「若葉ちゃん!
「えぇ…………」
俺はドン引きしていた。なぜなら今正座で怒られている人物──若葉が戦いの最中にバーテックスを喰ったからだ……。というかなんで食ったんだよ……?
「景義ドン引かないでくれ!?ヤツらは昔友達を食ったんだ。だからその報いをだな……」
「おなか壊したらどうするんですか!」
「すみません……」
「えぇ……」
理由はわかったけど……理解できないな……。
「……一番怒らせちゃいけないのって若葉じゃなくひなただな……」
「だね……」
球子と杏が小声で話しているのが聞こえた。正直、俺もそう思う。
しばらく説教は続きそうだし俺は席外すか……。
◆◇
翌日の昼休みの時間
「なあ、若葉」
「なんだ?」
「あの後みんなで話し合ったんだけどさ、今までは大社が勝手に決めただけだったが、これからもみんなのリーダーをお願いしてもいいか?」
あの後──まあ、ひなたの説教の後だが。俺含む若葉以外の面子で話し合いをした。
内容は大社から臨時で命ぜられていた勇者達のリーダーを若葉にお願いしないかという事だった。
俺やひなたは直接この目で見たわけではないが、若葉の戦いっぷりは凄かったそうだ。俺は皆が良いならそれで良いんじゃないかと伝えた。俺以外満場一致だったしな。
「……!!」
「どうして私を見るの」
「なんで姉ちゃん見てるんだ」
俺たちのお願いを聞いた若葉は何故か姉ちゃんへ疑惑の視線を飛ばした。
「姉ちゃんは反対してなかったぞ。」
「か、景義……。高嶋さんも賛成してたから……」
姉ちゃんのツンデレってやつか。初めて見たな。
「ありがとうございます、郡さ──」
「ちょい待ち、さっき決めただろ」
さっき決めたこと──それは、若葉が全員を名前で呼ぶ事だった。
最初に言い出したのは球子だ。曰く、何故友奈と俺だけ名前で呼んでるのかという事だった。実態は俺も友奈も名前で呼べって言ってただけなんだが。特に俺は姉ちゃんも居るから郡だと紛らわしいってのもある。まあ、若葉以外は姉ちゃんの事も名前で呼んだりしていたが。
そしてそんな疑問に杏も便乗し、これを機に若葉は全員を名前で呼ぼうという事になった。
「ああ、そうだったな」
そう言ってコホンと咳払いをすると、若葉は一人一人の名前を呼んだ
「友奈」
友奈は満面の笑みを
「ひなた」
ひなたは微笑み
「千景」
姉ちゃんははにかみ
「球子」
球子は歯を見せにっと笑い
「杏」
杏は静かな笑みを
「景義」
俺は、ただ頷いた。
「みんなありがとう。これからもよろしく頼む」
そして若葉は、まるで花が咲いたような笑顔を浮かべた。
「じゃあ四国勇者再出発ってことでうどんで乾杯しよう!」
「賛成!」
みんなで食べたうどんは、今までで一番美味かった。ああ、俺たちは今この時、この瞬間を生きてるんだ……。
今はただ……この幸せなひと時が続きますように
そんな俺の淡い願いは叶うことはなかった。
◆◇
「チッ……」
無意識に舌打ちをしていた。この後のことを考えればしたくもなるだろう。
これから行くのは、あのクソッタレな村だ。
姉ちゃん達の活躍は大々的に報道された。テレビでも新聞でも取り上げられていた。
やれ『世界の希望』やれ『人類の切り札』だの色々だった。大社は取材に応じ、今では勇者を知らない者はいないだろう。どうやらそれはあの胸糞悪い村でも同様だったらしい。その数日後に一本の電話がかかってきた。高知にいるクソ親父からだ。
曰く、母親の天恐が悪化したから一度帰ってきて欲しいそうだ。
天空恐怖症──通称、天恐。バーテックス共が出現したあの日から各地で起こった精神疾患だ。天から降りてくるバーテックスにより、空を見る事に恐怖し、外に出る事を恐れ、最後は発狂・自我崩壊に至る。それを3年前にお袋が発症したそうだ。
あの日も他の男のとこに行ってたみたいだが、バーテックスが現れ、本人は命からがらで生き残り男は喰われたらしい。そしてその事がトラウマとなり天恐発症に至ったと。ハッ、子供を置いて不倫して最後は天恐か。クソッタレが
正直行きたくは無かったが、俺たち全員に与えられた休暇期間ということもあり、やむを得ず帰る事になった。
今回だけではなく、今までも何度か姉ちゃんと様子は見に行っていたが、親父曰くいつ俺たちのことを忘れてもおかしくないから会いに来いと言っていた。ふざけやがって。どうせテメエの家事代行だろうが。
姉ちゃんがあの両親の事をどう思ってるのかはわからないが、俺は絶対に許さない。……アイツらのどちらかがちゃんとしていれば……互いに子供を押し付け合い離婚をしないなんて事にならなければ……姉ちゃんがイジメられる事なんて無かった……。俺はアイツらが大嫌いだ。だが……腐っても親だ。一応家族として顔だけは出してやる……。
◆◇
「姉ちゃん、もう着くみたいだ」
隣でゲームをしていた姉に下車を促した。
「……うん」
帰ってきてしまった。胸糞悪い思い出ばかりのこの村に……。
……もしも何かあれば、俺が暴れてやる。
◆◇
バスを降りてしばらく歩くと、俺たち姉弟の実家へ到着した。
「……ただいま」
姉ちゃんが家のドアを開け、挨拶をした。俺もそれに続き、無言で敷居を跨いだ。
玄関を越え辺りに広がる悪臭に顔をしかめた。
この家を一言で表すのならば──『ゴミ屋敷』だろう。俺たちが居た時はかろうじて清潔を保ってるという状態だったが、俺たちが出て行き、親父達だけになった今では全てが散らかっている。
「……前に掃除しただろうが……。」
最後に帰ったのはだいぶ前だったが、ここまで汚くなるものか。
「おぉ……千景……景義……おかえり。よく帰ってきたな……」
「父さん……」
「親父……」
奥の襖から親父が顔を出した。子供がそのまま大人になった──それが親父に抱く印象だ。コイツは自分のことしか考えないダメ人間だ。だが、そんな親父でもお袋の介護の真似事をしている。天恐で使い物にならなくなった状態でよく家が崩れなかったもんだと思う。
「親父……前に来た時より酷くなってるじゃねえか」
「は……は……。母さんの介護で忙しくてね……」
「お袋は?」
「今は眠っているよ」
親父の言葉を聞き流しながら、居間で眠る母親の顔を見た。
年相応ではないボロボロの顔……また老けたな……。
「姉ちゃん、ちょっと出ようよ」
「そう……だね。」
この陰鬱な空気を吸っていると、俺たちまでおかしくなりそうだった。どうして帰ってきてしまったのか。姉ちゃんを傷つけ、笑顔を失い自分を無価値だと考えるようになったきっかけを作ったこんな村に……。
やっぱり、帰ってくるんじゃなかった。
◆◇
「景義」
「ん?」
「この後……どうする?」
特に目的もなく歩いていると、姉ちゃんが話を切り出した。
「まぁ……こんな胸糞悪い場所に居ても仕方ない。さっさと帰ろうかな」
こんな場所に居るくらいなら……鷲尾先生や弥勒のおっさんや友奈と鍛えてた方がずっとマシだ……。
「そう……私も……そうしようか──」
「郡さん……?それに、郡君も」
「っ……」
「姉ちゃん……!」
後ろから声をかけられ、俺は咄嗟に姉ちゃんの前に出た。
声の主は、かつて俺たちの通ってた小学校の担任だった女教師だ。
「……」
コイツはかつて『あの親の子供なら将来碌な大人にならないわ』と言い放った人物の一人だ。
「どうしてこんな所に居るの?みんなもう、あなたの家へ行っているわよ?」
「え……?」
「どういう事だ」
いつでも姉ちゃんを守れるように臨戦体制で問い返した。
「あなた達が帰ってきた事、もう伝わってるから」
「……」
警戒を解かず、話を聞き続ける。
どうやら勇者である姉ちゃんはこの村の誇りだそうだ。
見事に手のひら返しやがってるな……。
「姉ちゃん、どうする?」
「行きましょう郡さん」
教師は俺の言葉に重ねてきた。
「……景義、行こう」
「わかった……。」
さっさと香川へ帰るつもりだったが、またあの家に行く事になってしまった。
◆◇
元担任に連れられ家に帰ると、家には人だかりが出来ていた。
『勇者さまだ』
勇者と呼ぶこの女は、集団で姉ちゃんの服を脱がし焼却炉で燃やした。
『勇者さま!』
コイツは姉ちゃんに手を出そうとしたのを庇った俺に集団で暴行を加えた。
『私たちのこと、恨んでないよね?』
コイツは姉ちゃんを階段から突き落としたやつ。
『俺たち、友達だよな?』
俺が闇討ちした時に証拠も無く俺だと決めつけ刃物を出してきたやつ。
『食事する時は是非、ウチの店で!』
村の数少ない飲食店のおっさん。俺たちに食わすものは無いと追い払われた。
なんで……なんでここまで評価を一変出来るんだ……?
「あ、あの……」
姉ちゃんが話そうとすると、辺りはシンと静かになった。
「──私は、価値のある存在ですか……?」
姉ちゃん……。なんでそんな事を言うんだ……。こんなやつらに聞かなくても、俺は……俺が──
村人達は言った。
「もちろん。だってあなたは勇者だから」
そう言われた姉ちゃんの顔が綻んだ。俺は……ただ血が出そうなくらいに拳を握った。
◆◇
「……勇者だから」
勇者でなければ価値は無いって意味なのか。醜聞が広がれば村ぐるみで叩き、勇者になれば持て囃される。やっぱりふざけている。
「姉ちゃん……」
「景義、私はあなたを守れる」
「……姉ちゃん」
「あなたは私が守る」
今までにない笑顔と共にそう言った。
これで……よかったのか?
どうすれば良かったんだ……。
「景義は、私のこと愛してくれる……?価値のある私を見てくれる?」
「……もちろんだ。だって姉ちゃんは、たった一人の家族だから。だから……俺も姉ちゃんを守るから……」
だから……姉ちゃん
自分を大切にしてくれ。
【次回予告】
無力を呪う少年
強くなる事を誓う少女
そして──神託が下った
次回 其の玖 みんなの笑顔
そろそろ感想でボロクソ言われるの覚悟してます