コンコン
「はい」
「須美〜元気か?」
「銀……あなたは相変わらず元気そうね。今日は一人?」
「ああ、悪いけど優樹は来ないよ」
「なによそれ……私は、銀だけでも嬉しいわよ」
優樹くんが来ないのは寂しいけれど、優樹くんにも予定があるのだから、仕方の無いことだわ。
でも、なぜかしら?いつも元気な銀だけれど、今日はどこか空回りしているように見える。
「あはは、やっぱり須美は優しいなぁ……」
「銀、何かあったの?」
「え?なんで?」
「だって銀、来た時からどこか変よ」
「へ、変って……」
カマをかけてみると、銀は案外わかりやすく動揺していた。
昔の銀もこんな風に自分のことを隠すことはあったけど、それは今も相変わらずみたいね。
「銀、勇者部五箇条って聞いたことあるわよね?」
「五箇条……確かに風先輩たちから聞いたけど……」
それなら話は早いわね。
「勇者部五箇条、悩んだら相談」
「銀が何か悩んでいるのなら、私はなんとかしてあげたいの」
「須美……」
銀はちょっと待ってほしいと言って少し黙り込んだ。
そして、5分くらいが経っただろうか。
「……今日、学校でクラスの人と話しててさ……」
銀は、静かに語り出した。
『安芸君ってさ、良いよね』
『わかる!いつもストイックで、勇者部で男一人なのに全く浮いてなくて、それでいて男女問わず誰にでも優しいって……憧れちゃうよね』
『そ、そうなのか?』
『そういえば三ノ輪さんも勇者部に入ったんだよね?安芸君とはどうなの!?』
『え、えぇ……?』
『ちょっと、安芸君には東郷さんがいるじゃないの』
『そうなんだよねぇ……私、安芸君のこと狙ってたんだけど……』
『!?』
『まあ、クラスでも結構いたよね。でも、安芸君ってほら、鈍いからね……』
『……確かに、優樹はそういうとこあるよね……』
『おや?実は三ノ輪さんも安芸君にそういう気があったとか?』
『っ……‼︎』
『あれ!?三ノ輪さん!?』
『マジで!?』
「──なんて事があってね……」
「そう……」
銀の話を聞き終えて、思わずため息が出てしまった。
まさか、銀もそうだったとは……。でも、それだけ優樹くんは魅力的な人って事なんだけれど……私としてはとても複雑な気分ね。
「す、須美……?」
「……銀、正直に言ってほしいの。優樹くんのこと、どう思ってるの?」
「──っ……」
銀がいつからこんな事になっていたのか……思い当たるのは2年前の遠足の後──バーテックスの攻撃から銀を庇い優樹くんが死にかけた後だろう。
思い返してみると、彼が目覚めてから、なんとなく銀の距離がいつもよりも近くなっていた気がする。あの時は似たような距離感を持つそのっちがいた事もあって、ただ友人としての距離が近くなっただけだと思っていた。
私はその後、記憶を失ったから銀の気持ちに気づかなかったけど、おそらくそのっちは知っているのだろう。彼女は勘が鋭いから……。
「……うん、アタシ──優樹のことが好きだ」
「ええ……」
私は、そう返すことしかできなかった。
銀は大切な親友だ。そして優樹くんも……大切な親友であり、私の恋人だ……。
「須美……ごめん」
「……銀が優樹くんを好きになったのは、悪い事じゃない」
謝罪をする銀に、私は諭すように言葉を投げかけた。
「私も優樹くんのことが好きで、彼に想いを伝えたわ。
でも、彼は優しい人だから……最初は受け入れてくれなかった……」
「須美……」
優樹くん……貴方は本当に優しい人だわ。でも、それ以上に……いろんな人の視線や好意を寄せてしまう。
「私が結界を壊してしまっても、優樹くんは私のことを受け止めてくれた。銀……私は優樹くんを信じてる。」
……この先を言ってしまえば、銀を傷つける事になるかもしれない。
でも……私は銀の気持ちを尊重してあげたい。
「銀……」
私は、銀の体をそっと抱きしめた。
「優樹くんに……その想いを伝えてあげて」
「っ…………須美…………」
「……いってらっしゃい」
「ごめん須美…………ありがとう」
◆◇
「ご迷惑をおかけしました!」
「ちょ、ちょっと!私たち別に怒ってないって!」
「そうだよ、東郷さん!土下座なんて……!」
東郷さんが退院してから初めての活動。東郷さんが、先の出来事についての謝罪をと言い出した。
「ちょっと優樹……!なんとかしなさいよ!」
「えっ!?」
突然の夏凜の物言いに、僕は一瞬悩んだ。
否……。
何を言うべきかなんて決まっている。
一つ息を吐き、いつものように言葉を紡いだ。
「……東郷さんが壁を壊した後、東郷さんの罪は僕も背負うって言ったことがあったよね」
友奈が戻ってくる前、東郷さんの件は誰も悪くないとみんなで話し合った。
それでも、東郷さんの心に残っていた罪悪感を僕は知っている。
恋人となり、その想いを聞いた僕は、東郷さんが抱える罪を背負うと決めたんだ。
「……っ」
「今回の事もそうだよ。東郷さんはいきなり居なくなったかもしれない。でも今はここにいるじゃないか。
……それでも、どうにもならなければ……いつでも僕を頼って欲しい……」
「……優樹くん」
「何言ってるのよ優樹、あんただけじゃないわよ。
東郷、辛かったらあたし達も頼りなさい。勇者部は人のためになる事を勇んで活動する部活。それは部員の幸せも含めてるのよ」
「風先輩……」
「私もいるよ、東郷さん!」
「友奈ちゃん……」
「私たちもいるわよ」
夏凜が
「はい!」
樹ちゃんが
「そうだよわっしー」
園子が
「そうそう!」
そして銀が
「みんな……」
全員が言葉をかけ、東郷さんはようやく頭を上げてくれた。
「よし、東郷も戻ってきた事だし!勇者部も頑張っていくわよ!」
『はい!!』
八人の勇者部員達の声が部室に響き渡った。
◆◇
「それじゃあ……今日も部活だ──」
「優樹」
「銀、どうしたの?」
今日の授業が終わり、グーっと伸びをしていると、背後から銀に声をかけられた。
「き、今日の部活のあとなんだけどさ……一緒に帰らない?」
「良いよ、園子達にも伝えとく?」
「い、いや……その……今日は優樹と二人で帰りたいんだ……」
若干銀の声が裏返ってるような気もしたが、気にせず話を続ける。
「二人で?東郷さんは?」
「え、えっとだな……須美にはアタシから言っておくからさ……!」
「そう?なら良いけど……」
珍しいな。銀が二人で帰りたいなんて。何か悩んでることでもあるのかな……?
『──』
「ん?」
何か不思議な視線を感じた気がしたけど、気のせいだったみたいだ。
◆◇
「それじゃ、寒いけどみんな風邪ひかないようにように気をつけるのよ!」
風先輩の号令で今日の部活が終了した。
今日はそこまで依頼来なかったから、あっという間だったな。
「須美、悪いけど優樹借りるよ」
「ええ、また明日」
「うん、また明日」
「優樹、アタシ先に下いってるよ」
「わかった、僕もすぐ行くよ」
部室から遠ざかる足音。
少しだけ、急いでるように聞こえた。
「東郷さん……」
声をかけると、彼女は一拍遅れてこちらを見た。
「……銀から話は聞いてるわ。行ってあげて……」
いつもと変わらない優しい声色。
でも、どこか不安が混じったように感じる。
「……じゃあ、また」
「ええ。銀によろしく伝えておいてね」
東郷さんたちと別れ、銀の元へ向かった。
◆◇
「……優樹」
アタシの体は震えていた。
これからアタシは…………親友の恋人に告白をする。
叶うことなんて絶対無いのに……。
アタシが優樹のことを好きだって須美に打ち明けた時は、絶交されるんじゃないかって不安もあった。
かつての戦いで記憶を失わなければ、アタシにもチャンスがあったんじゃないかって思ったりもした。
でも、今の優樹は須美の恋人なんだ……。
──もしもあの時……優樹と須美が記憶を失った戦いの時……アタシが想いを伝えていれば、何か違ったのだろうか……。
いや、今更そんな事を考えても仕方のない事だ……。
だってアタシは──
「……銀?」
「……優樹」
何か考え事をしていたのか、銀が一拍遅れて反応した。
「おまたせ、じゃあ行こうか」
「う、うん……」
◆◇
「ハァ〜寒くなってきたな〜」
「もう12月だもんね。1年なんてあっという間だよ」
「おっ、もうクリスマスの飾りつけがされてるじゃん!」
「本当だ!」
世間はもうクリスマスムードだ。街中にイルミネーションやクリスマスツリーといった装飾がなされており、とても綺麗だ。
「そういえば優樹、今年のクリスマスは須美と過ごすんだろう?」
「うーん……多分そうかな」
その辺はまだ話し合ってないけど、多分そうなるんだろうな。姉さんも居ないし。
「銀は家族と?」
「それと園子もだな」
……銀は二年も大赦で祀られていたから、やっと家族との時間を過ごすことが出来るんだな……。
そして今は同居している園子も一緒に。
「はは、楽しくなりそうだね。そういえば、おじさん達は元気?」
「元気元気、特に鉄男がなぁ。優樹に会いたいって言ってたよ」
「そっか、じゃあそのうち顔出そうかな。金太郎はどう?」
「金太郎は歩けるようになったよ」
「そういえば……もう3つになるんだっけ」
2年という月日は本当にあっという間だからな……。鉄男も金太郎も元気にしてるならよかった……。
「なぁ、優樹」
「うん?」
「ありがとう」
「え?いきなりどうしたの?」
銀の唐突なありがとうに僕の頭は?でいっぱいになっていた。
「いやね……アタシ達が大橋にいた頃──遠足の後……優樹はアタシを助けてくれたからさ」
「遠足…………っ‼︎」
銀を助けた出来事──それはおそらく……2年前の戦いでバーテックスが3体現れた時のことだ。
戦いの最後、サジタリウスの矢から銀を庇い僕が死にかけたあの戦いだ……。
「思い出したみたいだね。本当はもっと早くお礼を言いたかったんだけどさ……ほら、優樹と須美が記憶を失っちゃったから」
かつての出来事を思い出すように、そして諦念が混じった声が、僕の耳に響く。
「……それは、ごめん……」
記憶を失い、銀達のことを忘れていた。
これは紛れもない事実だった。
「アタシさ、優樹があの時助けてくれなかったら、きっと死んでたよ。そうなったら、今こうして優樹と話すこともなかったし、こうやってアタシの想いを伝えるなんて事はなかったよ」
「銀……お礼を言うのは僕の方こそだよ。あの時、銀が『生きるのを諦めるな』って言ってくれなければ、そのまま死んでたはずだ。だから……僕の方こそ、ありがとう」
「……」
突如、銀の歩みが止まった。
「銀……?」
そのまま僕の前に立ち、ほんの一瞬、悲しげな表情を浮かべたと思えば、すぐに笑顔を見せてこう言った。
「アタシな、優樹の事が好きだったんだ」
「────え?」
銀の言葉に反応を返そうとするも、声が出なかった。
「……ごめんな、いきなり。優樹には須美っていう大切な人がいるんだし困るよな。でも、それだけは伝えたかったんだ」
「ぎ……ん……」
「じゃあな優樹」
それだけ言うと、銀は小走りで僕の真横を通り過ぎ去っていった。
「……またね」
言い残すような一言を聞き、僕はハッとした。
でも、遅かった。
後ろを振り返ると、銀はもういなかった。
目標ではありますが、あと6話くらいで完結させたいです。