安芸優樹は勇者である   作:三奈木イヴ

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勇者たちに訪れた悲劇
そして愚か者の取る選択とは……


愚者の言葉

──楽しい時間や幸せな日々というものは長く続くものではない。

 

──そんな事はわかっていたはずだった。

 

だけど──俺は忘れていた。

 

それは終わらないものだと思っていた。

 

そう思うくらい今この時、この瞬間が楽しいと感じてたたんだ……。

 

◆◇

 

球子と杏が──死んだ。

 

地面に横たわる二体の骸が視界に映った瞬間、俺はただ茫然と立ち尽くしていた。

 

二人が死んだのは戦闘中──敵に身体を貫かれたそうだ。

 

二人まとめて、最期は手を繋いだまま死んだそうだ。

 

仲の良かったあの二人らしいななんて思うと同時に、二人が死んだという事実を俺は受け入れられなかった。

 

ついさっきまでいつものように仲良く過ごしていた二人が……次の瞬間には死んでいたなんて……。

 

俺は……頭の中が真っ白になっていた。

 

そして──友奈が仲間を殺された怒りで封印されてた切り札を使ったらしい。

 

辛くも戦闘には勝利し、友奈は切り札の代償が重かった為にすぐ病院へ搬送されたが、俺は声をかける事ができなかった。

 

そして、悲劇というのは勇者(仲間達)の死だけではなかったのだった。

 

◆◇

 

「球子……杏……」

 

命を落とした仲間達の名を呼び、棺に祈りを捧げた。

 

「なんでだよ……」

 

なんで……死んだんだよ……。

 

今回の戦闘で一般人にも犠牲が出てしまったそうだ。

普段の戦闘では樹海化による結界で守られていたのだが、バーテックスの攻撃による樹海の腐食が限界値を超え、現実世界への被害が出てしまったという事らしい。とうとう一般人にも死者が出てしまった上に勇者達の死はまだ知られていない……。

 

「寂しいものね……命をかけて戦ったのに、悼む人がこれだけなんて……」

 

姉ちゃんポツンと呟いた。

その言葉を聞きあたりを静かに見渡してみると、参列者はほとんど居なかった。

 

「……そうだね」

 

「勇者の死はまだ公表されていない。私たちの存在は人々の在りどころなんだ」

 

「若葉……それは大社の勝手な──」

 

「バカ!」

 

葬儀場に1人の少女の叫びが響き渡った。

 

「なんで……なんで死んじゃうのよ!!」

 

少女は二人の棺の前で泣き崩れていた。

 

「安芸さん……」

 

「安芸……」

 

声の主は──球子と杏を導いた巫女、安芸真鈴だった。

安芸とは以前、俺が大社に呼び出された時に少し会話した程度の知り合いだが、あの時も球子たちの事を聞いていた。例えアイツらを導いた巫女とはいえ少し警戒していたが、アイツらの事をひなたから聞いて嬉しそうにしている姿を見たら、どれだけ大切に思ってたのかが窺えた。

 

「こんな事だったら……もっと無理を言ってでも、二人と一緒に……」

 

安芸の言葉に俺は俯いた。

 

「うっ……」

 

「姉ちゃん⁉︎」

 

「千景⁉︎」

 

突如、顔色を悪くした姉ちゃんが席を外した。

 

「すまん、姉ちゃん見てくる」

 

「あ、ああ……」

 

若葉達にそう伝え、出口へ向かった。

 

◆◇

 

「うっ……うぅ……」

 

「……姉ちゃん、大丈夫か」

 

姉ちゃんは顔を真っ青にしながら姿を見せた。

 

「景義……私は、死にたくない……」

 

「姉ちゃん……」

 

俺の胸元をギュッと掴み、顔を埋めた姉ちゃんが言葉をこぼした。

 

「……」

 

俺は……なんて言葉をかけて良いのかわからなかった。『戦うな』と言ってやれば良かったのか?『大丈夫』って言ってやれば良かったのか?……こういう時に返すべき言葉なんて……あるのだろうか?

 

……わからない。いや、知らないと言った方が正しいのかもしれない。

 

「景義、千景」

 

「若葉」

 

若葉が後ろから声をかけてきた。……もうすぐ最後のお別れらしい。

 

「姉ちゃん……」

 

「……ええ」

 

少しだけ震えが小さくなった姉ちゃんが離れた。

行こう。アイツらの顔を拝めるのもこれで最後だ……。

 

◆◇

 

勇者達の死は、世間に公表された。

ニュース等でも連日報道され、人類の希望が欠けたことに人々は恐怖した。そして一部では死んだアイツらに対する心無い言葉をかける奴らも居た。

 

……ふざけやがって

 

勇者が居なければ、今頃お前達はこの世に居なかったってのに……恩知らずな連中だ……。

 

「景義さん、今よろしいですか?」

 

「ひなた、どうしたんだ」

 

「千景さんの事でお話があります」

 

「姉ちゃんの……?」

 

若葉達は壁の外まで敵の討伐だ。学校には俺たちしか居ない。

そして、ひなたが何やら深刻そうだ。

 

「大社から私にも通達がありました。千景さんは、先の戦闘でPTSDを引き起こしてる可能性があるそうです」

 

「本当か……」

 

「……はい、なので景義さんからも千景さんの話を聞いてあげてください」

 

「……わかった。時間を作るよ」

 

姉ちゃんが……PTSDか……。

おかしい話ではない。ただの少女だったはずが神に選ばれたからと戦いに巻き込まれたんだ。むしろ今まで正常だったのがおかしかったんだ……。

 

とにかく……姉ちゃんが戻ってきたら一度話をしなければ……。

 

◆◇

 

「友奈……!」

 

「景義……」

 

若葉達の討伐任務は失敗した。

戦いの中でもう一度酒呑童子を使用した友奈が海へ墜落し、入院した。

 

「友奈は……」

 

「生きている。だが……面会謝絶だ。」

 

「……ちくしょう!」

 

若葉の答えに俺は思わず壁を殴っていた。

 

「景義さん……」

 

「……すまない」

 

ひなたに嗜められ、そのまま席を外した。

 

◆◇

 

「姉ちゃん……」

 

最近の姉ちゃんはおかしい……。まるで()()()()()()()()

ひなたや俺が話を聞こうとすれば、放っておけと突き放され、安全な場所にいる俺たちには関係ないとまで言われた。

俺もひなたも返す言葉は無かった。だけど、一体どうなっちまったんだよ……俺が知ってる姉ちゃんは、あんな事言うような人じゃなかったはずだ。

 

そして──悲劇は終わらなかった。

 

「……今更家族四人で暮らす?冗談だろう?」

 

また大社から連絡が来た。

 

今度は、両親を丸亀へ移住させるというものだった。

はっきり言ってふざけてるのかと思った。メールの内容を要約すれば、姉ちゃんに拠り所を与えるためといったところだ。ふざけんな、そんな事しても逆効果だろう。

 

そして、母親の天恐がまた進行した事により俺たちは高知に帰ってきていた。

 

「親父、それは大社が決めた事だ」

 

「ああ!大社から聞いたよ!母さんは入院させとくのが一番だろう!引越しには大賛成さ!こんなところすぐにでも出て行ってやる!」

 

「……は?」

 

「一体、どうしたのよ?」

 

親父の言葉に疑問を抱いた。引越しに大賛成?どうゆう事だ……?

 

疑問を投げると同時、親父は近くにあった紙の束をばら撒いた。

 

「これだよ!」

 

その内容は、見るに堪えない暴言の数々だった。

 

『クズの娘はクズ』『死んだ勇者は無能』『死ね』等といったものだ。

 

なんだよ……これ

 

「これが毎日投げ込まれてくるんだ!全部お前達のせいだぞ!このクズ共!」

 

「は……?」

 

コイツは何を言ってるんだ……?俺たちのせい……?戦えない俺だけならまだしも、身を削って、命をかけて戦ってきた姉ちゃんに向かってクズだと…………?

 

「っ……」

 

「姉ちゃん!」

 

部屋から飛び出した姉ちゃんを追った。

姉ちゃんは俺の言葉に耳を貸さない。

そのまま家から飛び出した。

姉ちゃんとぶつかったのか、村のやつが尻餅をついていた。

その手には、『クズ』と書かれた紙が握られていた。

 

ああ……やっぱりコイツらはこういう奴等なんだ。

姉ちゃんの事を勇者だ勇者だと崇めて、状況が悪くなれば手のひらを返す。

 

「……ッ!」

 

「ハッ⁉︎姉ちゃん!」

 

「──あなた達のせいで……弟は……景義は!!」

 

姉ちゃんが大葉狩を振りかぶった。ダメだ!

 

「姉ちゃん、ダメだ──」

 

俺の言葉も虚しく、大葉狩は振り下ろされた。

 

だから俺は……咄嗟の判断で村の奴を庇うように前に出た。

 

「グァッ……!!!!いっ…………てぇ!!」

 

大鎌の刃は俺の右腕をいとも容易く斬り落とした。

 

「か、景義……⁉︎」

 

「やめるんだ千景!──景義⁉︎」

 

痛みとショックで意識が朦朧とするが……この声は……若葉か……。

 

「あ……あぁ……かげ……なんで……」

 

姉ちゃんが大葉狩を落として膝をついていた。

ごめんな……姉ちゃん……

 

「姉……ちゃん……れが……ま……る」

 

意識が薄れながら言葉を紡いだ。だが、それはか細く途切れ途切れになっていた。

 

「ご……め……な」

 

俺の意識は、闇へと沈んでいった。




景義は村の人間を庇うつもりはありませんでした。ああなったのは、姉に人殺しをさせない為に咄嗟に取った行動の結果です。

【次回】
其の捨弍 姉と弟

あと3話くらいでのわゆ編終わります。
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