶の事は散花だったんだ……。乃木園子達の言葉が無かったら、多分気づかなかった。

 

「……すまなかった」

 

仮面の奥の表情はわからなかった。だけど花本さんの悲しそうな声を聞けば、心底そう思っているのだろう……。

 

「いえ……隠さざるを得なかったんですよね?」

 

「優樹君……」

 

満開の事だけを伝え、散花の真実を伏せた理由はなんとなくわかっている。

散花を恐れ、満開出来ずに神樹様の元にバーテックスを辿り着かせることを恐れたからだろう。

事実、僕たちは先の双子座との戦いで躊躇いが出てしまった

 

だけど、その為に散花の事を伏せたのは、まるで僕たちを生贄にしたかのようだった。

そして供物にされた身体は治ることがない……。

友奈の味覚も…東郷さんの足と耳と記憶も…風先輩の目も…樹ちゃんの声も…僕の痛覚や記憶……そして──片肺も……。

 

今にして思えば、記憶の事に気づいても唯一わからなかった供物は、おそらく片肺だったのだろう。僕が目覚めたあの日から筋トレを始めるまで……呼吸に違和感があった。まるで肺が片方しか機能してないかの如く……

 

トレーニングの一環で走っていたら心肺機能が強化されいつの間にか忘れてしまっていたけど──恐らくはそういうことだ

 

「……本当にすまなかった」

 

花本さんはもう一度謝った。

 

「いえ、教えてくれてありがとうございます」

 

「後の事は姉さん達から聞いてみます」

 

「私も──あの二人に聞いてみようと思います。」

 

「そうか……。それじゃあ、スピード上げようか。二人ともしっかり掴まってて」

 

「えっ?花本さん何言って──ッ〜〜〜!!」

 

「っ…⁉︎」

 

「と、東郷さん⁉︎」

 

スピードを上げると宣言した刹那、本当に速度が上がった。そして東郷さんが僕に抱きついていた。ちょっ……まずくないこれ…⁉︎ いやでも結構安定してる──じゃなくて!

 

「ちょっ…!花本さん!僕らは豆腐屋じゃ…!」

 

訳のわからない言葉が口からこぼれ出たが、花本さんは気にも留めず運転を続けた

 

「きゃあ……!!」

 

「ちょっ!東郷さん!!」

 

◆◇

 

「優樹君たち生きてる?」

 

「は、はい……なんとか……」

 

「え、ええ……」

 

とは言いつつもグロッキーだった……。なんて運転するんだよこの人……!でも一応送ってもらったし文句は言えないんだけどね……。というかケロッとしてるなこの人……普段からこんな運転してるのか…⁉︎

 

「じゃあ、行こうか」

 

「はい……」

 

……切り替えていこう…。今日ここに来た目的は、姉さんや彼女達に話を聞く事だから。おふざけは無しだ。

 

◆◇

 

「やっぱり来てくれた〜」

 

「おっ?園子、どっちだ?二人ともか?」

 

「二人ともだよ。」

 

「優樹と東郷──だよな?」

 

「うん……。まあ、あっきーでも良いよ。記憶は飛んでるけど、大体の事は気づいたから」

 

「私の事も、わっしーや須美でもいいわ。記憶は飛んじゃってるけど、その2年間は鷲尾という苗字だったのだから」

 

「本当に?すごーい、よく気づいたね」

 

「……いろいろとね。」

 

「ええ……。本当にいろいろ調べた上で推理したわ。私の場合だと、大赦による適性検査で勇者の適正がある事がわかった私は、大赦の中でも力を持つ鷲尾家の養子になり、あなた達とお役目についた…」

 

「僕は本来なら出ないはずの適正が発覚して、大騒ぎになったと推測してるよ。それでも養子には行かなかったみたいだけど」

 

僕は大赦の力関係というものはほとんど理解していない。強いて言えば、乃木家と上里家のツートップであるということくらいだ。東郷さんが養子に行ってた鷲尾家というところも力を持つ家系なのか。

 

「鷲尾家は立派な家柄だからね〜高い適正値を出したあなたを娘に欲しかったんだよ〜」

 

「……それで私の両親はそれを承諾したのね」

 

「神聖なお役目だからね〜」

 

「ちなみに安芸家も結構偉いんだぜ?少なくともアタシの家より偉いとこだ」

 

「そうだったんだ……。ちなみに花本さんは?」

 

僕の家も大赦絡みの家系だったのか……。そんな事知る由もなかった……。いや、知ってたけど忘れた──なのかな?そして花本さんは僕の両親と関わりがあった。安芸家が有力なとこなら花本さんも恐らくは……。

 

「花本さん?あー、花本のおじさんか。花本家は安芸家と同じだ。だからアタシ達とも関わりがあるんだ」

 

三ノ輪さんが花本さんについて教えてくれた

 

つまり花本さんは僕たちと──先代勇者と何かしらの接触があったって事か。つまりは僕や東郷さんとも…

 

「……僕と東郷さんは君たち二人と一緒に戦った。そして散花して記憶を失った──で良いんだよね?」

 

「うん──力の代償に供物を捧げる──これが勇者システムの真実だよ〜」

 

「まあ、アタシ達はその後派手に暴れてこんなんになっちゃったけどな」

 

「そして私たちは次の戦いに回された……」

 

「大赦は身内だけじゃやっていけなくて、全国で適正を持つ人を調べたんだよ〜」

 

だから友奈や風先輩達も……。

 

「記憶を失った私は東郷の家に戻されて、優樹君はそのまま安芸家に戻って、私の両親と優樹君のお姉さんは事実を知ってて黙っていた」

 

「事故と偽って、引越しの場所が友奈ちゃんの家なのも仕組まれたこと」

 

「彼女、検査で勇者の適正があっきーに次いで高かったんだって〜大赦側も彼女が勇者に選ばれるってわかってたんだろうね」

 

はっ…⁉︎

 

「えっ、ちょっと待って、僕の適正そんなに高かったの⁉︎」

 

東郷さんが僕以上に推理してたのを驚く前に、僕が一番適正が高かった事に驚かずにはいられなかった。

 

「そうだよ〜異例の男の子の勇者で尚且つ最も適正が高いって事で、最初は私の家か上里家に養子に来てもらうって意見もあったんだよ〜」

 

僕が乃木家に……でもそうはならなかったと。姉さんと離れるなんて考えたくもないな……。

 

「ごめん話の腰折っちゃって……それでさ、大赦は僕たちを祀っているよね?」

 

「優樹君…⁉︎」

 

最初はこんな事考えもしなかった。この二人と出会うまでは予想すらしてなかったけど……。

 

「どうしてそう思ったのかな〜?」

 

乃木さんは、何か言いたげな顔つきで言った。

 

「僕たちが満開をしてから、姉さんからの仕送りの額が上がっていた。最初は姉さんが昇格したからその影響だろうと思ってたけど、よくよく考えてみれば、僕の小遣い含めた仕送り額が跳ね上がってたよ。それに合宿の時の食事も豪華なものだった。」

 

「私のところもそう。食事の質が上がったわ。今思えば大赦が勇者への十分な支援を──いいえ、労いではなく、祀っていたということね」

 

その時はまだ、違和感は感じなかった。姉さんも何も言ってなかったから……。だけど満開の事に気づいたらまさかって思ってた。こういう事だったとは……。

 

「優樹、そう責めてやるな。皆、神樹様に選ばれたんだから嬉しい事なんだって納得してたんだろうな」

 

納得──か。

 

「三ノ輪さん達はそれで良いの…?」

 

「なに…?」

 

「例えお役目とはいえ、こんなになってまで戦って……真実を隠されて……」

 

僕は自分でも何を言ってるかわからなくなってきた。

そんなの八つ当たりじゃないか。

乃木さんや三ノ輪さんだって好きでこうなったわけではないのに……。

 

「あっきー」

 

「……ごめん、でも…神樹様は人類の味方じゃ無かったのか⁉︎」

 

「どうして僕たちがこんな目に…⁉︎」

 

「優樹君落ち着いて…」

 

「……ごめん東郷さん……ありがとう」

 

東郷さんの一言で、僕は現実に戻された。

 

「味方ではあるけどな……神様だから。そういう面もあるんだよ」

 

三ノ輪さんが呟いた。

 

「……そもそも」

 

「…………わっしー、それからあっきーも落ち着いて聞いてね」

 

「壁の外の秘密──この世界の成り立ちを教えてあげる」

 

「園子……わかった。あとは任せる」

 

「あのね……」

 

乃木さんが、世界の成り立ちを語り始めた。

 

「──」

 

その話を聞いた僕たちは、戦慄した。

そんな事が──本当に起こっているのか……⁉︎

 

ピロロンピロロン

 

「⁉︎」

 

僕と東郷さんの携帯の着信音だ。

 

「友奈ちゃん…」

 

「風先輩?」

 

東郷さんは友奈からだった。僕は風先輩から……何が──

 

「──優樹……後で、ウチに来て……。相談したい事があるの」

 

「はい……。」

 

そう言い残し、風先輩の通話が切れた。

有無を言わせない言い方から、僕は心配になってきた。姉さんとの話を終えたらすぐにでも向かうつもりだ。

 

「真実は自分たちの目で確かめるといいと思うよ……見に行くのも行かないのも自由」

 

「私はどんな選択をしようとも、二人の味方だから」

 

「もちろんアタシもいるぞ。どんな選択をしても、アタシは園子と一緒に二人の味方だ」

 

二人がそう言ってくれたけど──僕には真実を確かめる勇気は無い──

 

「本当はね、私は今の勇者がなんらかの形で暴走した時に抑える役目なんだ」

 

「抑えるって……その身体で⁉︎」

 

「ああ、アタシは違うぞ?この目だからな……。誰かに引き継がれたってのは聞いてるけどな」

 

「誰かに──まさか⁉︎」

 

後から来た夏凛の端末はまさか⁉︎

 

「ちなみにね〜私の精霊の数は10体くらいなんだ」

 

「ミノさんが居てくれたおかげでこの数で済んだんだよ〜?」

 

「それでも私すっごく強いんだ〜武器とか沢山出してずがーんって」

 

10回も満開を……。そんな果てしない満開の末に……。

 

「でも、普段は怖がられてスマホは手元に無いんだよね〜あれが無いと変身できないから」

 

「なあ、優樹……また、手を握ってくれよ」

 

「……うん」

 

僕は昨日と同じように、三ノ輪さんの元に寄って、右手を僕の両手で覆った。

 

「でっかくなったんだなぁ……。」

 

「……辛くないの?何度も満開して……両目の光を失ったりして……」

 

「まあ……辛いこともあったさ。園子から聞いたんだけど、ここってとんでもない数の形代で祀られてるらしいしな」

 

「⁉︎」

 

三ノ輪さんの一言に辺りを見渡すと、壁や天井にビッシリと形代が貼られていた

 

狂気だ…。神樹様の身体に近づいたからってここまでやるのか……。

 

僕には理解し難かった。

 

「でも今はね〜」

 

乃木さんが

 

「わっしーやあっきーも居てくれるから、不思議と辛くないんだ〜」

 

「……」

 

「もう少しだけここに居てくれないか?」

 

「……うん」

 

僕は三ノ輪さんの手を握り続けた……。

 

◆◇

 

「じゃあ、僕は姉さんと話をしてくるから」

 

「ああ、またね優樹」

 

「あっきー、また来てね」

 

「もちろんだ」

 

必ず来る…。たとえこの後何があったとしても……。

 

「優樹!」

 

声の主は三ノ輪さんだった

 

「三ノ輪さん……?」

 

「……例え何があっても──生きるのを諦めるな」

 

「⁉︎」

 

その言葉は聞き覚えのある言葉だった。

……そうだ、僕が満開をして気絶した後に、忘れられた勇者から言われた言葉だった──

 

「優樹君……私はこのまま帰るわね」

 

「わかった。一人で大丈夫?」

 

「花本さんに送ってもらうわ」

 

「わかった…。花本さんによろしくね」

 

「ええ」

 

僕は東郷さんと別れた。帰りはまあ、なんとかなるだろう。いざとなれば走れば良い。

 

「……それじゃあ、姉さんのところに行こう」

 

僕は目的の場所に歩き始めた。

 

◆◇

 

──優樹達が出ていったあとの病室にて

 

「ねえ、ミノさん」

 

「なんだ園子」

 

「さっきの言葉ってさ……」

 

「……昔、優樹が言ってたよな。あの戦いでも……」

 

「……うん、そうだったね。でも、あの時はミノさんが言ってなかった?」

 

「……そうだったね。あの時、もしも優樹が居なかったら──アタシはきっと死んでいたさ」

 

「ミノさん…」

 

「だからかな……アタシは優樹の事が好きだ」

 

「うん……。私も……でも、きっとミノさんとは違う意味で好きなんだと思う」

 

「ミノさんはさ、あっきーへの想い伝えるの?」

 

「……わからない。アタシだって初めてなんだ……。それに今のアイツは記憶が無いから……」

 

「真実は伝えたから──あとはわっしー達がどんな選択を取るかだね」

 

「園子……。そうだな、いざという時はその選択を受け入れるよ」

 

◆◇

 

「ここか」

 

ここに姉さんが……。僕は扉をノックした

 

「はい」

 

返事はすぐに返ってきた。

 

「姉さん、僕だよ」

 

次の瞬間──ギィっと扉が開いた。

 

「優樹、入りなさい」

 

姉さんに促され、僕は部屋に入った。

 

◆◇

 

「……姉さん」

 

「久しぶりね、優樹」

 

本当に──久しぶりだ。昨日は仮面越しだったが…今日はちゃんと顔を見せてくれている。

 

「姉さん……職場が大赦だって事、今の僕は初めて知ったよ…」

 

 

今までも知らなかった。ということは、初めて知ったのは恐らく2年前──東郷さんが鷲尾さんだった時だろう……。

 

「ごめんなさい優樹……どうしても貴方には知られたくなかったの」

 

「知られたくなかったって……」

 

姉さんに対して怒っているわけではない……。正直驚いたけど姉さんなりの理由があったんだろうとは理解できる。

 

「結果的にあなたは気づいたけれど、私が大赦の人間だと露呈する事によって、満開や散花の真実に辿り着く事を恐れたの。たとえ弟であっても、真実は知られたくなかった」

 

「姉さん……」

 

恐れた……か。それが大赦としての意見なのだろう。神樹様を守る為に僕たちを犠牲にする事が……。

 

「……姉さんはさ、記憶を失う前の僕たちと関わってたの?」

 

「……」

 

先代勇者と関わりがあった大赦の人間は恐らくは──花本さんと姉さんだ……。

理由はわからないけど、ただの直感だ。

 

「その通りよ。本来であれば、私のみでサポートに付く予定だったわ。でも、あなたの適正がわかってから、養子の話が出ていた。それを止めた上でサポートに付いてくれたのが花本さんよ」

 

「そんな事が……というか、養子の話は本当だったんだ……」

 

さっき乃木さんから聞いてたけど……花本さんのおかげで安芸の家で過ごす事が出来たのか──

 

「そうよ、既に聞いてると思うけれど、当初は乃木家か上里家へ養子に出される予定だったわ」

 

「そうだったんだ……。だったら花本さんには感謝しないとな……。」

 

「優樹……今まで隠しててごめんなさい」

 

「姉さん……頭上げてよ」

 

大赦としては真実を知られるわけにはいかなかったというのもあるのかもしれないけど……姉さんは姉さんだ。

僕の大切な家族だから……。そんな人が頭を下げてる姿なんて僕は見たくない……。

 

「……優樹、私の部屋の引き出しを開けなさい」

 

「……なに?」

 

引き出し…?姉さんの部屋は時々空気の入れ替えと掃除で入ることはあっても机には触れてなかったけど

 

「私の部屋の引き出し……それと本棚に書籍があるわ。今のあなたならそこに書いてある事の意味も理解できるでしょう」

 

「それってどういう──」

 

「優樹」

 

姉さんの声は有無を言わせぬようだった。

 

「──わかった、引き出しと本棚だね」

 

「その存在を知ってるのは私たちと花本家そして乃木家のみだから、扱いには注意してね」

 

「……わかった」

 

一体何があるんだ…?しかも特定の家しか知らないってなんだか怖くなってきたよ…。

 

◆◇

 

「ありがとう姉さん」

 

「ええ、身体には気をつけてね」

 

僕は姉さんと別れた。

姉さんとの話を終えた僕は、大赦が経営する病院から讃州市まで送ってもらった。

これから向かうのは──風先輩のところだ。

 

「──あれ?出ないな」

 

何か用事なのかな──っ⁉︎

 

とてつもない速さで何かが空を飛んでった。でも今のは──

 

「風先輩じゃ⁉︎」

 

まさか変身して……⁉︎ 何をするつもりかわからないけど、とにかく行かないと‼︎

 

僕は勇者システムを起動させ、風先輩が飛び去った方向へ強く踏み込んだ。

 

◆◇

 

「私は……どうすれば良かったの……?」

 

東郷から勇者システムの真実を告げられ、勇者は死ねないという──自殺をしようとしても精霊が止めるというのを見せられて……更には満開の後遺症は治らないという事実を叩きつけられた。

 

「人を守るために勇者になったのに……」

 

その為に樹を勇者部に入れた……その結果が声を失い夢を諦めさせる事に繋がるなんて……!

 

私のせいだ……。

 

皆がこうなったのも……全部……全部……

 

「……」

 

私は大赦宛にメールを送信した。

 

内容は私たちの体の調査についてだ。

東郷の言った事が本当ならば……大赦は満開の後遺症の事を隠している……。

 

ならば──

 

「電話…?」

 

端末ではなく、家の電話だった

 

「はい……犬吠埼です」

 

『突然のお電話失礼します。伊予乃ミュージックの藤原と申します。』

 

「いよの……ミュージック?」

 

かかってきた電話の主は、知らない音楽会社のようなところからだった。

 

『はい、犬吠埼樹さんの保護者の方ですか?』

 

「はい…そうですが…」

 

『ボーカリストオーディションの件で、一次審査を通過しましたのでご連絡差し上げました』

 

「え…?」

 

オーディション……そんなの初耳だった。

 

「な、なんのことですか…?」

 

『あ、ご存知ないですか?樹さんが弊社のオーディションに』

 

「い…いつ?」

 

『三ヶ月ほど前ですが樹さんからオーディション用のデータが届いてます』

 

「──」

 

『どうしたんですか?もしもし?』

 

あたしは、呆然と受話器を手放していた──

 

そしてあたしの足は樹の部屋に向かっていた

 

「樹……ッ」

 

「樹!」

 

「いないの?」

 

樹は声が出なくて反応出来ないのかと思い、あたしはドアを開けた。でも、そこに樹は居なかった。

 

代わりに机に開かれたまま置かれたノートを目にした。

 

「樹……」

 

ノートの内容は樹の目標や声に関する事だった……。

 

『目標』

声が出るようになったらやりたいこと

勇者部のみんなとワイワイ話す

クラスの友達とおしゃべりする

歌う!!

カラオケに行く

 

優樹さんに想いを伝える

 

「樹……!」

 

本棚には沢山の喉や声に関する本が

そして──開いたままのノートパソコンには、わかりやすく区分されたファイルがあった。

 

オーディション

 

あたしはそのファイルをクリックした。するとMP3が再生された。

 

『──えっと…これで…あれ、もう録音されてる?あ…ボ…ボーカリストオーディションに応募しました、犬吠埼樹です。讃州中学1年生13歳です。よろしくお願いします…!』

 

『私が今回オーディションに申し込んだ理由は…もちろん歌うのが好きだってことが一番なんですけど、もう一つ理由があります。私は…歌手を目指すことで自分なりの生き方みたいなものを見つけたいと思っています』

 

『私には大好きなお姉ちゃんと大好きな先輩がいます

お姉ちゃんは強くてしっかりものでいつもみんなの前に立って歩いていける人です。先輩は時々変なところもありますが、本当に優しくてカッコいい大好きな人です。反対に私は臆病で弱くて……いつもお姉ちゃんの後ろを歩いてばかりでした。でも私……本当はお姉ちゃんの隣を歩いていけるようになりたかった。大好きな先輩に想いをちゃんと伝えられるようになりたかった。だから強くなるために──自分の力で歩くために──私自身の夢を、私自身の生き方を持ちたい。そのために今、歌手を目指しています』

 

『実は私、最近まで歌を歌うのが得意じゃありませんでした。あがり症で…人前で声が出なくて…でも勇者部のみんなのおかげで歌えるようになって、今は歌を歌うのが本当に楽しいです!そして私が好きな歌を一人でもたくさんの人に聞いてほしいと思っています。あ、勇者部というのは私が入ってる部活です。勇者部では保育園の子どもたちと遊んだり、猫の里親を探したり、他の部のお手伝いをしたり』

 

『わたし、人見知りだから部に入った最初はちょっと不安でした。でも部のみんなはすごく優しくて……今は部活の時間がすっごく楽しいです!』

 

「…!」

 

『勇者の身体異常については調査中。

しかし肉体に医学的な問題はなく、じきに治るものと思われます。』

 

『あ、ごめんなさい!余計な事まで話しすぎちゃいました

では歌います』

 

樹が歌い始めたのは──「出会えて良かった──」から始まる祈りの歌という歌だった。

 

「私たちは何も知らされず騙されていた……」

 

いつの間にか涙が溢れていた。

それは光を失った左目からも……

 

「うっ……うぅ……」

 

私のせいで……樹の声は……!

 

「うぅ……う……っ……!!」

 

「うあああああああッ!!!!!!!」

 

慟哭の刹那、風は勇者システムを起動していた。

 

「──⁉︎ 風⁉︎」

 

変身してどこかへ飛び出した事に気づいた夏凛は、すぐさま勇者システムを起動して、風の元へ駆け出した。

 

「待ちなさい!」

 

夏凛の小刀が投擲され、風はそれを大剣で弾いた。刹那、夏凛の蹴りが風に炸裂した。

 

「あんた何をするつもり!?」

 

「大赦を……潰してやる!」

 

大赦を絶対に許さない‼︎ その思いがあたしを突き動かしていた

 

「なっ…‼︎」

 

「大赦は私たちを騙していた!」

 

「満開の後遺症は治らない…‼︎」

 

あたしは夏凛を倒して大赦の元へ向かう!だから邪魔をするな!

 

風の大剣による一撃は、夏凛の双剣で受け止められた。

 

「な…なにを…!」

 

「く……うぅ…」

 

大橋に近づくにつれ、夏凛の攻撃も激しくなっていた。

 

「大赦は始めから後遺症のことを知ってた!なのに何も知らせないで私たちを犠牲にしたんだ!」

 

「そんな適当を……!」

 

「適当なんかじゃない!」

 

東郷や優樹に聞いたんだ……。先代の勇者は満開による後遺症でボロボロになったって…!

 

「犠牲になった勇者がいたんだ!」

 

「え……」

 

「勇者はあたし達以外にもいたんだ!何回も満開して……ぼろぼろになった勇者がいたんだ!」

 

「そして今度は、私たちが犠牲にされた!」

 

風の攻撃は激しくなっていく。夏凛も双剣で受け止めてはいるが、このままでは時間の問題だ……。

 

「なんでこんな目に遭わなければならない!?」

 

「くっ……」

 

「なんで樹が声を失わなければいけない!?」

 

「夢を諦めなきゃいけない!?」

 

「ぐっ…!」

 

「世界を救った代償がこれかァァァァ!!!!!」

 

風の大剣は夏凛の双剣を弾いてみせた。そして、トドメと言わんばかりの一撃を振り下ろした

 

「──ッ‼︎」

 

もうダメだと思った刹那

 

「──!」

 

「友奈!」

 

目の前に居たのは、友奈と牛鬼だった。

風の大剣を友奈自身と牛鬼の精霊バリアによって防いだのだ。

 

「どきなさい!」

 

「いやです!風先輩が誰かを傷つけるところなんて見たくありません!」

 

友奈の説得も虚しく、風の攻撃は止まない

 

「こんな事が許せるかぁぁぁ!!」

 

「わかってます」

 

「だったら!!」

 

「でももし後遺症の事を知らされてても、結局私たちは戦ったはずです!」

 

友奈の籠手に宿る山桜の花びらがまた1枚増えていく。

 

「え……」

 

「世界を守るためにはそうするしかなかったから……だから誰も悪くない…」

 

「選択肢なんて他になかったんです」

 

「それでも!」

 

「知らされてたら、私はみんなを巻き込んだりしなかった!」

 

「そしたらみんなは……樹は……」

 

「無事だったんだ!!」

 

「盾!」

 

僕は友奈に大剣の攻撃が直撃する前に割り込み、大剣を盾で弾いた

 

「優樹…!」

 

「優樹君……」

 

「なんで……あんたがここにいるのよ!!」

 

風先輩……。

 

「僕はあなたを止めます──大鎌」

 

オーラを盾から大鎌にイメージした。

これで大剣を刈り取る……。

 

「優樹……どきなさい……」

 

「ダメです風先輩!僕は風先輩に罪を背負ってほしくない!」

 

「優樹!!」

 

「ここだぁ!!」

 

激昂した風先輩の一撃は──僕の大鎌で防ぎ、刈り取った。

 

「風先輩を止めるためなら、僕はどんな事でもする覚悟です」

 

たとえこの命を捨てる事になったとしても……僕は止める……。

 

「友奈……優樹……アンタ達……」

 

友奈の手に宿る花びらは4枚──僕は……右目だからわからないけど、双子座戦も考えると、恐らく4枚だ。

 

「風先輩を止めるためなら、例え満開だって辞さないですよ」

 

「優樹……」

 

「そうですよ、だって私たちは勇者なんですから」

 

「友奈……」

 

刹那、カランと大剣が地面に落ちた。

 

「風先輩…」

 

僕は、風先輩目の前に歩み寄った。

 

「優樹……っ⁉︎」

 

僕は風先輩を抱きしめた。

 

最低だって言われても良い……。

幻滅されても良い……。

風先輩の暴走を止められるのならば……。

僕はどんな事でもする覚悟だ。

 

「──」

 

「樹ちゃん」

 

「……樹⁉︎」

 

僕が風先輩を抱きしめた刹那、後ろから樹ちゃんが風先輩の体に手を回した。

そして、端末を取り出してメッセージを記入した。

 

『戦いはもう終わったの。

これ以上失うことは無いから。』

 

「でも、私が勇者部なんて作らなければ……」

 

風先輩がそう言うと、樹ちゃんは首を横に降り、一枚の紙を取り出した。それは、歌のテストの時にみんなで書いた樹ちゃんへのメッセージだった。

 

「──」

 

そして空白のところに、樹ちゃんはメッセージを書いた。

 

『勇者部のみんなと出会わなかったら、きっと歌いたいって夢も持てなかった

勇者部に入って本当に良かったよ 樹』

 

「風先輩……僕も同じです……。勇者部は大切な存在なんです。風先輩は大好きな先輩なんです……だから、部を作らなければ良かったなんて言わないでください」

 

「うっうぅ……うあ……うぁ……ああ……ああああああああああああああ!!!!!!!」

 

慟哭を上げる風先輩を僕と樹ちゃんで受け止めた──

 

東郷さん……本当にごめん、やっぱり僕は……まだ誰かの想いを受け止めることは出来ないみたいだ……。

 

それでも大事な人たちを守るために……僕は覚悟を決めるんだ。

この先何があろうとも……。




風先輩はこれをきっかけに参戦……かもしれない。
優樹君も結構抱きしめたり抱きしめられたりがあるけど、ただ友達として仲間としてみんなのことが大好きな少年なんです。

そして前回も言いましたが、今回は大赦神官の花本について
花本薫 47歳くらい 優樹君と安芸先生の両親の後輩で、特に父親に返しきれない恩がある。初代巫女の花本美佳の子孫で当代当主 元サポート役(これは次章にて) 車の運転が荒いけど優しいオッサン とりあえずこんな感じ。もしかしたら設定集みたいなやつ書くことがあれば加筆します。
本題に戻ります。
【次回予告】
暴走の末 更なる暴走 大切な友達のため 僕は君を止める
行くわよ優樹!

あなたとの戦いを宣言する
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