「ね、ねぇ……乃木さん、三ノ輪さん」
「おっ、鷲尾さん」
「すみすけ〜昨日はお疲れ〜」
「あれ?安芸くんはどこに?」
「優樹?用事があるって帰ったぞ」
「えぇ!?」
「あっきーなら私見たよ〜安芸先生とおじさんとどこかに行ったんよ〜」
「安芸先生だけならともかくおじさんも?優樹のやつ何やらかしたんだ?」
「んーとねー、あのおじさんって、多分花本のおじさんかな〜」
「の、乃木さん……?花本のおじさんって……まさか花本家当主の?」
「そうそう〜」
「花本家の方が何故……」
「あっ、そういえば鷲尾さんどうしたの?優樹に何か用事?」
「そ、そうだったわ……その、私たち4人で祝勝会というものをやろうと思って」
「なるほどな、でも優樹は居たとしても来ないんじゃないか?」
「え!?わ、私が何かやっちゃったから……?」
「違う違う!……実は優樹のやつ、こういうの誘っても中々来ないんだよ。まあ、いろいろあるんだ」
「そ、そうなのね……」
「でもね〜あっきーを引っ張り出すなら、安芸先生に話を通せば良いんだよね〜」
「安芸先生に?」
「そうなんよ〜ほら、安芸先生とあっきーって姉弟だから〜安芸先生にこの日はあっきー空いてますかって聞くと、確実に来てくれるんだ〜」
「えっ、そうなのか!?」
「三ノ輪さんも知らなかったの……!?」
「知らなかった……。優樹と外で会ったのは全部偶然だったから」
「あっきーは一匹狼さんなところがあるからね〜」
「確かにそうだな」
「え、えぇ……?」
◆◇
「っ…………!」
「優樹、大丈夫?」
「天国の父さん達が見えたよ……!」
「先輩達が……それは申し訳ない……」
場所は僕たちの家で車の外、そして僕はグロッキーになっていた。
別に車酔いする訳じゃ無いけどさ……どんな運転だよ……!
────時刻は学校が終わった時まで遡る
「優樹、ちょっと良いかしら」
「……姉さん、どうしたの?」
学校にいる時の姉さんと僕は教師と生徒だ。だから僕は姉さんの事を先生と呼ぶし、姉さんは僕の事を安芸と呼ぶ。学校の中で僕を名前で呼ぶ時は、プライベートに関わる時だ。そういう時は、僕も先生ではなく姉さんと呼ぶ。
「会ってもらいたい人がいるの。今は大丈夫かしら?」
「うん、大丈夫だよ」
「ありがとう、来てちょうだい」
姉さんに連れられ学校の外まで来ると、そこにはスーツ姿のおじさんが立っていた。
「お疲れ様です。花本さん」
「お疲れ様、それとお久しぶりです。優樹君」
「えっ⁉︎」
僕は……この人を知らない。でも、何故かこの人は僕を知っている……姉さんの知り合い……?
「ああ……驚かせてしまったね。まずは自己紹介しましょうか。私は花本という者です。君のご両親には……特にお父様には生前何かと助けていただきました……」
「花本さんは昔の優樹にも会ってるのよ」
「そうなんだ……」
昔の記憶……僕は5歳辺りの記憶がほとんど無い……。父さん達が亡くなったのもそれくらいだった……。
「……先輩達の事は、本当に残念でした……。」
「花本さん、お父さん達のことは……」
「……すまない」
花本さんは静かに頭を下げた
「……場所を変えようか。二人とも、乗りなさい」
花本さんに促され、僕たちは車に乗り込んだ。
「安芸さん、行き先は家で良いのかい?」
「はい、あの……優樹も居るので控えめですよ?」
「ははっ、わかってるよ。優樹君、ちょっと飛ばすから気をつけてね」
「は、はい……?」
花本さんはエンジンをかける……と思ったけど、何してるんだ……?ドリンクホルダーにコップを──
「よし、行こう」
「っ……!」
いきなりとんでもない加速から始まった
「花本さん……!」
「っ……!」
や、ばい……まるで張り付けられてるようだ……
「ハァ……事故だけは起こさないでくださいよ」
「安心しなさい!私が事故を起こしたのは20年前に1回きりだ!」
事故起こしてるじゃん……!しかもこれが家に着くまで……距離的にはすぐだけどこれは…………!
◆◇
そんな訳で今に至る。
「花本さん、張り切りすぎですよ」
「申し訳ない……優樹君、肩貸そうか?」
「おねがいします……」
花本さんに肩を貸してもらい、なんとか家の中まで入った。
僕はもう……この人の運転する車は勘弁だ……。
「ただいま」
「ただいま」
「お邪魔します」
姉さんが家に帰ってくるのは久しぶりな気がする。
◆◇
「先輩……お久しぶりです」
花本さんが父さん達の仏壇の前で祈りを捧げた。
「ねえ、姉さん」
「どうしたの?」
「花本さんと僕って本当に会ったことあるの?」
人数分のお茶をテーブルに置きながら、姉さんに尋ねた。
僕が覚えていないだけで花本さんとは会ったことがあるらしいけど……仮に父さん達の葬式だとしたら、確実に忘れている。
「覚えていないのも無理はないわ。優樹が花本さんと会ったのは、貴方が生まれたばかりの時それと……お父さん達のお葬式の時よ……」
「……」
やっぱり………………
「お待たせしました………おや、何かありましたか?」
「いえ、何も」
「そんな事より、お茶淹れたのでどうぞ」
誤魔化すようにお茶を差し出した。
「ああ、ありがとう優樹君」
花本さんはそのままお茶を一口飲んだ。熱すぎなければ良いけど。
「美味しい……優樹君はお茶を淹れるのが上手なんだね」
「……慣れてますから」
僕は小っ恥ずかしくなり、つい顔を背けてしまった。
「優樹……」
「良いんですよ。優樹君にとって私は初対面のようなものですから」
「……」
「それで花本さん、今日はどうされましたか?」
「ああ、そうでしたね。本題に入りましょうか」
「本日は優樹君……もそうですが、特に真鈴さんへの用事の意味合いが強いです」
「私……ですか?」
姉さんに用事があるのか……それはわかるけど、なぜ僕まで?
「あの、僕席外しましょうか?」
大人同士の話っぽいし僕いらなくない?
「……いいえ、出来れば君にも聞いてほしい」
「わかりました」
僕はそのまま姉さんの隣に腰を下ろした。
「まずはこれを」
そう言いながら花本さんは鞄から古そうな書籍を2冊取り出した。厚みのある2冊の書籍は、パッと見ただけでもずっと前の書籍である事が窺えた。
「これから話すのは……乃木家と花本家しか知らない情報です。これからはお二人にお任せしますが、取り扱いには気をつけてください」
「はい」
「……はい」
そんな重そうな情報をなんで僕たちに……?しかも乃木家って事は園子も知ってるのか……?
「あの、花本さん」
「どうしましたか優樹君」
僕は小さく手を挙げ、花本さんに質問した。
「乃木家って事は……園子も知ってるって事ですか……?」
「いや、乃木家でこれの存在を知っているのは先代までだよ。つまりはあの子のお父上になる訳だ」
「まあ、その事はさておきだ。実はこれを君たちに託したのは……これを書いた人から託された私のご先祖様が、もしもイレギュラーが現れたらその家に託してほしいと伝えられたからなんだ」
「それで優樹が……」
「はい。真鈴さんはご存知だと思いますが、勇者というものは本来無垢な少女のみが選ばれるものです。しかし、何故か神樹様は男の子である優樹君も選ばれた」
「……!」
僕は思わず目を見開いた。姉さんが大赦所属である事を最近知ったのもあり、神樹様から勇者に選ばれたという事に特に考えた事は無かったのだが、本来なら僕はただの安芸優樹だったという事実に驚きを隠せなかった。
「何故僕が……」
「それはわからない。真実は神樹様のみぞが知るというものだ」
「私は先代の言葉に従い貴方達に託しました。中身は見ていませんので内容は知りませんが、それを読んだ上でどうするかはお二人の判断にお任せします。」
「……わかりました」
「はい」
僕たちは、花本さんから渡された書籍を手に取った。
古い……とは言っても今にも崩れそうという訳ではない。でも取り扱いには気をつけなきゃだ。ひとまずは姉さんに任せても良いよね……?
「では、長居してもアレなので私は仕事に戻ります。真鈴さん、大赦の方には私から言っておきますので、今日は優樹君の側にいてあげて下さい」
「わかりました」
姉さんが花本さんに頭を下げた。そして花本さんはスーツのネクタイを締め直して席を立った。
「ではお邪魔しました。優樹君、また後日」
「は、はい……」
また後日……か。機会があったら父さん達の事を聞いてみようかな。
◆◇
「そ、それでは……えっと……今日という日を迎えられた事を大変嬉しく思います。本日は大変お日柄も良く、神世紀298年度『勇者初陣』の祝勝会ということで──」
「ええいっ堅っ苦しい!!初陣お疲れ様!!」
あまりにも長い鷲尾さんの挨拶をぶった斬って祝勝会を開始した。
「いぇーいおつかれー!」
「お疲れ様〜」
花本さんがウチに来た翌日、鷲尾さんから先の戦いの祝勝会をしようと誘われた。僕は基本的にこういうのは不参加なので適当に断って逃げようとしたのだが、既に園子が姉さんに話を通していた。そうなったらもう逃げようがないという事で僕も参加する事になった。祝勝会とは言っても場所はどうするのかという鷲尾さんに対し、そこは銀が自分のオススメの場所があると言い僕たちは大型ショッピングモールであるイネスのフードコートへとやって来たのだった。銀曰く、ここのジェラートは絶品らしい。席の位置は鷲尾さんの隣に僕、そして向かいに園子と銀という席順で各々が選んだジェラートのフレーバーは、鷲尾さんが宇治金時、園子がメロン、銀が醤油味で僕はバニラ。ちょっと待って、醤油……?
「せっかく考えてきたのに……」
「まあまあ、ここのジェラートは絶品だからさ!」
「うん、美味しい」
シンプルだがそれもまた良い。
「だろ〜?」
「うんうん、初めて来たけどミノさん良いお店知ってるね〜」
メロン味のジェラートを一口食べた園子はご満悦だ。
「むぅ……」
「鷲尾さんどうしたの?ジェラート美味しくなかった?」
宇治金時のジェラートを一口食べた鷲尾さんがなんだか不満そうな顔でジェラートを睨みつけていた。
「いえ、その逆よ……でも私はおやつと言えば和菓子かところてん派だったから、こうも簡単に自分の信念が揺らいでしまうのはなんだか……」
「別に良いんじゃないの?信念はあっても好きなものは好きだって誇れば良いと僕は思うよ」
「お〜あっきー良い事言う〜」
それから僕たちはジェラートを存分に楽しんだ。銀からオススメと称されて、しょうゆ味を一口突っ込まれたり、逆に僕がバニラを一口あげたり、それを見た鷲尾さんが顔から火が出んばかりに真っ赤にしてテンパっていたりして見ていて面白かった。
「そういえば……」
みんながジェラートを食べ終えた頃に鷲尾さんが話を切り出した。
「安芸くん達ってどういう関係なの?」
「うん?」
「えっとね〜私にとってあっきーは
「初めて?」
鷲尾さんは困惑しているようだ。
「うん!乃木家の一人娘って立場はね、大赦の人たちからしたらとても重要なんだよね〜」
「まあ、乃木家といえば大赦トップの家だもんね」
「そうなんよミノさん!それでね、それを見ている子供達も私のことを怖がっていたみたいで、友達が出来なかったんだ」
「そんな事が……」
「私、このままひとりぼっちなのかなって思ってたけど、違ったんだ」
「それで……安芸くんが?」
「うん!あの日あっきーが私と初めてのおともだちになってくれたんよ〜」
園子はとても嬉しそうにあの日のことを語っていた。
「……そういえばそんな事もあったね」
あの時は本当にいろいろあったけど……園子に話しかけたのはただの気まぐれだったのかもしれない。
「あの頃のあっきーはもっとトゲトゲしてたよ〜まるでハリネズミさんみたいだった〜」
「ちょっと園子さん!?」
「ほう、それは気になるな……」
「銀!?」
「私も気になるわ」
「鷲尾さんまで!?」
園子と会ったばかりの頃は今ほど心に余裕が無かった事もあったからあまり思い出したくない………………。恥ずかしすぎるから……!!
「い、いやそんな事よりさ……………ぎ、銀と出会った時の事でも話すよ」
「優樹、誤魔化したな〜 まあいいか。アタシと優樹の出会いはなぁ……」
銀が僕と初めて出会った時の事を語り出した。
────僕が銀と出会ったのは、勇者として選ばれて顔合わせをする少し前、僕が買い物でイネスへ行った際、一応同じ学校の有名人だから知ってる程度だった銀とその家族に鉢合わせた。その時の三ノ輪家は銀の下に二人の弟が居るのだが、どうやら上の弟とはぐれてしまったみたいだった。最初は断る事が頭に浮かんだが、ここで出会ったのも何かの縁という事で僕も捜索に協力することになった。結果としては、銀の名前を呼びながら泣いているところを僕が見つけて万事解決した。そこから銀との……三ノ輪家と縁が繋がった。
「やっぱりあっきーって優しいんだね〜」
「安芸くんは困っている人を見過ごせないのね」
過大評価だ……。
「いや……僕は──」
「はいはい優樹、褒められてるんだから素直に受けとけって」
「……わかった」
正面の銀に肩を叩かれ、僕は渋々頷いた。
それにしても────
「僕たち……良く勝てたよね」
本当に……。
「そうだな、アタシ達合同での訓練とか無かったもんな!」
「でも上手く行ったもんね!私、興奮しちゃった」
「そうね、実は……この祝勝会を開いたのもこの話をしたかったからなの」
「私……最初は3人のことをあまり信用してなかったと思うの……」
あれま、そうだったの。いや……最初だしそんなものなのかな
「でも、みんなの事が嫌いとかじゃなくて……その……」
鷲尾さんがモジモジとしながら思いを吐露した。
「私、人に頼る事が苦手で……」
「すみすけ……」
「今回だって……私1人じゃ何も出来なかった。危ないところを安芸くんに助けてもらったし……」
「鷲尾さん……」
「だから……その……」
「私と……ともだちになってくれますか?」
ともだち──か
「何言ってるんだよ、もう既に友達だろ」
「三ノ輪さん……!」
「嬉しい!私もすみすけとも仲良くなりたいって思ってたんだ〜」
銀と園子が受け入れると、鷲尾さんの顔がパァっと笑顔になった。
「ねえねえ、あっきーは?」
「優樹はどうするんだ?」
そして3人の注目が僕に移った……。
「安芸くん……」
「僕なんかで良ければ…………ともだちでもなんでも……」
言ってて恥ずかしくなったので顔を背けてしまった。
「あっきー!」
「安芸くん……ありがとう」
「これでみんな友達だよ〜よかったね
「え、えっと……乃木さん?さっきから呼んでる『すみすけ』って何かしら……?」
やっとツッコンだか……園子のことだからいつものだと思うけど……
「いつの間にかあだ名で呼んでた〜」
「自覚無かったのかよ……」
「そういえば僕の事もすぐにあっきーって呼んでたね」
「アタシもだな」
「嬉しいんだけど……それ、あまり好きじゃないかな……」
「じゃあ、ワッシーナは?なんだかアイドルっぽくない?」
「もっと嫌よ!」
お気に召さなかったみたいだ。
「乃木さんも『ソノコリン』とか嫌でしょ?」
「素敵!」
「ごめん忘れて」
園子は即答で喜んでいた。でも僕としてはちょっとアレだなと思った。
「あっ、閃いた!じゃあじゃあ」
「『わっしー』!」
「……それなら」
「よろしくね、わっしー!」
こうして鷲尾さんのあだ名が決定した。余談ではあるが、この後鷲尾さんが僕たちをどう呼ぶかという話になった。結果としては、僕と銀は名前呼びで鷲尾さん……須美はしばらくは僕たちを苗字呼ぶみたいだ。
◆◇◆◇◆◇
──この時、僕はこれから自分の身に起こる出来事をまだ知る由もなかった。
『銀!』
『優樹……おい!優樹!』
『無事……か…………よか…………』
『生きるのを諦めるな!!』
優樹君は昔、一匹狼な時期がありました。理由につきましては、両親を早くに亡くし、まだ家族に甘えたい歳でありながら姉(安芸先生)が家を不在にする事が多く、疲れ切ってる姿を何度も目撃して『大好きなお姉ちゃんに迷惑をかけちゃいけない!』という精神で過ごしてきたからです。余談ですが、5歳頃の優樹君は記憶がほとんど無いけど、実は花本さんの支援もあり少しずつ家事を覚えている。(両親が亡くなった事自体は認識している) 園子と出会った時期は誰かと関わる事を嫌がっていた(自分の前から居なくなる事が怖かったから) その後、ひとりぼっちの園子に気まぐれで声をかけて仲良くなり性格も少しずつ今の優樹に近づいたのです。
優樹が園子に話しかけたのは本当にただの気まぐれで普段は出来る限り関わらないようにしていました。ps.花本さんが起こした事故は単独の物損です。被害はガードレールの破損と花本さん自身が怪我をした程度なので優樹君の両親の件は全く関係ありません。