安芸優樹は勇者である   作:三奈木イヴ

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立ち上がれ、勇者達よ!




キボウノヒカリ

吐き気と倦怠感に抗いながらオレは戦況を見ていた。

天翔る龍と原初の勇者に挑むは無垢な少年少女達。

押しているのか押されているのか分からないほど混沌を極めた戦いの中でも武器を強く振るい続ける。

まだ10年ちょっとしか生きていないのに心はそこら辺の大人よりもしっかりしてる。

 

「……っ!くっ……ぅぅ!」

 

オレは自分の身体が訴える不調を全て無視し立ち上がる。

痛いとか越えて全身が重く、一つ一つの行動が遅い。

 

「はぁ、はぁ……!まだまだだろうが…!!」

 

この身体は元から異物だったのに、他所の世界に入れられたら排除されるのは目に見えていた。

だからあの泥を飲み込み同化することによりその世界の住人と思わせた。

しかし神の降臨により泥が活性化し少しづつ肉体と精神が飲み込まれていく。

 

「ははっ…。食い潰すには潮時か」

 

掠れた声で笑うと前線へ一気に向かう。

着地するとオレを最初に見つけた伊予島が驚愕で目を開く。

 

「黒花さん!?来てはダメですよ!」

 

「なんだ?オレに出番奪われるのが嫌か」

 

「そうではなく!その身体じゃ…」

 

「気にすんな。ボロボロなのはいつもの事だ。このくらい日常茶飯事さ」

 

顔面真っ青で脂汗垂らしてるやつが言う台詞ではないが。

 

「それよりもお前らアレにダメージ入ってる感じあるか?」

 

「いえ…友奈ちゃん達もそれで苦戦してるんです」

 

気づいて近づいた東郷が焦りを浮かべながら答える。

 

「だろうな。あれは龍の化身だから真正面の攻撃は効かねぇよ」

 

「ならどうすれば…」

 

「なぁに簡単なことさ。『ここで神話を再現すればいい』」

 

「「え??」」

 

頭にはてなマークを浮かべた2人を他所にオレは検索をかけるよう内側へ意識を集中する。

奴が龍の形をするならそれに相応しい名で対抗する。

龍殺しの剣はあるがこの場に出すのは不可能。

故に────。

 

「生憎と酒は用意できないが魅力ならしてやるよ」

 

検索を終えたオレの背後に超巨大な渦が出現した。

全盛期の力など今のオレには欠片も無いが、ここが神樹の腹の中なら話は別だ。

奴の力を経由すれば短期間の召喚は可能。

悪夢を終わらせるためだ、悪く思うなよ。

 

「来い────」

 

渦の中から現れたのは天を貫かんとする三本の砲身とずんぐりとした発射台。

意志を持ったかのように砲身を縦に動かす姿は手を伸ばすよう。

 

「また眠りを妨げてしまったことを許して欲しい。この一撃だけ……どうか力を貸してくれ」

 

「う、そ──」

 

「三森さん?」

 

「有り得ない……。だって『大和』は既に!!」

 

「さすが東郷だな。こいつは神樹の記憶から引っ張り出したって考えればいい」

 

こんなデカいもん出せば、流石の龍もこいつに気づいたらしい。

雷鳴が大きくなり真っ先に倒すべき存在と認識された。

 

「テメェらが生きたかったのはよく分かる。何もしてないのに喰われて納得するやつなんていねぇ。でもな、それを理由に未来を潰すってのはあんまりだぜ?」

 

三本の砲身は龍を捉えたのかしっかりと固定される。

一際大きな雷が轟く中、それに匹敵するかのような轟音を砲台が放つ。

 

「「「ドン!!」」」

 

3発同時に放たれた砲弾は弧を描く軌道を描きながら襲いかかる。

いくら自然現象とはいえ音速を凌駕する物体を止める手は無い。

幾つもの雷を出し仕留めようとも弾は沈むことない。

砲弾は龍の身体に貫かんとする勢いで刺さり爆発する。

唸る声しか出さなかった龍が苦痛の雄叫びを放った。

 

「ク、クククッ……フハハハハハッ!!どうだ!人間まだまだやれるだろ!?ハハハハハ、グボッ…!?」

 

あまりの滑稽さに高笑いした挙句、吐き出してしまった。

オレの打てる最善は出せたし、有効打は与えた。

龍とヤマト。

日本神話で対峙した者同士が揃ったこの瞬間、逸話は現実となる。

あとは────。

 

「行けッ!奴に効果が出るのは今しか無い!死に物狂いで 乗り越えろ!!」

 

言葉と泥を吐きながらオレは骸骨の上に倒れる。

砲台の維持どころか立つ気力も無い。

大の字に倒れたからから見えるのは暗い天井だけ。

せっかく表舞台に出たのにこのザマとはな…。

 

『友奈ちゃんに手は出させない!』

 

『道はアタシが作る!!』

 

『このまま届けます!』

 

『邪魔を、するなぁぁぁ!!』

 

『勝機を逃しません!』

 

『タマが守るから友奈は走れ!』

 

『行きなさい!貴方ならきっと…!!』

 

声が聞こえる。

オレの空っぽの体を通して聞き覚えのある声が届く。

 

『私は!讃州中学!!結城友奈ッ!!!』

 

あらゆる音が重なり交わる中、ヒーローの叫びは誰よりもハッキリ聞こえる。

 

『今も!これからも!!勇者であり続けるんだああぁぁぁぁーーーーー!!!』

 

そうだ、それでいい。

異なる世界でもお前らは『勇者』なのだから。

オレは結末を信じゆっくりと目を閉じる。

戦いは終わった訳じゃないが役割は全うした。

少しくらい、休んでもいいよね……。

 

◆◇

 

龍が桃色の光に貫かれたその時。

僕と美穂さんは白い勇者を追い込んでいた。

大鎌で動かしたところを美穂さんの剣とビットで仕留める。

三次元的な攻撃をしても鞭で弾きながら攻防一体の動きで有効打を与えられていない。

 

「一筋縄じゃ無理か…!でも龍がいない今ならッ!!」

 

「そうとは限りません。はぁっ!」

 

鞭の動きが更に激しくかつ精密になる。

ビットを弾くのではなく絡め投げつけたり、同時攻撃をカウンターで相殺する。

武器がぶつかる度、泥が激しく飛び散る。

あの勇者と美穂さんの戦いは達人なんて言葉で言い表せないほど荒々しく僕の介入する余地が無くなってくる。

 

「2人とも強い…!でもッ!!」

 

大鎌を消し数秒間だけ強いイメージを込める。

2人に並べなくてもいい、この瞬間だから出来る僕の全力を出せる武器を!

────ズキリ。

僕の頭が感じたことの無い痛みを放つ。

頭蓋骨がすり潰されていくような重い痛みが何度も襲う。

 

「が、ぁぁぁ…!!」

 

視界がぶれあらゆるものが二重に見える。

経験したことの無い痛みに僕は困惑と恐怖でぐちゃぐちゃになり始めている。

僕は、一体何を生み出そうとしているんだ……!

 

「ゆ██く█!!」

 

「行█せ██ん!」

 

激痛という悲鳴をあげる脳が、2人の声にノイズをかける。

意識だけが飛ばされているかのように情景から離れていく。

このまま身を委ねて本当にいいんだろうか……。

 

『そんな訳無いだろ。()

 

「ぁ……」

 

痛みはあるのにその声だけははっきり聞こえる。

 

『まさか無意識にそれを選ぶとは。無茶にも程がある……とは言うが人のこと言えなのも事実か』

 

あなたは……。

 

『この泥は生への願いが歪んだものなんだろ。そんな願いを何度も祈ってればこのくらい造作もない。しかし、縁とはこうも交わるものなのか…』

 

縁……?それはどういう……。

 

『時間が無いから気にするな。君の出そうとしている武器は戦況を考えれば正解だが、練度が足りないし次元が違う代物だ』

 

だから痛むんだ。

この武器は僕に扱えないって分かっての警告……。

 

『そう。そして武器を振るえないと人樹を越えることは出来ない。だから、俺が依代になろう』

 

待って、一体何を……!!

 

『大いなる力には相応しい代償がある。精霊も、満開も、奉火祭も…。でもその対価は今の君が背負うべきものじゃない。君は君の思うままに生きていいんだ』

 

その世界にはあなただっていたはず!

なのに犠牲を選ぶなんて…そんなこと誰も望んでいない!!

 

『いいんだ。俺は大切なものを蔑ろにしたのに後から欲しがった弱虫だ。そんな俺でも支えられるものがあるならやらなきゃダメだろ?』

 

だとしても…って僕の身体が引き戻されている!?

 

『安心しろ。ここの1秒は現実より早い。彼女はまだ戦えてるけど手数が減っている』

 

美穂さんが!?なら助けないと!!

 

『だから行け。まともに生きられなかった俺の代わりに、君は生きるんだ』

 

浮かび上がる先には一等星のように輝く光が瞬いていた。

……分かった。

██、あなたの思い確かに受け取った!

頭痛が嘘のように消え思考がクリアになった。

 

「──満開」

 

無意識に出た言葉に合わせ、自分の中にあったイメージを強める。

光は僕のイメージに比例するよう輝きを増していく。

僕の作ろうとしている()は神が造くったものじゃない。

人が作る未来を切り、指し示す希望の光。

そう僕の選んだ武器。それは────

 

私は勇者との鍔迫り合いの途中にも関わらず手を止めていた。

優樹君が突然苦しみ出し、私が傷を負いながら1人で勇者を押しとどめていた中、起こった出来事に目を奪われた。

ここは陽の光もあたらないし土もない劣悪な環境。

その世界に桃色の花が骸骨を埋めつくさんとばかりに咲いた。

花の中心には黒と白の服が神々しく、日本神話の神様のような姿となった優樹君がいた。

手には私の持つものと同じ剣がしっかりと握られている。

 

「優樹君…。それって……」

 

「まさか再現したの…!?異世界の力を、その意味を、彼は読み取ったとでも言うの!!」

 

同じく手を止めた勇者が声を荒らげ問いかける。

それに対し優樹君はゆっくりと首を横に振り言葉を紡ぐ。

 

「違う。僕が理解したのはそんな難しいことじゃない。ただ握られた手を握り返しただけだ」

 

「……いやだなぁ。あの時のセリフ覚えてたの?」

 

「僕にとってあの光は希望そのもの。だから今度は僕が照らす番だよ」

 

「ッ!そうやって自分達だけ恵まれていると!!」

 

するとあちこちから泥が渦を巻きながら湧き上がり、勇者を取り囲むように1つの塊となる。

私が囚われた殻ならそこから出る時は新たな姿に変わっているに違いない。

現状アイツの声がしない以上ここで汚染され続けるのは得策じゃない。

 

『短期決戦だ。もう一度使用する』

 

『やはりこうなるのね。腹括ってて正解だったわ』

 

『前回はかなり抑えていましたから問題無いとは思いますが無茶はしないでください』

 

『杏よ。それは野暮と言うものだぞ。美穂にとって無茶は日常茶飯事だろ』

 

『よく分かってるじゃん。悪いけどみんなの命を貸してほしい』

 

固まった泥にヒビが入った途端、ガラスのように粉々に砕ける。

中から現れたのは装甲が増え、髪を総角(みずら)に束ねた勇者。

鞭は蛇腹剣に変化しており長さも数倍に伸びていた。

 

「本気ってことね。ならば、満開ッ!!」

 

私も負けじと満開を起動させる。

2度目とはいえ身体の変化は無さそう。

それに周囲の泥は満開と同時に吹き飛ばしたから足を絡め取られることは無い。

 

「美穂さん、待たせちゃってごめんね」

 

「んーん。むしろグッドタイミング。それじゃ…行くよ優樹君!」

 

「うん!!」

 

「来なさい!私たちを否定してまで得た未来の価値をッ!ここで示して!!」

 

刹那、3つの光が交錯する。

刃をぶつける度プリズムのような瞬きを乱反射させながら、空間を縦横無尽に駆ける。

優樹君もオーラを使いながら勇者に食らいつく。

 

「「「うおおおおおおおッッッッッーーーーーー!!!!」」」

 

全てが同等となったこの状況で勝つ方法はただ1つ。

信念を貫き通す、ただそれだけッ!

 

◆◇

 

彼女は強い。

僕たちが満開を発動しているのにも関わらず攻撃が届く予感がしない。

それは彼女も同じ状況であり、均衡となった状況で時間だけが消えていた。

でもこのまま戦い続ければ神樹にも影響が広がることを考えれば彼女の方が一枚上手。

それに情けないことに僕の腕は満開で強化されたにも関わらず痺れを感じていた。

この程度でへこたれるな安芸優樹ッ!!

 

『優樹君ッ!!』

 

熱の篭った頭に友奈の声が聞こえた。

 

『負けるんじゃないわよ!』

 

『掴んでください!優樹さんの明日を!!』

 

『そんな呪いぶっ飛ばしちゃえ!!』

 

皆からの応援が腕に溜まった痺れを溶かす。

 

『なせば大抵ッ…!』

 

「何とかッ!なァるッッッ!!!」

 

心臓がカッと熱くなると勇者服からオーラが溢れ出る。

蛇腹に力任せに剣を叩きつけると、ギリギリと擦れる音と摩擦による火花が散る。

自分で言うのも変だけど僕はただの筋肉バカだ。

だから合わせるんじゃなくて僕らしくこの力を振るう!

 

「逃がすかぁぁぁぁぁ!!」

 

腕に力を注ぎ勢いを殺すのではなく更に上乗せする。

すると圧倒され押し負けた勇者が地面へ吹き飛ばされる。

身体はまたたきの間に地面に叩きつけられ、衝撃で粉々になった骸骨と花の破片が飛び散る。

反動でなのか立ち上がる素振りも見えない。

 

「ここしかない!!」

 

美穂さんは好機と捉えたのか、即座に剣に光の粒を束ねていく。

粒は僕たちが落下してきた穴から降り注いでいてまるで粉雪のよう。

僕の剣とオーラもも吸い寄せられるかのように光の剣の一部となる。

 

「行こうッ!」

 

「…!うん!」

 

大きくなった剣の手元を重なるように持つ。

あの時感じた温もりが手を通じ全身を伝うのと同時に美穂さんの声が響く。

 

『私たちの応えを彼女に届けよう』

 

「……そうだね。僕たちはそのために来たんだから」

 

完成した剣先を勇者に向け、流星の如く降下する。

衝突する刹那に見えたのは安堵の表情を浮かべた年相応の微笑みだった。

 

◆◇

 

放出されたエネルギーによって世界は真っ白になった。

視界が眩んだけかもしれないけど、あんな光速で落ちたのに衝撃を腕から感じない。

その代わり暖かい風と土の香りが私の鼻をくすぐる。

霧が晴れたように視界がはっきりする。

骸で埋められた地面は耕された土に変わっていた。

顔を上げると周りには高くそびえ立た木々が生え、その中心に破壊された建物がある。

残留物から察するに大きな社があったのだろう。

背後から勇者部の皆の声がするから一緒に転移されたのは確実。

 

「えっ、ここは……」

 

「……私の記憶には無い景色だけど貴方が関わっているのは間違いないよね」

 

「えぇ。これは人樹ではなく私の心象風景。今の私では戻ってこれるとは思いませんでしたけど…」

 

チラリと勇者は視線を横にずらす。

そこには元に戻った私の剣が突き刺さっていた。

 

「なんで倒さないのですか?私は人類の敵。倒さなければまた同じ被害が現実でも起きますよ」

 

「だろうね。でもここで貴方を倒したところで解決にはならないと思ってね」

 

「??」

 

「あそこに溜まっていたのは亡くなった人達の生への怨念。その全てを消すなんて僕たちには出来ない。けど忘れられた思いを受け止めることは今の僕たちには出来る」

 

変身を解除し私と優樹君は勇者に手を差し伸べる。

 

「僕たちはその全てを背負って生きる。勇者だからじゃなくて、この世界に生きる人間として皆さんから渡された()()()を未来へ託すためにも」

 

「……。なんだ、ちゃんと託せていたのね」

 

それぞれの手を取り勇者は立ち上がる。

武器を出さないことから戦意は無いのだろう。

 

「人の意志は情報として世界へ広まるけど時の流れには勝てず消えてしまう。でも1度芽吹いたものは決して消えない。どれだけ時間がかかってもまた咲くのだから」

 

すると、勇者の身体からパラパラと白い部分が砕け落ちていく。

中からは血行の良い肌色にやや茶色の髪、そして強い意志を持ちながらも穏やかな瞳が現れた。

 

「んー!やっと解放された!ナーバスな気持ちになるのは懲り懲りだわ」

 

先程までの雰囲気とは真逆の反応に私たちは思わず面食らった。

 

「安心して。これが本来の私だから。全く、変な役割背負わさないで欲しいわ」

 

「えっと…貴方は…?」

 

「私は████。██の勇者よ」

 

「え…?なんて…?」

 

「██……。あれ、聞こえない?」

 

「名前と場所のところ以外は聞こえてます」

 

どうやら神樹がプロテクトをかけているらしい。

結果は決まっているのに無駄な念押しだこと。

 

「そう…。まっ、聞こえないのは仕方ないことだし!それにしても2人とも強いわね」

 

「そんなことないよ。上には上がいるしまだまだだよ」

 

「美穂さんがそれ言うと僕の立ち位置が……」

 

「ノープロブレム。貴方も充分強いです。これは力の善し悪しではなく意志の強さですから」

 

「……!はいっ!!」

 

「これ以上私が話すと色々問題が起こりそうだけど…最後にクエスチョンいいかしら?」

 

私と優樹君が頷くと意を決したように勇者が問いかける。

 

「この中で蕎麦が大好きな人はいますか!!」

 

……蕎麦? 蕎麦ってあの……?

 

「最後に聞くのってそれ!?」

 

「ここうどん県ですけど…」

 

「蕎麦も食べるけどうどんには適わないかな」

 

口々にコメントをするうどん派。

完全にアウェーな状況なのを理解していたのか段々としょげていく。

だからこそ。

 

「ん、私は好きだよ。うどんののどごしも捨てたがたいけど何より気品のある香り。あれは蕎麦の強みだと思うよ」

 

「──え」

 

笑いを堪えながら横たわる黒花さん以外の表情が固まる。

 

「美穂さん、今、なんて?」

 

「蕎麦が好き。そう言ったけど」

 

別に捻くれて言ってるわけじゃない。

どちらを食べるかと言われたら蕎麦を選ぶだけの話。

 

「あ、あああアメイジングッ!!信じられない!こんな所に蕎麦が芽吹いていたなんて…!」

 

勇者は跳ね回って全身で歓喜を現している。

そんな嬉しいことかな?

 

「見なさい██さん!私は間違っていなかったわ!!未来の勇者さん!これからも蕎麦のことよろしくお願いしま────。」

 

腕を私の前に出しブンブンと振っていたが突如ピタリとやめた。

恐らく握手をしたかったのだろうけど、勇者の手は薄く透けており私の手を掴んでいなかった。

 

「時間なのですね…。せっかく蕎麦好きに出会えたのに、名残惜しいです」

 

徐々に透けが強まり、背後の景色が見え始める。

すると地面から白い胞子が生まれふわふわと飛んでいく。

まるでたんぽぽの種が一斉に飛び立つかのよう。

 

「何れ貴方達に幾つもの苦難に当たるでしょう。でも犠牲を出すのが最善ではありません。生きたいと強く願えばそれは力となり道を作るでしょう。……なんか説教臭くてごめんなさい」

 

照れくさそうに笑う彼女を僕たちは微笑みながら応える。

 

「いえ。僕たちの未来を案じてくれてありがとうございます。皆さんの残した思いを無駄にしないためにこれからも生きていきます」

 

「どんな絶望にも希望はある。その刹那を掴むため最後まで足掻く。それが人間の意地汚くも素晴らしい精神なんだから」

 

「……なるほど。その気持ちがあるなら大丈夫そうですね。どうか貴方達に胸を張って生きられる明日があるのを祈っています。グッドラック、ですッ!!」

 

そう言って、勇者は親指を立てた。刹那、一際強い風が吹き、思わず髪を抑えながら目を細めた。

勇者は最後まで満開に咲く花のような笑みを浮かべたまま風に乗って消えた。

吹き抜けた先には澄み渡る青い空。そして胞子達が溶けるかのように、そして私たちを見守るように飛び消えていった。




【次回予告】
だから私は託すことにしたんだ
ありがとう。ずっと大切にするよ
未来に向けたアドバイスをやろう
行ってきます!!

最終話 友に別れを、明日に希望を

本日6月5日は、薫製さんちの高木美穂ちゃんのお誕生日です!おめでとうございます!
そして、美穂ちゃんのお誕生日記念も兼ねまして、本日0700に最終話を同時投稿しました!おまけのアフタートークもあります!
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