追伸:当話は鷲尾須美は勇者であるを読んでいる前提となる部分があります。ネタバレにご注意ください。
side風
「……」
差出人:犬吠埼風
宛先:大赦
件名:定時報告
犬吠埼班報告 勇者候補の結城友奈、東郷美森そして安芸優樹との接触及び囲い込みに成功しました。しかし、男子である安芸が勇者候補というのはあり得る事なのでしょうか?
「はぁ……。」
大赦への定時報告を済ませ、アタシはため息をついた。
「勇者……ねぇ……。」
あの日──両親が死んだと伝えられたあの日、アタシは大赦から任務を命ぜられた。
──勇者候補に接触するようにと
他にもいくつか候補の子達は居るらしい。その中でアタシは犬吠埼班として結城、東郷、安芸そしてアタシに残された唯一の家族であり、最愛である妹の樹が候補になると教えられた。 樹が勇者になると聞いた時は、正直信じられなかった。いや……まだ勇者に選ばれたわけじゃない。もしかしたら、選ばれずにそのまま勇者部として活動していくのかもしれない。だから……その時までこの事は伏せておこう…。
「……買い物行って帰ろう!」
今はまだ、この平和な時を楽しむ事にしよう。
勇者に選ばれない事を祈りながら──
* * *
side???
「……」
差出人:犬吠埼風
宛先:大赦
件名:定時報告
「……」
差出人:大赦
宛先:犬吠埼風
件名:Re:定時報告
報告確認しました。今後も、そのまま活動に励むように。最後の件については、こちらでも調査中です。
「……」
なぜ、年端もいかないあの子達が、こんな辛い思いをしなければいけない……。こんな事は、もう…何度も何度も考えた。これが人類の為……世界の為なのか……
「……行かなければ」
私は仮面を付け直し、目的の場所へ向かった。
* * *
side 園■&■
「ねぇねぇミノさんや」
「なんだいソノさんや」
「もしも私たちが元気だったら、今頃は中学生なんだよね」
「園■……」
アタシ達が元気なら……か。
「■っしーもあっ■ーも中学生になったんだよね」
「そうだなぁ…。」
「また……二人に会えるよね」
「ああ。アタシ達はこんな事になっちゃったけどな──」
「ミノさんはさ、後悔してる?」
「■■の事?それなら……後悔してないって言ったら嘘になるかな…」
「もしも大赦が、アタシ達に■■の事を言ってくれたなら、覚悟決めて戦ったと思う」
「けど……怖くて最後の一歩を踏み出せなかったかもな」
「そんな事ないよ、ミノさんならきっと戦ってたよ…。だって、ミノさんは強いから」
「いや、買い被りすぎだよ園■。そうだな……アタシじゃなくて、■■だったらなんの躊躇もなくやりそうだけどな」
今は会えない親友であり相棒の顔を思い浮かべてアタシは呟いた。
「ミノさん……」
「■子も須■も…それから■樹も…みんな……さ、勇者だったよ。」
「だからアタシは、もう後悔なんてしないよ。だって、後悔したらさ、■子やみんなとの思い出まで嘘になっちゃう気がするからさ……。」
「うん……うん……。ねぇ、ミノさん……」
「なんだ?」
「抱きしめてもらっても良い…?」
「ああ…。」
アタシは残った右腕と左足を器用に使い、■子のベッドへなんとか這い寄り、園子を抱きしめてみせた。
「ミノさん……」
「ああ……」
しばらくこうしていよう……。時間なんて忘れて……。このまま……。
* * *
side優樹
「フゥ……相変わらず、凄い傷だなぁ…僕」
今日のメニューを終え、お風呂に入りながら考えるのは、自分の体にある無数の傷
腕や足どころか、胸や腹にも大きな傷跡が残っている。
「こんなに残るくらいの事故って……一体……」
僕が目を覚ました日──僕が事故に遭って記憶の一部が欠如して、今も戻らない程の大怪我
かなりの重症だったようで、今もこの傷跡が残ってるらしいが……。
「でも、この傷を見てると、何か忘れちゃいけないものがあった気がするんだよな」
この怪我に関わってるのはなんなのか……。いつか思い出せるのだろうか……。
失くした記憶を思い出そうとするが、靄がかかったようになって思い出せない。
でも……
「……今は考えても仕方ないか…。とにかく鍛えまくるだけだ」
筋トレに終わりはないんだ。だから……僕はどこまでも行けるんだ どこまでも……
「そろそろ上がろうか」
* * *
「優樹……」
私は……最愛の弟の名前を呼んだ。記憶を失っても、私の事を姉さんと呼んでくれる最後の家族──優樹を……。
本来ならば、元勇者が神官と暮らすなど、あり得ないことだ。何もしなければ、今頃優樹は一人暮らしだった。しかし、私は優樹に私以外の家族が居ないこと、記憶を失くしている事を理由に、大赦を説得した。幸いにも私は、先代勇者のお目付け役だった事もあり、ある程度上の地位にいる。それ故に優樹と暮らすことが出来ている。でも……
「優樹……ごめんなさい」
私は、この子に合わせる顔が無い……。私は代償の事を伝えなかった。家族に嘘をついた。私は罪悪感に潰されそうだった。優樹が記憶を取り戻したら……その時はきっと、私を恨むだろう……でも、それで良い。あの子達にも恨まれても良い……。それが私の贖罪だ……。
神樹様……どうか優樹達をお救いください……
* * *
side 勇者部
「さて、勇者部諸君 今日はよく集まってくれた」
「はい!結城友奈現着!」
「同じく東郷美森」
「同じく安芸優樹」
犬吠埼先輩の一言で、今日の勇者部の活動が始まった
「では、東郷 例のものは?」
「はい!東郷美森、身命を賭して任務を完遂しました!」
身命を賭してって……意気込みが凄いな
「いやぁ助かったわ東郷、じゃあ、そのサイトを改めても?」
「はっ!こちらになります!」
そうして東郷さんのノートPCから勇者部のホームページが表示された
なになに……?
『讃州中学勇者部 あなたのお困りごとを解決します
依頼はこちらから』
要約すると大体こんな感じだった
依頼といっても、現状は何をするのかは予想がつかないな。でも、ボランティア活動ってことみたいだし、海岸のゴミ拾いとかそんな感じになるのかな?あ、校内もやるなら、部活の助っ人とかもあるのかな?
「ほう……東郷がホームページ制作が出来る子で本当に良かったよ……」
「えっと…もし、犬吠埼先輩がやる事になったらどうしてたんですか?」
僕は質問した
「ん?そんときゃそん時よ」
「えぇ……」
結構大雑把だなこの部長……
「風先輩、ならば今日の活動はどうしますか?」
「うーん、そうね……初の依頼に向けてビラでも作りますか」
「良いですね!そうすれば、勇者部も本格的に活動できますね!」
今日の活動は勇者部活動報告になった。まぁ、要するにチラシ作りだ
宣伝は大事だよね うん。
「じゃあ、私は職員室でコピーしてくるわ」
そう言い残し、犬吠埼先輩が部室から出ていった。
「ねぇ、優樹君?」
「どしたの友奈」
「優樹君って筋トレが趣味なんだよね?」
「そうだよ!もしかして友奈も筋トレ目覚めた?」
だとしたら僕はとても嬉しい!だって、筋トレ仲間が増えるんだから!
そうだったら……一緒にどこまでも追い込めるね…!
「ううん、違うよ」
「そう……」
気が早かったようだ。でも僕は信じてるよ……いつか勇者部から筋トレに目覚める人が現れる日を……
「あっ…!えっとね!優樹君に聞きたいことがあって!」
「聞きたいこと?」
「うん、ほら優樹君って筋トレが趣味だって言うくらいだから、どんなことしてるのかなって」
「私も気になるわ そういえば、いつ頃から始めたの?」
「そうだねぇ…僕が筋トレを始めたのは、大体半年くらい前かな」
「結構最近だね」
「きっかけとか聞いてもいいかしら?」
きっかけか……事故の事も話す事になるけど……まぁいいか
「僕が筋トレをするようになったのはね、事故のリハビリの一環だったんだ」
「え?」
「安芸君、それはどういう……」
やっぱりこういう反応になるか……。まあ、無理もないか。犬吠埼先輩居ないけど仕方ないか
「驚かせてごめんね。実は僕、その事故で記憶が一部無いらしいんだ。姉さんからはそう聞いてる」
「優樹君、お姉さん居るんだ」
「そうなんだ。仕事で忙しくて会えないけど、とっても優しい姉さんだよ」
「あの……安芸君」
「ああ、ごめん。脱線しちゃったね。まあ、記憶が無いのは、ほんの少しだけだから姉さんの事とかは覚えてるし。それで筋トレなんだけど、リハビリの一環で腕立てとかを始めたんだけど、姉さんに褒められてさ」
「それをきっかけに僕は、筋肉になったんだ」
あの時、姉さんの一言が無かったら、僕は生きがいというものがわからなくなったかもしれない。だから、それを与えてくれた姉さんには感謝しかないんだ。ありがとう姉さん
「優樹君……辛い事を話させちゃってごめんね」
友奈が泣きそうな顔で謝った。辛いか…。そこまでは考えてなかったから、これは僕のワードセンスがなかったな
「いや、僕こそごめん。友奈にそんな顔させちゃって……」
「ねぇ……安芸君」
「東郷さん?」
「実は……私も去年、事故に遭って記憶を失ってるの」
「は?」
「東郷さん……も?」
その一言は、僕と友奈を戦慄させた
過去編はどこまでやるのだろうか……。5話まで投稿出来たら、pixivにも投稿するかもです