安芸優樹は勇者である   作:三奈木イヴ

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出会いは突然に
異なる世界で出会いし少年少女達は
勇者となる


通りすがりの勇者

「異なる世界の勇者…?」

 

「多分そう。というかそうじゃないと色々狂うんだよね」

 

出会った時とは違いフランクな口調に変わった高木さん。

 

「大赦はこの事を知ってるんですか?」

 

「知らないに決まってる。そもそも嘘を貫き通す酷い集団に教える義理も無いよ」

 

クククと笑う高木さんの目は優しいのに口元は悪そうだった。

あっちの世界でも大赦は似たような存在なのだろう。

 

「そちらの3人も勇者なのですか?」

 

「あぁ、紹介が遅れたね。右から郡千景、土井珠子、伊予島杏。始まりの勇者にして大切な家族。そして、私の端末に宿る()()だよ」

 

◆◇

 

世界はなんの前触れもなく私たちを置き去りにしていった。

前日、銀は東郷の家に泊まると言って家を出ていき、千景、珠子、杏と共に最近流行りの作品を見に映画館へ向かった。

『外敵から世界を救うために立ち上がったヒーロー達の運命』を綴る物語で、勇者のことを題材にしているのは目に見えていた。

どうせろくでもない作品だろうと思ったら期待通りの出来。

ごてごてのヒーロー作品に勇者達の戦いを貼り付けただけ。

立ち上がるのも失礼だったけど、同時に来た眠気には勝てず重くなった瞼をおろした。

そこから先は焦りと困惑でいっぱい。

映画館を出たら銀の気配が突如無くなり、携帯も繋がらないどころか電話番号すら使われていなかった。

当然黒花さんも無反応。

そして極めつけは私たちの家が無くなっていたこと。

正確には家はあったけど別の人が住んでいた。

こうして私たちは最後の望みを託し讃州中学へ向かうしかなかった。

まさか勇者部に私たちの知らない部員がいるとは思わなかったけど。

 

「せ、精霊…?その人たちが?」

 

驚きの表情を一同浮かべながら私たちを目をひっきりなしに動かし見ている。

銀の正体を教わった時も同じ反応だったの思い出すなぁ。

 

「信じれないけど本当だよ。だから3人は成長をしないし私が死なないかぎり消えることは無いんだ」

 

「脈拍も呼吸もしています…精霊とは思えないです…」

 

「正直タマも精霊だって自覚無いんだよ。こうして話してるのも夢みたいに感じてさ」

 

東郷に触られる珠子が話すように3人と出会いは夢のようだった。

私の端末がなんの前触れもなく光ったと思ったら、部屋の中にいきなり現れたんだから。

 

「今度はこっちの番かな。安芸さん、君は神樹に選ばれた正式な勇者なんだよね」

 

「はい…僕自身も驚いてますが…」

 

勇者になる資格を持つのは無垢な少女のみ。

穢れのない心に神は宿るのが所以だけど、安芸さんは無垢かもしれないが少女では無い。

神樹の気まぐれか別の要因か。

でも、彼がいたからこそ私たちの歴史とは違う道を進んだのは決定的。

 

「ところで皆は端末を持ってるの?」

 

「いえ、最後の戦いの後に大赦が全て回収しました」

 

「つまり、このタイミングで来るとヤバいってことよ。まぁあのデカブツを倒したんだからそう簡単に──」

 

刹那、空気が止まる感覚を肌で感じた。

部室にかけられた秒針は電池が切れたように止まっている。

 

「………これは」

 

「このタイミングですか…」

 

「風先輩。またやりましたね」

 

「なーんーでーなーのーよー!!」

 

風先輩の声と共に海の彼方から光の波が私たちを包み込んだ。

 

◆◇

 

視界が戻ると僕たちは根の上に立っていた。

もう二度と見ることは無いはずの世界だった。

背後には黄金に輝く神樹様の姿。

 

「本当に来ちゃった…」

 

「勇者システムがないのに…」

 

「バーテックスはッ!?」

 

「皆、あれッ!!」

 

東郷さんの指さす先には空高く伸びた尻尾がゆっくりと神樹様へ向かっていた。

間違いなくスコーピオンだけど、一部欠損がある。

 

「完全態じゃないなら……よし、いっちょやりますか」

 

高木さんはそういうとポケットから端末を取り出す。

形状は同じだけどカバーが黒くかっこいい。

 

「アンタ、戦えるの?」

 

「もちろん。私たちは大赦の勇者じゃないから勇者システムの没収は無いんだ。むしろグレードアップしてるよ」

 

途端、端末から光が溢れ高木さんを包み込む。

光が収まると黄・オレンジ・白と勇者にしてはカラフルな服を着ていた。

そして右手に剣先の割れた大剣、左手に身体半分を覆うほど大きな盾を持っていた。

 

「杏。射程圏ギリギリから指示をお願い」

 

既に変身を終えた3人が合流してきた。

身の丈ほどの大鎌を持つ郡さん、楯を腕につけた土井さん、大きなボウガンを両手で持つ伊予島さん。

 

「分かりました。私と美穂さんで敵の注意を引きますので千景さんとタマっち先輩で接合部分を集中的に狙ってください」

 

「任せタマえ!何度も戦った敵だし油断はしないからな!」

 

「えぇ。無傷で鏖殺してやるわ…!」

 

「頼もしい限りだ。それじゃ皆、行ってくるね」

 

4人はスコーピオンに向かって跳躍していった。

戦いに行くのにも関わらず焦る表情1つ浮かべてない。

 

「なんなのよあいつら…」

 

「戦うことに躊躇してない感がします…」

 

「私たちとは別の経験をしています。きっと価値観も違うのでしょう」

 

話をしているとスコーピオンから爆音が繰り返し起こる。

抵抗なのか尻尾を地面に何度も叩きつける度、揺れがこっちにも伝わる。

僕たちは揺れに耐えながらその光景を見ているしか無かった。

 

◆◇

 

そして、戦闘が始まって数分。

スコーピオンの尻尾は力無く樹海へ倒れ光の粒となって消えた。

 

異世界に来ての初戦闘だったけどあのバーテックスは私たちの世界で戦ったのと大差ない驚異と感じた。

あの時は2体目がいて珠子が追い詰められたけど今回は1体だけで済んだ。

 

「3人ともお疲れ様」

 

消えていくバーテックスの横で合流した3人だけど目立った傷がなさそう。

使徒との決戦を経験した私たちは基本スペックが上昇していた。

実際、私の武器周りの効率や出力が上がったような気がする。

 

「えぇ。案外大したことは無かったわ」

 

「そうだよな!前にタマがやられかけた時よりも弱く感じたぞ」

 

「攻撃がワンパターン化してました。異なる世界だからか私たちの力が向上しているだけかもしれませんが…」

 

「ともかく今は戻ろう」

 

樹海化が解け始める中、急ぎ皆の元へ飛んでいく。

この世界だと私たちは名も無いに近い存在。

変なところに現れると色々と厄介だ。

前を向くと神樹が変わらず鎮座している。

どうせ問いかけても答えてはくれないだろう。

私は心配そうに空を見上げる勇者部員に視線を変える。

世界が変わっても守るべき場所は変わらない。

それで充分なんだ。

 

◆◇

 

「いやぁ、ほんと助かるよ」

 

「いえいえ。助けてくれた恩を返したまでです」

 

「だとしても返しすぎなんだけどね」

 

樹海化が解けた後、風先輩が大赦に報告しておくと言ったことで臨時会は打ち切りになった。

その際、帰るところの無い4人の処遇が課題となったけど高木さんから大赦に知られたくないとお願いされた。

信用出来ないのは皆も理解していたしお金も少なくホテルにも泊まれないことを踏まえ、僕の家に泊めることにした。

それを提案された時、東郷さんも一緒に僕の家に来ようとしてたけど、風先輩と夏凜の説得と友奈のお願いによって治まった。

僕としては構わないんだけど流石に高木さん達も居る中でイチャつくわけにはいかないしね……。

だからって高木さんと何かあるわけでも無いけど。

そんなわけで帰り際に日常用品を買い集めやっと腰を下ろせた。

 

「にしても優樹って力持ちなんだな。タマたちの荷物全部持てたんだからな」

 

「毎日筋トレしてるからだよ。僕と言えばこの筋肉だから」

 

腕をめくると鍛え上げられた筋肉が現れる。

 

「綺麗な筋肉だね。どっかの国にこんな腕した彫刻無かったっけ?」

 

「イタリアのダビデ像ですね。ミケランジェロが作り上げた至高の傑作です」

 

「そうそう!一度は見たいなぁって思ってるんだ〜」

 

「イタリア…ピザが美味しいらしいわよね」

 

「ピザかぁ〜。タマはマルゲリータがいいな!」

 

「なら今日はピザにする?今なら早く届くと思うし」

 

「マジで!?いいのか!!」

 

身を乗り出して目を輝かせる土井さんと、身体を掴んで支える伊予島さん。

さながら散歩に喜ぶ犬と飼い主みたいだ…

 

「うん。ちょっとしたパーティーをやりたくてね」

 

「そうと決まれば私たちも手伝わないとですね」

 

「ならサラダくらいは作った方がいいかしら」

 

「いえ、皆さんは来たばかりですしここは僕が…」

 

「まぁまぁまぁ。一時とはいえ同居人なんだから。遠慮なく頼っていいんだよ」

 

僕の提案を遮るように高木さんに肩を掴まれた。

それにしても……こういう風に家が賑やかになるのは随分と久しぶりだな…。

──僕がこのような提案をしたのは、単に姉さんが帰ってきた時に呆れられないようにというのもある。

でも1番の原因は『大切な家族の記憶を消さないため』。

僕は僅かしか思い出せないけど父さんと母さんの記憶も多く残っている。

そのせいか家に帰るとどこかで見ている、そんな‎気にもなる。

だから4人を客人として扱わないとという気持ちが強く出ていた。

 

「……では、お言葉に甘えさせてもらいます」

 

「それでよし。あとその敬語崩してね。何か、壁があるみたいで嫌だからさ」

 

「分かった。中学生だけど自立出来てるから任せて」

 

「それは知ってるけどなんで今更言ったの?」

 

「え、高木さんって大学生くらいじゃ…」

 

「………マジ?そんくらいに見える?優樹君と同じ中学2年生だけど?」

 

「えっ…⁉︎」

 

うわ、気まずい…

だって高木さんあまりにも落ち着いてるし雰囲気からそのくらいの歳とおもっていたらまさか同い歳なんて……

 

「讃州中学の制服着てないからとか」

 

「今の服装だとお金持ちの令嬢って雰囲気します」

 

「いつもの動きやすい服装はどうしたの」

 

「今日はこういうの着たいなーって思っただけなんだよぉ〜…」

 

顔を手で覆い泣き真似をする高木さんに思わず吹き出してしまった。

それにつられて3人が、そして高木さんも後から笑っていた。

この家で笑ったのも久しぶりかもしれない。

 

◆◇

 

「ふぅ……」

 

今日は朝から大変だったけど、ようやくお風呂でひと息だ。

とは言っても……お風呂の前にも一悶着あったんだけどね…。

僕はさっきの事を思い返した…。

 

『お風呂なんですけど、高木さん達お先にどうぞ』

 

『いやいや、家主より先に入るなんて出来ないって』

 

『僕としてはお客様を先にと思ったんだけど…見事に意見が食い違ったか…』

 

あっさり決まって欲しかったなぁ…。僕としては一時の同居人とはいえ、高木さん達は客人だ。少しでもこの家でくつろいで欲しいという思いからの提案だった。

 

『あっそうだ。なら泊めてもらってるお礼って事で、優樹君の背中でも流そうか?』

 

『ブフッ!』

 

僕は思わず吹き出した。

何を言い出すんだこの人は…!

 

『ちょっ…何吹き出してんだ…!』

 

土井さんが驚きながら言ったけど……これは吹き出すでしょ……

 

『今のは高木さんが悪いと思うわ…』

 

『私もそう思います…』

 

土井さんの言葉に郡さんと伊予島さんが

 

『心臓に悪い冗談はやめてくださいよ…』

 

そして僕が言葉を返した。

 

『冗談のつもりじゃなかったんだけどなぁ…』

 

『もっとダメだよ!』

 

第一僕には東郷さんという大切な人が居るんだ。それを受け入れたりなんてしたら何が起きるか…。

 

結局、お風呂は僕が先に入ることになった。

 

◆◇

 

「なあ、美穂?さっきのやつマジでやるつもりだったのか?」

 

「うん?そうだけど?」

 

半分は冗談だったけど、気になったことがあるからね。

 

「美穂さんが…安芸さんと…⁉︎」

 

「杏‼︎ しっかりしろー!!」

 

「待って待って…!杏が何考えてるか知らないけどそういう事するためじゃないって!気になったことがあったんだって!」

 

適当にはぐらかそうと思ったけど、杏が目を回しちゃったから誤解を解かなきゃだね

 

「……さっき優樹君が腕まくりをした時になんだけど、チラッと大きな傷が見えてね。しかもその傷は何かに貫かれたようだった」

 

「まさかそれって…」

 

「まだ憶測でしかないけど……銀が命を落とした戦いに関係してると思う」

 

バーテックスにはいろんなヤツがいるけど、精霊バリア無しの状態で貫いてくるのはスコーピオンとサジタリウスくらいだ。でもスコーピオンは尻尾に毒があるみたいだし、おそらくはサジタリウスの矢だろう…。銀の代わりに戦ったのか…それとも銀を庇ったのか…。

いずれにしろ銀が生存していた事に大きく関係しているのだろう。

 

「だから確認しようとしたってわけね」

 

「そうゆう事。でもこの世界の東郷と付き合ってるみたいだし、やめた方が良さそうね」

 

「なら最初から提案しなければ良かったのでは…?」

 

杏……それは言わないお約束だよ……。

 

◆◇

 

「おやすみ優樹君、部屋ありがとうね」

 

「うん、おやすみ」

 

高木さん達は、部屋に入っていった。

僕が案内したのは、今となっては使う人が居なくて来客用の部屋になった父さん達の部屋だ。4人いるけど、その内の3人は精霊だから多分大丈夫だよね…?

 

「僕も寝るか」

 

今日は本当にいろいろあった。それに明日は学校だ。早く寝ないとまた寝坊しかねないからね…。

僕は自室のベッドで眠りについた。




【次回予告】
勇者部に鳴り響いたのは樹海の音
現れたのは異形の敵
安芸家に訪れし客人達の目には何が映った…

次回 其の参 平穏な日々

どうか…あなたに良い記憶があらんことを
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