「……お、おはようございます、お嬢様」
「おはよう……今日の予定を教えてもらっても良いかしら」
「はい、本日は──」
何故、僕と銀はこんな事をしているのか。それは……園子が以前言っていた小説を作るための協力だったが…………
「良いよ〜二人とも〜!執事とお嬢様という禁断の恋がどんどん浮かびあがってくるんよ〜!」
そう、僕が園子に渡されたのは執事服である。そして銀はまさにお嬢様という感じの綺麗な服装だった。
「そ、園子……この格好落ち着かないんだけど……!」
銀の抗議はどこ吹く風、園子は目を輝かせながらメモを取っている。僕はもう諦めたよ……だって女装よりは遥かにマシなんだもん……。
「じゃあ、次のシーン行くよ〜」
「え、えぇ……!?」
それから僕と銀は執事とお嬢様のシーンをいくつか披露した。と言っても、園子の求める描写を僕たちが再現するというものだった……。
「こんなもんで良くない……?」
「そうだよ園子ー……そろそろ須美にも──」
「うん!じゃあ、次はわっしー!」
「えっ!?」
須美、僕たちもやったんだ……頑張って……
「それでわっしーの相手なんだけど〜私がやります!」
「そのっちが!?」
ほう、銀を指名すると思ったけど、園子自らやるのか……
「銀、お疲れ様」
「優樹もお疲れ」
僕たちはお互いを労い、須美と園子のモデルを鑑賞させてもらった。
でもねぇ……まさか女の子同士の──
「優樹君!!」
この事は忘れよう……。
◆◇
「そういえば4体目中々来ないね」
「そうだな〜もうすぐ遠足だし、来ないでほしいねぇ……」
「街を離れても大丈夫なのかしら……?」
「まあ、勇者になれば大橋まであっという間だよ」
「そうそう、気にしてばかりいたら、何も楽しめないぞ」
「一理あるわね……」
神樹館では、毎年この時期くらいに遠足が計画されている。ただ、須美の言うように大橋からはかなり離れている場所の為、いざ事が起きたら僕たちは急いで向かう必要があるが……神樹様がなんとかしてくれる気もする。
「まあでも、いざとなったらこの勇者•銀様がなんとからするからさ!」
そう言って銀は歯を見せながら笑みを浮かべた。
「そうだね、銀は強いから」
「ミノさんカッコいい〜!」
「そうね、私たち4人ならきっと大丈夫ね」
「それなら……」
須美がどこからともなく、4冊の本……らしきものをドン!と机の上に置いた。なんだこれ……?
「なにこれ」
「見ての通り遠足のしおりよ!」
しおりかぁ……でもしおりってこんな分厚いモノだったっけ……?
「ちなみにデータ版は三人の端末に送っておいたから」
「この量をデータで……!?」
僕は考える事を放棄した。
「ふふっ……張り切って夜更かししちゃったわ」
さいですか……
「わっしーは凝り性だよね〜」
「将来、須美の旦那になるやつは苦労しそうだよなぁ。優樹、頑張れよ」
「なんでそんな話になるのよ……」
「えぇ……」
いろいろ言いたいところだけど、具体的に突っ込むのは辞めておこう……なんだか藪蛇になる気もするし……
「わっしーとあっきーならお似合いだと思うよ〜」
「園子まで……」
「と、とにかく!これを活用して遠足の準備を終わらせておきましょう。遅れたらお灸よ」
お灸て……初めて見たけど、そんなものどこに売ってるんだろう
「それ、どこに売ってるの……?」
「イネスよ」
「イネスかぁ」
万能だね、イネス
◆◇
「優樹、明日の準備は大丈夫かしら?」
「もちろん、準備万端だよ」
「そう、私は明日早いから、寝坊には気をつけてね」
「わかったよ姉さん」
夜も遅いのに朝も早い……本当に大変だな、姉さんは……。
「おやすみなさい、姉さん」
「ええ、おやすみ優樹」
◆◇
「ほいほいほいっと」
「おー」
「あ、安芸……なんでそんなスッと行けるんだよ……!?」
遠足の行き先であるアスレチックコースで怯えるような声を発しているのは、クラスメイトの一人である沢井君だ。
「沢井君、落ち着いてけば大丈夫だよ!」
沢井君が苦戦しているのはタイヤのコースだ。このコースはぶら下げられたタイヤがいくつもあるのだが、普通に潜ろうとすれば揺れるのでそれで中々渡れないらしい。
僕たちの前に通り抜けた園子も苦戦していた。いや……園子の場合は自分の想像力で怖がっていた、が正しいのかも……。
「お、おお……落ち着いて……だよな……」
沢井君はゆっくりとだが進んでいる。
「そうそう!その調子だよ!」
「う、うん!」
そうしてそのまま沢井君はタイヤをくぐり抜けた。
「おぉ……行けた」
「お疲れ様」
「ありがとう安芸!」
僕らはハイタッチを交わした。
「優樹で良いよ、安芸だと姉さん……先生と被るし」
僕を安芸と呼ぶ人はそこそこいる。どちらでも良いんだけど、姉さんと一緒にいる時に同時に反応しちゃう事もあるから名前で呼ばれる方がありがたかったりする。だから今みたいに名前で呼ぶようにお願いしたりもする。
「わかった。改めてありがとう、優樹!」
「うん!」
「じゃあさ、俺の事も名前で呼んでくれよ」
「えっ?」
「俺の事、
「わかった……光輝!」
「ありがとな。俺たちあんま話した事無いかもしれないけどさ、俺なんかで良ければ友達になってくれないか?」
その提案に僕は頷いた。
「……うん、僕なんかで良ければ!」
今日この日、僕に新しい友達が出来た。
「ありがとうな、前から話してみたいとは思ってたんだけどなぁ、優樹っていつも三ノ輪達と一緒だったからさ」
「あはは……銀達も友達だからね」
あぁ……割とそんな気はしてたけど、やっぱりそうだったのか……。僕はお役目の事やただ友達と過ごしたいという思いから須美や銀に園子と過ごす事が多かったけど、そのせいで友達や交流のあるクラスメイト少なかったのか……。
「うんうん、友達は大事だからな。あっ、そういえば優樹に聞きたい事があったんだ」
「聞きたい事?お役目の事はダメだよ?」
「そっちも気になるけど、それはヤバそうだから良いよ。それより聞きたい事があったんだ」
「優樹ってさ、あの3人の誰が好きなんだ?」
「…………なんでまた」
今までにも何度か聞かれた質問に僕は一瞬ため息をつきそうになった。
「やっぱ気になるじゃん」
「……何度か聞かれてるから同じ解答だけどさ……僕は須美達の事は大切な友達だと思ってるよ。そこにみんなの考えてる好きって感情は多分無いよ」
「そうなのか、いやごめん。気になっちゃって、つい……な」
「いいけど……あまり変な事言わないでね。銀達に迷惑かけちゃうから」
僕だけならまだ良い。でも……須美達には、ね。そして僕が好きなのは姉さんだよ。
◆◇
その後もアスレチックを進み、途中で銀が調子に乗って怪我をしそうになる等のアクシデントはあったものの、なんとか無事にお昼の時間を迎えた。
昼食はアスレチックコースの広場にに備え付けられた鉄板を用いた焼きそばだ。
「く〜!これ絶対美味しいやつ!絶対美味しいやつだ!」
「ミノさん上手だね〜」
「まあな、家でいつも手伝ってるからな」
「そういえば、優樹君の方はどうなのかしら?」
普段、家での家事を手伝っている銀と須美に実質一人で家事をしている優樹が焼きそばを作り、そうでない園子とは三人の手伝いに回っている。
「優樹なら大丈夫だろ、家事は慣れてるはずだし」
「うんうん、あっきーの手料理はとっても美味しいんだよ〜」
須美以外の二人には特に心配など無用のようだ。
「大丈夫、焦がすような真似はしないから」
「そ、そのっち……肩のところにカブトムシが留まってるわよ……!?」
「わっしー、虫苦手なんだっけ?」
須美がカブトムシをくっ付けた園子から距離を取った。
「ちょ、ちょっとだけ……」
「大丈夫! 直ぐに仲良くなれるから」
「そうかし……ら……!?」
園子から一瞬目線を切り再びそちらに目線をやると、園子の全身にびっしりとカブトムシに覆われ、園子自身がカブトムシのようになっていた。
「──!!」
「わっ、須美!?」
声にならない悲鳴を上げた須美が銀の後ろへ回り込んで震えていた。
◆◇
「美味い!カブト味!」
「入ってないから!」
「カブトというより……セミっぽくない?」
「優樹君!?」
「冗談だよ」
「美味しいね〜」
珍しく優樹も冗談を飛ばしながら、焼きそばに舌鼓を打っている。
「うーん……」
「どうしたんだよ園子?何か苦手なモノ入ってたか?」
「だって、3人共料理出来るのに私だけ……」
「焼きそばくらい、簡単に作れるわよ」
「そうそう。昔、僕が作った時だってそうだったじゃん」
「そうだったけど……う~ん…………そうだ、ミノさんにわっしーにあっきー。今度の日曜に焼きそばの作り方教えて!あっきーの家で!」
「僕の家!?まあ、いいけど」
姉さん次第だけど、まぁ大丈夫だろう。
「アタシもいいよ。この銀様が美味しい焼きそばの作り方を伝授してしんぜよう」
そんなわけで次の日曜日の予定が確定した。それはそれとして──
「──姉さん、何故ピーマンを残そうとしてるんだい」
「ゆ、優樹……!も、もちろん食べるわよ!」
姉さん……この前もピーマン残してたの、僕はちゃんと知ってるんだからね…………。
◆◇
「わぁ!!綺麗!!」
アスレチックコースを乗り越えた先にある展望台に登ると、そこには広大な景色が広がっていた。
「なあ、須美!アタシ達の街ってあっちかな?」
「ええ、あっちで合ってるわよ」
綺麗な青空の下に広がる街 もしかしたら学校までも見えるかもしれない。
「大橋やイネスは流石に見えないか」
「銀ってば、本当にイネスが好きだね」
「イネスは良いぞ!なんたって──」
『中に公民館まであるんだから』
三人で銀の次の言葉を先取りした。
「うっ……完全に読まれてるな」
「いつも言ってたからね、銀のイネスへの愛を感じていたんだよ」
「なんだよそれ」
銀の返す言葉に僕は、あははと笑う。
「実はね、私ミノさんの事、初めは苦手だったんだ」
「うおい!なんだよいきなり!泣くぞ」
「実は私も」
「須美も!?」
「ごめん、僕も」
「優樹まで……!」
「ミノさんはスポーツが出来て明るくて、なんだか種族が違う気がして」
「でも話してみたらこんなに良い人なんだって」
「わっしーやあっきーも良いキャラしてるし」
「私はキャラなの!?」
「僕もキャラなの……!?」
良いキャラってなんだよ……
「確かに。一度話してみないとわからないよな、こういうのは」
「まあ、気に入ってもらえたのなら嬉しいよ。須美、園子、優樹」
銀が右手を差し出した。
「これからも友達として、よろしくな」
そうして各々の右手を差し出し、合わせた。
「こちらこそ」
「もちろんだよミノさん」
「僕の方こそ」
◆◇
遠足は無事に終わり、それぞれが帰路に着く──はずだった。
帰り道の中──世界の時が止まった。
「せっかく楽しい遠足だったのに」
「帰るまでが遠足だもんね」
「でも終わってから来ただけマジじゃん?」
──鳴り響く鈴の音は……戦闘開始の合図だ。でも……今の僕には、なんだか不穏な予感がした。
◆◇
今回の敵が姿を現した。
「二体……!?」
「そう来たか……」
「複数の襲来は初めてだね……」
「落ち着いて……!二体だろうが私たちが力を合わせればへっちゃらよ!」
現れたのは……今までには無かった二体のバーテックス
一体は細長く赤い身体を六枚の盾のような板で覆われ、先には巨大な鋏を持つ蟹のようなバーテックス
そしてもう一体は複数の球体が細長くくっ付いており、最先端には針のようなものを宿す蠍のようなバーテックスだ。
「私とあっきーであの黄色いのを相手するから!ミノさんはあの赤いやつをお願い!わっしーは援護を!」
『了解!!』
園子の指示と共に、僕と園子そして銀は飛び出した。
「おわっ!」
銀が相手をするバーテックスは、盾を一枚、銀を押し潰そうとするように叩きつけるが、銀はそれを斧で防いだ。
「わかりやすい敵だな!アタシ向きだ!」
そう言いながら銀はタイミングを合わせて盾を弾いた。それと同時、敵の胴体に矢が刺さり爆ぜた。
「ナイス須美!シンプルでアタシ向きだけどかなり硬いぞ!」
硬い相手となると僕は厳しいかもしれないな……早くコイツを倒して合流しなければ
蠍のようなバーテックスは身体の先にある針で僕たち目掛け振り下ろされたが──
「わっ!」
「園子!」
園子が槍の傘を開きそれを防ぎ、僕は避けながら斬撃を飛ばした。
「この針に当たったら危険な気がする……」
もしもコイツが蠍ならば……恐らくは毒を持っている。絶対に避けなければ……
「僕の斬撃は……飛ぶだけじゃないんだよ!」
攻撃を避けながら接近し、大鎌で切り付ける。
「優樹君!そのっち!」
「よっと!」
須美の声に従い横に飛ぶと、矢が刺さり爆ぜた。そしてそのまま園子の槍が突き刺さった。
「もう一丁!もらっとけ!」
そして今度は遠距離攻撃だ。
「優勢だね……このまま行けば、僕たちは勝て──!?」
悪寒を感じた刹那、僕は咄嗟に前に出た。
「っ!?そのっち!」
嫌な予感というものは当たるものなのか……空から無数のオレンジ色の矢が僕たち目掛け降り注いだ。
「わっしー!ミノさん!」
園子は咄嗟の判断で傘を開き、矢を防ぐ。そして銀と須美はその中へ避難して矢をやり過ごしていた。
「なんだよ……これ……」
「皆──っ!!」
ガン!という音と共に僕は何かに弾き飛ばされた。
間に大鎌で防いだものの……いかんせん細い柄だ。盾になどなるはずがなく、僕は後方へぶっ飛ばされた。
「ガハッ!」
「優樹!」
「あっきー!」
「優樹君!」
樹海の壁に叩きつけられ、一瞬意識が真っ暗になったものの……痛みですぐに意識は覚醒した。
そして次に見た光景は────バーテックスの攻撃によって空中に弾き飛ばされた須美と園子だった……。
「須美……!園子……!」
須美と園子は空中で抵抗も出来ず、血を吐きながら地面に叩きつけられた。
「がっ……」
「ぐっ……ぅぅ……」
「銀!」
「わかってる!」
僕は痛む体を動かしながら須美を、銀は園子を抱え、後ろへ離脱した。
「今のは……」
「どうやら三体目がいたみたいだ……」
「不意打ちって訳か……」
「そうだな……」
あの三体の敵によって……僕の大切な友達は傷つけられた
ある程度の距離を取ると、三体のバーテックスは神樹様へ向けて進み出した。もう、時間は無い。
「銀……須美と園子をお願いしてもいい?」
「はっ……!?アタシのが防御力があるし、何より優樹だってダメージが──」
「銀!!」
銀の肩がビクンと跳ねた。大声で怒鳴るように誰かの名前を呼んだのは僕にとっては初めての事だった。それも……友達に対してだ……。そんな事はしたくない。だけど……今だけは譲れなかった。
「怒鳴ってごめん。僕じゃ二人を守り切れる保証は無いんだ……。悔しいけど、僕は銀みたいに防御力があるわけじゃないんだ。だから……頼む……」
銀は静かに頷いた。そして、僕は須美を銀に預けた。
「絶対に戻る!だからそれまで!絶対に死ぬんじゃないぞ!!」
「銀……二人を頼んだよ」
銀の声が徐々に小さく聞こえる。僕は銀達に背を向け、呟いた。
「──またね」
まさか……花本さんが想定した事が現実になるとは……。とは言っても流石に三体は予想外だったけど。
たとえ僕が死ぬとしても…………アイツらは絶対に倒す。
友達を傷つけたアイツらは……絶対に許さない。
「決死の覚悟とありったけの僕をぶつけるんだ……」
僕は樹海の地面を踏み込み、バーテックス達を追い越さんばかりに走り出した。
【次回予告】
ここから先は……通さない!!
これが人間様の!!気合いと!!根性と!!魂ってやつよ!!
生きるのを諦めるな!!
其の玖 たましい