「四人とも、ちょっと良いかしら?」
姉さんに呼ばれて着いて行くと、各自のスマホを出すように言われた。
『アップデート?』
疑問の声が揃って響いた
姉さんの説明を聞くと、どうやら僕たちの使う勇者システムがアップデートされるそうだ。
「大赦はこの前の優樹の件から、このままでは勇者の損失に繋がる可能性を重く受け止め、システムを改良する事にしたの」
「改良……それって今のシステムと何が変わるの?」
僕はアップデートの事に質問した。すると姉さんが徐に説明を始めた。
「そうね、まずはあなた達の装備が新しくなるわ」
「新装備……」
そういえば……銀の斧は先の戦闘でヒビが入ってたけど……新しくされるのか。
「ええ、そして旧世紀に使われていた切り札──
「せいれい!?それって、うらめしやーって出てくるあの……!?」
「そのっち、それは幽霊よ」
精霊と幽霊……似ているような……似ているか……?
そんな事を考えながら、須美と園子のやり取りを聞いていた。どうやら須美は虫は苦手だが幽霊は大丈夫みたいだ。銀もそれに乗って怪談みたいな話をしようとしてたけど、姉さんの咳払いでそれは止まった。
「詳しく説明するのは難しいから、システムの強化を待ってちょうだいね」
◆◇
「勇者の新しい力……」
私はいつものように井戸水で身を清めながら、安芸先生の言葉を思い出していた。
優樹君が病院に運ばれてからバーテックスの襲撃は
大切なともだちが傷つく姿なんて、もう見たくない。自分の事を責める銀も……そのっちの涙も……傷だらけの優樹君も……。
その為にも……もっと強くならなくてはいけないわ。
◆◇
「ねぇねぇミノさん」
「なんだい園子さんや」
園子の家で出されたお茶を飲みながら園子の話を聞こうとすると──
「ミノさんって、あっきーの事、好き?」
「ブフッ!?」
アタシは思わずお茶を吹き出した。
「わっ!」
「ご、ごめん園子!今、拭くから!」
「それは大丈夫だよ〜」
アタシがお茶を吹き出した跡を拭く為にハンカチを出そうとすると、すぐさま使用人さんが出てきた。
「ごめんな園子……」
「ううん、大丈夫〜それでミノさん、あっきーとはどうなの?」
「そ、それはどういう意味だよ……!?」
疑問を投げると同時、アタシは自分の顔が少し熱くなるのを感じた。
「最近のミノさん、あっきーと距離が近くなった気がするんよ〜」
「っ……」
園子の言う通り、最近は特にそうだったかもしれない…。あの戦いで優樹はアタシを庇って死にかけた。結果的に優樹は生きているが、アタシはあの時の光景を忘れられなかった……。もしあのとき、アタシが矢を飛ばすやつを相手していれば、優樹が死にかけることも無かったかもしれない。あの大きな盾みたいなやつをもっと早く倒せれば良かったのだとかいろんな事を考えた。
優樹が病院へ運ばれたときは、本当にどうにかなりそうだった。
だから──優樹が目覚めたって聞いた時は、本当に驚いたし嬉しかった。最初は眠り続けてたせいで声がほとんど出てなかったし、起き上がることも辛そうだったけど、お見舞いに行くたびに元気になっていく優樹を見ていると、なんだか胸がいっぱいになる感じがした。
そのせいで助けてくれたお礼もまだ言えてないんだけどな……。逆に優樹から声をかけてくれてありがとうって、お礼を言われちゃったし。なんだかむず痒いよ。
正直、誰かを好きになるって事がわからないけど、もしアタシが優樹の事を好きだなんて思ってても……あの時のお礼を伝えられていないアタシにはそんな資格は無いさ。いやまあ、その事が無くても伝えるけどな。
「園子、もしかしたらそうなのかもしれないな。でも、今のアタシにはわかんないや」
「ほうほう、ミノさんはまだあっきーへの想いは自覚してないと……」
何かを呟きながら園子がメモを取っている……って!
「園子!アタシの言葉をメモにしてどうする気だよ!」
「小説の参考にするんだよ〜」
「勘弁してー!」
◆◇
「優樹君、お久しぶりです」
「花本さん!」
学校帰り、花本さんに出会った。最後に会ったのはいつだったか、本当に久しぶりだった。
「退院したと聞いてましたが……元気そうです何よりだ」
そう言って、花本さんはホッと胸を撫で下ろした。
花本さん……少し痩せた気がするな……もしそうなら、僕のせいで心配かけちゃったのかな……。
「すみません、心配かけちゃったみたいで……」
「気にしないでください、これもお役目ですから」
「それより、この後の予定は空いてるかい?」
「特に無いですけど……」
「それは良かった、君に会わせたい人が居てね。」
「僕に……ですか?」
会わせたい人……大赦の人かな?
「ええ、近くで待たせてるので行きましょうか」
「はい」
僕は花本さんと目的の場所へ向かった。
どうやら本当にすぐ近くだったらしく、花本さんが近くの駐車場に停められた車の窓をノックした。
「薫さん、その子が?」
「そうだ。この子が真鈴さんの弟の優樹君だ」
車から出てきたのは、姉さんと同い年くらいの男性だった。
「紹介するよ、彼は三好春信君。
「!?」
「あれ、まだ伝えてなかったのですか?」
「少々立て込んでいたんだ……」
「あぁ……。では、僕からも」
「初めまして、僕は三好春信。薫さんに代わって、君のサポート役を命ぜられました」
三好と名乗る青年が、僕に目線を合わせながら自己紹介をした。なら、僕も……
「初めまして……安芸優樹です」
初対面な事もあり、緊張するな……。
「優樹君、そんな固くならないでくれよ。とは言っても、初対面だから仕方ないか」
「花本さん……サポートが代わるってどういう事ですか……」
僕は花本さんに訴えかけた。
「……この後のことは、車の中で」
「はい……」
花本さんに促され三人で車に乗った。
「優樹君、私の職務は君たちのサポートです。しかし、本来は別の職務なんです」
花本さんが一呼吸吐くと共にゆっくりと語り出した。
「実は私、大赦では神官であり、技術班にも所属しているんです……」
「技術……」
それは……初めて聞いた。神官であるのは知っていたけど……
「技術班では、神樹様の恵みを使用して人々の生活を豊かにする為の方法を探したり、勇者システムの改良等に携わっているのです」
「勇者システムに……という事は……⁉︎」
「そう、今回の勇者システムの改良の為、私も呼び戻されることになりました。その為、新たなサポート役という事で、真鈴さんと歳が近くて優秀な春信君にご指名があったという訳だ」
「僕も大赦の中では結構上の立場なので勇者のお役目については知ってました。でも……まさかご指名が入るとは思いませんでしたよ」
「すまない、一番信頼できるのが君だったんだ」
「わかってます。それに妹に会えるかもと来れば、僕は一も二もなく飛びつきますから」
「妹さんがいるんですね」
僕が会話に入ると、三好さんは目を輝かせた。
「そうなんだよ!僕には君と同い歳の妹が居るんだよ!ただ今は訳あって会えてないんだけどね……とても可愛い妹なんだよ!」
「え、えぇ……」
三好さんの妹の話題になった途端、ギアが上がった……。僕は思わず気圧された。
「こら春信君、優樹君が困惑しているでしょう」
「あっ、すみません……妹の事になるとつい……」
「いえ、その気持ちわかります。僕も姉さんが大好きなので」
「そうか、君は安芸さんの弟だったね。大赦では君の話をよく聞いたもんだ」
「そ、そうなんですか……?」
姉さん、大赦ではどんな話をしたのだろうか……
「そうなんだよ。たとえば──」
それから僕は車の中で、大赦での姉さんの事を沢山聞かせてもらった。途中から花本さんも会話に加わってとても盛り上がった。
◆◇
「優樹君、準備はいいかい?」
「……はい」
「それじゃあ、行こうか」
「よろしくお願いします」
姉さんから、勇者システムのアップデートが完了したと報せがあった。
そして僕たちは大赦の本殿の最奥にある神樹様の元へご挨拶する為に大赦へ向かう事になった。
「新たな力を使用する為に神樹様の元へご挨拶……とは言っても……一体何をするんですかね……?」
三好さんが運転する車の中で僕は疑問を問うた。
そして僕の問いに三好さんは表情を変える事なく、淡々と答えを返してくれた。
「恐らく巫女の様に身を清め、神樹様の祀られている最奥へと赴くんだろうね」
「身を清める……それってやっぱり……滝垢離とかそういう……?」
「おや、知っていたのかい?」
「須美が日課で禊ぎをしていると聞いてたので……」
やっぱりそうか……そんな気はしてたけどやっぱり冷たい水に身体を打たれるのか……。はぁ……風邪引かないと良いなぁ……。
◆◇
「では優樹君、僕の案内はここまでです。車で待ってますから、終わったらそちらまで」
「わかりました、ありがとうございます」
三好さんと別れ、大赦の仮面を被った人達の案内に着いていった。ちなみに車内での三好さん曰く、須美達は既に済ませて神樹様の元だそうだ。
「っ……」
大赦の本殿に足を踏み入れると、空気が一変した。
話し声など聞こえる事なく、ただ目的の場所へ向かう足音だけが室内に響き渡っている。
やがて一つの扉にたどり着くと、ここから先は僕一人で入るよう促された。それに従い扉の先に足を踏み入れると、広がっていたのは滝と湖だった。
ここで身を清めるのか……。
事前に着るよう言われていた白装束のまま、僕は水に足を入れた。
「つっ……めた……」
水温は涼しくなりつつある気候に対応して低くなっていた。やがて全身が水に浸かると、あまりの冷たさに身体が震えた。これで滝に打たれるのか……。
なんとか我慢して滝垢離を終え水から上がると、新しい白装束を着せられた。そしてこの先が……神樹様が祀られている最奥……。
この先に……神樹様が……
「では、この先にお進みください」
巫女の人に促され、僕は扉を開いた。
「これが……神樹様……⁉︎」
目の前にあるのは、とても大きな御神木だった……。樹海の中で見た神樹様とは異なり、見た目はまるで普通の大木だが……近くにいると神々しさを感じる。
「優樹君」
「っ!須美、園子、銀」
声をかけられた方に身体を向けると、そこには僕と同じ白装束を纏った須美達が居た。
「四人の勇者様が揃われました。それでは、神樹様に触れてください。」
言われるがまま、神樹様に右手を当てると────
「──温かい……それになんだか……不思議な感じがする……」
まるで何かに包まれるような、神樹様に抱き込まれているような気がした。
『久し■■かげ■■』
「……?」
今、何か声が聞こえた気がしたけど、気のせいかな?
そうして神樹様へのご挨拶はつつがなく終了した。
そして──僕たちはそれぞれの端末を受け取った。
電源を入れると、端末から白い光と共に小さな存在が具現化した。
「これが……精霊?」
僕は翼を広げてパタパタと飛ぶ真っ黒なカラスだ。
「わぁ……今日からよろしくね」
園子は僕の精霊と似ているけど着物らしき格好の鳥だ。多分……カラスかな?
「よろしくね」
須美は卵のような姿をした精霊だ。
「よろしくな!」
『諸行無常』
『!!?』
銀の精霊に全員が驚いた。なんと銀の兜と鎧を纏った精霊だけが言葉を発したのだ。
「しゃ、喋るの!?」
「可愛い〜」
「なんとも不思議な……」
「なんでアタシだけ……他に何か喋るのか?」
『外道め』
「えぇ……」
特定の単語だけ話すって事なのかな?
そんな事を考えていると、僕の精霊が頭の上に乗った。
「今日からよろしくね」
頭の上の精霊から『よろしく』と返された気がした。
しかしこの時の僕らはまだ知らなかった。
新しい勇者システムの本当の意味を。そして僕たちに待ち受ける結末を……。
あと2話くらいかなと思いましたが、第三章は次回を持って最終話となります。結城友奈の章へと至る戦い。ヒロイン√に関わる分岐点。そして──次章へ繋がる追憶の終わり。最後まで楽しんでいただけると幸いです。
そして次回の最終話と共に生者の章でも投稿したおまけのアフタートークを投稿しようと思います。
【次回】最終話【やくそく】