安芸優樹は勇者である   作:三奈木イヴ

68 / 69
燃える思い

コンコン

 

「はい」

 

「須美〜元気か?」

 

「銀……あなたは相変わらず元気そうね。今日は一人?」

 

「ああ、悪いけど優樹は来ないよ」

 

「なによそれ……私は、銀だけでも嬉しいわよ」

 

優樹くんが来ないのは寂しいけれど、優樹くんにも予定があるのだから、仕方の無いことだわ。

でも、なぜかしら?いつも元気な銀だけれど、今日はどこか空回りしているように見える。

 

「あはは、やっぱり須美は優しいなぁ……」

 

「銀、何かあったの?」

 

「え?なんで?」

 

「だって銀、来た時からどこか変よ」

 

「へ、変って……」

 

カマをかけてみると、銀は案外わかりやすく動揺していた。

昔の銀もこんな風に自分のことを隠すことはあったけど、それは今も相変わらずみたいね。

 

「銀、勇者部五箇条って聞いたことあるわよね?」

 

「五箇条……確かに風先輩たちから聞いたけど……」

 

それなら話は早いわね。

 

「勇者部五箇条、悩んだら相談」

 

「銀が何か悩んでいるのなら、私はなんとかしてあげたいの」

 

「須美……」

 

銀はちょっと待ってほしいと言って少し黙り込んだ。

そして、5分くらいが経っただろうか。

 

「……今日、学校でクラスの人と話しててさ……」

 

銀は、静かに語り出した。

 

『安芸君ってさ、良いよね』

 

『わかる!いつもストイックで、勇者部で男一人なのに全く浮いてなくて、それでいて男女問わず誰にでも優しいって……憧れちゃうよね』

 

『そ、そうなのか?』

 

『そういえば三ノ輪さんも勇者部に入ったんだよね?安芸君とはどうなの!?』

 

『え、えぇ……?』

 

『ちょっと、安芸君には東郷さんがいるじゃないの』

 

『そうなんだよねぇ……私、安芸君のこと狙ってたんだけど……』

 

『!?』

 

『まあ、クラスでも結構いたよね。でも、安芸君ってほら、鈍いからね……』

 

『……確かに、優樹はそういうとこあるよね……』

 

『おや?実は三ノ輪さんも安芸君にそういう気があったとか?』

 

『っ……‼︎』

 

『あれ!?三ノ輪さん!?』

 

『マジで!?』

 

「──なんて事があってね……」

 

「そう……」

 

銀の話を聞き終えて、思わずため息が出てしまった。

まさか、銀もそうだったとは……。でも、それだけ優樹くんは魅力的な人って事なんだけれど……私としてはとても複雑な気分ね。

 

「す、須美……?」

 

「……銀、正直に言ってほしいの。優樹くんのこと、どう思ってるの?」

 

「──っ……」

 

銀がいつからこんな事になっていたのか……思い当たるのは2年前の遠足の後──バーテックスの攻撃から銀を庇い優樹くんが死にかけた後だろう。

思い返してみると、彼が目覚めてから、なんとなく銀の距離がいつもよりも近くなっていた気がする。あの時は似たような距離感を持つそのっちがいた事もあって、ただ友人としての距離が近くなっただけだと思っていた。

私はその後、記憶を失ったから銀の気持ちに気づかなかったけど、おそらくそのっちは知っているのだろう。彼女は勘が鋭いから……。

 

「……うん、アタシ──優樹のことが好きだ」

 

「ええ……」

 

私は、そう返すことしかできなかった。

銀は大切な親友だ。そして優樹くんも……大切な親友であり、私の恋人だ……。

 

「須美……ごめん」

 

「……銀が優樹くんを好きになったのは、悪い事じゃない」

 

謝罪をする銀に、私は諭すように言葉を投げかけた。

 

「私も優樹くんのことが好きで、彼に想いを伝えたわ。

でも、彼は優しい人だから……最初は受け入れてくれなかった……」

 

「須美……」

 

優樹くん……貴方は本当に優しい人だわ。でも、それ以上に……いろんな人の視線や好意を寄せてしまう。

 

「私が結界を壊してしまっても、優樹くんは私のことを受け止めてくれた。銀……私は優樹くんを信じてる。」

 

……この先を言ってしまえば、銀を傷つける事になるかもしれない。

 

でも……私は銀の気持ちを尊重してあげたい。

 

「銀……」

 

私は、銀の体をそっと抱きしめた。

 

「優樹くんに……その想いを伝えてあげて」

 

「っ…………須美…………」

 

「……いってらっしゃい」

 

「ごめん須美…………ありがとう」

 

◆◇

 

「ご迷惑をおかけしました!」

 

「ちょ、ちょっと!私たち別に怒ってないって!」

 

「そうだよ、東郷さん!土下座なんて……!」

 

東郷さんが退院してから初めての活動。東郷さんが、先の出来事についての謝罪をと言い出した。

 

「ちょっと優樹……!なんとかしなさいよ!」

 

「えっ!?」

 

突然の夏凜の物言いに、僕は一瞬悩んだ。

 

否……。

 

何を言うべきかなんて決まっている。

一つ息を吐き、いつものように言葉を紡いだ。

 

「……東郷さんが壁を壊した後、東郷さんの罪は僕も背負うって言ったことがあったよね」

 

友奈が戻ってくる前、東郷さんの件は誰も悪くないとみんなで話し合った。

それでも、東郷さんの心に残っていた罪悪感を僕は知っている。

 

恋人となり、その想いを聞いた僕は、東郷さんが抱える罪を背負うと決めたんだ。

 

「……っ」

 

「今回の事もそうだよ。東郷さんはいきなり居なくなったかもしれない。でも今はここにいるじゃないか。

 ……それでも、どうにもならなければ……いつでも僕を頼って欲しい……」

 

「……優樹くん」

 

「何言ってるのよ優樹、あんただけじゃないわよ。

東郷、辛かったらあたし達も頼りなさい。勇者部は人のためになる事を勇んで活動する部活。それは部員の幸せも含めてるのよ」

 

「風先輩……」

 

「私もいるよ、東郷さん!」

 

「友奈ちゃん……」

 

「私たちもいるわよ」

 

夏凜が

 

「はい!」

 

樹ちゃんが

 

「そうだよわっしー」

 

園子が

 

「そうそう!」

 

そして銀が

 

「みんな……」

 

全員が言葉をかけ、東郷さんはようやく頭を上げてくれた。

 

「よし、東郷も戻ってきた事だし!勇者部も頑張っていくわよ!」

 

『はい!!』

 

八人の勇者部員達の声が部室に響き渡った。

 

◆◇

 

「それじゃあ……今日も部活だ──」

 

「優樹」

 

「銀、どうしたの?」

 

今日の授業が終わり、グーっと伸びをしていると、背後から銀に声をかけられた。

 

「き、今日の部活のあとなんだけどさ……一緒に帰らない?」

 

「良いよ、園子達にも伝えとく?」

 

「い、いや……その……今日は優樹と二人で帰りたいんだ……」

 

若干銀の声が裏返ってるような気もしたが、気にせず話を続ける。

 

「二人で?東郷さんは?」

 

「え、えっとだな……須美にはアタシから言っておくからさ……!」

 

「そう?なら良いけど……」

 

珍しいな。銀が二人で帰りたいなんて。何か悩んでることでもあるのかな……?

 

『──』

 

「ん?」

 

何か不思議な視線を感じた気がしたけど、気のせいだったみたいだ。

 

◆◇

 

「それじゃ、寒いけどみんな風邪ひかないようにように気をつけるのよ!」

 

風先輩の号令で今日の部活が終了した。

今日はそこまで依頼来なかったから、あっという間だったな。

 

「須美、悪いけど優樹借りるよ」

 

「ええ、また明日」

 

「うん、また明日」

 

「優樹、アタシ先に下いってるよ」

 

「わかった、僕もすぐ行くよ」

 

部室から遠ざかる足音。

少しだけ、急いでるように聞こえた。

 

「東郷さん……」

 

声をかけると、彼女は一拍遅れてこちらを見た。

 

「……銀から話は聞いてるわ。行ってあげて……」

 

いつもと変わらない優しい声色。

でも、どこか不安が混じったように感じる。

 

「……じゃあ、また」

 

「ええ。銀によろしく伝えておいてね」

 

東郷さんたちと別れ、銀の元へ向かった。

 

◆◇

 

「……優樹」

 

アタシの体は震えていた。

 

これからアタシは…………親友の恋人に告白をする。

 

叶うことなんて絶対無いのに……。

 

アタシが優樹のことを好きだって須美に打ち明けた時は、絶交されるんじゃないかって不安もあった。

かつての戦いで記憶を失わなければ、アタシにもチャンスがあったんじゃないかって思ったりもした。

でも、今の優樹は須美の恋人なんだ……。

 

──もしもあの時……優樹と須美が記憶を失った戦いの時……アタシが想いを伝えていれば、何か違ったのだろうか……。

 

いや、今更そんな事を考えても仕方のない事だ……。

 

だってアタシは──

 

「……銀?」

 

「……優樹」

 

何か考え事をしていたのか、銀が一拍遅れて反応した。

 

「おまたせ、じゃあ行こうか」

 

「う、うん……」

 

◆◇

 

「ハァ〜寒くなってきたな〜」

 

「もう12月だもんね。1年なんてあっという間だよ」

 

「おっ、もうクリスマスの飾りつけがされてるじゃん!」

 

「本当だ!」

 

世間はもうクリスマスムードだ。街中にイルミネーションやクリスマスツリーといった装飾がなされており、とても綺麗だ。

 

「そういえば優樹、今年のクリスマスは須美と過ごすんだろう?」

 

「うーん……多分そうかな」

 

その辺はまだ話し合ってないけど、多分そうなるんだろうな。姉さんも居ないし。

 

「銀は家族と?」

 

「それと園子もだな」

 

……銀は二年も大赦で祀られていたから、やっと家族との時間を過ごすことが出来るんだな……。

 

そして今は同居している園子も一緒に。

 

「はは、楽しくなりそうだね。そういえば、おじさん達は元気?」

 

「元気元気、特に鉄男がなぁ。優樹に会いたいって言ってたよ」

 

「そっか、じゃあそのうち顔出そうかな。金太郎はどう?」

 

「金太郎は歩けるようになったよ」

 

「そういえば……もう3つになるんだっけ」

 

2年という月日は本当にあっという間だからな……。鉄男も金太郎も元気にしてるならよかった……。

 

「なぁ、優樹」

 

「うん?」

 

「ありがとう」

 

「え?いきなりどうしたの?」

 

銀の唐突なありがとうに僕の頭は?でいっぱいになっていた。

 

「いやね……アタシ達が大橋にいた頃──遠足の後……優樹はアタシを助けてくれたからさ」

 

「遠足…………っ‼︎」

 

銀を助けた出来事──それはおそらく……2年前の戦いでバーテックスが3体現れた時のことだ。

 

戦いの最後、サジタリウスの矢から銀を庇い僕が死にかけたあの戦いだ……。

 

「思い出したみたいだね。本当はもっと早くお礼を言いたかったんだけどさ……ほら、優樹と須美が記憶を失っちゃったから」

 

かつての出来事を思い出すように、そして諦念が混じった声が、僕の耳に響く。

 

「……それは、ごめん……」

 

記憶を失い、銀達のことを忘れていた。

これは紛れもない事実だった。

 

「アタシさ、優樹があの時助けてくれなかったら、きっと死んでたよ。そうなったら、今こうして優樹と話すこともなかったし、こうやってアタシの想いを伝えるなんて事はなかったよ」

 

「銀……お礼を言うのは僕の方こそだよ。あの時、銀が『生きるのを諦めるな』って言ってくれなければ、そのまま死んでたはずだ。だから……僕の方こそ、ありがとう」

 

「……」

 

突如、銀の歩みが止まった。

 

「銀……?」

 

そのまま僕の前に立ち、ほんの一瞬、悲しげな表情を浮かべたと思えば、すぐに笑顔を見せてこう言った。

 

「アタシな、優樹の事が好きだったんだ」

 

「────え?」

 

銀の言葉に反応を返そうとするも、声が出なかった。

 

「……ごめんな、いきなり。優樹には須美っていう大切な人がいるんだし困るよな。でも、それだけは伝えたかったんだ」

 

「ぎ……ん……」

 

「じゃあな優樹」

 

それだけ言うと、銀は小走りで僕の真横を通り過ぎ去っていった。

 

「……またね」

 

言い残すような一言を聞き、僕はハッとした。

でも、遅かった。

 

後ろを振り返ると、銀はもういなかった。




目標ではありますが、あと6話くらいで完結させたいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。