安芸優樹は勇者である   作:三奈木イヴ

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少年と少女達の平和な一日

今回は短めです。


平穏な日々

意識を戻すと私は映画館の椅子にいた。

人気のないうえ薄暗く、閉店後のシアターという感じ。

何度も来たことはあるけどよりによって『元いた世界の映画館』とは。

 

「趣味悪いって言われない?」

 

『そうかな。私は貴方のことを気遣ったつもりだけど』

 

聞こえるはあの声の主。

私の夢の世界に介入し、嫌がらせをしてくるウザイ存在。

 

「自覚無しでやってるなんて筋金入りのバカだよそれ」

 

『バカ真面目なのは認めるよ』

 

「はぁ……。それで、これは何の嫌がらせ?」

 

『嫌がらせじゃないよ。こうなったのはキミたちが原因なんだから』

 

「何……?」

 

姿の見えない声の主を訝しむ。

声の主は人類が、いや神樹についた者からすれば絶対に倒すべきとも言える存在。

何で私と意思疎通出来るかは謎だけど。

 

『言い方が悪かったね。この原因の発端は私たちなのは認めるよ。でも、ここまで育っちゃったのは関係ないってこと』

 

「育つ…?バーテックスのこと?」

 

『どうだろうね。そうとも言えるしそうじゃないとも言える』

 

なんてあやふやな回答。

というかコイツはどこまで知ってるの?

 

『だからこの件については私たちは一切関わらないつもりだし、そもそも関われないから。こうして話せるのも縁があってこそだからね』

 

「最低な縁と助言どうも。ヒントも無いならさっさと目覚ましたいんだけど」

 

『そうだね。私からしたらもうちょっと話す気もあるけど何かあったら面倒だから。せいぜい頑張って私の前に来なよ。まっ、来ない方が楽で嬉しいけど』

 

甲高いベルの音と共に私の瞼がゆっくりと落ち、思考が淀み始める。

こうなってしまえば考えても無駄だ。

眠気に身を委ね、あの世界へ戻る。

幾つもの疑問を胸に抱いたまま、私は見慣れない景色の中目覚める。

 

◆◇

 

「おはよー」

 

「おっ、おっはよ〜安芸君」

 

「おはようございます優樹さん」

 

「おはよう優樹!」

 

「おはよう…」

 

翌朝、リビングへ移動すると既に高木さん達が起床していた。

朝食を作ろうとしていたのか冷蔵庫を開けていた。

 

「起きるの早いね。もしかして眠れなかったとか…?」

 

「いやいやそんな事ないって。私たちもついさっき起きたところ」

 

「それなら良いけど。とりあえず、僕が朝ごはん作るから一緒に食べようよ」

 

「ありがとう。私たちも何か手伝うから遠慮なく言って」

 

安芸家はいつにも増して朝から賑やか。

自分の家なのにどこか違う雰囲気。

でもその違いがとっても心地いい。

同居ってこんな楽しいのかな。

 

◆◇

 

今日は平日のため学校に行かなくちゃいけない。

いつもなら家事を済ませてから向かうから慌ただしいけど…

 

「身だしなみは整えた?忘れ物はない?遅刻はしない?」

 

「お母さんかッ!?」

 

「いやぁ。一度言ってみたかったんだよね〜」

 

「時々よく分からないことするわね。ほんとそっくりなんだから…」

 

「優樹さんがタジタジになってますよ」

 

静かな朝がこうも騒がしい。

玄関に立てかけた家族写真に写る父さんと母さんも心做しか苦笑いしてる気がする。

 

「ほんとにいいの?家事全部やるって…」

 

「任せなさいって。女子力は風先輩には遠く及ばずとも家事力なら負ける気はしないからさ」

 

「馬鹿力みたいなニュアンスだ…!?」

 

「てことで、行ってらっしゃい〜」

 

土井さんにヘッドロックをかけながら高木さんの満面の笑みに背を押され僕は家を出た。

 

◆◇

 

「てことがあってね」

 

「とっても楽しそうで良かったね!」

 

「ふ、違う世界の後輩と言えどアタシの女子力に勝てないのを理解してるとは…」

 

「そこ食いつくのアンタだけよ」

 

「自慢になってないよ…」

 

「優樹君と共同生活…私だってしたいのに…」

 

「東郷さん大丈夫?目が怖いよ?」

 

三者三様の感想が部室に溢れる。

勇者部の中では高木さん達の話で持ちきりだ。

 

「精霊なのにご飯食べるのね」

 

「うん。本来なら食べなくても生きれるんだけど食べる幸せを共有出来ないのは辛いからだって」

 

「素敵な考えですね」

 

「でも突拍子も無いこと言うからびっくりするよ」

 

「突拍子も無いこと?」

 

「昨日なんて一緒にお風呂入ろうとしたし」

 

「な、なんて破廉恥な!やはり私も泊まるべきッ!!」

 

「なんでそうなるのよ!アンタは行かなくていいの!!」

 

「それでも私は優樹君の家内!もし、美穂さんが良からぬことをしていたなら……!」

 

「そんな事しないわよ!!」

 

その代わり勇者部の部室はいつもより騒がしくなったかな。

良い事、なのかな? って、それよりこのままだと東郷さん暴走しちゃうな……止めなきゃな……

 

どうしようか少し悩み、僕は東郷さんを後ろから抱きしめてみた。

 

「大丈夫だよ東郷さん。僕は東郷さんのことが好きだから……他の誰かと良からぬ事なんて起きないよ……」

 

「──っ⁉︎ 優樹君……」

 

「ちょっとそこ!部室でイチャつかない!」

 

「あれ?夏凛ちゃん前が見えないよ?」

 

「あんたは見なくて良いの!」

 

「あわわ……東郷先輩と優樹さんが…!」

 

部室がもっと騒がしくなってしまった…。なんでだろう…?

 

◆◇

 

「ーーーークション!!ぅぅ、埃かなぁ…」

 

私たちは優樹君へ泊めてくれる温情に答えるために出来る範囲の家事をこなす。

3人はあっちの世界でも似た生活してたからか手馴れている。

 

「床掃除終わりっと…そっちはどう?」

 

「こちらも終わりました」

 

「ぐっ…あそこに埃溜まってるのに届かない…」

 

「私がやるからそれ貸しなさい」

 

「それじゃ珠子と千景はそのまま続けてて、杏は私と来て」

 

手を洗い向かう先は優樹君の部屋。

男の子らしい必要最低限の物しか置かれていないシンプルさ。

 

「どこが怪しかった?」

 

「えーっと、この辺ですかね…」

 

クローゼットを開け少し漁ると出てきたのは大きなアルバム。

表紙に薄く埃を被っていたからサッと拭き中身を見る。

 

「どう。なんかある?」

 

「特に目立ったものはありませんね…」

 

物色し始めたのは理由がある。

それは私の世界と違うのは『安芸優樹』という存在の有無を知ること。

彼が戦うことで本来死ぬはずだった銀は話によれば園子のようにボロボロになっただけで存命。

散花で両目の光を失い、使用者のいなくなった勇者システムは私の知る通り夏凜へ託された。

だからターニングポイントすら塗り替える彼の過去を辿れば自ずと目的も見えると考えた。

 

「家族間は仲良かったようだね。これはお姉さん?」

 

「そのようですね。……やっぱり似てる」

 

「杏?」

 

呟いた杏に問いかけたけど、真面目な表情でアルバムをめくっている。

集中しているなら声をかけるのは野暮だ。

私は優樹君の写真を流しながら情報を探る。

花が咲いたような笑みをこちらに向ける優樹君と、苦笑いを浮かべるお姉さん。

……私もこんな風に笑えてたのかな。

 

◆◇

 

「ふいー…疲れたぁ…」

 

「拭き残しばっかりで苦労したのだけれど」

 

「仕方ないだろ〜。タマの身長じゃ届かないんだから」

 

肩を回しながら珠子と千景が戻ってきた。

 

「なんか見つかった?」

 

「目ぼしいのは無し。幸せな家族だってだけ」

 

「そう…」

 

「やはり大赦に行くべきでしょうか」

 

「近道な予感もするけど無駄骨の線もある。存在が無い利点を失いたくないから接触は避けるべきだよ」

 

アルバムを終いながら考えを広げる。

『アレ』の関与が無い話を正とするなら、私たちが戦うべき存在は無くなる。

それにしても気になるのが突如現れた未完成バーテックス。

完全態で来るのが当たり前なのになんで事を急いだ?

そもそも『アレが作り出したバーテックス』なの?

 

「美穂さん?」

 

「……ダメだ。考察する材料が足りない」

 

「動いたからか腹減ったぞ…おやつにしないか?」

 

時計を見ると9時を過ぎていた。

確かに小腹が空く頃合ではある。

 

「それじゃ少し食べようか。昨日買ったポテチとチョコつまみますか」

 

リビングに戻るとお湯を沸かしたり更にお菓子を盛ったりと動き始める。

静か過ぎるのも嫌だから私は何の気なしにテレビをつけると、番組の間にやるちょっとしたニュースが流れていた。

 

『本日未明、観音寺港付近に男性の遺体が浮かんでいるのを発見されました。漂着物から大赦職員との事でしたが頭が切断され身元の詳細は難航を────』

 

◆◇

 

部活後、家に帰ると香ばしい匂いが僕の鼻腔をくすぐった。

 

「おっ、おかえり〜」

 

エプロン姿の高木さんがコンロの前に立っていた。

 

「これは一体…?」

 

「夕飯だよ。美味しそうな鮭の切り身が売ってたからついね。あ、お釣りはそこにレシートと置いといたから」

 

昨日は確かに客人として持て成したけど…

これじゃ同居人じゃなくて家政婦だ。

 

「そこまでやらなくても…」

 

「いやぁ、私もゴロゴロしたいなと思ったんだけど手持ち無沙汰でね。つい出来心でやっちゃった」

 

「出来心……その気持ちは嬉しいけどゆっくり休んで欲しいんだよ」

 

「それ優樹君が言える?」

 

「う…それは…」

 

「私も勇者部の端くれだからよく分かるんだ。ましてや男手があるってなら尚更」

 

夕食の支度をしながら話をする。

今の高木さんは白シャツにグレーのパンツスーツを着ているから、OGみたいに感じてしまう。

 

「というか名前…」

 

「ん?優樹君呼び嫌だった?」

 

「いやいや!むしろ嬉しいよ!」

 

「それは良かった。なら私も下の名前で呼んでね」

 

「わかりました。美穂さん」

 

「あっ、ずるいぞー!タマも下の名前で呼ばれたいのにー!!」

 

2階から降りてきた土井さんが頬をふくらませながら訴える。

 

「そ、そんなに呼ばれたいの?」

 

「ああ。もっとフレンドリーに行きたいんだよ」

 

「ちなみにタマっち先輩はこう見えて優樹さんと同い歳ですから」

 

「えっ、そうだったんだ…」

 

「なんだその反応。文句あるのかー?」

 

「単に土井さんのギャップに驚いただけでしょ」

 

「ちーかーげー!言ったなぁ!!」

 

今夜も賑やかになりそう。

でも、悪くないって思っちゃう。

それにしても『千景』か。

 

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「優樹君?」

 

「……ああ、なんでもないよ」

 

「そう?」

 

本当に……どこで何してるんだろうなぁ……千景は……。




【次回予告】
少年は願いを託された
少女達は希望を手にした
そして訪れるは──異形の存在

次回 託された想い
あなたに幸いがあらんことを
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