安芸優樹は勇者である   作:三奈木イヴ

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希望を手に取り
絶望に抗え


託された想い

部室は重々しい雰囲気に包まれた。

その原因となるのは机の上に置かれたジェラルミンケース。

 

「優樹、これって……」

 

「はい。その考えで間違いないと思います」

 

風先輩の不安を煽ることにはなるけど、僕は蓋をゆっくりと開ける。

そこにはクッション材に包まれた6つの端末が置かれていた。

 

「どこで手に入れたの…?」

 

「朝起きたら玄関の前に置かれててね。随分と回りくどい受け渡し方法だこと」

 

一緒に来てくれた美穂さんは机の上に一通の封筒を置く

 

「これの差出人からの伝言。宛名は、()()()()()()()()()

 

「ッ!!」

 

その名を聞いた途端、東郷さんはひったくるように取ると中身を取り出す。

僕たちは既に中身を把握しているから黙ってその様子を見つめる。

 

「──そう、なのね。どうやらこの勇者システムはこの前の戦いから能力は上がってはいますが満開は使えないとの事です」

 

「もう失わなくていいってこと?」

 

「ええ。その代わり逆転する手が無いですが…」

 

「また戦うことになるなんて…」

 

「……私は戦います。もう、誰にも傷ついて欲しくないから!」

 

端末に手を伸ばした友奈の手が迷いの目をした風先輩によって止められる。

 

「風先輩…?」

 

「危機的状況なのは分かってる。高木にこれ以上負担を背負わせるのも良くないのは分かってる。それでも…アタシは勢いで変身はさせたくないの」

 

勇者部は勇者になる為の適正値が高い生徒を集め監視するよう風先輩が大赦から言われ作られた部活だ。

そして前情報も無しにいきなり樹海化し、わけも分からず変身した。

その事について後悔はしてないけど風先輩は負い目を感じてるんだ。

 

「私は戦います。そのっちと銀が託してくれたこの力を無駄にしない為にも……」

 

東郷さんが端末を手にした。

 

「僕も行くよ。美穂さんにだけ戦わせたくは無い」

 

続いて僕が。

 

「まっ、美穂ばっかりに見せ場取らせるのは嫌だし。覚悟ならとうに済ませてるわ」

 

夏凛が。

 

「………私はいきます。代償が無いからじゃない。戦えるのに何もしないなんて耐えられないから!」

 

友奈が。

 

「私も戦うよ。お姉ちゃんの後ろをついて行きたいからじゃない。私は私の意思で戦う!」

 

そして樹ちゃんが。

 

皆が端末を手に取った。そうしてジェラルミンケースに残されたのは風先輩の端末のみ。

 

「なによ…アタシだけ置いてけぼりじゃない…。全く、部長を置いていくんじゃないの」

 

風先輩が端末を手に取った。こうして僕たちは仮初とはいえ勇者となる道を選んだ。

 

「そういえば高木さん達はずっと戦ってきたんですか?」

 

「まぁね。うちの東郷が集団自殺しかけた後もバーテックスを狩ってたからね」

 

美穂さんの世界でも東郷さんはやらかしたんだ。

これまでの発言からして銀は既に亡くなっていると考えると余計切羽詰まってたんだろうな…。

 

「そっちでもやってたんだ。東郷さんの性格は変わらないね」

 

「ごめんなさい…やっぱり腹を斬るしか…」

 

「そんなことないよ!東郷さんは悪くないよ!!」

 

確かに東郷さんのやったこと自体は悪いでは済まない。

だから東郷さんの罪は皆で背負うと決めたんだ。

もうひとりぼっちにさせないためにも……。

 

「話を戻すけど、大赦は樹海化の発生を受けて何かするの?」

 

「何もしないよ。今大赦はそれどころじゃないから」

 

「何かあったのですか?」

 

「あれ、ニュース見てないの?それじゃ東郷、パソコン借りるね」

 

パソコンの画面へ皆の視線が集まる中、1つの動画が再生される。

 

『大赦職員連続不審死事件について続報が入りました。先程土器川河口で遺体が発見されました。これを受け大赦は非常事態宣言を発令。不要な外出を控えるよう勧告いたしました』

 

「何これ…不審死…?」

 

「大赦職員だけを狙った犯行。動機も目的も不明。愉快犯、という線も有り得るわね」

 

「だから先生もホームルームで言ってたんだ…」

 

全員が性別のみ判断出来るのみで身元は不明。

男でも女でも関係なく殺されている。

もしもその中に姉さんがいたら……

ズキリと僕の胸が痛む。

大赦職員である姉さんを思った途端、張り裂けそうな気持ちが溢れかける。

そんな訳ない……そんなはずは……

皆に気を使いながら、震える手で姉さんに電話をかける。

返ってくるのはコール音だけ。

背中を冷たい汗が流れ、視界が左右に揺れ始める。

姉さん……頼む……出て──

 

「優樹」

 

肩を優しく叩かれ、咄嗟に振り向く。

そこには心配そうに僕を見る夏凜がいた。

 

「心配する気持ちは分かるわ。私も怖くて仕方ないの…」

 

夏凜の唇が小刻みに震えている。

そっか、お兄さんのことが心配なんだ。

それを必死に抑えて……

 

「……ごめん。僕だけ焦って」

 

乱れた心が少し落ち着いた。

犯人を探すのは僕たちには出来ない。

今は無事でいることが優先だ。

 

各々勇者システムの確認をしてる中、僕は東郷さんを空き部屋に連れ出した。

 

◆◇

 

「優樹君……その……大丈夫……?」

 

「……うん、夏凛のおかげで一旦落ち着いたよ。」

 

「そう…。なら良かったわ」

 

もしも夏凛が言葉をかけてくれなかったら…今こうやって話を切り出せなかったかもしれなかった。夏凛には感謝しなきゃな…。

 

「東郷さん……」

 

「どうしたの優樹君?」

 

「……」

 

僕は東郷さんに渡す物があって来たけど、声が出なかったなかった…。

一旦落ち着いたとはいえ、姉さんの事を考えたらやっぱり不安になってしまったから……。

 

「やっぱり安芸先生の事が心配なの…?」

 

「……うん。」

 

部室では皆が居たし、夏凛のおかげで落ち着いたけど……二人きりになった途端、抑えたはずの不安が込み上げて来た。

 

「情けないよね…東郷さんにこんな弱い姿見せちゃって…」

 

「そんな事ないわよ。私にだけ見せてくれる優樹君の弱いところも好きだから…!」

 

「東郷さん……ありがとう。」

 

僕は思わず赤面した。やっぱり僕は…東郷さんの事が好きだ。……っと、そうだ。

 

「東郷さん、実は──」

 

僕は懐から目的の物を取り出した。

 

「手紙…?」

 

「うん、園子と銀から僕たち宛に」

 

「──⁉︎」

 

「端末の入ってたケースの上に置いてあったんだ。こっちとこっちが東郷さん宛ね」

 

「え、ええ……」

 

届いた4通の手紙はそれぞれ僕と東郷さんに宛てた手紙だったので、まだ確認していなかった。

僕は1通目の封を開けた。

 

『優樹へ

記憶が戻ったって聞いたぞ。本当に良かった。あの戦いで優樹に助けられたあと直接お礼を言えないまま記憶を失っちゃったからどうしようかと思ったよ。でも優樹は戻ってきた。だから次会う時には改めてお礼を言わせて欲しい。■は■■■■き

銀』

 

銀……君のおかげで僕は今生きてるんだ……。次会えたら僕もお礼言わなきゃな……あれ?最後のとこ消されてうっすらと見える()()しか読み取れないな。まあ、書き間違えだろう…。

 

「次はこっちか」

 

続いて僕は、園子からの手紙を開いた。

 

『あっきーへ

あっきーとわっしーが戻って来てくれて良かったんよ〜

今はちょっと動けないけど、必ずミノさんと会いに行くからね〜

ps.あっきーは誰か好きな子とか出来た〜?もしもいたらミノさんとわっしーには内緒にしておくから私にだけこっそり教えてね〜 園子』

 

園子は相変わらずだなぁ……。そういえば東郷さんと付き合った事まだ言ってなかったな。東郷さん次第だけど今度会ったら報告しようかな。

 

◆◇

 

私は優樹君から手渡された手紙を開いた。

 

『わっしーへ

私とミノさんはわっしーの選んだ選択を受け入れてるよ〜だからあまり思い詰めないでね。あっきーの手紙にも書いたけど、私たち今は訳あって動けないんだ〜 でもいつかミノさんと一緒に会いに行くからね〜 そういえばわっしー、あっきーとはどんな関係なのかな?気になって夜しか眠れないんよ〜

園子』

 

そのっち……優樹君との関係に気づいてないわよね…?でもあの子は賢いからあっさりとバレそうね…。もう1通は銀からね

 

『須美へ

園子の体やアタシの目が治ったからすぐにでも会いに行きたかったんだが、今はちょっと立て込んでるんだ。ごめんな。優樹にもよろしく言っておいて。そういや園子からあの頃より須美の桃がデッカくなったって聞いたぞ。

銀』

 

「銀…‼︎」

 

「どうしたの東郷さん」

 

「えっ…⁉︎いやちょっとね…」

 

いけない、思わず叫んじゃったわ。銀ったら……。今度会う時は警戒しなくちゃね…。

 

「そういえば優樹君」

 

「うん?」

 

「そのっち達はまだ知らないのよね…?」

 

私は優樹君に恐る恐る尋ねた。

流石にまだ知られてないわよね…。

 

「そのはず…。姉さんにも伝えてないし……少なくともあの頃しか知らないはず……。」

 

優樹君は不安そうに返した。

 

「でもそのっちなら私たちが報告する前に気づきそうね」

 

「確かに…。ああそうだ、東郷さん」

 

「どうしたの?」

 

「今度、園子達に会えたら僕たちの事報告しない?」

 

優樹君の提案に私は驚いた。

 

「うん、良いと思うわ。言わなくても気づかれそうだし」

 

「銀はともかく園子がねぇ……。実は園子からの手紙にも好きな人いたら教えてーって書かれててさ…」

 

「優樹君そんな人がいるの?」

 

私は思わず優樹君に詰め寄っていた。

 

「待って待って、僕が好きなのは東郷さんだけだから!」

 

「っ……!」

 

私は恥ずかしくなって顔を逸らしていた。顔が熱いわ…。

 

「優樹君……そうね……。そのっち達に会えたらその時は」

 

「うん…その時は──」

 

途端、端末から不協和音が鳴り出した。

 

「ッ…。来た…!」

 

聞きたくなかったけど襲撃が起こるのだから立ち向かわなくちゃ行けない。

前の僕ならきっと恐怖があっただろう。

でも今は勇者部の皆がいる、美穂さんもいる、そして何より大切な存在が隣にいてくれる。

 

「行こう、東郷さん。園子と銀が託してくれた力を今こそ見せる時だよ!」

 

「うん。行きましょう!2人のためにも!」

 

◆◇

 

壁の先からやってくるは大量の星屑。

どれもこれも似たような笑みを見せながらうようよと向かってくる。

 

「相変わらず気色悪い。おかげでマシュマロ食えなくなったっての」

 

「僕も同じです。マシュマロ見ると過ぎって…」

 

「勇者独自の悩みかもね〜」

 

変身を終え、付かず離れずの距離を保ちながら前進する。

敵の数が多いためお互い漏れが無いよう配慮した陣形だ。

私はちょこまかと動く星屑をライフルの一撃でチマチマ削る。

隣を見ると優樹君が大槌を振りかぶって星屑を叩き潰していた。

身の丈以上もあるのに軽々と扱っている姿は風先輩を彷彿とさせる。

 

「おっと。よそ見してごめんよ」

 

迫っていた星屑の口に向かってライフルを連射する。

こいつらには御霊がなく、身体の欠損が激しいと消える単純な敵。

群がるのが厄介だけど確実に潰していけば基本負けることは無い。

 

「そんなに食べたいの?私結構汚れてるから美味しくないと思うけど」

 

近づいてきた星屑に剣で振りかざし問いかけるも当然答えは返ってくることはない。

まぁ殺した後に聞いてるから話せないのは当たり前なんだけど。

 

「美穂さんッ!」

 

切り終わったあと、優樹君が私の元へ着た。

 

「どうしたの?まだ獲物は残ってるよ?」

 

「いや殺り足りないとかではなく、『倒したって感覚あります?』」

 

「つまり、手応えが無いって?」

 

大きく頷くと私はインカムで3人に声をかける。

 

『敵倒してて変なところある?』

 

『んー…なーんかやりごたえがないんだよなぁ』

 

『空気を切るような感じね。消えているからあまり気にしなかっただけ』

 

『東郷さんも同じ考えでした。倒した後も砂や光ではなく煙のように消えるように見えます』

 

どうやら違和感はあるらしい。

前のバーテックスといい何かがおかしい。

 

「アレが関与してないのは間違いない。となると…」

 

目の前の敵より背後に光る存在に目を向ける。

私が来たタイミングと、端末が与えられたタイミング。

そしてあまりにも出来すぎた樹海化。

 

「…脅すしかないか。優樹君、これから私がすることについて一旦黙ってて欲しい」

 

「え、えぇ…?」

 

「ビット展開」

 

困惑する優樹君を横目に私の持つ盾からビットが分離され、周囲を弧を描くように飛び回る。

 

「な、何これッ!?」

 

「これが私の武器。近中遠に対応するため生み出された『人造兵器』」

 

私はライフルにした刀身にビットを合体させていく。

元々大きかった刀身が更に伸び、狙撃銃のようなフォルムに変わる。

 

「炉心から弾頭へ応答。出力80パーセントに固定。ターゲット捕捉」

 

内部に溜め込まれたエネルギーが徐々に大きくなっていく。

両手で支え一体のバーテックスへ狙いを定める。

 

「悪く思わないでね」

 

刹那、私は身体を180度回転させロック対象を即座に変更し引き金を引いた。

雷が落ちたような轟音と共に白い光弾が迷うことなく『神樹』へ突き進む。

他の勇者達も気づいた頃には迎撃などできるはずも無い。

誰もが息を飲んだその時、神樹の前が黒く塗りつぶされた。

書道紙に墨汁を撒いたような黒い空間が、光弾を正面から飲み込む。

当たれば完全態の四分の一を消し飛ばすエネルギーを込めた弾はその力を見せぬまま虚空へ消えた。

 

「これは聞いてないよ…」

 

「な、に……れ…?」

 

背後にいた星屑は既におらず、未だ渦巻く穴に視線が集まる。

何が起こるのか分からない恐怖と、起こった先に待つ結果への不安が私たちを取り巻く。

しかしその答えは容易く出された。突如、渦から黒い触手が飛び出てきた。

そこそこ距離があるのにも関わらず目で追えない速さで私へ伸びる。

咄嗟の事で回避が遅れ、私の右足に絡みつく。

 

「チィ!こんなものッ!!」

 

気色悪い見た目だから手を伸ばし取り除こうとしたその時──。

 

『お前は何故生きている』

 

「え?」

 

ゾクリと私の背筋が震える。

聞き覚えのない男性の声が私の近くで聞こえる。

 

『なんであなたが幸せでいれるの』

 

「なっ…!?」

 

今度は女性の声だ。

けど生気を感じない低く単調な声。

 

「美穂さん…?」

 

優樹君が心配そうに私を見つめる。

 

「何か、聞こえる…」

 

「何か…?」

 

『たくさん罪を重ねて何故償わない』

 

『家族に飽き足らず妹を手にかけようとしたのになんでここにいれるんだ』

 

「ッ…!!」

 

やめろッ…それ以上言うな…!

私は思わず耳を塞ぎ目を強く瞑る。

もう乗り越えたんだ…仲間が、家族と一緒にあの過去を──。

 

『全く、何処までも愚かだね』

 

「ぁ……」

 

バキンと何かが折れる音がした。

 

『君なら理解しているはずだろう。いくら今が許しても過去は許されないのだから』

 

『やばい、美穂ッ!!』

 

『もう幸せは得ただろう。さぁ、清算の時だ』

 

『高木さんッ!!それに飲まれないでっ!!』

 

『さぁ…』

 

『行かないでッ…!高木さんッ!!!』

 

『『生きている罪を償え』』

 

「あああ…あ"あ"あ"あ" あ"ッッッ────!!!」

 

◆◇

 

樹海化した全てが未だ震えているように感じた。

美穂さんが発狂すると同時に根から黒い泥が湧き上がった。

千景さん、珠子さん、杏さんが来た時には遅く美穂さんは泥の中へ消えた。

 

「ッ…!届かなかった…!!」

 

「そんな、高木さん…」

 

千景さんが根を鎌の持ち手で強く叩き、杏さんは涙を流しながらその場にしゃがみこむ。

 

「美穂ォ!目ェ覚ませよッ!」

 

珠子さんは楯で何度も泥を殴りつけている。

僕は力無くその場に立っているだけだった。

 

「優樹君」

 

「とう、ご…さ……」

 

掠れた声で東郷さんの名を呼ぶ。

 

「何がどうなっているのよ…」

 

「まさかこの中に美穂さんが…?」

 

「優樹。何があったの?」

 

感情の整理が落ち着かないまま、僕の見た状況を教える。

 

「…何よ。神樹様を攻撃した罰とでも言うの…?」

 

カタカタと鎌を揺らしながら呟く千景さん。

神樹様の前に空いた穴は既にないけど、樹海化は続いたまま。

外の世界への影響はゼロに近いとはいえ長居していい場所じゃない。

 

「何を思って攻撃したのよ…これじゃ解決方法が分からないじゃない!」

 

「……いえ。そうとは限らないわ」

 

「東郷さん…?」

 

「私は一度神樹様に引き金を引きました。その時撃った弾は花弁に変わり直撃はありませんでした」

 

東郷さんの説明に皆耳を傾ける。

 

「そして大赦職員の連続不審死事件と樹海化のタイミング。まるで、『私たちを勇者にさせたいかのように誘導』している気がします」

 

「まさか、これも神樹様の手の内ってこと?」

 

「確証はありません。でも、神樹様が見せたかった光景かもしれません」

 

「その犠牲が美穂だってのか…?ふざけんなよッ!!」

 

珠子さんが強く泥を殴る。

既に固まり殻のようになったそれをいくら殴っても虚しい音がするだけ。

 

「もう時間が無い。土井さん、高木さんをお願いするわ」

 

「千景さん…?何を…」

 

()()()()()()()()()()()。それで事は済むはずよ」

「なっ…!?」

 

「ちょっと、何言ってるの!!」

 

風先輩が肩を掴むも無理やり振りほどく。

その目には光は無く明確な『やりきる意志』が込められていた。

 

「別に殺すなんて考えていないわ。ただ『傷つく痛み』を教えるだけ」

 

根に鎌の先を引きずらせながら神樹様の方へ向かう。

 

「神様だから敬え?ふざけないで。私の『家族』をここまで追い込んで敬意もあるものか…!」

 

「だからってそれはダメよ!神樹様を傷つけて解放されるか分からないのに!」

 

「じゃあここで待ってろと!許しをこいていろと!!高木さんが消えかけているのに指を咥えていろと言うのッ!!」

 

「消えかけてるって…どういう事…?」

 

「私たちは美穂さんの精霊、言わば一心同体の存在です。だから感じてしまうんです。『美穂さんが生きるのを諦めようとしている』のを」

 

「ッ!?」

 

あの美穂さんが死のうとしている…!?

 

いつも笑って僕に接してくれていた高木さんが…死ぬ…?

 

「タマが消えるのは怖くない。でも、タマより先に美穂が消えるのは許せないんだ。………千景、頼めるか」

 

「……えぇ。刺し違えても」

 

「待ちなさいよッ!」

 

更に怒気を強めた風先輩が千景さんの前に立つ。

しかし、風先輩の前を赤い一線が横に振り抜かれ距離を取らされる。

 

「邪魔しないでもらえるかしら」

 

「ッ…本気なの…!?」

 

「さっきも言ったけど殺す気は無いわ。貴方達の世界をめちゃくちゃにするのは高木さんも望んではいない」

 

「ならッ…!!」

 

「もう話し合いは終わり。これ以上邪魔するなら貴方も無事で済まさないわ」

 

一触即発状態で僕は何も出来なかった。

神樹様を守る気持ちも、美穂さんを大切にする気持ちも分かるから。

そんな状況で僕はただ黙って立っているだけ。

弱虫にも程があるだろ……。

 

刹那、金属音とガラスが割れる音が同時に聞こえた。

張り詰めていた空気が解け音の先に集まる。

あんなに硬かった卵にヒビが入っていく。

そして崩れ落ちるように殻が割れ、その中心に私服姿で倒れる美穂さんがいた。

 

「高木さんッッッ!!!!」

 

僕も千景さんと共に美穂さんの近くに座る。

息が荒いだけで目立った傷は無い。

 

「良かった…まだ、間に合う…!」

 

その一声で緊張していた身体がほぐれる。

しかし1つの疑問がその場に残されていた。

 

「槍……?」

 

美穂さんの少し横に突き刺さる漆黒の槍。

形状はかつて見た園子のそれと似ているけど全体に赤黒く禍々しい印象。

 

「一体誰が…」

 

長かった樹海化が解けていく中、明るくなりつつ空を見上げるも何も無かった。




【次回予告】
希望は反転し絶望となる
纏わりつく──泥
神樹の見せたかったものとは一体なんだったのか…?

次回 安芸優樹は勇者である ■の章:生者の章 其の伍 守りたい者

追記:銀の手紙の伏せた部分について。 銀は「私はお前が好き」と書いた後、慌てて消しましたがそれは全て消しきれず…。その結果あの伏字になりました。ではそういう事で…。
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