三奈木イヴの安芸優樹と薫製の高木美穂
それぞれの世界が交わる時、その瞳は何を見る。
予期せぬ出会い
神様ってのは気まぐれな生き物さ。
嫁いだ娘を奪うために婚約者を手にかけたり、気分で街を破壊したりほんと目に余るもんだ。
アイツらもその気まぐれに巻き込まれたれっきとした被害者。
なんだが、それを知っててなお立ち上がるんだからびっくりだわ。
たとえ友が世界を滅ぼそうとしても止めきるし、己が歪んだ存在であっても認め進み続ける。
呆れちまう程だがこれが悪くは無いんだな。
……おっと、長話に付き合わせて申し訳なかったがそろそろ幕間の終わりだ。
それでは気まぐれから生まれた奇跡の舞台、とくとご覧あれ。
◆◇
──夢を見た。
輝く金色の髪をなびかせながら異形の存在に立ち向かう1人の女の子。
『まだまだぁぁ!!!』
覇気を持った声を震わせ、手にした楯とボウガンを使い攻撃する。
ドレスと鎧を足したような服は淡く光っているのか移動する度に軌跡を残す。
一度距離を離すと両端から赤黒い光と黄金の光が世界を照らす。
『確かにそうかもしれない。けど明日を作るのは人にしかできない!』
頭に聞こえる女の子の声は力強く、僕の心にも響くほど。
やがて集束した光は弾けるようにぶつかり世界は白く染った。
◆◇
目を開けると見慣れた天井が視界いっぱいに広がる。
いつもなら微睡みながら目覚めるのに今日は無い。
首元を触るとべったりと濡れるほど汗をかいていた。
「何なんだろう、あの夢……」
遠くから見ていたから顔は見えなかったけど、会った記憶はおそらく無い。
でも一つ分かるのは彼女も『勇者』だという事。
モヤモヤとしながら今日の予定を思い出す。
今日は祝日だし…ゆっくり出来る…?
「……あっ!しまった!!」
寝汗とは異なる汗が吹き出す。
スマホの電源をつけると──
『遅い!いつまで寝てるのよ!!』
『生きてるー?』
『風邪ひいちゃった?』
『もう行きます』
今日は臨時の打ち合わせがあったんだ!
慌てて時計を見ると集合時間をとっくに回っていた。
「何してるんだ僕はっ…!!」
最低限の身支度をしながら風先輩へ連絡を取る。
『おはよう〜。よーーく眠れた?』
「えぇ…それはまぁ…」
『それは良かった。部活のこと忘れるほどだもの。快眠じゃないと納得いかないわ』
電話越しに聞こえる声は笑ってはいるものの、その奥には明らかに怒りがある。
「はい…すみません…」
『まぁ最近頑張ってたから許すけど。とにかく慌てず連行されて来なさい』
「わかりまし…連行?」
言葉の真意を聞く前に通話が切れた。
小首を傾げているとチャイムが一度鳴る。
手ぐしで髪を整えながら玄関を開けると。
「お寝坊さんを迎えに来たわよ。」
そこには私服姿の東郷さんが立っていた。
連行ってこれのこと……
「お、おはようございます…」
「優樹君、珍しくお寝坊だから心配しちゃったわ?」
「……ごめん。すぐ準備するから中で待ってて」
「慌てて転んだりしないよう気をつけてね…?」
「気をつけます…。」
◆◇
僕と東郷さんはやや駆け足で集合場所へ向かっていた。
朝ごはんは食べないで行こうとしたけど『こうなると思って買っておいたわ』と東郷さんからおにぎりを貰ったから歩きながら腹へ収める。
早食いは筋肉に良くないけど今はやむ無し。
いやはや…お付き合いし始めたばかりなのに申し訳ないよ…。
「それにしても、優樹君が寝坊なんて珍しいわね? 夜更かしでもしたの?」
「……いやぁ、いつも通り寝たよ。寝たけど…」
胸の中に引っかかるのはあの夢。
一概にアレが原因だとは決め付けられないけど関係があるのは事実だ。
「やっぱり…夜にお話しするのは控える?」
「えっ…」
それはダメだ…。文化祭の後のアレ以降、東郷さんと夜にお話しするのが日課になっていたのだが、特に支障は出ていなかったはずだ…!
「そ、それはちょっと…」
「すみません」
信号待ちをしながら話をしていると背後から声をかけられた。
振り向くと僕と同じ背丈の女の子が立っていた。
人形のように白い肌と青い目、そして一際目立つひとまとめにした金色の長い髪。
着ている白のコートと相まってまるでお姫様のような美しさに思わず見とれてしまう。
「讃州中学への道を知りたいのですがよろしいでしょうか?」
「ぼ、僕たちも向かうので一緒にどうですか?」
「それはありがたいです。皆、この人達が連れてってくれるらしいよ」
女性の視線の先には少し距離を離れたところからこちらを覗く3人の女性の姿があった。
「あの状況でよく話つけられたな…」
「えぇ。流石としか言えないわ」
「と、とにかく今は着いていきましょう」
どこか浮かない気持ちが見えるけど──ッ⁉︎
「……優樹君?」
「と、東郷さん…ちょっ、力つよ…」
僕が目の前の女の子に見惚れてしまったのを察知した東郷さんが右から腕を組むと、徐々に力強く締め付けられていた。
「……気のせいよ?」
東郷さんは笑顔で言った。ちょっと怖い…。
青信号に変わり僕たちは讃州中学へ向かった。
仲の良い男女──それこそ恋人のように腕を組んでいた僕と東郷さんだったけど…今はそんな余裕は無い。
だって東郷さんがいるとはいえ、こんな綺麗な人連れて歩くなんて初めてだし!
でも、ずっと黙りっぱなしも良くないし…というかこれ以上考えていたら東郷さんに怒られそうだ……。
「あの…讃州中学には何の用で行くのですか…?」
喉から振り絞るように出た問い。
言ったあとだけどかなり失礼な質問だ。
「……確認、かな」
「確認…?」
「はい。私の考えが間違っていると願っての確認ですけどね」
「は、はぁ…」
全てを話してくれるなんて思わなかったけどここまで隠すなんて。
もしかして卒業生だったり?
勇者部として困っているなら助けるのが主だけど無理に突っ込むのは良くない。
ここは受けの姿勢で待つだけだ。
見慣れた校舎が現れると僕の気持ちは少し落ち着いた。
いやまあ、東郷さん以外の女性にドキドキするのもどうかと僕は思うけど…。
「ここが讃州中学になります」
「忙しいのに連れてってくれてありがとうございます」
「い、いえいえ!僕は何もしてませんよ」
深々と頭を下げる女性を思わず静止してしまった。
「それではここで」
「あのっ…何か困ったら勇者部に来てください。僕たちが力になります」
僕は意を決して勇者部の名を出す。
「……今、なんて言ったの?」
「僕こう見えて勇者部員なので困ったことがあれば取り次ぎま…」
そこで僕の言葉が止まる。
何故なら女性の目が大きく開き、唖然とした表情で僕を捉えていたから。
「君が、勇者部員…?そんなはずは…」
「えっと…どうかしましたか?」
「………すみません。貴方のような体格の良い方がそのような部活に入られてるのが意外でして」
「友達に誘われて入っただけですよ。ここで失礼します」
僕は頭を軽くさげ校内へ入っていく。
「ねぇ優樹君、あの人大丈夫かしら?」
「大丈夫…かは分からないけど…」
ちらりと後ろを向くと4人が何やら話しているのが見えた。
何か、不思議な人…
◆◇
「一体何が起こっているの…?」
「分かりません…私たちの知る勇者部には…あのような人は居ませんでしたし…」
「タマたちがおかしくなっちまったのか…?」
そんな会話が聞こえたけど私の頭に残ることは無かった。
憶測を立てても立証する根拠が無く手詰まり状態だ。
「……やはり行くしかないよ」
私は見慣れた校舎を見つめ決意を固める。
ここでうじうじ考えても何にもならない。
なら、自ら動いて事態を進めるだけ。
「やっぱそうなるよなぁ…暴走するなよ『美穂』」
「分かってる。もし口が滑ったら殴ってでも止めて」
「出来ればしたくはないけど分かったわ」
「私もフォローしますから美穂さんはいつも通り話してください」
3人の気持ちを受け止め校内へ入る。
向かう先は決まっている。
家庭科準備室、いや『勇者部』の部室へ。
◆◇
「遅いっ!いつまで待たせるのよ!!」
部室に入って早々夏凛の喝が僕の耳に刺さる。
至極真っ当だから余計効く。
「うっ…ごめん…」
「優樹さんが寝坊なんて珍しいですね」
「東郷と付き合い始めて夜も寝かせてもらえないとか?」
「風先輩…まだ反省してないみたいですね…?」
「ちょっ…!待って東郷!あの時のことはもう謝ったじゃない!」
いつもの賑わいが夏凛からのダメージを和らげていく。
「それにしても電話してから来るまで遅かったけど何かあったの?」
「ああ…そうだ。実はある女性から讃州中学への道を聞かれたので連れてきたんです」
「ひょっとして私たちへ依頼に来たのかな?」
「どうなんでしょうか……何か悩み事がありそうでしたけど」
「それに勇者部の名前出したら凄く驚いてました」
「……何やら一悶着ありそうな話ね。とはいえ、全員集まったから始めるわよ〜」
『はーーーーい!』
こうしていつものように明るく始まろうとしていた。
そのはずだったけど…。
「……」
「……」
風先輩の前に座るのは先程の女性と連れの3人。
臨時会を少し始めた頃に依頼をしたいと伺ってきたのだ。
「話を聞かせてくれませんか?」
「はい。私たちはある『確認』をお願いしたくこちらにお邪魔させていただきました」
「その確認とはなんですか?」
女性は出されたお茶を一度飲み、視線を東郷さんへ向けた。
「三ノ輪銀という少女を知ってますよね。神世紀286年11月生まれで、家族を大事にしていて特に大好きな弟2人は強い愛情を注いでいる。好きな食べ物はうどんとイネスのしょうゆジェラート。神世紀298年に勇者に選ばれ乃木園子、東郷…失礼。鷲尾須美と共に戦った。ここまで間違いはあるかな」
「「──!?」」
僕と東郷さんは驚愕で目が大きく開き唖然とした。
生年月日や勇者として戦った履歴は大赦関係者なら調べようがある。
でも、家族や好みは本人に聞かないと分からない。
それにここにいるメンバーでは、僕と東郷さんしか知らないはずだ…。
しかしこの女性はドンピシャで当ててきた。
これが『確認』なのか…?
「……間違ってはいませんが……貴女は何者なんですか……?」
「そう…今の確認を元に質問を。『三ノ輪銀はバーテックスに殺されましたか?』」
「……はっ!?」
「なっ…⁉︎」
前に座る風先輩を他所に尋問するように女性は肘を机につく。
「園子さんと須美さんが意識を失った戦いがあるはずです。戦線に唯一残っていた彼女は孤軍奮闘の末、バーテックスを撤退させることに成功。その代償として命を散らした。これについては訳ありとは思うけど?」
「……全く違います。第一ここにはいませんが銀は生きています」
東郷さんは女性の言葉に驚きながらも、すぐに冷静になって言葉を返した。
「おかしいですね。私の知る銀は右腕喪失、脇腹欠損、その他大量の切り傷による出血死のはず。ましてや満開も勇者バリアも無いのに生きれるなんて考えられませんよ。何があったのか、教えて貰っても?」
この人は何を言ってるんだ…?
「そ…れは…」
あの時のことを思い出したらしく…東郷さんの言葉が詰まった。
そして東郷さんが震える手で僕の腕を掴んでいた。
あの時の事は…僕以外の3人にとっては禁句だ…。止めないと、東郷さんが危ない…!
「その話に触れるのはやめてください。」
考えるより先に言葉が出ていた。
「君は何か知っているの?」
「銀は生きてます。貴女が言うような傷も負っていません」
僕は怒りの籠った声で言葉を返した。
──銀は生きている。それは記憶が無い時の僕と東郷さんがこの目で確認している。そして目の前の女性が言う戦いというのは、おそらく僕が死にかけたあの戦いだろう。
あの時は本当に危なかった…。一歩間違えれば銀まで失ってたかもしれなかった。でも、右腕の喪失ってどういうことだ…?確かに銀は敵の攻撃で無数の傷を負った……。だけど喪失したと言われた彼女の右腕は…確かにあの時、僕が握ったはずだ…。いやそれより──何故あの戦いの事を知っているんだ…?
怒りの籠った声とは裏腹に、僕の頭の中には、あの戦いや銀のことが思い出されていた。
「……そう言うってことは、君は銀たちが何をしていたか知ってるんだよね」
「ええ…その戦いの時は僕がいましたから」
何故この人があの戦いを知っているのかわからない。まさか大赦関連の人か?
「……へぇ。君、勇者なんだ」
目の前の女性はあっけからんと言い放った。
「はい。2年前に3人と共に戦い満開を経験しました」
「そこまで経験してるんだ……ねぇ、君の名前を聞いてもいいかな」
「安芸優樹です」
「そう、なるほど…」
静かに目を瞑ると二度手の甲を叩く。
そして大きなため息を出しながら立つと東郷さんに対し深々と頭を下げる。
「今の無礼を許して欲しい。私たちも状況を早く把握したくて焦ってたんだ」
「状況の把握…? あなた達は一体……」
「自己紹介が遅くなってごめん。私は『
この章ではコラボ作品という都合上、投稿ペースは不定期となります。
ご了承ください。
【次回予告】
異なる世界の勇者たちとの邂逅を果たした優樹と勇者部員達
この世界には一体何が起こっているのだろうか
真実を知るのは一体誰だ
安芸優樹は勇者である ■の章:生者の章 其の弍 通りすがりの勇者
あなたは信じられますか?
余談ではありますが、この先の安芸優樹は東郷ルートを前提に話が進んでいきます。他ヒロインは番外で