安芸優樹は勇者である   作:三奈木イヴ

32 / 69
イレギュラー達が揃いし時、世界は一体何を見る?


夢物語

勇者部の定例会をしていた時のこと。

不審死事件や呪いによって自粛気味だった活動を再会しようと皆、意気込んでいた。

美穂さん達も来るはずだったけど、寄り道してから来るようだ。

 

「勇者部と言えば猫探しよね」

 

「捜索依頼が5件も溜まってます」

 

「そんなに!?早く探さないと危ないよ!」

 

友奈が今にも飛び出そうとする勢いで立ち上がる。

こうしている間にも猫は遠くへ行ってしまうと思えば無理もない。

 

「手分けして出来るのなら全て引き受けるのもいいと思います」

 

「そうね。こういうのは少数精鋭で当たるのがベストよ」

 

「猫ってひとりでどっか行くから危なくてヒヤヒヤするわよ」

 

「あぁ。首輪をつけとかねぇと何するか分かったもんじゃない」

 

見知らぬ第三者の声が聞こえ、盛り上がってきた空気は一瞬にして凍る。

誰か一人でも聞いたことがあるならこの空気にはならない。

仮に突破的な依頼人だとしても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

声の方を向くとロッカーにもたれ掛かりながらこちらを見つめた人が立っていた。

短く切られた髪と肌は病的なほど白く、顔の左半分は火傷の跡が黒々と残り痛々しさもある。

室内にも関わらず黒のロングコートを着ており、異様な雰囲気を醸し出す。

 

「おっと余計な一言だったか。オレのことは気にするな。()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いや……あんた誰よ…」

 

「オレか?オレは世界の破壊者。夢物語の終わりを告げる存在さ」

 

「何を言ってるの…?」

 

「おや?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そりゃめでたいことだ」

 

その人は大きなため息をこぼすと、僕たちの横を悪びれもなく通りながら黒板の前へ向かう。

図々しさに押されてなのか風先輩が警戒しながら後ろへ下がる。

 

「そもそもな。大赦職員の連続不審死事件っておかしいだろ。逆恨みしたいやつの目星はついているのに何で犯人のしっぽが掴めていない?しかも呪いの力に比例して被害が大きくなっているのになぜ違和感を持たない?」

 

「それは神樹様が呪いにかけられているから…」

 

「はっ。お前ら『あれが神樹に見えるのか』?」

 

「え……?」

 

サラリと言われた発言に思わず耳を疑う。

 

「お前らが守ってきたのは神樹では無い。あれは──」

 

「お待たせしましたー!高木美穂以下3名到ちゃ………」

 

重苦しい空気を割いて現れたのは美穂さん達。

明らかにいつもの状況では無いのを察したのか言葉が詰まるも、黒板の前に立つ人を見た途端、驚愕で目を大きく見開く。

途端、一瞬の内に鋭い目付きになり早歩きでその人の元へ近づいていく。

 

「よっ、遅かった────」

 

バシンッ!と痛々しい音と共に美穂さんの鋭い拳が片手で受け止められていた。

拳の位置は顔面近くで当たれば致命傷になる。

 

「……何の真似だ」

 

「ふざけないでくださいッ!」

 

手を振り払うと徒手空拳を振るいながら言葉を放つ。

 

「何でッ!いままでッ!連絡をッ!しなかったんですか!」

 

「当たり前だろ。オレにだって事情はある。それに連絡をしちまえば面白みに欠ける」

 

美穂さんの攻撃を冷静かつ的確に捌く。

二度対峙した美穂さんの実力は分かるから、あの人の実力の高さにびっくりした。

 

「面白みだってッ…!?その時間で苦しみを味わわなくて済む人も居たのにッ!」

 

「泥のことか?あれなら既に()()()()()

 

「なッ!?きゃあッ!!」

 

動揺した一瞬に足元を掬われ固められる。

必死に振りほどこうともがくもビクともしない。

 

「全く、友のために力を振るうのは構わないが恩師に牙むくのはどうかと思うぞ。美穂」

 

「はっ…黒花さんは例外ですよ」

 

「うわ、ひでぇ」

 

力強く握っていた手をパッと離し降参のアピールをする。

それを見てなのか拘束を解き、両者服装を整える。

 

「おっ、お前らも居たのか。まぁ美穂が来た時点で着いては来るか」

 

「マジかよ…」

 

「相変わらず唐突ね…」

 

「お元気そうでなによりです…」

 

この反応からして美穂さんの世界から来た人物なのは確定。

それにしても格好といい装いが僕の変身した姿にそっくりなんだよなぁ。

 

◆◇

 

「いきなりの訪問失礼した。オレは黒花千早。肩書きは数あるが美穂の身元引受人と勇者部顧問ってだけ覚えとけ。一度は会ってはいるが改めてよろしくな」

 

黒板の前に一人立った黒花と言う人はあっけらかんと話す。

僕たちは美穂さんの買ってきたシュークリームを片手に聞いている。

うん、程よい甘さで美味しい。

さすが美穂さんだ──ちょっと待って、一度会ってるって?

 

「黒花さんとは初対面の筈では…?」

 

「ん?あぁ、この姿が原因か。前に美穂がぶっ倒れた時の担当医がオレだ」

 

「え?見た目も声も違いましたけど…」

 

「伊達に勇者部の教師やってねぇよ。演技と変装も出来ないと示しがつかない」

 

「美穂ちゃんの勇者部って凄いんだね!!」

 

「適当言って…。どうなっても知りませんよ…」

 

美穂さんがため息を零しながら呟く。

何か苦労してるような顔つき…

 

「飯食うのは構わんが話は聞いておけよ。あと胸糞悪くても吐くなよ」

 

「分かってますよ…んっ、来るなら言ってくれれば買ったのに」

 

「それ駅前のだろ。戻れば買えるわ。さてと……」

 

黒花さんは一呼吸起き、真実を語り始める。

 

「結論を言おう。お前たちが居るのは『神樹の腹の中』。そして樹海で見たのは『人樹(じんじゅ)』だ」

 

「人樹…?」

 

聞いたことのない言葉に、僕たちは頭に?を浮かべた。

そんな僕たちの様子には目も向けず、黒花さんは話を続けた。

 

「神樹にはこの地で亡くなった魂を取り込み、その後送られる安らぎの地『高天原』がある。だが実際のところ全員が安らげる訳では無い。人間には誰しも『生』という欲がある。そしてそれに囚われたまま死ねば、『生』は『呪い』に変わる。その積み重ねで出来たのが人樹だ」

 

「つまり、あの呪いは『生きたい』という願いだと言いたいんですか?」

 

「ああ。オレも泥を食らって理解したさ。おかげで数日動けなくなったが」

 

「食らったってそっち!?」

 

美穂さんが吹き出しそうになるのを横目に夏凜がツッコミを入れる。

 

「……確かに私が生きているのは狡いようなニュアンスでした」

 

「僕もあの時生きていたい、みたいなことを言ってた……」

 

僕の人格は内に閉じ込められ、泥の意識が独り歩きしていた時、何度も『生』について訴えかけていた。

しかもそれは美穂さんではなくこの四国に生きる人全てに対して。

 

「──300年前。この星から9割の人間が無慈悲に消えた。それが繁栄のために敬うべき自然を蹂躙した報いだとしても一瞬に減りすぎた。そんな奴らの感情を神樹が抑え切れる訳が無い」

 

「私たちはその感情処理を肩代わりするんですか?」

 

「どうだろうな。肩代わりではなく乗り越えさせるのが目的かもしれん。なんせここには『適正値の高いイレギュラー』と『神樹に選ばれなかったイレギュラー』がいるんだからな」

 

「何かバグみたいな言い方ですけど…」

 

「実際バグだろ。まぁ()()()も大概だが」

 

「「はい??」」

 

「安芸、お前じゃねぇ」

 

友奈と同時に反応してしまったが黒花さんが即座に指摘する。

というか僕の名前なんで知ってるの!?

 

「黒花さんのそれって1人で調べたんですか?」

 

「いや。協力者に頼んでな」

 

協力者……?まさかッ⁉︎

 

「それは、園子と銀?」

 

「ご名答だ。相変わらず元気いっぱいに動いてたぞ。おかげで勇者システムの対応も早かったしな」

 

動いていた。

それはあのベット生活から脱したと言っているに等しい。

僕たちと同じく代償が返ってきたんだ。

東郷さんをチラリと見ると胸を撫で下ろし、目元には涙を貯めていた。

 

「しかしこの短期間で良く会えたなぁ」

 

「あぁ。偶々大赦に乗り込んだら出会えたのさ。あのクソッタレな部屋に軟禁されてるのは目星がついてたから侵入は容易い」

 

「あの部屋に忍び込んだのですか?神官が厳重に管理していて入ることすら不可能のはずです…」

 

そう訊ねると、黒花さんはあっけからんと言い放った。

 

「あぁ。だからリハビリで外出した隙を狙って誘拐した」

 

「──は?」

 

今なんて??

園子と銀を誘拐した……?

 

「黒花さん。返答次第ではここで仕留めることになりますよ…?」

 

「心配するな。2人には一切危害を加えちゃいねぇ。ただ3人で話せる環境まで連れて行きたかっただけだ。それに事情を察してくれたから手短に終えられた」

 

「だったらそう言ってくださいよ!反抗期ですか貴方は!?」

 

「神樹への反抗期だ」

 

「屁理屈ッ!」

 

とにかく2人は無事でいいんだよね?

毎度毎度美穂さんのツッコミを聞いてるけどキレがいい。

これ何回も繰り返してるんだろなぁ……

 

「最初にも言ったがこれは神樹の夢だ。不審死で亡くなった奴らは現実じゃ、ちゃんと生きている」

 

「まさか樹海化後に自然災害が起きなかったのは、人災に特化したから…」

 

「さすが東郷だな。殺人は対人の事件、陥没事故は人の慢心が起こした過失。つまり樹海の被害が大きくなればなるほどそのツケを払うのは人間さ」

 

そこまで話すとどこからか出したペットボトルの水を一飲みし間を空ける。

既にシュークリームは無く、ただ黒花さんの話に聞き入っていた。

 

「ふぅ……。これまで話した人樹の原理だが、目的に関しては判明出来ていない。まぁ日常を生きてることに常に意味を見出しているやつはいないだろうからそれと同じ考えだとは思うが」

 

「襲撃はいつなんですか?」

 

「さぁな。今かもしれないし先かもしれん。だが…」

 

そこで言葉を止めた黒花さん。

これまで見せていた飄々とした表情ではなく決意のこもった真っ直ぐな目に思わず背筋が伸びる。

 

「これで全ての条件は整った。近いうちに最後の御役目がお前たちを襲うだろう。これまでとは違い肉体的、精神的に追い込まれるだろう。だが敢えて言おう『生きるのを諦めるな』」

 

「……」

 

それぞれ決意の籠った吐息を吐く中、僕、東郷さん、友奈は息を呑んだ。

 

『生きるのを諦めるな』 その一言は、僕にとっては何度も聞いたし放った大切な言葉。

それを改めて力強く言われ僕の中で強く響き渡る。

 

──銀。あの時、君が声をかけてくれなかったら……僕はそのまま死んでただろう……。今は園子と一緒にいるみたいだから……きっと大丈夫だ。それでも……もう一度、二人に会いたいな……。会って、改めて話をして、須美──じゃなかった、東郷さんとの事も報告して……。あの頃の思い出話に花を咲かせたいよ。

 

◆◇

 

日の傾きが早くなったのか辺りはオレンジ色の光に包まれている。

そんな中、私たちと黒花さんは帰路についていた。

とは言っても黒花さんの居るであろうビジネスホテルとは真逆の方向だけど。

 

「にしても平行世界か。絵空事と思っていたがまさか実在するとは」

 

「神樹って何でもありですね」

 

「そりゃ神様だからな」

 

「あの、黒花さん…伺いたいことがあるのですが…」

 

「仰仰しくするな、気持ち悪い。自然体で話せ」

 

黒花さんなりの優しさを出すものの、優樹君はやや圧倒されながらも口にする。

 

「それじゃあ……。何で僕の名前を知ってるんですか?病院で、僕は一言も名前を発していない。何か別の方法があるんじゃないですか」

 

「なんだそんな話か。美穂の端末をハッキングして位置情報を把握してたから直接見に行って確認した」

 

「はぁ!?私の端末見てたんですか!」

 

「当たり前だろ。じゃなきゃ死にかけの時に助けに行かねぇよ」

 

「あの槍、黒花さんが投げたのね…」

 

私を助けた時、誰かが殻を壊したと千景から聞いていた。

薄々黒花さんだろうなとは思ったけどまさかストーカー被害を受けていたとは。

これ、プライバシーの侵害で訴えても文句言われないんじゃない?

 

「にしてもお前も()()()って言うのか。漢字だとどうなる?」

 

「優しいに神樹様の樹です。両親は『神樹様のように優しい子に育って欲しい』と込めたようです」

 

「そうか。ならその名前大切にしろよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

クククと笑いながら言ってるけど、何かを誤魔化しているように聞こえる。

根拠はない。

ただ長年の勘で思っただけ。

 

「そういえば、お二人は神樹様と呼ばないんだね」

 

「あー…私たちは神樹の加護を脱却するために活動してるからさ。大赦からしたら完全に敵対組織ってやつ?」

 

「えっ。美穂さん、まさか神樹様を…」

 

優樹君の顔からさぁっと血の気が引いていく。

今の言い方だとそういう反応になるよね。

 

「違う違う!そんな力で倒そうなんて思ってないから!神とちゃんと袂を分けて、西暦の様に人が人の意思で生きれる時代を作るの」

 

「人が人の意思で…」

 

「うん。私たちは外の世界に怯える子供なの。でもいつまでも甘えてて言い訳じゃない。やがて来る独り立ちの日に泣くんじゃなくて、大手を振って出ていけるよう生きたいんだ」

 

『なら進むがいい。幾多の呪いを積み上げても尚希望があるのなら。君にはそれを行う権利と義務がある』

 

かつての宿敵であり、私を拾った奴から言われた言葉がよぎる。

1度決めた道を後悔しては、託された者たちの覚悟を成果を否定する。

だから私は奪った先も、奪われた先も、全部背負って前へ進むんだ。

 

「……美穂さんの生き方は眩しいね。僕には到底及ばな…むぐっ!?」

 

呟いた言葉を消すように私は優樹君の頬を両手で押し付ける。

 

「そんなこと言わないの。優樹君だって生きる理由があるんでしょ?それがどれだけ単純で、バカらしくても進まなきゃ」

 

「……」

 

「もし道に迷ったなら周りを頼って。止まることも大切だけど手を取り合うのも同じく大切」

 

頬から手を離し優樹君の手を握る。

男の子らしいゴツゴツとした手、筋トレの過程で出来たコブ。

どれも『守るために』鍛え上げられたものと感じ取れる。

 

「君の手はまだ汚れていない。だから困った人にたくさん手を差し出してね。傷つけることしか出来ない私にならないためにも……」

 

「美穂さん?」

 

「んーん。なんでも無いよ」

 

パッと手を離すと黒花さんと目線が合う。

暗闇が空を覆う中、紅の瞳は揺れること無く私を捉えていた。

 

「どうかしました?」

 

「いや、お前にしては一丁前のこと話すなって」

 

「にしてはって何ですか。優樹君ほどの恋心はありませんよ」

 

「ちょっ!?このタイミングで言う必要あるの!?」

 

「ん……? あぁ、東郷か。あのじゃじゃ馬を愛するのは骨が折れるぞ」

 

「なんで知ってるの!?」

 

「あれで隠したつもりか?あんなにラブを出されちゃ嫌でも分かる」

 

黒花さんはニヤケながら優樹君へ向け話す。

 

「よく覚えておけ、恋は心の病だ。相手のことを無意識に想い、少しずつ日常に溶け込む。そして好きを言っても足りなくなる中毒症状を出したら末期だ。そうなりゃ結婚するしか完治はねぇよ」

 

「け、結婚!?それはちょっと…」

 

「そうです!結婚よりも同棲を優先すべきですッ!!」

 

「うわ!杏がいきなり覚醒した!!」

 

「貴方が暴走してどうするのよ…」

 

こうして私たちは笑いながらそれぞれの家へ戻る。

明日も同じ日々が来ることを心のどこかで願いながら。

 

◆◇

 

「……結婚か」

 

あの後、僕たちは家に帰りいつもの日常を過ごした。

そろそろ寝ようかと思い、ベッドに入ると、先の黒花さんの言葉を思い出してしまった。

 

「とんでもない事言われちゃったな……。」

 

生憎、付き合ってまだ日が浅い上に僕と東郷さんはまだ14だ。結婚なんて言われてもまだ先のことだ……。

 

「でも……将来は多分、そうなるんだよね?」

 

この先、何が起きるかなんてわからない。考えたく無いけど、もしかしたら何らかの形で東郷さんの側に居ないかもしれない。だけど……確かに僕は誓ったんだ。

 

『東郷さんとこの日常を守る』って……。

 

どんな形であろうと……誓いを果たすんだ。

僕の身に何が起ころうとも……。




【次回予告】
僕はこの瞬間の全てを守りたい。
私は何気ない明日を守りたい。
たとえ終わりが来ようとこの想いは揺るがない。

次回 其の苦『厄災は内より訪れる』

『問おう。貴方たちの生きる意味は、なんですか』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。