ピンポン!
『はーい』
チャイムの音と共にドタドタと二つの足音が聞こえてくる。
「優樹、よく来たな」
扉が開き、銀が顔を出した。
「こんにちは銀、はいこれ、つまらないものだけど」
僕は手に持ってた袋を銀に手渡した。
「いつも悪いねぇ優樹」
「気にしないで、むしろこれくらい──」
「ゆうき兄ちゃん!」
銀の後ろから、小柄な少年がヒョコッと顔を出した。
「鉄男、久しぶりだね。」
「うん!」
久々に会った銀の弟とである鉄男の頭を撫でてやった。
ここ最近……特に勇者としてのお役目が始まってからは、鉄男達に顔を見せに来ることが減っていたから、なんだか新鮮に感じるな……。
「そういえば、おじさん達は?」
「仕事」
お役目が始まってから大赦は忙しくなったと聞いてはいたが……ご苦労様です……。
「まぁ、優樹が来る事は伝えてあるし、今日は早く帰ってくるみたいだから」
「そうなんだ」
銀に促され、居間へ案内された。ここには何回か足を踏み入れているけど、友達の家というのは何故か気まずく感じてしまう。
「ゆうき兄ちゃん、ひさしぶりだね」
「うん。ごめんね、中々来れなくて」
僕が軽く頭を下げると、鉄男は首を横に振って言った。
「ううん、お役目なんでしょ?お姉ちゃんが大変だって言ってたもん」
姉さん曰く──勇者のお役目の内容を知っているのは、大赦の中でも上の方に当たる神官と巫女、そして勇者を排出した家の人らしい。ただ須美に関しては鷲尾家の養子に出ている為、元の家の方はよくわからない。勇者を排出した家の人……要するに両親や保護者に当たる人たちだ。まだ子供の鉄男には、お役目が大変という事しか伝えていないようだ。
「まぁ、ね」
鉄男の言葉に、少し考えてしまった。
僕たちが樹海で戦う時は全ての時間が止まり、終われば動き出す。それは勇者で無い人たちにとっては一瞬に感じる事だけど────
「優樹、辛気臭い顔してどうしたんだ?悩み事ならアタシが聞くぞ?」
「銀」
「はい、お茶」
「ありがとう」
銀から差し出されたお茶を一口飲む。よく冷えてて美味しい。
「悩み、ね。強いて言えば……僕の夢の事かな」
お役目の事は、鉄男も居るこの場では話せない事もある。だから僕は誤魔化すようにこの話題を切り出した。
「夢?それって、この前園子の家で言ってたやつのことか?」
「そうそう、あの時は誤魔化しちゃったけどね……」
銀のお嫁さんの夢を聞いた後、まだ語ってない僕にも回ってきたのだが、その時は適当に誤魔化してしまった。今思えば、僕は夢が無い事が怖かったのかもしれない。
「実はね、僕には夢ってものが無いんだ。」
僕がそう言うと、銀と鉄男はとても驚いていた。
「そ、そうなのか……」
「うん……なんと言うか……わからないんだ。夢と言っても、この前聞いた銀みたいな願いなのか、園子や須美みたいに将来の職業なのかが──」
「ゆうき兄ちゃん、それって本当なの?」
「鉄男……」
口を挟んだ鉄男の言葉に僕は困ったように鉄男の名前を呼んだ。
「ゆうき兄ちゃん、前に大好きなお姉ちゃんがいるって言ってたじゃん」
「っ……」
その時、僕の脳裏に浮かんだのは、姉さんの顔だった。姉さんは……父さん達が死んじゃってから、とても忙しくしていたけど……僕にとってはいつでも優しい姉さんだった……。
「姉さん……か」
「優樹、夢っていうのは、なんでも良いんだ。どんな事でも、叶えたい事とかさ」
「銀……」
銀の言葉で僕は友達の顔が思い浮かべた。僕の数少ない友達の園子、須美そして銀。お役目をきっかけに話すようになったクラスメイトの皆 いろんな人が浮かんだ。
鉄男の言葉に、僕は姉さんの事を思い出した。
すると、何かが降りてくるように浮かび上がった。それは夢なんて大層なものでは無いのかもしれない。夢とは違うのだろうけど、それでも僕は──大切な人たちを守りたい。
「銀、ありがとう」
僕が軽く頭を下げると、銀は微笑みを浮かべた。
「うん、ようやく笑顔を見せたな」
僕は──姉さんを、友達を、この何気ない日常を守りたい
だから僕は戦ったんだ。その為にお役目を果たしているんだ。
「鉄男もありがとう」
二人と話したら、なんだか胸がすっきりした気がする。
「えへへ、ゆうき兄ちゃんが笑った!」
「ああ、二人のおかげだぞ〜」
「えへへ……!」
「ちょっ……ちょっと優樹!?」
僕はそのまま、
「お、おい……!」
すると、僕の右手をグッと掴まれた。ハッとして前を見ると…………顔を赤面させた銀が……
「ご、ごめ──」
「おぎゃー!」
「っ!金太郎起きちゃったか、悪い、ちょっと行ってくる!」
銀はそのまま隣の部屋に小走りしていった。居間には僕と鉄男が取り残されている。
「……やってしまった……。」
「兄ちゃん、なにをやったの?」
「気にしないで……」
今だけは鉄男の顔もマトモに見れないな……。
「ゆうき兄ちゃんってさ」
「うん?」
「お姉ちゃんこと、好き?」
!!?
「なっ……!?いや、ちょっと待って…………鉄男、お姉ちゃんってのは、もしかして銀の事?」
一瞬吹き出しそうになったが、なんとか堪えた……。お姉ちゃんというのは、もしかしたら姉さんかもしれないからね……決めつけるのは──
「うん!」
鉄男の言うお姉ちゃんというのは、銀の事だった。
「そっかぁ……まあ、銀の事は好きだよ」
もちろんそれは、友達としてという意味であるが。
恋愛に関して、僕はよくわからない。今の僕にとって誰かを好きになるというのは、友達として、家族としてという意味合いになるのだ。
「鉄男は、銀の事好きかい?」
僕も同じ質問を返してみた。
「うん、大好き!」
そう言って笑う鉄男の顔は銀にそっくりで、やはりこの子は銀の弟だと改めて思った。
◆◇
「じゃあ、僕はこれで」
「またね優樹」
「ゆうき兄ちゃん、また遊びにきてね!」
「うん、またその内」
夕方になり、銀と鉄男それから今は眠っている金太郎に別れの挨拶をした。
「ああそうだ。……鉄男、お姉ちゃんと弟を守ってやるんだぞ?」
「わかったよゆうき兄ちゃん!」
「それじゃ」
鉄男の返事を聞くと、僕は手を振りながら三ノ輪家を後にした。
◆◇
ピロン
「ん、須美からか」
端末にメッセージの通知が来た。内容は……
須美『皆、今日は何をしてるの?』
銀『家族とお買い物』
園子『おさんぽ〜』
優樹『買い物に行くとこ』
みんなそれぞれの休日を過ごしてるな。銀は多分イネスだろう。それなら多分どこかで出会うだろう。
須美『銀と優樹君はお疲れ様、そのっちは道に迷ったら自分の名前を連呼するのよ』
いくらボーッとしてる園子でも大丈夫でしょ──
園子『乃木園子です』
園子『乃木園子です』
園子『乃木園子です』
もう迷子になってた!?
須美『そのっちそこを動かないで!』
優樹『園子場所教えて!すぐ向かう!』
園子から送られた場所を見て、僕は走り出した。僕が間に合わなくても須美も向かっているはずだけど……急ごう!
◆◇
「園子!」
「あっきーだ〜」
「良かった……もしも見つけられなかったらどうしようかと思ったよ」
幸いにも、園子が居たのは割と近くだった。須美と銀には連絡済みだ。
「それにしても……なんで知らないとこに居るんだよ……」
「う〜ん?いろんなところを見て回っていて、気づいたらここにいたの〜」
「そうなんだ……まあ、園子が無事で良かったよ」
本当に……良かった。
「そのっち!優樹君!」
僕たちの後ろから、知ってる声が聞こえてきた。
「須美!」
「わっしー!」
「ハァッ……ハァッ……よう、やく、たどり着いたわね……」
どうやらここまで走ってきたらしく、肩で息をしている。
「須美、とりあえず深呼吸……」
そう促すと、須美は2回3回と深呼吸を繰り返した。
徐々に息が整ってきたのか、安堵の表情を見せていた。
「もう、心配したのよ?」
「えへへ〜ごめんね、わっしー」
「もう……でも、優樹君が見つけてくれて本当に良かったわ」
「園子も見つかった事けど、この後どうする?」
僕はこのままイネスに買い物へ行く予定だ。
「せっかく集まったんだから、イネス行こうよ〜!」
「そうね、優樹君が良ければ、一緒に行きましょ」
「良いよ、ちょうど用事もあった事だし」
銀に会えるかはさておき、僕たちはイネスに向かう事になった。まあ、ここからイネスまではそう遠くはないだろう。
◆◇
「おっ、園子は無事捕獲されたか」
「捕獲って……」
「こんにちは銀」
「イェーイ、ミノさん!あっきーに捕まったんだぜ〜」
園子の言い方に語弊がある気がするんだけど……まあいいや。
イネスに到着した僕たちは、偶然にも三ノ輪家と出会うことが出来た。メッセージでも言ってた通り、銀は家族で買い物に来てたのだが、おじさんが銀にせっかくだからと促し、今日はそれぞれ別行動だと思われた休日だったが、4人勢揃いする事になった。
◆◇
「ねぇねぇミノさん、あっきー」
「ん?」
「どうしたの園子?」
フードコートでジェラートを食べていると、園子が懐からメモを取り出した。
「この前私のお家に遊びに来た時に、今度ミノさんとあっきーで小説書かせてーって伝えたじゃん?」
「そうだね……」
「まさか、今からやれと……?」
銀との言葉がまるで阿吽の呼吸のように繋がった。
「そのうち協力して欲しいな〜」
「ちなみにね〜わっしーも考えてるよ?」
「わ、私も!?」
須美は想定していなかったみたいで、とても驚いていた。
……どんな格好させられるんだろう……もう、女装だけはしないぞ…………。
◆◇
「はぁー、長かったと思ってたお休みも、これでおしまいか〜」
銀のため息混じりの声が響き渡った。そっか、今日でお休みは終わりなんだ。明日からはまた、厳戒体制に戻っちゃうんだ。
「私、こんな風に友達と過ごしたのは初めてだったけれど、とても楽しかったわ」
「私も私も〜」
須美と園子が賛同した。
「あっきーはどうだった?」
この休みがどうだった……か。そんなの決まっている。
「もちろんだよ、僕も楽しい毎日だったさ」
こんなに楽しかったのは……いつぶりだったろうか……
「……次の戦いはいつ来るかわからないけど、誰も欠けずに帰ろう」
「うん」
「ええ」
「ああ」
絶対に……生き残るんだ……。
「あっ、私だけこっちか」
分かれ道に辿り着き、銀だけが別の方向だった。
「いや、僕も途中まで行くよ。途中で花本さんと会うんだ」
今日は花本さんに夕食に招かれていた。家の場所は大体聞いてるので、そこに向かうだけだ。
「そうなんだ、じゃあ途中まで一緒だな」
「そうだね。じゃあ、僕たちはここで」
いつものように、別れの一言を告げる。
『
偶然にも、言葉が被った。僕たちはハモった事に少し笑い、須美達に背を向けた────?
「す、須美……?」
引っ張られるような感覚に後ろを振り向くと、須美が僕の右手を掴んでいた。
「……あっ、ご、ごめんなさい……なんだか、急に……」
「いや、気にしないでよ」
「あっ、さては須美、お休みが終わっちゃうのが惜しいんだろう、わかるぞその気持ち」
「明日からまたお役目だもんね〜」
「うん、明日からまた……頑張ろう」
四人で片手を差し出して、僕、銀、園子そして須美の順で合わせた。
「頑張ろう!」
『おう!』
今度こそ、解散となった。
◆◇
「なあ、優樹?」
「うん?」
「……ごめん、やっぱなんでもない」
「銀?」
一瞬、表情が曇った気がしたけれど……多分、気のせいか。
「じゃあ、アタシはここだから」
「うん、またね」
大切な友達に手を振り、僕は銀と別れた。
「──綺麗な夕焼けだなぁ」
本当に──綺麗だ。僕たちがバーテックスを倒せずに神樹様に辿り着かれたら……この空も見れなくなってしまう。
「そんな事は……絶対にさせない」
たとえ僕の命が終わるとしても……銀達は絶対に守るんだ……。
【次回予告】
優樹ってさ、あと3人の誰が好きなんだ?
帰るまでが遠足だもんね
銀……二人を頼んだよ
──またね
其の捌 ありったけ