──僕たちが勇者として初めてのお役目を果たしてから半月後 2体目のバーテックスが襲来した。
「クッソ……あれじゃ近づけない……」
現れたのは天秤のように大小の錘をぶら下げるリブラ•バーテックスだ。前回のように水流で攻撃してくる訳ではなく……今回は両方の錘を振り回して大きな風を起こしている。その風があまりにも強く、身動きが取れない。
「園子……!何か思いつかない!?」
油断すれば吹き飛ばされかねない程の風、そして徐々に侵食されていく樹海 早くしないとヤバい……
「う、うん……!上の方からなら風が弱そうじゃない!?」
「確かに──時間が無い!僕は行くぞ!」
風を防ぐため地面に刺していた大鎌を抜き、飛び上がった。
「アタシもいるぞ!」
銀も続いた。
「こんにゃろお……!!ここから……出ていけ──グハァ!!」
「優樹!?」
何かとても重い物がぶち当たった……と思ったら一瞬意識が飛んだ。
「グエッ……!」
気づいたら樹海の壁に叩きつけられ落下していた。意識は……一応ある。幸い骨は折れてないが……激痛と出血はある……
「安芸くん!!」
「す、み……」
こちらへ飛んできた須美の肩を借り、なんとか立ち上がった。
「ご、め……」
「喋らないで!傷に響くわよ!」
「……っ」
頷きを返した。体がかなり痛い。でも……僕は死ねない。
僕が死ねば……姉さんが悲しむ
「園……子は……?」
「無事よ、私だけ後方へ離脱したの」
なら……良かった……。銀、あとは頼んだ……
僕は意識を手放した。
「えっ……?あ、安芸くん!?」
◆◇
「強引過ぎる」
「あなた達の戦いはゴリ押しにも程があるでしょう!特に優樹!貴方のやってる事は遊撃のつもりなのでしょうけど、あれでは最早特攻よ!?」
「ごめんなさい……」
戦いが終わった3日後、あの後はどうやら銀が強引に敵を倒してくれたらしいけど……僕は気づいたら病院のベッドの上だ。一応すぐに帰れたものの、結構ズタボロだ……。勇者服が無ければ死んでいたらしい。それもあって姉さんはとてもご立腹だ……。怖い。
「ハァ……。今のあなた達の弱点は、連携不足ね。このままじゃ命がいくつあっても足りないわ」
連携……確かにそうだ。今回で二度目の襲撃は、園子の閃きに従って須美が矢を放ち、銀が突っ込み、僕は遊撃という形で好き勝手に暴れていたが……その結果が今回の大怪我に繋がった。
「……まず、4人の中で指揮を執る隊長を決めましょうか」
隊長か。まあ、僕じゃなければ誰でも良い。
「そうね──乃木さん、頼めるかしら?」
「えっ?わ、私ですか?」
そう来たか。僕はてっきり、選ばれるのは須美かと思ったけど、予想は外れたみたいだ。
「アタシはそういう柄じゃないし……アタシじゃなきゃ構わないです」
銀は賛成のようだ。
「僕も同意見だよ。姉さんの判断ならそれに従う」
僕もそれに乗っかった。僕はそういうのは向いてないからね……。
「私も乃木さんが隊長で賛成です」
何かを考えていたようだが、須美も賛成した。これで満場一致というやつだ。
「わっしー……」
「決まりね。神託によると、次の襲撃までは時間があるみたい」
「良い機会だわ。4人の親睦を深めるために、合宿を行いましょう」
『合宿?』
全員の声がシンクロした。
◆◇
「合宿ねぇ……」
大変そうだが、その間は家事に追われないからありがたいけど……親睦を深めるか……。そういえば僕、姉さん以外の誰かと接する事ってあまり無かったもんな。もしもあの時、園子に話しかけてなかったら今より大変だったかもしれなかったのか…………いやでも、結局は銀達との縁があるから同じか。とりあえず準備を進めなきゃだ。
ピコン
ん?通知か
『合宿楽しみだなぁ!今から待ち遠しいぜ!』
僕たち4人のグループへ投下されたのは、銀からのメッセージだ。銀が楽しみにしてる姿が目に浮かぶ。
『わかるよ〜ミノさん!私も夜しか眠れないんよ〜』
『いや園子はいつでも寝てるだろ』
ツッコミを入れたのは僕だ。夜しかって言ってるけど、園子はいつでもどこでも寝てるじゃないか……。そういえば初めて出会った時も寝てたな
『これもお役目の為 頑張りましょう』
あれま、珍しい。『これは遊びじゃない』的なことを言うと思ってたけど。須美も少なからず楽しみにしてるのかな?かく言う僕は楽しみかどうかで言われるとそこそこ楽しみだ。姉さんは親睦を深めるためと言っていたが、僕にとって友達と呼べるのは、そこそこ付き合いのある園子や銀くらいだ。須美もこの間の祝勝会で友達になったものの、知り合う前から須美の堅物な所を苦手に思ってた時期もあるのでどうなる事やらだ。まあ、上手いことやる。
「──僕は……不死身だ」
ふと頭に浮かんだ言葉を口に出してみたものの、すぐに人間が不死身なはずが無いと思い直す。でも、今のはおまじないにしようかな……。この言葉を唱えて、絶対に死んでたまるかという想いを敵にぶつけるんだ。
◆◇
「遅い!」
「三ノ輪さん、遅いわ!あれだけ張り切っていたのにどういう事かしら」
今日は合宿当日。そして集合時間から10分経過である。
「まあまあ須美さんや、そう怒りなさんな」
こうなるんなら、銀の事を迎えに行けば良かったかもしれないな。またいつものやつだろうし
「安芸くんは甘いのよ!一度ビシッと──」
「お待たせー!!」
「遅い!遅刻よ三ノ輪さん!」
「ちょっと色々あってさ……や、悪いのはアタシなんだけど……とにかくごめんよ須美」
「この際だから言わせてもらうけど……三ノ輪さんは普段の生活が少しだらしないと思うわ!あなたも勇者として選ばれた自覚を──」
「あれ〜ここどこ〜?」
須美のお説教が始まるや否や、須美に体を預けて眠りこけていたお姫様が寝ぼけながら目を覚ました。
「おはよう園子、ここはバスの中だよ」
「あ〜おはよ〜あっきー、わっしー、ミノさん」
「おはよう園子」
「……もう」
◆◇
「訓練に入る前に、あなた達に紹介する人がいます」
「お願いします」
姉さんが合図をすると、どこからともなく現れたのは──ッ!?
「花本さん!?」
「おや、優樹君。先日はどうも」
「いえいえこちらこそ……じゃなくて……!」
現れたのは先日トンデモ運転で僕たちを家まで送ってくれた花本さんだった。
「ひとまず自己紹介をしましょうか。私は花本薫。今回、あなた達の合宿において、安芸さんのサポートを勤めさせていただく事になりました」
「この人が……花本家の……」
「あ〜お久しぶりです〜」
「優樹の知り合いでしたっけ?」
須美達の反応は三者三様だ。だがこの3人はあの運転を知らない……いや、知らなくて良いんだけどね……。というか花本さんの下の名前、薫っていうんだ……初耳だ。それに園子も知り合い──ああ、そうか。乃木家である園子なら花本さんの事知ってても不思議じゃないな。
「そうですね。安芸さん姉弟とは少々縁がありまして」
「はい、話はそこそこにして、始めるわよ」
僕たちの合宿が始まった。
──姉さん曰く、今の僕たちに足りないのは連携であるそうだ。そしてそれを補うための訓練というものが、飛んでくるボールをバーテックスの攻撃にゴールはバスだ。結構な勢いで沢山飛んでくるボールを園子が防ぎ、流れ弾を須美の矢や僕の斬撃で撃ち落とすという形だが……
「あっ……」
「ングッ……!」
「三ノ輪さん!」
「銀!」
「そこまで!」
須美が矢を外し、僕もカバーが間に合わず銀に被弾してしまった。
「ごめんなさい三ノ輪さん……」
「銀、大丈夫?」
「大丈夫……油断していてビックリしたよ……」
銀……!魂抜けてるぞ!戻ってこい!
「ではもう一度!」
その後も訓練は何度も何度も繰り返された。
◆◇
「ふぃー……」
チャポンという水音が辺りに響き渡った。
今日の訓練では、銀を辿り着かせる事は出来なかった。そして改めて連携の必要性を思い知らされた。
「……疲れたぁ」
湯船に浸かっていると、疲労が溶けていく気がする。このまま……先日の戦闘で負った傷も癒そう……。
そう考えていた時だった。
──ガラッ
「お疲れ様です、優樹君」
「……っ!花本さん」
先ほどまで僕しか居ない空間だったが、それは花本さんが来たことによって終わりを告げた。
「合宿初日ですが、お疲れ様でした。」
「あ、ありがとうございます」
軽く身を清めた花本さんが湯船に浸った。
「ふぅ……疲れが吹き飛びますね……」
「……そうですね」
なんだか気まずい。何を話せば良いのだろうか……。
「……ああ、この話し方では気が休まらないですね。ん……優樹君、ここには私と君しか居ない。女性側の声も聞こえる事はない。だから、気にせず話をしようじゃないか」
「え、えぇ……?」
急に口調が変わった……!?というか気にせずって、一体何を話せば良いんだよ……!
「え、えっと…………花本さんって……下の名前は薫って言うんですね……」
咄嗟に出た話題は、花本さんの名前についてだった。訓練が始まる前の自己紹介で聞いた花本さんの名前。もしかしたら、昔聞いたことがあるのかもしれない。
「そうだよ。……実はね、昔は女の子っぽいこの名前が苦手だったんだ」
「でも……良い名前だって誉めてくれた人たちが居たんだ」
へぇ、誰が──
「それが君たちのご両親。安芸先輩達だったんだ……。」
「父さん達が…………僕も花本さんの名前、良いと思います。」
「ありがとう優樹君。君も、そんな人たちが付けてくれた名前を大事にしてあげてくれ」
「はい」
僕は、この名前が好きだ。まだ父さんたちが生きていた頃に……物心がついたばかりだったと思うけど、これだけはちゃんと覚えているんだ。僕の名前の由来を。
優しい子に育つようにと願いを込め、神樹様から頂いた樹という文字を合わせて『優樹』。でもまさか……父さん達が死ぬなんて思いもしなかったけど……。
「あの、花本さん……」
「うん?」
僕はふと疑問に思った。
「僕、父さん達が亡くなってからしばらくの記憶が無いんですが、その間に何かあったんですか?」
一部の記憶が欠如しているのは何故かと。もしかしたら辛い事を忘れる為に記憶に蓋をしたのかもしれない。でも……父さんと母さんがもう居ないって事はしっかりと覚えている。
僕が尋ねると、花本さんは一瞬悲しそうな表情をした。
「…………ごめんね。その事は、まだ伝えられないんだ。それは君のためであり……真鈴さんとの約束でもあるんだ……」
「姉さんとの……?」
僕のためでもある……?それに……姉さんも……。なら、聞くべきでは無いのだろう。
「……姉さんが関わっているのなら、相当大切なんでしょう……。今は聞かないでおきます」
「……すまない」
僕のせいで空気が重い……ここは、何か別の話題を……
「……今日の訓練なんですが、花本さんとしては、どうでしたか」
花本さんは姉さんと一緒に僕たちの訓練を見ていた。何かアドバイスとかがあれば聞いておきたい。
「そうですね……。私から言うならば……優樹君の動きが気になりました」
「僕……ですか?」
「そう。君の役割は大鎌による斬撃だけでなく、その斬撃を飛ばす事による中衛が出来ます。三ノ輪さん程の火力ではなくとも、溜める事で威力が増す一撃も魅力的です。しかし、溜めたり斬撃を飛ばすまで、若干の遅れを感じました」
花本さんの意見を僕は真剣に聞いた。遊撃という形で動いていたが、こう動く事も出来るという事を理解すると同時に己の欠点を指摘された。
「遅れ……ですか?」
「ええ。君は溜めをする時、イメージをしてるでしょう?」
「そう……ですね」
僕が斬撃を飛ばす時や溜める際にはイメージを大事にしている。特に威力を上げる為には、飛ばさずに溜める必要があるからそこでイメージする事がある。
「では、そのイメージを感覚で出せるようにする事を目指しましょう。こうすると考えた時には、いつでも撃てるようなイメージです」
「なるほど……。」
感覚……。確かに僕は直感で動くことがある。それと同じことを……
「わかりました、明日から試してみます」
「うん、私は君たちのように戦えるわけではないから……ただ頑張れとしか言えないけど…………どうか、この世界を守ってくれ」
僕は静かに頷いた。
「では、僕はそろそろ」
「そうですか、私はもう少し入っていますね」
「はい、ではお先に」
僕は湯船から上がり、浴場へと足を運んだ。
◆◇
「さて諸君。合宿初日、男一人に女三人 これから何をするかわかるかね?」
「知らないよ。というかなんで僕呼ばれたんだよ」
温泉から上がり、寝巻きに着替え部屋へ戻ろうとした時、丁度上がってきた銀に襟首掴まれ、銀達の部屋まで連れてこられた。解せぬ……。
「いやあね………………好きな人の言い合いっこしようよ」
「帰る」
「えぇ〜?あっきー帰っちゃうの〜?」
「……僕、居ない方が良いだろ。ねえ、須美」
「えっ!?わ、私は……」
こういうのって女の子同士でするものじゃないの?知らないけど……。
「良いだろ〜別に?減るもんじゃないしさ〜」
「み、三ノ輪さん……何もそこまで……」
「まあまあ旦那、ちょっと付き合ってくださいよ〜」
「誰が旦那だ誰が……」
銀は一体何目線なんだ……。
とはいえ、逃げようにも逃げられない状況である。無理に逃げて親睦を深めるという目的に水を刺すのもどうかと思うし。
「……わかったよ。それでなんだっけ?好きな人?」
「そうそう。そうこなくっちゃ」
僕の好きな人……うーん……
「姉さん」
「おいおい、安芸先生はずるいだろ〜」
「そう言われてもね……僕が話せる同級生なんて銀たちくらいだし……それに姉さんが好きなのは本当の事だし」
「そんじゃ銀は?」
まあ、わかってるけど
「アタシか?あえて言うなら、弟とか?」
「おあいこじゃん。須美は?」
「私も居ないわ。乃木さんは?」
そういえば最近、鉄男と金太郎に会ってないな──
「ふっふっふっ……居るよ〜」
「何!?」
「だ、だれ?クラスの人……?」
園子にそんな人が居たのか……!?
「それはね〜わっしーとミノさんとあっきー!」
「まあそうなるわよね……」
「これで良いのかねぇ」
「これで良いでしょ。それより、僕は帰るよ」
なんとか話を切り上げ、僕は抜け出した。
明日も早いからね。それに……眠い。
「ただいま戻りました……っと、花本さん居ないのか」
僕が泊まっている部屋は、花本さんと同部屋だ。でも今は居ないみたいだ。
「それじゃ……おやすみなさい」
明日も訓練だったり勉強だったりと大変だ。頑張ろう。
来週は確実に遅れます……。それ以降は忙しくなるかわからなくなってきました。ですが遅れるとしても目標は当日中に投稿する事です。次回は合宿の続きです。余談ですが、もしも優樹君の大鎌の柄に刀を仕込んでいたら『抜剣!』って言わせてたかもしれないです。でも海での合宿や特訓からそれやったらまんまシンフォギアGXのイグナイトなので没にしました。
「僕は……不死身だ」は仮面ライダーアギトのギルスから引用しました。