勇者の章も佳境へ。
あと4.5話ほどではありますが、最後までよろしくお願いします。
「もしもし優樹くん?」
『……もしもし』
「優樹くん……」
『東郷さん……銀から聞いてたの?』
電話の向こうから聞こえる彼の声は、どこか疲弊しているように聞こえた。
「──何のことかしら?と言いたいところだけど…………この間、銀がお見舞いに来てくれた時に……」
優樹くんに嘘や隠し事は出来るだけしたくない。
だから私は……正直に打ち明けた。
『東郷さん……僕は……どうすれば良かったんだろう……僕は銀の想いに応えることは出来ない。でも、言葉が出なかったんだ……』
……優樹くんは、優しい人だ。男女問わず誰にでも優しくて……誠実であろうとする……私はそんな彼が好きだ。でも……それと同時に彼の危ういところでもある。
「優樹くんは、優しすぎるわ」
『……』
電話の向こうで息を呑む音が聞こえた。
「強くて優しくて……そんな優樹くんが恋人なんて……私にとって、何にも変え難い幸せよ」
『そんな風に思われてたんだ……なんか、照れるね……』
「そうよ。優樹くんはそれくらい大切な人なんだから。」
本当に……貴方のことが好きで好きでたまらないの……。
「ねぇ、優樹くん」
『うん……?』
「銀に告白されて、どうだった?」
『ッ!?』
ドタン!と大きな音が聞こえた。
「優樹くん!?大丈夫!?」
『だ、大丈夫……!!』
もしかして……またトレーニングしながら電話してたのかしら……?
『えっと、なんの話だっけ……』
「銀に告白されてどうだったって話よ」
『ああ…………そう、だね…………正直に言えば、あの日、東郷さんに告白された時のことを思い出した……かな』
「そう?」
『……うん、あの時も最初は驚いたよ。今みたいに僕はどうするべきなのかって悩んだし、一度は答えを保留にした……。でも、最後は東郷さんと一緒にいることを選んだ』
「……どうして──って、聞いても良いかしら?」
私はどうしても気になってしまった。彼が私を選んでくれた理由を……。
『うん…………あの時、東郷さんに告白されてから……東郷さんの言葉が頭から離れなかったんだ。普段の事も、勇者部での事も、そして……好きと言ってくれたことも』
『誰かを好きになった事がなかった僕にとって、人の好意を肯定する事が怖かった。でも……気づいた時にはもうダメだった』
『東郷さんは大切な親友で……僕が守るって言った人で……気づけば好きになっていたんだ』
「…………っ」
聞いたのは自分なのに、顔がとても熱くなるのが自分でもわかってしまう。胸の鼓動が激しくなっていくのが感じられる。
「…………ありがとう」
それ以上の言葉は、出てこなかった。
高鳴る鼓動は収まらず、同時に胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
『……明日も学校だし、そろそろ僕は寝ようかな』
「えぇ、おやすみなさい優樹くん」
『おやすみ東郷さん』
その言葉を最後に通話は終了した。
「……銀」
あなたの想いは、ちゃんと優樹くんに届いたわよ……。
◆◇
「っ……」
左胸がチクリと痛み、顔を顰める。
ある時を境に現れた、赤黒い太陽のような紋様…………否、時期はわかっている。
お湯で洗っても、タオルで擦っても、何をしても消えない。
本来なら早急に勇者部の皆や大赦に相談するべきだろう。
……でも、それはダメ……。
そんな事をすれば……東郷さんのした事が無駄になってしまう。
御役目が私に移ったと知れば…………でも…………
「……悩んだら、相談……」
相談をすれば……全てがダメになってしまうかもしれない……それでも……!
◆◇
「優樹戻りました」
「おー、おかえりー」
「……風先輩、眼鏡だとなんだか別人みたいですね」
「んー、そういうもんかねぇ……乃木ー終わったわよ」
「はーい!それじゃあフーミン先輩のテストの採点だ〜」
「受験生は大変ね。部室でも勉強なんて」
「この前はいろいろ大変で勉強どころじゃなかったからね」
「確かに、受験勉強よりブラックホールの方が急務だったからね」
風と夏凛による特に悪意の無い一言であったが、それは今の東郷にとってどんな鋭利な刃物よりも刺さる言葉だった。
たとえ皆を救うためとはいえ、あんな事になってしまったのだから気にするのも無理はない。
「陳謝!!」
「「「「わぁ!!!」」」」
土下座と共に謝罪した東郷は懐からカッターナイフを取り出し、精霊である青坊主と共に切腹しようとしていた。
部室がパニックになり、そんな事はさせまいと東郷を友奈達が取り押さえ、途中で依頼から帰ってきた銀も驚きながらも参戦し事なきを得た。
「うんうん、マル、マル、全問正解だね!」
「おお!流石アタシ!」
「それにしても……ありがとね、乃木。来週は樹のショーがあるからね、姉としてどうしても行かねば」
「お姉ちゃん! 私のショーじゃなくて街のクリスマスイベント!学生コーラスだって!」
「凄いね〜学校代表だよ!」
「じゃあ風邪には気をつけないといけないわね……」
「おっ、例のやつか!園子!」
「は〜い!」
「「「健康健康健康…………」」」
「よ、余計にプレッシャーだよ……!」
東郷と園子と銀の3人が樹の前で両手をグルグルとしながら健康健康と祈る。それは東郷お得意のα波と呼ばれるものだ。
「「あはは……」」
そんな彼女たちを見て、友奈と優樹は薄く笑みを浮かべて見ていた。
ようやくだ。全員が揃った日常を、友奈たちはようやく取り戻すことが出来たのだ。
誰もが楽しそうに笑っている。みんなが戦って東郷を取り戻すことができ、幸せにしている。
「ん?優樹はともかく友奈はらしくないわね。何か考え事?」
「風先輩!?」
「私は何も考えてませんが」
「それはそれでどうなのよ……本当に大丈夫?風邪とか引いてない?」
「ええ!?友奈ちゃん病気なの!?」
『健康健康健康健康健康…………』
「意味あるのそれ……」
「わぁ……なんかポカポカしてきた」
「効果あるの!?」
どうやらじんわりと効果があるようだ。
そして声を上げた夏凜にも東郷達のα波だ。
「健康健康健康健康健康…………」
「あっ……なんだかポカポカしてきたかも……」
「……あっ、あの……みんな」
「ん、どうしたの友奈?」
友奈が一瞬、言葉迷ったが、それは誰にも気づかれなかった。
「こ、ここで問題です!キリギリスが蟻の借金をこっそり肩代わりしたら……その後、どんな問題が起こるでしょうか」
「……?」
部室に静寂が訪れた。
「なんのクイズ?」
「え、えっと……学校新聞のクイズ考えてて……!」
「ああ、なるほど!でもそれクイズになってないわよ」
「そ、そうですね!」
風がツッコみ、部員達がクイズの問題の考察を始めていた。
蟻が借金をしている設定に無理があることだったりクイズではなく蟻とキリギリスの話になっていた。
そうして、友奈は今も小さく痛む胸を一瞬だけ押さえ、次の話題を投げかける。
「あの、実は──」
──その瞬間、何が起きたのか友奈にはよく分からなかった。
全員の胸元に、自分の体にあるものと同じ紋様が小さく現れた。
「──ぇ」
「……ゆーゆ?」
「あ、うん!?」
話すのをやめた途端、紋様は消え去り、いつもの日常に戻っていた。
◆◇
「……っ」
今も胸が痛い……。東郷さんに代わって御役目を肩代わりしたからだ……。でも、こんな事を知ったら、東郷さんが悲しむ事になる……。せっかく、やっと全員が揃ったのに。
東郷さんみたいに囚われの身じゃない理由はわからないけど…………今もこっちに居られる……多分、生かされてるからだ……。
「…………こんな事、誰に相談すれば……」
勇者部の皆の顔を思い浮かべると優樹くんの顔が一際大きく浮かぶ。風先輩も同じくらい……。
優樹くんも風先輩も相談すればきっと親身になって聞いてくれるけど……どっちに相談するべきなんだろう……。
「…………優樹くん」
親友の恋人の名前をポツリと呟いた。
優樹くんならきっと…………
◆◇
「もう……こんな寒い時になんでマンションのエアコン壊れるかな……」
「私も昨日は、急に電灯が切れて困ったわ」
「それで東郷さんから電話が来た時は驚いたね……。
僕の家も急にお風呂の調子が悪くなっちゃうし」
「みんな大変だったんだね」
「本当に……災難だったね」
「あたし達もよ。樹が鍵落としちゃって、寒空の下3時間探し回ったんだからね」
「も、もう言わないでよぉ……」
友奈を除く全員に何かしらの不幸が起きている。
園子と銀はどうだろうか。
「園子参上なんだぜ〜」
「チーっす」
「園子、銀!どうしたのその手」
園子は右手に包帯を巻き、銀は左の人差し指に絆創膏が巻かれていた。
「ポッドで火傷しちゃったんだぜ〜」
「アタシもな〜朝ごはん作ってる時に包丁でな〜」
「そうなんだ……大怪我じゃなくてよかったよ」
「師走だってのに不吉ね。勇者部みんなで厄払い行った方が良いんじゃないかしら?」
「ちょっと不吉ねぇ、いや……行った方が良いかも?」
いつものような日常だけど、今日はなんだか友奈の様子がおかしい気がする。
もしかしたら気のせいかもしれないけど。
「友奈ちゃんは何も無かったの?」
「う、うん……!平気!」
「良かった、友奈ちゃんにまで何かあったら、一大事だものね」
「本当にね」
「まあ、何もなければそれで良し!それぞれの持ち場につけ〜」
『はーい』
一抹の不安はあったけれど、風先輩の号令で今日も活動が始まった。友奈の事は、あとで勘の鋭い園子辺りにでも聞いてみようかな?
「……ね、ねえ!優樹くん!」
「うん?」
「ちょっと、大丈夫?」
◆◇
「どうしたの?何か悩み事?」
「え、えっと……」
校舎の外まで呼び出され、二人きりの状態だ。
校舎は夕焼けで赤く染まり、もうすぐ陽が沈むぞと注意されているようだ。
直近だと銀の事もあり、こういう状況はあまりよろしくない気もするけど、友奈はどうしたのだろうか。
「……実は、この間……」
「うん?この間……?」
「その……スマホを返してもらった日……」
スマホ……あの日か。
あの日がどうしたんだろ。
「…………東郷さんを────っ!?」
「友奈……?」
友奈の僕を見る目が、何か良くないものを見たように感じた。いや、気のせいかも。
「い、いや……えっとね…………優樹くん、最近銀ちゃんと喧嘩しちゃったのかなって……!」
「──ぅ……」
友奈の言葉に僕は思わず目を逸らした。
何故なら銀に告白された時の事がフラッシュバックしたからだ……。
「あ、ああ……アレ、ね。銀と喧嘩したわけじゃないんだ。ちょっと…………色々あって……。」
僕は言葉を濁した。多分あの日の告白を知ってるのは東郷さんと園子くらいだろう。園子とは同居してるから相談してるだろうし、それに翌日の銀は何も無かったかのように振る舞っていたし。
「そ、そうなんだ……!仲が悪くなったわけじゃなくて良かった……」
どうやら友奈はこれが聞きたかったみたいだ。
僕たちは部室に戻り、依頼や雑務をこなし、解散した。
◆◇
「優樹くん……友奈ちゃんと何かあったの?」
「ん、最近銀と何かあったのかだって。ほら、僕がどうしても銀に気まずさを感じて避けちゃってた時の」
「なるほど……でも、優樹くんは銀と仲が悪くなった訳じゃないものね。」
「そうそう。それと、僕が好きなのは東郷さんだよ」
「私もよ。こうして一緒に帰れるだけでも、幸せだわ」
今日は久しぶりに東郷さんと下校だ。普段こういう時は友奈も一緒なのだが、今日は寄るとこがあるらしく、先に行ってしまった。
「もうすぐ……今年も終わるんだね」
「そうね〜今年は雪が降るかしら?」
「もうすぐクリスマスだし、ホワイトクリスマスっていうのも良いよね」
「本当ね〜」
今年がもうすぐ終わる。まだわからないけど、雪が降って、それが溶けたら暖かくなって……桜が咲く。
「……風先輩、春には卒業しちゃうんだね」
「ええ、でも、ちょくちょく来るとは言ってたわよ?」
「あはは……あの人なら毎日来ててもおかしくないね」
横断歩道に差し掛かり、歩行者信号が青になった。
「行きましょう」
「うん」
もうすぐ東郷さんの家に到着か。そんな事を考えていると──
『──ミツケタ──』
「うん?何いまの──ッ!!」
何が聞こえたと認識するや否や、猛スピードのトラックが迫っていた。
「東郷さん!!」
咄嗟に隣にいた東郷さんを前に突き飛ばしたと理解する寸前、僕とトラックの間に古烏が現れた。
刹那────視界が反転した。
空を飛び東郷さんが叫んでいる。
地面が迫り、それと同時に僕の意識は闇へと落ちていった。
翌日の銀と優樹を描写してませんが、銀はいつものように振る舞ってはいるものの、内心優樹にドキドキしてたりします。優樹くんは結構鈍感の割に気持ちさえ伝えればこんな風になるので恋人が居ても顔に出ます。
追伸:報告遅れて申し訳ありません。私事の都合で休載中です。
必ず戻ります。