安芸優樹は勇者である   作:三奈木イヴ

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安芸優樹は勇者である 第一章:結城友奈の章は今回を持って最終話となります。優樹と勇者部の物語を最後までお楽しみください

そして最後に、まだまだ続きますのでこれからもどうぞよろしくお願いします。


あなたを信じて待つ

──私たちの戦いは夢物語だったわけじゃない

 

それは実際に大きな被害が出ていることからもわかる

 

「起立 礼」

 

「神樹様に 拝」

 

私たちが守り取り戻した日常…

 

◆◇

 

ある日──私は動かないはずの両足に違和感を感じ目を覚ました。

なんとなくだが、感覚があった……。ただの直感でベッドから降りてみた。

 

「──!?」

 

降りてすぐ、バランスを崩し、ベッドにポスっと腰を下ろした。一瞬だったけど──立つことができていた

 

ほんの一瞬ではあったけど…足が動くようになっていたのだ…!

 

「──治癒が始まっている…⁉︎」

 

◆◇

 

あたしはいつものように朝ごはんを作っていた。

たった2ヶ月程度とはいえ、この目にも慣れてしまった。

 

「!」

 

樹、起きてきたか

 

「樹、すぐ出来るから座って待ってて」

 

樹の声が戻ってくれればどれだけ良かったか……。

しかしその考えはすぐに消え去った

 

「──お……」

 

⁉︎

 

「──お……姉……」

 

「──お姉……ちゃん……」

 

「樹⁉︎ 声が……」

 

もう……戻らないと思っていた妹の声が……

 

お姉ちゃんって呼ぶあの声が…!

 

「良かった……樹……本当に良かった……治るんだあたしたち……!」

 

「…うん」

 

あたしは思わず樹をギュッと抱きしめていた。樹の声が戻ったんだ……

 

◆◇

 

「──!」

 

あの戦いで失った右腕と両足の機能が戻る感覚がした

痺れるように、そもそも初めから無かったかのように動かなかったはずだったが……有るという感覚がした。

 

「優樹が居なかったら……きっと私、もっと酷いことになってたわね…」

 

本当に……アイツには感謝しなきゃね…。

 

◆◇

 

「ここは……何故ここに…⁉︎」

 

目を覚ますと謎の場所にいた。……前にも似たような場所を見た気がする。

あの時は確か……忘れられた勇者と名乗る少女が居たけど……

 

「よう」

 

しかし佇んでいたのは、全身が幽霊のように透けている青年だった。そして、足元には白猫も一緒に──って

 

まさか…いや、まさかな…。

こんなとこに千景がいるはずがないよな…。とりあえず、千景の事は置いておいて…

 

「失礼ですが、あなたは…?」

 

向こうは僕のことを知ってそうな雰囲気だったけど、僕は見覚えが全く無い。でも何故だろう…。青年から感じる雰囲気にはどこか覚えがあるものだった…。

 

「まあ、知らないわな…。初めましてだね 未来の勇者」

 

「……」

 

ここにいる時点でそんな気はしてたからそこまで驚きはしなかった。

この空間が何か特別なものだというのは前に来た時に予想してたし……もう来ることは無いと思ってたけど…来ちゃったな。

 

「未来の…ですか。となると、あなたは過去の人になるんですね」

 

「その通りだよ。まずは自己紹介といこうか。俺の名前は──景義」

 

青年は、自らを景義と名乗った。やはり聞き覚えは無い。

 

「西暦の時代──初代勇者である乃木若葉達と共に戦う事を願い──叶わぬまま散った愚か者だ」

 

初代勇者……バーテックスから人類を守った英雄達になるのか……。

 

「愚か者…ですか?」

 

僕は興味本位で聞き返すと、景義と名乗る青年との間に一瞬の沈黙が広がった。

 

「……そうだ。俺はただの愚か者だ」

 

「まあ、俺のことはさておきだ。君は安芸優樹君だろ?」

 

「…⁉︎ なぜ僕の名を…?」

 

「何故ってそりゃ、君を呼んだのは俺だからな」

 

僕を呼んだ──そうだッ!友奈達は‼︎

 

「安心しろ、君の友達はみんな無事だ。なんなら君含め、供物が返ってきてるはずだ」

 

!!

 

「本当ですか!?」

 

供物が…!つまりはみんなの散花は…!

 

「徐々にだが、回復しつつある。それは先代勇者達もだ」

 

あれ、僕の心読まれてる?前に来た時も似たようなことあった気がするけど…

 

「すまないな。心の声も聞こえるんだ」

 

やっぱり……。っと、それはさておき

 

「あなたが僕を呼んだって言ってましたね。なぜ僕を?」

 

あの時、僕の意識が途切れたのは呼ばれたからだったのか……。そして目覚めたらここにいたと。

 

「……俺が君と一つになる為だ」

 

「はっ…⁉︎」

 

僕は景義青年に言われたことの意味が理解できなかった。

一つになる…⁉︎どういう意味⁉︎

 

「ああ、この言い方だと語弊があったな。端的に言えば、俺がこんな風に透けてるのは、神樹が俺の魂を半分にしたからなんだ」

 

魂を……半分……? それと僕と一つになることになんの関係が…?

 

「……俺が死んでから暫く、神樹に呼ばれたんだ。願いを叶える代わりに魂を半分にすると」

 

「そんでまあ、もう半分は願いを叶え勇者になったと…。」

 

「勇者に……それってまさか」

 

「そう、君の事だよ。俺の半分は君になったんだ──まぁ厳密に言えば今の俺も君なんだが…」

 

青年はハハッと笑った。…だけど僕は笑えなかった。

 

「僕はあなたで……あなたは僕……」

 

頭がこんがらがってきた…。

 

「深く考えるな。この事は君が目覚めたら忘れてるさ」

 

…そういうものなのか?などと思いつつ、僕は考える事をやめた。

 

「君は本当によくやったよ。俺が願い続けた「勇者」という存在になって、大好きだった姉を殺したバーテックス共を始末したんだからな…。」

 

お姉さんを……。だから勇者になる事を願ったのかな…

 

「ん? ああ、違うぞ?俺の姉は勇者だったんだ。そんで俺は、守られてるだけだった。だから共に戦う事を願い続けたんだよ。まあ、今俺がここに居るって事はそういう事なんだけどな」

 

景義さんは思い出すように遠くを見つめていた。

──僕が大切な人を守りたいって思ってたのは…もしかしたら僕の中に景義さんの「たましい」があったからなのかもしれないな…。

 

「勇者だった……もしかしてその人、自らを忘れられた勇者と名乗った黒髪の少女ですか?」

 

脳裏に浮かんだのは、あの時の少女だ。ただの直感だが、あの少女と景義さんは似ているとこがある。

 

「……多分君の言ってる人で間違いないはずだ。それにしても忘れられた勇者──か。コイツも自分が忘れられたって気づいてたのか…全く、神樹はどこまで…」

 

景義さんは嫌な事を聞いたと言わんばかりの表情で足元の猫を撫でた。

 

「そういえば、その子は…?」

 

驚きの連続で忘れていたけど、この白猫はどうしてここに…?

 

「ん?ああ、そうか。もう良いよ…姉ちゃん」

 

景義さんが猫に伝えると、白猫が少女に姿を変えた。

そして──その姿には見覚えがあった…

 

「あなたは…」

 

「もう、会わないと思ってたのだけれど?」

 

その顔は…どこか不満そうだった。だけど弁明させて欲しい…。僕だって、まさかもう一度来ることになるとは思わなかったんだ…。

 

「これで最後だよ姉ちゃん。俺とコイツの魂は一つになる。だからもう、会う事はないさ」

 

僕がそんな事を考えてると、景義さんが言った。魂が一つに……。半分になった魂が一つになると…何が起こってしまうんだろうか

 

「そう…。久しぶりね、安芸優樹君」

 

「は、はい…」

 

やっぱり…。忘れられた勇者って……

 

「…あなたが私とここで会うのは3度目よ」

 

「なんだ、そんなに会ってたのか」

 

「みたいですね…」

 

僕の答えはどこか他人事だった。だって既に死んでる人と会う事も、魂が半分だったとか普通に生きてたら聞かないような事ばかりだ。

 

僕は考える事をやめた。

 

「……もう時間か。それじゃ、俺はさよならだ」

 

景義さんが言うと、景義さんの薄くなっていた身体が一層薄くなっていた。

 

「景義さん⁉︎ 身体が…!」

 

僕がそう伝えると、景義さんはニカっと笑った。

 

「……大丈夫だ。俺は消えるかもしれないが、俺は君で君は俺だ。ただ一つの魂に収束するだけだ。」

 

「それにな、俺はむしろ感謝してるんだ」

 

「感謝……?」

 

「ああ。西暦と神世紀の時代を生き、志半ばで散った俺に代わって、君が勇者になってくれたんだからな。それだけは神樹に感謝しなきゃな…」

 

景義さん……。

 

「ここから出たら、ここでの記憶は失っている。だから安心しろ。そして…生きるのを諦めないでくれ」

 

最後の言葉を残し、景義さんは僕と一つになった。

 

「これが…魂が一つになるってことなのか…。」

 

上手く言葉には表すことはできないけど…。なんとなくわかる。西暦の時代を生き抜いた青年の魂は確かに有ったんだと…。

 

「景義…さようなら」

 

……⁉︎

 

景義さんと一つになった刹那、僕の意識が薄れるのを感じた。

 

「目覚めが近いのね」

 

目覚め…⁉︎ それはつまり…

 

「きっと…あなたと会うのはこれが最後になるわ。」

 

更に意識が薄くなると同時、少女の声が響いた。

 

「あなたには、お世話になったわ。ありがとう」

 

世話……? 僕は──何をしたんだっけ…

 

「景義──いいえ……優樹」

 

「…!」

 

「さようなら。そして…ありがとう」

 

……最後に会えて良かったわ……

 

最後の一言を聞くと同時、僕の意識は闇に沈んだ。

 

◆◇

 

「あれから大赦からの連絡は来ない。こっちから送っても一方通行よ。変身も出来なくなってるし」

 

「欠損したものが戻ってきてるし、あたし達は神樹様に開放してもらえたのよ」

 

「もう必要ないってことか…」

 

「外の世界があんななのは変わらないし、私らの戦闘データが役に立ってればいいけど」

 

「あの戦いは無駄じゃない。だから神樹様は供物を求めないようになったわけだしね」

 

「あとは後輩達を信じて任せるしかないのね…」

 

「それでも勇者部は不滅でしょ」

 

「えへへ、言われちゃった」

 

ピロロンピロロン

 

「東郷…はい」

 

『風先輩、優樹君が──』

 

「本当に⁉︎」

 

「どうしたの⁉︎ 優樹がどうしたって⁉︎」

 

「優樹が……目覚めたって…‼︎」

 

「本当に⁉︎」

 

「ええ!今、東郷から…!でも、今からじゃ面会時間過ぎちゃうわね…明日行くわよ!」

 

「わかったわ!」

 

◆◇

 

「……」

 

ここは……?

 

西陽の眩しさに瞼が徐々に上がっていく。そして目についたのは、知らない天井だった。

知らないと思ったけど……見覚えのある天井……

 

病院か…? 流石に3度も見れば気づくものではないだろうか……。

 

「……ッ」

 

全身が痛い……ッ⁉︎

 

痛い!?だが僕は満開の代償で痛覚が消えてたはずだが……

気のせいではないのかと思い、僕は自分の頬を抓ってみた。

 

「痛い……。痛いって事は……夢じゃない…⁉︎」

 

じゃあ…まだうっすらとしか見えないこの右目も…⁉︎

 

ガラッ

 

病室の扉が開かれた──‼︎

 

「優…樹君…⁉︎」

 

突如とした来客は東郷さんだった。

 

「東郷…さん…」

 

僕の目には、車椅子ではなく松葉杖を使って歩く東郷さんが映っていた…。

 

「良かった…本当に良かった…」

 

松葉杖を使い、僕のベッドに近づいた東郷さんは…両腕が僕の首に絡みついた。

 

「と、東郷さん…!」

 

僕の心臓は…あの時確かに止まったはずだった心臓は、バクバクとうるさかった…。

東郷さんも…僕なんかを好きって言ってくれた東郷さんもこんな感じだったのかな…。

 

…っ!そうだ、僕のことよりみんなは…!

 

「東郷さん、みんなは…無事?」

 

僕が尋ねると、東郷さんはハッとしたように僕から離れ、近くに置いてあった椅子に座った。

 

「優樹君…みんなは…供物が返ってきて、今は徐々に回復しているわ。でも…友奈ちゃんは…」

 

東郷さんは、今日までの僕と友奈の現状を教えてくれた。

 

友奈があのバーテックスの御霊を破壊して戦いは終わった。でも、僕と友奈が目を覚まさなかったこと。そして皆の身体機能が回復し僕が目覚めたが、友奈は未だ意識が無いと…。

 

「そう…だったんだ…。」

 

今の友奈は、まるで魂が抜けたようになっているらしい。

僕も友奈のお見舞いに行きたいところだが…覚醒したばかりの僕では、許可が降りないだろうか…。あとで聞いてみるか…。

 

「そういえば、東郷さんも…足が治ったんだね」

 

松葉杖を使って歩いてるのは、2年の間動かなかった足のリハビリだろうか…。

 

「うん…。徐々にだけど、耳も回復してきてるの」

 

「そうなんだ」

 

そういえば、東郷さんは左耳の聴力も持ってかれてたんだった。それと──記憶も

 

「ねえ、東郷さん」

 

「どうしたの優樹君?」

 

「あー…いや、ごめんなんでもない」

 

記憶の事を聞くのは憚られた。僕も同じように記憶を失って、まだ薄っすらとしか戻ってきてないのだ。もしもこの話をするなら…完全に戻ってからの方が良い気がした。

 

「そう…。じゃあ、私は友奈ちゃんのところへ行ってから帰るわね」

 

「わかった、来てくれてありがとう。みんなによろしく」

 

「ええ」

 

東郷さんは病室をあとにした。

 

その後の僕は、看護師さんを呼んで検査を受け、友奈のところへ行けないか許可をお願いしたが、やっぱりまだダメだった。友奈…早く目覚めてくれよ…。

 

◆◇

 

それからの数日は、忙しいようでそこまで変わらないような不思議な日々だった。

 

東郷さんが来てくれた日の翌日、今度は風先輩達も来てくれた。

 

風先輩には駆け付け一杯と言わんばかりにヘッドロックをお見舞いされた。一応僕、入院中なんだけどね…。でも失った痛みを感じられるというのは、戻ってきたんだという事を実感できた。

そして風先輩が僕に対してよそよそしく感じた気がしたのは何故だろう…。まあそれは一旦置いといて。

 

みんなの散花も少しずつ回復してるらしく、風先輩の眼帯が外されていたり、樹ちゃんは声が出るようになり、あの戦いで腕や足をやられた夏凛も包帯は巻かれていたものの歩けるようになっていた。

 

あとは……友奈だ。

 

みんなで話して、誰も悪くないという結論になってこの話は終わった。そして皆が帰った後、僕も友奈のところへ行くためにこっそりと病室を抜け出した。

 

◆◇

 

「……友奈」

 

病院のベッドの上で動かない彼女の姿を見た僕は…ただ彼女の名前を呼ぶことしかできなかった…。

 

東郷さんが言ってたけれど…これじゃ本当に魂が抜けたようじゃないか…。

 

なんで…友奈だけがこんな事に…?

 

「……久しぶりだね……友奈」

 

どうすれば良いかわからなかった。だから僕は声をかけた。

 

もしかしたら僕や皆の声は…友奈に聞こえてるかもしれない。僕たちの声が友奈を導くかもしれない。

 

「友奈…こんな時に申し訳ないけど、相談したいことがあるんだ」

 

今の友奈に相談してもどうにもならない事はわかっている…。でも…この相談をするなら友奈にするべきだと思ったから…。もしかしたら、これを聞いて戻ってくるかもしれないという淡い希望も持ち合わせて…。

 

「実は僕…東郷さんの事が──」

 

友奈に僕の悩みを打ち明けた。

 

──僕がその感情を自覚したのはいつだったか…。

 

──はっきりと覚えてはいないが、意識し始めたのは恐らくは…あの時の告白だったと思う。

 

確信は無かった。

 

だけど僕は──東郷さんのことが好きなんだと思う……。

 

あの時の僕は、誰かを好きになるという事がよくわからなかった。

 

みんなの事が好きというのは友達として仲間としてだった。

 

だから最初は…こんな中途半端な感情ではダメだと思ったんだ。

 

だが……今は違う!

 

勇者部での活動や休日などで東郷さんと過ごす日々は楽しかった

 

あの日の事でお互いに気まずさを抱えたこともあった

 

そして気づいた時にはもう…僕の想いは変わっていた。

 

中途半端なんかじゃなくて、本当の意味で東郷さんを好きになっていた。

 

そんな事を友奈に吐露していた。誰にも言えなかった想いを言えた事で少しはスッキリした。

 

「友奈…聞いてくれてありがとう。今度は皆と一緒にお見舞いに来るから…」

 

僕は、友奈の病室をあとにし、自分の病室へと戻った。

 

◆◇

 

……ここはどこ?

 

今の私は…何…?

 

『──戻ったらきっと覚えてないだろうけど…』

 

…声⁉︎ どこから…⁉︎

 

『本来ならあなたは消滅するはずだったんだ』

 

⁉︎

 

『神樹様は、それを蘇生してくれた』

 

『しかしそれはかなり無理な蘇生だったんだ』

 

『アイツの魂の事もあり、神樹様はかなり無理をされた』

 

『そして貴女は御霊に直接触れてしまった影響で精神が目覚めず…此処にあるのだろう』

 

……私、どうすれば元の体に…⁉︎ みんなのところに戻れるんですか⁉︎

 

何も無く真っ暗な空間で、私は叫んだ。

しかし響くのは、私と誰かわからない声だけだった…。

 

──みんなは…無事なのかな…

 

みんなの事を考えていると、どこからともなくカラスが現れた。まるで優樹君の古烏みたいだ

 

カラス…

 

そして桔梗の花を宿した青いカラスは──姿を変えた。

 

あなたは……?

 

カラスは人間に姿を変え言った。

 

『初めまして 未来の勇者』

 

『私は神世紀元年において勇者のお役目を担っている者』

 

『この声を聞いている貴女の時代に至るまで、バーテックスとどれほどの戦いが起こるのか、全ての勇者たちが悩み恐怖した』

 

その声と共に私が見たのは……勇者部のみんなだった…。

 

「──今日はね風先輩がまたおかしな事を言い出してね」

 

「あはは…風先輩らしいね…」

 

「ごめん遅くなった!」

 

「こんにちは友奈さん、優樹さん」

 

「こんにちは樹ちゃん」

 

「優樹は明日退院だっけ?」

 

「はい、戻ったら文化祭の手伝いバリバリやらせてもらいます」

 

「それは頼もしいわね……。」

 

「……」

 

「私は…一番大切な友達を…」

 

「言うな」

 

「誰も悪くないって話合ったでしょ」

 

 

◆◇

 

「──文化祭まで間もなくね」

 

「今後のことなんだけど配役は…」

 

「…あの友奈ちゃんの役はそのままにしておきたいです」

 

「僕も同感です。東郷さんの足や僕の痛覚も戻ってきてますし…」

 

『私たちの代の勇者は、白鳥歌野からバトンを引き継いだ』

 

『そして郡景義からは願いを託された』

 

「東郷と優樹の言う通りだよ。なんか割り切っちゃうの…私も嫌だ…」

 

「別に割り切ってなんか……」

 

「お…お芝居…練習を…続けましょう…!」

 

「友奈さんならきっと…!」

 

「そう…だね」

 

『時間が経とうとそのバトンは引き継いでいかれるだろうと私は思う』

 

『そのバトンの名は「勇気」またの名を「希望」という』

 

『そして景義から託された願いは未来の勇者に継承された』

 

「……はあ」

 

「風先輩」

 

「ん?」

 

「物語に加えてほしいことがあるんですけど」

 

『貴女は決して一人ではないことを知ってほしい』

 

東郷さんと優樹君がいる

 

『多分今のあなたはとても苦しんでいると思う』

 

樹ちゃんと風先輩と夏凛ちゃんがいる

 

『痛いこと辛いこと悲しいこと絶望すること』

 

みんながいる

 

『がんばってがんばって…それでも耐えられないくらい辛い事があったのだろう』

 

『だからこそ私の言葉が届いてるはずだ』

 

声と共に、勇者として戦った私が流れ込んできた。

 

『そんな貴女に私が言いたい言葉は、「もっと戦え」でもなく、「もっと頑張れ」でもない』

 

『生きろ』

 

『ただ生きてくれ』

 

◆◇

 

「それでね、ようやく演劇の稽古に入れたってわけよ」

 

「優樹さん、退院して間もないのに凄かったんですよ」

 

「リハビリも兼ねてるからね、力仕事は任せてよ」

 

「あとは風先輩が魔王のセリフを覚えてくれれば…」

 

「ちょ…言わないで…」

 

「厳選したサプリはたっぷり用意してあるし」

 

「だからね友奈ちゃん」

 

『無理しなくて大丈夫だからね』

 

みんなに会いたい……戻りたい……

 

『大切な人がいるのなら、その人のことを思い出してほしい』

 

『貴女が生きることを諦めたら、その人が悲しむことを思い出してほしい』

 

その言葉を最後に…声は聞こえなくなった

 

私は…みんなを悲しませたくない…。でも、どうすれば…

 

「…奈」

 

「友奈ちゃん…」

 

みんなが…!みんなが呼んでいる…!

 

風先輩!樹ちゃん!夏凛ちゃん!東郷さん!優樹君!

 

「──勇者は傷ついても傷ついても決して諦めませんでした」

 

「全ての人が諦めてしまったら…それこそこの世が闇に閉ざされてしまうからです」

 

「勇者は自分が挫けない事が」

 

「みんなを励ますことだと信じていました」

 

「そんな勇者をバカにするものもいましたが、勇者は明るく笑っていました」

 

みんな頑張っていた。各々に出来ることを…。

 

優樹は勇者部で風の支援をしながら東郷と共に友奈の元へ

 

風は演劇の台本や魔王という自分の役になりきるための練習

 

樹はナレーションという初めての役割を全うするために歌い

 

夏凛は勇者部の活動をしながらいつもの鍛錬を

 

そして東郷は…ずっと己の側に居てくれると誓った優樹と共に…友奈の元へ

 

「意味がないことだと言う者もいました」

 

「それでも勇者はへこたれませんでした」

 

「みんなが次々と魔王に屈し、気づけば勇者ひとりぼっちとなっていました」

 

『今日も行く?』

 

風の問いかけに優樹と東郷は答える

 

『はい、ずっと一緒にいるってやくそくしたので』

 

『僕も二人に約束しましたので』

 

『そう。いってらっしゃい』

 

風は笑顔で送り出してくれた。

 

「勇者がひとりぼっちであることを…誰も知りませんでした」

 

「それでも勇者は…戦うことを諦めませんでした…」

 

「諦めないで限り……」

 

「……希望が終わる事は……無いから……です」

 

「っ……」

 

「何を失っても……それでも……」

 

「それでも私は……っ!」

 

「一番大切なともだちを失いたくない!」

 

「っ……!」

 

僕はもう限界だった…。胸の奥に抱えた痛みが…抑えきれなくなり…涙が溢れていた。

 

「寂しくても…!辛くても…!ずっと…!」

 

東郷さんも泣いていた。

 

「ずっと…!優樹君と私と一緒に居てくれるって言ったじゃない‼︎」

 

「東郷さん……」

 

「っ……優樹君……!」

 

東郷は優樹の胸に顔を預けていた。

二人は溢れ出た思いが制御出来なくなっていた

 

──そうだ。私は約束した

 

大切な友達を──1人にしないって……「やくそく」したんだ!

 

『貴女の大切な人達…その人達のところへ必ず戻ってあげてくれ──』

 

「ああ……!!友奈ちゃん!友奈ちゃん!」

 

「……っ……友奈……」

 

勇者は泣いてる友達を放ってなんていられない

絶対…!帰るんだ!

 

慟哭を上げる東郷と…感情を押し殺そうとする優樹…

 

そんな二人の元に──一筋の光が降りた

 

「東……郷さん……優……樹君…」

 

「ずっと……一緒に……いるよ」

 

「ずっと……聞こえてた……みんなの声……」

 

「東郷さんと…優樹君の声が……」

 

友奈が……友奈が……目覚めたんだ……。

 

夢じゃない……。

 

「東郷さん…」

 

「ええ…」

 

僕はここで良い。彼女の一番近くは…東郷さんがいるから…。だから僕は……その場を後にした。

 

そして東郷と友奈は…涙を流しながら手を握り合った。

 

「……おかえり、友奈ちゃん」

 

「……ただいま」

 

友奈は──帰ってきたのだ!

 

◆◇

 

「もしもし」

 

「優樹…」

 

「姉さん……」

 

電話の向こうから聞こえる姉の声……。最後に会ったのは…僕が病院に話を聞きに行った時だった。

 

「……ごめんなさい」

 

「開口一番がそれって……」

 

僕の言葉を遮るように、姉さんが話し始めた。

 

「あなたたちには……本当に辛い思いをさせたわ……。」

 

「姉さん……」

 

「当面は家に帰るのは厳しいわ…。だから優樹…お願いするわ…」

 

「……わかった」

 

僕は一つの決意と共に言葉を返した。

 

「姉さん…姉さんがいつでも帰って来られるよう、僕は待っているから」

 

「ええ」

 

「それじゃあ…」

 

「うん」

 

姉さんからの電話は切れた。

 

当面は僕一人になっちゃうけれど……僕は姉さんがいつ帰ってきても良いように家を守るだけだ。

 

大切な人の為に、僕は頑張れる

 

東郷さんの事も……いつかちゃんと伝えないとな…。

 

◆◇

 

「結城友奈!ご心配をおかけしました!」

 

「おかえり友奈!」

 

「友奈さん!」

 

「ちょっ…まだ準備できてないのに…」

 

「威勢いいわね〜」

 

「よおし!これで勇者部全員揃ったわね!今日はお祝いよ!!」

 

『おー!!』

 

◆◇

 

「は〜みんな無事で良かったね」

 

「そうだねぇ」

 

友奈は当面は車椅子だ。僕は結構早く目が覚めたのと足は持ってかれなかったので回復は早かったが、友奈は両足の散花に加え、結構長く目が覚めなかったのもあった。そしてそれを押すのは、東郷さんだ。今まで後ろを任せていたのが今度は東郷さんが友奈を助けている。

 

「心配したんだからね。二人とも目を覚さないんじゃないかって」

 

「えっ⁉︎誰がですか⁉︎」

 

「友奈、僕だよ」

 

「でも…戻って来れた。よく覚えてないんだけどね…」

 

「そうなんだ、でも…私ももう無理だと思ったんだけど…そこはえーと…なんだろう?」

 

「……神樹様が助けてくれたとかですかね?」

 

「……きっと友奈ちゃんや優樹君は自力で戻ったんだよ」

 

東郷さん?

 

「奇跡や神の力なんかじゃない…二人の強い意思で此処にいるんだよ」

 

「…うん、そうだね」

 

「なるほど、そうだね」

 

「ありがとう」

 

「私を待っててくれて」

 

◆◇

 

それからはあっという間だった。友奈はリハビリをしながら、風先輩や僕の協力のもとに台本を暗記したり、時には東郷さんが手伝ったり、文化祭の準備で勇者部の演劇に必要な道具の準備をしたり、僕は筋トレをハードにしたり……そして勇者部の演劇が終わったら僕は……。

いや、今は忘れよう。あくまで文化祭が優先だ。

 

そして──文化祭の日が訪れた。

 

『勇者は自分が挫けないことがみんなを励ますのだと信じていました』

 

『そしてみんながいるから』

 

『みんなを信じているから自分は負けないのだと』

 

「ガーハッハッハッ!結局世界は嫌な事だらけ!辛いことばかりであろう!?そなたも堕落してしまうがいい!」

 

「現実の冷たさに凍えよ!」

 

風先輩が演じる魔王は魔王らしさが出ていた。

今回の役割は、勇者が友奈、魔王が風先輩、ナレーションが東郷さんと樹ちゃん、音楽と照明が夏凛だ。

僕は、万が一があった時のバックアップらしい。まあ、イレギュラーは多分ないだろうからみんなの手伝いだ。

 

「そんなの気の持ちようだ!他人でも大切だと思えば友達になれる!互いを思えば何倍でも強くなれる!無限に根性が湧いてくる!」

 

「世界には嫌な事も悲しい事も!自分だけではどうにもならない事がたくさんある!」

 

根性、勇気、希望、願い

 

「だけど!大好きな人がいるのだから挫けるわけがない!諦めるわけがない!」

 

人から人へ繋がれた想いを──バトンのように繋げていく。

 

託された想いを…願いを…紡ぐ為に

 

「何度でも立ち上がる!だから勇者は絶対に負けないんだ!」

 

そして勇者部の演劇はつつがなく進んでいった。

 

「はぁ…はぁ……あっ…」

 

──しかし、勇者が魔王を倒した時、友奈が倒れてしまったのだ。

 

「友奈!」

 

僕たちは駆け寄った。

 

「まだ…体が…!」

 

「ごめん…ちょっと立ちくらみ」

 

車椅子から松葉杖そして松葉杖が無くなってから日は浅かったからか、友奈は立ちくらみを起こしてしまったみたいだ。でも…大事にならなくて良かった

 

──パチパチパチパチ‼︎

 

そして、会場からは沢山の拍手喝采だ!

 

「成功…したのかな?」

 

「ばっちり!立派な勇者だったわよ友奈!」

 

その後、勇者部の演劇──『明日の勇者へ』は学校新聞で取り上げられた。大きな見出しに、勇者と魔王を始めとした6人の部員の写真が大きく写っていた。

 

勇者部よ──永遠となれ

 

◆◇

 

そして文化祭は終わり、僕は部室を訪れていた。

 

今日は文化祭という事もあり、片付けが終わったらそのまま解散だったけど、僕はまだやる事がある。

 

ガラッ…

 

「優樹君…」

 

「来てくれてありがとう──東郷さん」

 

初めて会った時……いや、記憶を失ってから初めて会った時は車椅子だった彼女は、今では自分の足で立っている。

そして彼女の姿を見て僕が思い出したのは──2年前、本当の意味で初めて出会ったあの時──鷲尾須美としての東郷さんだった。

 

「それとも──須美って呼んだ方が良い?」

 

僕がふざけたように言うと、東郷さんは言った。

 

「記憶が戻ったんだね。優樹君ならどちらでも構わないわよ」

 

どっちでも…か。まあ、そんなの決まってるんだけどね

 

「うん、じゃあ東郷さん…かな?」

 

「……っ」

 

名前を呼ぶと、東郷さんは頬を赤らめながらそっぽ向いてしまった。

 

「そのっちや銀の事も思い出したわ。2年前のお役目全部を…」

 

「うん、僕もだ」

 

緊張や恥ずかしさもあって、僕が東郷さんを呼んだ目的を忘れかけてるような気がした。覚悟を決めろ、安芸優樹

 

「それで…さ。僕が東郷さんをここまで呼んだ理由なんだけど」

 

「……うん」

 

わかっていると言わんばかりの顔だった。それでも僕は…言うんだ。

 

「合宿の後の返事をしたいんだ。」

 

「……うん」

 

僕は今から──この想いを伝える……。

 

はっきり言ってこんな事初めてだ。

 

告白をされたのも──するのもだ。

 

「〜〜〜……」

 

もう良い加減覚悟を決めろよ僕……。

 

「東郷美森さん」

 

「……はい」

 

「僕は──」

 

「僕はあなたの事が──」

 

「あなたの事が好きです!」

 

東郷さんの目を見て、真っ直ぐに想いを伝えた。

 

僕が告白されて、その返事をしてから時間が経ってしまったけど……。僕はこの人の事が好きになっていた。

 

「っ……優樹君……」

 

「東郷さん…遅くなってごめん…」

 

だけどもう…あの時の中途半端な僕じゃないから…。

 

「…ありがとう、優樹君」

 

東郷さんの目の端からは、一筋の雫がこぼれ落ちていた

 

「私も、安芸優樹君の事が好き。あの時から変わらず、君が好きなの」

 

お互いを見つめあった。

 

そして、言葉はいらなかった。

 

二人の腕がお互いに絡み合い、徐々に顔が近づいていく。

 

少し近づければ唇が触れ合わんばかりの距離になっていた。

 

そして──部室に映る二人の影は重なった。

 

「東郷さん…」

 

「優樹君…好きよ」

 

「僕もだ──」

 

ガシャン!

 

「「!?」」

 

部室の扉から大きな音が響き、僕たちは咄嗟に離れた。

 

「ま、まさか…な」

 

「え、ええ…」

 

心臓がバクバクとしながらも、扉を瞬時に開けた。

 

「あ、あらーお取り込み中でしたかぁ…?」

 

そこには、風先輩を始めとする勇者部のみんながいた。

そして風先輩は顔を赤らめて、それ以外の三人は顔を赤くして目を回していた。

 

「──!!」

 

「見られてましたか……お灸を据えましょうか……優樹君……」

 

「ちょ、ちょいちょいちょい待って待って東郷!!」

 

「風先輩……まさか全部……?」

 

「……」

 

目を逸らされた。これは黒だ…。

 

「風先輩!」

 

「ごめんってー!」

 

最後の最後で締まらないけど、これはこれでいつも通りの勇者部って感じで良いかもしれないな。

 

でもそんな事より、僕は好きな人に想いを伝える事ができた。

 

そして東郷さんとお付き合いをして起こる沢山の出来事は今の僕には知る由もなかったのだった。




結城友奈の章では、主に漫画版のゆゆゆを参考に物語を紡いできましたが、終盤は文字数多くて結構大変でした(苦笑) ですが一つの章を最後まで紡ぐ事が出来たのは感慨深いものがありますね。そしてヒロインレースはルート分岐を踏みまくっていた東郷ルートになりました。他のヒロインルートも考えてるのでどこかで投稿させていただきます。
さて、前回のあとがきで書きました、重大発表の時間です。
この度!私、三奈木イヴは「生者に夢を、死者に花束を」の作者である薫製氏とのコラボ作品を投稿させて頂くことになりました!!イェーイ!!……はい、コラボ作品についてですがタイトルは、「安芸優樹は勇者である 第■の章:生者の章」というタイトルで投稿させていただく次第です。あくまでコラボという事で、本編の間の章という形で結城友奈の章の後かつ勇者の章の前という時間軸になります。コラボしていただく薫製氏には感謝しかありません!本当にありがとうございます!
そして!!投稿するのはコラボの章が終わったあとではありますが、第二章の告知も同時にさせていただきます!

「安芸優樹は勇者である 第二章:郡景義は勇者でない」
ある事をきっかけに語られる初代勇者達と勇者になろうとした男の物語を…。どうかよろしくお願いします。

俺は……勇者になりたかった……
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