安芸優樹は勇者である   作:三奈木イヴ

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次回ではありますが、やっとのわゆ本編に突入出来る……。次回は仕事の都合で更新遅れます。ご了承ください


優しさと激しさと

────雨が降っている

 

その勢いは激しく、ザーッという雨音が辺りに響き渡っていた。

 

そこには、立ち尽くす男が一人いた。

 

男は何かを叫んでいるようだった。

 

その叫びは、まるで慟哭のようだった。

 

◆◇

 

「ケホッ……ケホッ……」

 

朝から咳が出て喉が痛い……。もしやと思い、体温計で熱を測ると37度を超えていた。どうやら私は風邪を引いてしまったらしい。

 

「……どうしよう」

 

こんな状態で授業や訓練に出るわけにはいかない……。高嶋さんや景義に迷惑がかかってしまう……。

 

「……景義」

 

私は大社に支給されて端末で弟に連絡を取った。

 

◆◇

 

「……さっむ」

 

意識が覚醒すると同時に感じる部屋の肌寒さに俺は顔を顰めた。

季節は冬──あの襲撃が起こってから初めての冬だ。

 

「──風邪を引いた!?」

 

姉ちゃんが風邪を引いたらしい。

 

「……うん」

 

そう答えた姉の姿は、とても辛そうだった。

村にいた時は風邪を引いた姿は見覚えがなかった。

いや……そうなったとしても隠してたんだろうな……。あの頃は頼れる人なんて居なかったから。

 

「そっか……。とりあえず鷲尾先生には伝えておくよ。後でお見舞い行くから暖かくして寝てるんだよ」

 

「……うん」

 

今日は普通に授業がある日だ。ほっぽり出して姉ちゃんの看病に充てたいが、そんな事をすれば多分姉ちゃんに怒られるだろう。だが……心配だ。

 

◆◇

 

「おや、郡君じゃないか」

 

「おっさん……」

 

今日はどうしても寝込んでいる姉ちゃんが気になり授業に集中できなかったが、それは仕方ない。後で挽回する。

そして訓練も今日は休ませてもらったのだが……怪物(弥勒のオッサン)に遭遇してしまった。

 

「何か失礼な事考えてませんか?」

 

「いえ何も!」

 

心読めるんかこの人は……!?

 

「まぁ、良いでしょう。鷲尾先生から話は伺ってますしね」

 

「すみません」

 

俺がせめてもの謝罪をすると、弥勒のオッサンは驚いた顔をした。

 

「何を謝るんですか?大切な家族が寝込んでるのでしょう?それは仕方ありませんよ。側に居てあげなさい」

 

「オッサン……グェッ……!」

 

オッサンの両手が俺の頭を掴みそのまま締め上げた

 

「君ねぇ……私のことオッサンオッサンって言ってますけどね……私はギリ20代ですからね……⁉︎」

 

「は、はい……!いてててて!!わかりました弥勒先生!」

 

「よろしい。では、いってらっしゃい」

 

弥勒先生が手を離した瞬間、俺は後ろへ飛び退いた。

そして『いってらっしゃい』という言葉と共に、寮へ駆け出した。

 

◆◇

 

『姉ちゃんをいじめるな!』

 

ああ……これは夢だ……。それも村に居た頃の私たち……。

 

目の前に広がる光景は──景義が私を助けてくれた時のことだ……。

 

『姉ちゃん……大丈夫だった?』

 

『……うん、私は大丈夫』

 

この時から景義は傷ついていった……。村の嫌われ者である私たち姉弟……私は景義を守りたかった……。だけど臆病な私にはできなかった……。ただただ景義が傷つけられるのを見ている事しか出来なかった。

 

『淫乱の娘!』

 

『お前なんかどっかいっちゃえ!』

 

『アンタも弟もいらない子なんだよ!』

 

いつしか私は、感情を隠すようになった。

今思えば、それをした事で景義の事を悲しませていたと思う。

 

『アイツが怪我をしたのはきっとあの姉弟のせいだ!』

 

『そうだ!アイツらに違いない!』

 

とある日を機に私たちへの攻撃は激しくなった。

私を虐めていた誰かが大怪我をしたらしい。私は知らない……でも、それを言葉にすることは無かった。

そして景義の怪我も増えていた。

 

『姉ちゃん、ごめんな……』

 

何故景義が謝ったのか、私にはわからなかった。

 

『──』

 

目の前の光景が薄れている。目覚めが近いみたい……

私が勇者なんて呼ばれているあの場所に……でも……景義が笑ってくれる世界……それに高嶋さんもいる……もう、あんな辛い場所じゃない────

 

◆◇

 

「ん……ぅ……」

 

「おっ、姉ちゃん起きたか。おはよう」

 

「景義……」

 

濡れたタオルを変えようと姉ちゃんのところへ向かうと、眠っていた姉ちゃんが目を覚ましていた。

 

「具合はどう?」

 

「ん……今朝よりは良くなったわ」

 

「それは良かった。食欲はどう?」

 

「……そんなに無い」

 

「そっか……。じゃあ、ここ置いとくから、お腹空いたら食べてね」

 

「ありがと……。」

 

……姉ちゃんの具合はあまり良くないらしい。とはいっても今朝よりはマシみたいだが。

 

◆◇

 

「姉ちゃん……。」

 

眠った姉の手を握り、そっと呟いた。

 

「早く元気になってくれよ……。」

 

手を握っていてほしいと言う姉の願いに応え、今日はこのまま看病するつもりだ。

もしも姉ちゃんの身に何かあったら、俺はもう立ち直れないかもしれない……。結局、だいぶ前に日記に書いた内容も分からずじまいだったしな。

 

「そういえば……最近日記を見てなかったな」

 

いつの間にか書かなくなっていた──というよりは、そんな暇も無く忘れていた……か?

 

まあそれはいい。姉ちゃんが治ったら、確認しよう。

 

◆◇

 

真っ暗な世界が広がっている。真っ暗な世界でひとつだけ……モニターのように映る世界がある。

 

また……あの時の……。

あの辛かった記憶が……。

 

『景義……』

 

私は弟の名前を呼んだ。

でも、返す声は無い……。

これは夢だから────っ⁉︎

 

手を握られた気がした。

その感触はあったかくて……心が和らいだ。

あぁ……そうだ……景義だ。きっと景義が手を握ってくれているんだ──

 

景義──私のたった一人の弟が──

 

『姉ちゃん』

 

声が聞こえると共に、世界に光が宿った。

 

────私は、光へ向かって歩き出した。

 

帰るんだ……あの場所へ

 

◆◇

 

「姉ちゃん……!」

 

姉ちゃんがうなされていた。

 

「ぅ……ぅぅ」

 

「姉ちゃん……大丈夫だ……俺が付いてるから……」

 

うなされる姉ちゃんの手をギュッと握りしめた。

すると姉ちゃんの呼吸が少しづつ安定したものになっていった。

 

「景……義」

 

「ああ……俺はここに居るよ……!」

 

俺の名前を呼ぶ声に応える。姉ちゃんの顔が汗でびしょ濡れだった。俺は近くに置いてたタオルでそっと汗を拭ってやった。

 

「──ん、景義……?」

 

「姉ちゃん……!」

 

すると、悪夢を見ていたであろう姉ちゃんが目を覚ました。

 

「声が……聞こえたの」

 

「声……」

 

声……一体誰の────

 

「景義の声が……」

 

俺の声……俺が姉ちゃんに呼び掛けてたのが届いたって事かな……。

 

「そうだ……姉ちゃん、熱は……」

 

額に手を当ててみると、熱さを感じなかった。

 

「熱は下がったみたい」

 

「うん……。ねぇ、景義」

 

「なに姉ちゃん?」

 

座ったまま、姉ちゃんと向かいあった。

 

「ありがとう。村に居た時から今日この日まで」

 

そう言って──姉ちゃんの表情は笑顔になった

 

「あ……あぁ……やっと……やっと笑ってくれたな……」

 

何年も見ることのなかった姉の笑顔

俺はいつのまにか涙を流していた。

 

「か、景義……⁉︎」

 

「ご、ごめん……でも、姉ちゃんが笑ってくれたから」

 

「ごめんね……ずっと心配させて……」

 

確かに……心配だった……でも、今はもう

 

「良いんだ……姉ちゃんが笑ってくれれば……俺は……!」

 

姉ちゃんの笑顔を取り戻した。俺にとってこの日は忘れられない日となった。

 

ちなみに数日後、姉ちゃんの風邪が移ったらしく俺も1日寝込む羽目になった。幸い姉ちゃんと何故か上里も一緒に看病してくれたのですぐに回復した。ありがとう姉ちゃん。ありがとう上里。そして休んだ分の追い込みだと鷲尾先生と弥勒先生の訓練は激しくやられた。だが、乗り越えた。姉ちゃんを守るために……。

 

◆◇

 

「……あれ?日記が無い……」

 

いつも日記を保管している場所に日記が無かった。ここじゃなければどこだろうと思い部屋中を探してみたが、見つからなかった。

 

「どこにも無い……俺、そんな杜撰な管理してたっけ…………まあ、しょーがない」

 

それから俺たちは、それぞれの時間を過ごした。

時には訓練に励み、時には学び、時には遊び、時には休み、時にはいろんな行事をやったりもした。姉ちゃんは未だ高嶋と俺くらいしか心を開かなかったが、俺にとっては姉ちゃんの笑顔があるだけで前とは比べ物にならないくらい幸せだった。

 

そして7月30日────襲撃の日から3()()の月日が経った。




【次回予告】
幸せな時間はいつまでも続かない。
戦いの火蓋は切って落とされた。
己が知らぬ間に戦い、傷つく少女達。

安芸優樹は勇者である 第二章:郡景義は勇者でない 其の漆 勇者になれたら

『──景義、あなたは私が守るから』
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