そして、安芸優樹は勇者である ■の章 生者の章は最終話となります。
あとがきでコラボしてくださった薫製氏と私のコメントがありますので、是非読んでくださると嬉しいです。
最後に次章の予告もありますのでそこまでよろしくお願いします。
追伸:本日アフタートークも投稿しました。よければそちらもよろしくお願いします。
「……終わった、のかな」
ぼぅと空を眺めていた僕はふと口にした。
「あぁ。これで御役目は終わりだ。色々とご苦労様だったな」
よろよろと身体を起こしながら答える黒花さん。
吐き気も治まったのかスッキリとした表情だ。
「アタシたちはどうやって帰るんですか?」
「ここは神樹の夢の中だから目覚めりゃ元通り。その代わりお前たちが出会ったあの日へ逆戻りだけどな」
「時を遡るってこと?」
「違うな。この身体は精神体。だから肉体へ魂が戻るだけさ」
「えっ、ていうことは……私達死んじゃったの!?」
「なんですって!一体どこの不届き者が優樹君と友奈ちゃんを殺めたの!!」
「どちらかと言えば幽体離脱のような…」
「────ねぇ、黒花さん。夢ってことはこれまでの出来事は無かったことになるんだよね」
美穂さんは未だ空を眺めながら問いかける。
長い金髪がそよ風に揺れる姿は美しさもある。
「あぁ。全てが無くなる」
「例外は」
「神樹がやるんだ。綺麗さっぱりさ」
「……。やっぱ神樹って理不尽の神だよ」
「美穂さん……?」
こちらを向く美穂さんは頭をかきながら大きくため息をこぼす。
「私は優樹君の世界を救った。でも、手を取り合うのは神樹から見れば行き過ぎた行為。だから私達はこの世界から誰の記憶・記録にも残らず消える。それが好き勝手やった後始末なんだろうね」
「………ぇ?」
淡々と話す美穂さんに呆気にとられた。
美穂さん自身が消えるのは分かる。
こことは違う世界に戻るのだから何れ別れる日が来るのは理解していたし覚悟もしていた。
でも記憶も消えるなんて……そんなの理不尽すぎる…!
美穂さんは僕の世界の問題に巻き込まれた被害者。
勝手に呼ばれて報酬も無く戻されるなんてあまりにも……!
「何か……何か記憶を残す手段があるはずだよ!こんなの……こんなのって酷いよ!」
「優樹君……」
「誰の記憶からも無くなるなんて辛すぎる……。僕はもう二度と……
僕や東郷さんは先代勇者として過ごした日々が散華で消えたからこそ、忘れてしまう辛さは痛いほど理解してる。
同時に僕の慟哭は虚しく響くだけなのも……。
「優樹君」
荒れた息を整えるため大きく揺らす肩に優しく手が添えられる。
「私のために怒ってくれてありがとう。でも大丈夫だよ」
「大丈夫って……。美穂さんは僕たちの記憶から消えていいの!?」
「そりゃ辛いよ。存在が無いってのは死んでるも等しいから」
「ならどうしてッ!!」
「あのね」
美穂さんはそう言うと僕の手を包むように握る。
その手はとても温かく、怒りすら溶けるかのよう。
「一から百を作るのは簡単だけど、百を零にするのってとっても難しいんだ。消したつもりでも、小さな破片としてどこかに残り続ける。それが目に見えない縁という形ならもっと強く残る。だから私は託すことにしたんだ」
「……!」
手を開くとそこには小さな御守りが置かれていた。
黒の下地に白く『御守』と書かれており、サイズも手のひらに収まるほどで可愛らしさがある。
「これは……?」
「見ての通りお守りだよ。しかも高木美穂お手製で世界に一つしか存在しない超レア物!」
「僕のために、作ったの…?」
「もちろん。こういうのを予見してた、なんて言っても信じないだろうけどさ。何かの拍子に思い出してくれればこれを作った意味もあるだろうし」
御守りを強く握ると胸の内がほんのり温かく感じる。
その温かみは僕を救ってくれた光を浴びた時と似ていた。
「ありがとう。ずっと大切にするよ」
「それは良かった。記憶に残る物を作れたってのは最高の褒め言葉なんだよ〜」
そう言ってはにかんだ美穂さんは、僕を思いっきし抱きしめてきた。
色々当たってドキッとしたけどそれ以上にこの瞬間を忘れないことを意識していた。
「………。」
「今だけは耐えなさい。部長命令よ」
「……分かっています。良妻として落ち着かないといけませんから」
「東郷さん、優樹君と結婚したの!?」
「そんな訳ないでしょ。段階すっ飛ばしすぎなだけ」
「本気で言ってそうなのが流石としか…」
「ハハッ。相変わらずぶっ飛んだ思考だな。あ、壁壊したくらいだから普通か」
「「ラインアウト!!」」
これでお別れなのに皆冗談を交え笑いあっている。
"またね"
ふと、永遠に別れる覚悟を決めたあの日を思い出した。
状況的に今の僕は須美で、美穂さんが幼かった時の僕なんだろうけど同じだ。
記憶が無くなるのにまた会えるって思えてる。
それに不思議な気持ちを僕の心は受け止めている。
「さてと、そろそろ時間かな」
視線を戻すと背後に見えていた景色が消え真っ白な空間になっていた。
そして美穂さんと黒花さんの身体も濃い霧の中にいるみたいに薄くなり、目を凝らさないと背景と同化しそうだ。
「黒花さん。最後に皆へ何か言わなくていいんですか?」
「あ?別にいいだろ。数時間程しか話していないやつのことで記憶使うのは無駄さ」
「そんな事ないです。影から僕たちを助けてくれた恩は忘れられません」
僕の言葉を聞いた黒花さんは肩を竦めながらため息を軽くこぼす。
呆れたような感じだけど、口元が少し緩んでいるようにも見えた。
「そうかい。なら1つ未来に向けたアドバイスをやろう。
背中を向けヒラヒラと手を振りながら黒花さんの身体は霧散した。
それにしても……最後の最後まで不思議な人だった…。
「全く、訳分からないこと言って……。それじゃお互い頑張って生きようね!もしここで終わりそう、負けてしまいそうってなったら祈って。どんな壁だろうとぶっ壊して助けに行くから!」
「……うん!僕も美穂さんが危なくなったらすぐに行くよ!例え神樹様が認めなくても助ける!!」
美穂さんが掲げた拳に僕も拳で答え軽く合わせる。
触れることは出来なかったけどしっかりと想いは伝えられた。
途端、樹海化が解ける時と同じように一斉に花びらが舞い散る。
何かも白くなった世界で僕の耳に明るく力強い声がしっかりと聞こえた。
『行ってきます!!』
◆◇◆◇◆◇
ふと、僕は目を覚ます。
視界に入るのは見慣れた僕の部屋の天井。
視線をズラし時計を見るといつもよりやや早く起きたらしい。
「………起きるか」
いつも通り顔を洗い父さんと母さんの仏壇に手を合わせ朝食を作る。
なんて事のない、いつものルーティン。
それなのに家がどこか寂しい印象を持つ。
気を紛らわせるためにテレビを付けても何か違う。
「………あれ。何で2人分作ったんだろ…」
姉さんはとっくに居ないのに……。
◆◇
「優樹君、おはよう」
「おはよう!優樹君!!」
玄関を出ると制服姿の東郷さんと友奈がいた。
今日は休日だけど勇者部で臨時の打ち合わせがある。
それに合わせ3人で行こうと昨晩話をしていた。
「2人ともおはよう。待たせちゃった?」
「大丈夫。来てからそれほど経ってないわ」
「ありがとう。それじゃ行こう」
こうして3人で登校するのは始めての試み。
友奈が楽しそうに話すのを見ていると、まるで僕に娘が出来たような……って、何考えてるんだか……。
「その御守り可愛いね。どこで買ったの?」
「これ?んー……。どこだったかなぁ…」
僕の鞄についている御守りについて心当たりは無い。
でも、
「それにしても2人とも仲良くなって良かった〜。心配したんだよ?」
「それって東郷さんと僕のこと?」
「うん。何で喧嘩したのか忘れちゃったけど凄い塞ぎ込んでいたから」
「それほどの喧嘩したかしら?」
「僕も記憶に無い…」
「あれっ!?間違えちゃった?2人ともごめんね」
急いで頭を下げる友奈に東郷さんと僕は慌てて庇う。
「いいのよ友奈ちゃん。誰にでも間違いはあるわ」
「きっと依頼の話と混ざっちゃったんだよ」
「そうよ。昨日、優樹君は夏凜ちゃんと屋上で特訓してたのだから」
「え?昨日してないしやるのは砂浜だよ?」
「「「ーーーーーーえ???」」」
◆◇
疑問を胸に部室にいくと風先輩と夏凜が何やら揉めていた。
「だーかーら!これ食べたことあるわよ!」
「無いって言ってるでしょ!」
「何か凄いことになってるね…。樹ちゃん大丈夫?」
「私は大丈夫です…」
「何で喧嘩してるの?」
樹ちゃんが指す先にあったのは皿の上に乗せられたシュークリームだった。
「ちょうどいいところに来た!あんた達これ食べたことあるわよね!」
そう言って、風先輩がシュークリームを指差した。……これってあそこの……?
「これは駅前にできたシュークリーム屋さんのですね。私は食べたことないですけど」
「僕ありますよ。カスタードクリームが濃厚で美味しいですよね」
「そうよね!ほら買ってきて正解じゃない!!」
「だから論点が違うって言ってるでしょ。私が言いたいのは
「ここでは食べたことはありませんよ。でも美味しそうだからいただきます!」
……変だ。
さっきから会話が噛み合わない。
実際シュークリームを部室で食べたことも、夏凜と屋上で特訓したことも、東郷さんと喧嘩したことも僕の記憶には無い。
でも言われるとそんな気もすると思ってしまう。
この違和感は一体……。
「優樹君もシュークリーム食べましょ?」
「あ、うん。そうだね」
僕は未だ言い合う風先輩に申し訳程度にお辞儀をして頬張る。
滑らかな舌触りとシューの少し焦げた風味が僕の口の中を包む。
一口食べただけで頬がとけ落ちるくらい甘くて美味しい。
なのに……。
目元が熱くなるくらいの塩っぱさもあった。
◆◇
いかがだったかな?
勇者達による奇跡の共演、楽しんでくれたか。
この出来事は実際に安芸優樹の世界で起こった紛れもない事実だ。
だが神様の我儘によりこの物語はIFに塗り替えられてしまった。
さて、これを聞くアンタはこう思うだろう。
『何で貴方は記憶を持っている』ってな。
なぁに、元から
オレは本来の枠組みから意図して外れた捻くれ者。
代償は高くついたが俯瞰して見るものいいものだ。
ただし、何でもしていいって訳じゃないのが神様と付き合う時の面倒なところ。
かと言ってあの出来事を白紙にするのもアイツらの想いを汲み取れん。
だからオレの見てきた光景をこのボイスレコーダーに残した。
まぁ信じるか信じないかはこれを聞く誰かさんに託すけどな。
あとがきはつらつら書きたくなるものだが、そろそろ幕引きにさせてもらう。
美穂と優樹、それぞれの生きる明日がなんて事ない日々になるのを心から祈る。
生者の章は当話を持って完結となります。
本当に、本当にありがとうございました。
コラボしてくださった薫製氏からのコメントです。お納めください。
↓
最後まで読破していただいた皆さん初めまして。
『生者に夢を、死者に花束を』作者の薫製です。
私自身も初コラボということでどこまで広げてよいか、どこまで壊していいのか悩みながら書き上げました。
本作はパラレル時空として本編に干渉しない前提でありながら、ほんの少し先を予見させる内容を入れてあります。
色々裏話を話したいところですが、これ以上言うとネタバレを踏みそうなのでここで終わらせていただきます。
イヴさん、あとは頼みます。(無為転変)
いつも安芸優樹を読んでくださってありがとうございます。
ここからは私、三奈木イヴのコメントです。
薫製氏、今回はコラボしてくださり本当にありがとうございました。私、三奈木もコラボ作品という初の試みで、基本的なストーリーは薫製氏で私は添削や加筆という形で参加させていただきましたが、物語を紡ぐ方が違うだけで自分には見えない視点での物語や表現があり、私自身とても勉強になりました。私は戦闘描写を苦手としているので、薫製氏の紡がれる戦闘シーンはあまり力になれませんでしたが、私が得意とする恋愛描写につきましては、自分のやりたかった甘々が紡ぐことが出来たのではないかと思っております。
……これはもしもの話になりますが、当初のプロット通りに銀ルートだった場合、銀園からの手紙はありませんでしたし、「愛の誓い」での東郷さんに誓いをするシーンでは、銀がどうなっていたのか私も予想が出来ませんでした。さて、私のコメントはここまでにしておいて、次章の予告です。
【次章予告】
姉に託された2冊の書籍
そこに描かれていた300年前の出来事とは
歴史から名前を消した少年、郡景義の物語が幕を開ける。
【安芸優樹は勇者である 第二章 郡景義は勇者でない】
神の気まぐれで見えるようになってしまった少年は、勇者になりたいと願う愚か者となった。