安芸優樹は勇者である   作:三奈木イヴ

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お待たせしました。
こんな私の作品でも、読んでくださる読者様がいるという事を自覚して残りを駆け抜けます。


汚れなき心

「あっきー」

 

「──園子、いらっしゃい」

 

病室に園子がやって来た。

 

「……それで園子、急にどうしたの?」

 

園子がここへ来る少し前、僕の端末に連絡があった。

 

確認したいことがあるから、今から1人で来てもいいか──と。

 

「うん……」

 

近くの椅子に腰掛けながら、園子は持っていた手提げを床に置いた。

 

「単刀直入に言うね。あっきー……最近、ゆーゆの事で何か感じた事とかある?」

 

「……うん?」

 

どういう意味だ?

 

「友奈の……?それはどういう──」

 

そう言いかけて、言葉が止まった。

 

ここ最近の友奈は…………妙に言葉を濁したり、何かを気にしてる様子だったり……。そして……僕が事故に遭う直前に話した時のことも。

 

思い返せば、あの時も何かとんでもないものを見る目をしていた気がする。

 

「いや……思い当たるよ」

 

僕は飛び出しかけた言葉を飲み込み、静かに頷いた。

 

「園子は何か──いや、思うところがあったから来たのか」

 

「そうだよ、あっきーなら何か気づいてるかもって思ったから」

 

そう言いながら、園子は手提げからある物を取り出した。

 

「……これは」

 

園子の手にあったのは──押し花の栞……。

 

「……友奈」

 

「これ、クリスマスの日にあっきーの病室の前に落ちてたんよ」

 

「……」

 

「あの時のゆーゆはお見舞いに来ていなかった。でも、いつも持ち歩いている栞は落ちていた。多分ゆーゆはあっきーの病室まで来てたはず。でも、何かあって会わなかった。それで今のゆーゆに何かあったんだなって気づいたの」

 

……園子の閃きは昔から変わっていないな。

小さな違和感から何か思いついて、そのままあっさりと話の核に辿り着く。でも今回ばかりはそう簡単には行かなさそうだ。

 

「多分わっしーは気づいてると思う。仮にそうじゃなくても、すぐに気づくはず。とりあえず今は私なりにいろいろ調べてみるから、あっきーは退院まで大人しくしてて」

 

「……わかった」

 

すぐにでも動きたいが……今は園子に任せよう……。

そして園子の言う通り、東郷さんならすぐに気づきそうだ。彼女はそういう人だから。特に友奈の事となれば人が変わる。

 

今の僕に出来ることは……傷の回復に専念することだ……。

 

◆◇

 

それから数日後──僕は再検査でも異常無しと判断され、無事に退院する事ができた。

 

風『優樹、お勤めご苦労様』

 

樹『優樹さんおかえりなさい』

 

園子『待ってたよーあっきー』

 

銀『おつかれさん!』

 

夏凜『おかえり』

 

東郷『優樹くんが無事退院になって良かったわ』

 

友奈『優樹くん、退院おめでとう』

 

優樹『みんな、ありがとう。風先輩、このあと初詣に行くんでしたっけ?』

 

病院から家へ戻り、身支度を整える。結局入院している間に大晦日も三が日も過ぎてしまった。

それでも初詣はみんなで行こうと風先輩が提案してくれたんだ。

 

◆◇

 

「お待たせしました!」

 

「おっ、優樹復活ね!」

 

「元気そうじゃん。良かったわ」

 

「いやぁ……元気かと言われれば……」

 

風先輩と夏凜の問いかけに僕は小さく笑いながら答える。

 

「夏凜さん、とっても心配してたんですよ」

 

「うんうん、ここ数日のにぼっしーは、あっきーの事をずっと案じてたんよ」

 

「なっ……!よ、余計なこと言わないでよ!」

 

「へー?夏凜さんなんだかんだ優樹の事心配してたのね〜?」

 

「う、うるさいわね!」

 

夏凜達のやり取りを眺めていると、やっと病院の外に出たんだと実感する。正直、軽めの筋トレだけじゃ物足りなかったしね。いつもの勇者部を見ているとなんだか楽しくなってくるな。

 

「ねぇねぇ!甘酒、飲もうよ」

 

「おっ、いいね!一杯ひっかけてきましょうか」

 

園子の提案に風先輩が応える。ただ風先輩……そのお猪口傾けるような仕草はちょっとおじ…………

 

「うおっ!?」

 

「ゆうき〜?あんた失礼な事考えてない〜?」

 

やばい、バレてた!?ちょ、風先輩……!

 

「ちょっ、風先輩!?」

 

風先輩のヘッドロック久々だな!?病み上がりだからまだ節々が痛むのに……!というかまた東郷さんほどではないけど立派なモノが当たってるよ……!ちょっとドキッとしかけたけど待って、東郷さんに気づかれたら多分ヤバい!

 

「と、東郷……さん」

 

「うふふ、どうしたの優樹くん?」

 

あっ、ダメだこれ何か察してる。友奈と樹ちゃんは風先輩を止めようとしてるけど、銀は爆笑してる……もうめちゃくちゃだよ……!

 

それから少しして風先輩の拘束は解かれた。

久々だったけど、とても痛かった……。風先輩の前で変なこと考えるのやめておこう……本当に。

 

◆◇

 

「ぶっはぁ!!」

 

「ふへぇ……」

 

「いい飲みっぷりですね〜」

 

みんなで甘酒を買うと、風先輩と樹ちゃんが甘酒を流し込むように飲み干す。園子の言う通り、本当に良い飲みっぷりだ。

 

「へへへ……うぅ……」

 

うん?

 

なんか二人の様子がおかしいぞ……?顔が赤くてフラッとしてて……

 

「な、なんだか酔っ払ってない?」

 

「ノンアルなのに!?」

 

「場酔いしてる!?」

 

「あはは〜酔ってませんよ〜!」

 

あっ、酔ってる……。樹ちゃんは大笑いで風先輩は大泣き……。そういう酔い方なんだ……っていうか甘酒ってアルコール無かったはずなのに…………

 

「うわぁーん!あたしの青春が終わっちゃうー!!」

 

あはは……と僕は苦笑いを浮かべた。銀は風先輩の介抱をして、その二人に樹ちゃんが絡んでいる。こんな光景滅多に見れるもんじゃないね…………って、東郷さんもいつのまにかビデオカメラ構えてるよ。

 

「滅多に見れない光景だわ」

 

「ね〜!東郷パイセ〜ン!みんなで写真撮りやしょうよ〜!」

 

風先輩と銀の肩に腕を絡ませながら樹ちゃんが言った。

新年最初の集合写真。きっとこの先も僕たちにとってかけがえのない思い出になるだろう。

 

◆◇

 

「んー?ふふーん」

 

「風先輩、自然体で大丈夫ですよ」

 

「わっしー、何をしてるの?」

 

「風先輩はもうすぐ卒業してしまうから、みんなで過ごす記録を残しておこうと思って」

 

最近の東郷さんは勇者部の活動記録を残すことに熱心なようだ。東郷さんの言う通り、3月になれば風先輩は卒業してしまうから、残された時間はとても貴重だ。

 

「て言うけどさ、あたし多分卒業してもここに入り浸ると思うわよ」

 

「入り浸るんだ……」

 

「そんな気はしてましたよ」

 

まさか本当に言い出すなんてね……。

 

「そうなる予想はついてたけどね」

 

「とか言って嬉しそうね夏凜」

 

「っ……」

 

夏凜……嬉しそうじゃないか……

 

「優樹!」

 

「えぇ!?」

 

そんな顔に出てた僕!?

 

「もう一年、居てくれても構わないですよ?」

 

「そ、それだけは勘弁して……」

 

「うんうん、ふーみん先輩とにぼっしーを見てたら、なんだか創作意欲が湧いてくるんよ〜」

 

今日の勇者部はいつもよりにぎやかだなぁ。

ずっとこんな日が続けば良い…………なんて思うけど……。

 

「優樹」

 

「銀?」

 

「今の優樹、あの頃みたいになってるぞ」

 

銀が両手で僕の頬を引っ張りながら言う。

 

「んにゅ、しょ、しょうかな?」

 

そんなに気を張り詰めてたのか……

こんな時でもいつも笑顔の園子を見習わないとな。

 

「そうだぞ、あの時みたいに笑顔が硬いぞ〜」

 

「ちょ、銀……そんなふにゃふにゃしないの」

 

「ほれほれ〜」

 

「ミノさんとあっきーも良いねぇ、想像捗っちゃったから、帰って二人の本を書こ〜っと」

 

「!?」

 

「そ、園子!?」

 

「また明日〜ミノさんはまた後で〜」

 

「園子ー!?」

 

園子はそのまま帰ってしまった。

 

◆◇◆◇◆◇

 

数日後──勇者部では依頼をこなしたり、遊んだりといつも通りの日々を過ごした。

 

だが、ここ数日の友奈は目に見えて弱っていた。

本人は悟られないように隠しているけど、今の事情を知っていれば、すぐに気づいてしまう。そうでなくとも……東郷さんはそろそろ気づいてもおかしくない。

園子には大人しくしていろと言われたけど、友達が苦しんでることを知って立ち止まるなんて……僕には出来なかった。

 

「……」

 

静かな自室でページを捲る音と、時計の針が進む音だけが響く。

 

「郡……景義……」

 

僕はつい先日読んだはずの日記を手に取っていた。

友奈の事で何かわかるかもしれないという、その一心で。以前よりも精密に、何か手掛かりが無いか……。

 

『○月○日 どうやら俺の命は長くないらしい』

 

「……この人は──郡景義さんは何を思ってこれを書いていたんだろう……」

 

僕の独り言は誰にも聞かれる事なく、消えた。

……片腕を失い、更には自分の命が長くないことを知って……大切なお姉さんまでも失った……。

 

悲惨……なんて一言では表せない。景義さんからすれば、絶望という言葉でも飽き足らないだろう……。

 

この日記から想像できる事は……景義さんは生き残った人たちの中で早くに亡くなった……。

そして、勇者や巫女では無いはずの存在が神樹様の声を聞くことが出来ていたらしい……。

 

「……景義さんは、自分の知らないはずの未来だけでなく、勇者や巫女の居場所や名前が見えていた……」

 

2年前のお役目の時、姉さんから巫女の役割は聞いていた。巫女という存在は神樹様からの御神託を受け、それを伝える役目。人の名前や居場所が見えるなんて話は……姉さんから聞いた覚えはない。

 

「……花本さん」

 

僕たちにこの書籍を託したのは花本さんだ。

だが……内容については一切知らないと言っていた。

 

「でも……僕がイレギュラーだから託されたって事だよね……」

 

……男でありながら勇者に選ばれた僕……。そして巫女のような力を行使出来た景義さん……。

 

イレギュラーと扱われた存在が2人……。

 

「過去にも僕みたいな人がいた……。そして、この書籍を託したのは、未来を変えるために……」

 

景義さんが見た未来はわからないけれど……それが巡り巡って僕に渡ってきた。

 

「──そうだ、あの声は……?」

 

僕が事故に遭う直前、不思議な声が聞こえてきた。

たしか……『見つけた』って言ってたような……?

 

なんだったんだ、あの声は……。

思い当たる存在はなんだ……。

心当たり……西暦の歴史……。7月30日……バーテックス……神樹様……バーテックスの親玉…………!

 

──ま、まさか…………天の神?

 

「いや……そんなまさか」

 

絶対とは言い切れない……。

けど、ここ最近の出来事はなんだかおかしかった。奉火祭の生贄となってみんなの記憶から消えていた東郷さん、僕を含め友奈以外のみんなが怪我やちょっとしたトラブルが起こったり…………そして、僕の事故……。

 

もしも天の神とやらが関わっているのだとしたら…………。

 

「──壁の向こう」

 

神樹様の結界が及ばない炎の世界。仮に天の神だと予想しても……僕一人で壁の外に出れば命の保障は無い……。

あそこには、バーテックスがゴロゴロといる。あの白いやつだけならまだしも……今のバリアに限りがある状態で大型は危険だ……。

 

だけど……あの声の正体を掴めるのなら……。

 

……そうだ、近くまで。神樹様の結界の狭間なら。

何かわかるかもしれない。僕はその一心で勇者システムを起動した。

 

◆◇

 

「っと……」

 

ここが、壁の境界線……。

 

──この先には……滅びた世界が……バーテックスがいる。

この先には、神樹様の加護は無い……。どうしようか。

 

「……何を迷ってるんだ僕は……」

 

しのごの言ってられない。こうして立ち止まっている間にも友奈は……

 

「……行こう」

 

僕は一瞬目を閉じ、覚悟を決めた。

そうして壁の向こうへ足を運ぼうとした瞬間、僕の携帯が鳴った。

 

「──園子?」

 

もしかして、何かわかったのか……!?

 

「──もしもし」

 

「ねぇ、あっきー 今どこにいるの?」

 

電話の向こうの園子の声は、問いかけるというより、確信を持っていると言わんばかりだった。

 

「……壁の前だよ」

 

「そこを動かないで。絶対に。」

 

「えっ、ちょっ、園子」

 

僕が返す間もなく通話が切られた。

園子……一体何があったんだ……。まさか……友奈の事で何か起きたのか!?

 

それから数分して、大赦の車が僕の目の前に止まった。

 

「あっきー!」

 

「園子──!」

 

車から降りてきたのは、園子だけではなかった。

 

「……姉さん」

 

「……優樹」

 

それは……僕の姉さんだった……。仮面を着けても、姉さんだってのは一目で分かった。でも……何故……?

 

「詳しい説明は後でするから、とにかく乗って」

 

「そ、園子……!」

 

園子に手を引かれ、抵抗するまもなく車に押し込まれた。

 

「先生!」

 

「……」

 

園子の合図と共に、車はその場から走り去っていった。

道中の会話は、とてもできる雰囲気では無かった。

 

なぜ?という言葉が頭をよぎる。行先はおそらく大赦本部。

今はただ、考え続けることしかできなかった。

 

◆◇

 

「──っ……」

 

大赦に到着してまず最初に目にしたのは、ずらりと並ぶ仮面……。

 

『勇者様』

 

そして、一斉に頭を下げ、そう言った。

 

「や、やめてくださいよ……なんなんですか一体?」

 

「あっきー……この先の部屋で話すこと、どうか落ち着いて聞いてほしいの」

 

「……うん」

 

頭を下げたままの大赦の人達を他所に、僕は園子から案内された部屋へ入室した。

 

「……ここなら、神樹様にかなり近い場所だから。大赦の人たちもここへは早々に入って来れないよ。」

 

「……うん」

 

正直……話をするという雰囲気ではない。変な気配を感じる……というよりは……2年前に勇者の端末をアップデートした時のことを思い出す。

 

神樹様にご挨拶した時の不思議な感じだ……。

僕は、一つ息を吐くと、真剣な眼差しで園子の瞳を見つめる。

 

「それで、何故僕は大赦に連れて来られたの?」

 

園子も目を逸らさない。いつもの穏やかな表情は、消え去っていた。

 

「……うん。あっきー、単刀直入に言うね」

 

「──ゆーゆとあっきー、二人とも天の神の干渉を受けているんよ」

 

「!!?」

 

ほんの一瞬、視界が揺れた。

 

「天の……神……」

 

「うん。最近の私、部活とか先に帰ってたでしょ?実は大赦に行ってたの。ゆーゆの事、何かわかるんじゃないかって」

 

確かに……園子が調べたいと言うのなら、大赦もNOとは言えないだろう。

 

「それでね、分かったことがあるの」

 

「分かった、事……?」

 

「……うん、それは────」

 

園子は少し間を置いて、静かに話し始めた。語られたその言葉には、現実味を感じられなかった。

けれども、真実なのだろう……。

 

「──そっか…………それで園子、僕はどうすれば良い?」

 

自分でも不思議なほどに冷静だった。

園子から告げられた言葉は、正直信じがたいものだった。しかし……これまでの事を──僕たちが勇者として戦ってきた今日までの出来事を考えれば、到底ありえない話ではなかった。

 

「あっきーは何もしないで」

 

「…………え?」

 

予想外の返答に素っ頓狂な声が出てしまった。

 

「何もって……どういう事?」

 

「今のあっきーは、かなり危険な状態だから。ゆーゆに起きてる事に首を突っ込めば、今度はどんな事になるか……」

 

「…………」

 

「大赦でも調べているけど……今はどうにも出来ないの……。」

 

僕は何も言えなかった。

 

天の神による干渉────友奈だけでなく、僕の身体までも蝕んでいる何か…………。

 

「あっきー…………私はこの事をゆーゆ以外に伝えるつもりだよ」

 

「だから……あっきーは神樹様のところで大人しくしてて」

 

「…………」

 

長い沈黙の後、僕は無言で頷いた。

 

『何もしないで』

 

その言葉だけが僕の中で繰り返し反芻される。

今の僕には……何も出来ない……。親友が苦しんでいる時に何も出来ない……。僕は……無力だ。

 

◆◇

 

「これって……」

 

「友奈ちゃんの部屋から借りてきました」

 

「そ、それって……」

 

「ま、まあ……とりあえず東郷の話を聞きましょ」

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

園子が優樹と話した翌日の夜──東郷は見せたいものがあると全員を呼び出していた。

 

ただ二人を除いて。

 

そうして東郷が話に入ろうとすると、夏凜が割って入った。

 

「友奈はまだしも優樹はどうしたのよ?」

 

この場にいるのは、風、樹、夏凜、園子、銀そして東郷だ。

 

東郷は皆を呼ぶ際、友奈に関わることだと言っていた。

だが、この場には優樹も不在だった。

 

「それは私から説明するよ。実は私、ゆーゆの事が心配になっていろいろ調べてたの」

 

「ほら、私、最近みんなより早く帰ってたでしょ?実家に顔出してるって。実は大赦に行っていたの」

 

「……その結果、ゆーゆの事だけじゃなくて、あっきーの事もわかったの」

 

「優樹くんに……一体どういうことよ!?」

 

「落ち着け須美」

 

詰め寄らんばかりの東郷を銀が手で制止した。

そうして話は続けられる。

 

「結論から言うね。ゆーゆとあっきーは天の神の干渉を受けているからなんだ」

 

『!!?』

 

「そのっち、それは……」

 

「聞いてわっしー」

 

天の神の干渉──以前東郷が奉火祭の生贄になった事で落ち着いたと思われていたもの。しかし、それは終わってなどいなかった。

 

「大赦の調べで、ゆーゆの受けてるモノとあっきーの受けてるのは全く別物だと判明したんよ」

 

「な、なによ……それ……?」

 

風がそのまま言葉を返した。

 

「……ゆーゆが受けているのは、天の神の祟り。大赦の調べでは、ゆーゆ自身が誰かに話したり書いたりすると伝染するの。だから、この書物はすっごく危険かもしれない」

 

「……じ、じゃあ、優樹は……?」

 

夏凜の問いかけに、園子は目を閉じて深呼吸した。

そうして、静かに告げた。

 

「あっきーは……天の神へ近づく程に命を削られているの」

 

『!?』

 

「ど、どういう事だよ園子!」

 

「命なんて……そんな……」

 

「乃木……それは本当なの……?」

 

「本当だよ。あっきーはゆーゆの事を調べるために壁の向こうへ行こうとしてた。でも、それをすれば多分、あっきーは死んでいた」

 

「壁って……」

 

「急に嫌な予感がして、私から電話したんよ。だから、止められた。そして今は、大赦の中でも神樹様に最も近い場所にいる」

 

それは──かつて勇者システムのアップデートで訪れた神樹の御前。そこなら優樹の命を繋ぐことが出来る。大赦と園子はそう判断した。

 

「園子……それってまさか」

 

「その通りだよミノさん。かつて私とわっしーとミノさんも行ったあの場所──あそこなら神樹様の加護によってしばらくは大丈夫。でも……その加護もずっとではない」

 

「じゃあ……何も手の打ちようが無いっていうの……!?」

 

「ふーみん先輩……」

 

「乃木、東郷が持ってきたその本には友奈の事があるのよね?」

 

「多分……けれど、もしかしたら開いただけで私たちも祟りを受けるかもしれない……それでも読む?」

 

「二人を助ける方法があるなら、あたしは読むわ」

 

風の決意を皮切りに、全員が同じ意思を示した。

そうして東郷が持ち出した書籍──勇者御記が開かれた。

 

◆◇◆◇◆◇

 

「…………」

 

ザーッと、滝が落ちる音だけが僕の耳に流れてくる。

僕の知っている滝垢離なら、もっと冷たかったはずだ。だが、今はほとんど冷たさを感じられなかった。

 

神樹様の御前へ移されてからは、これが日課となっていた。

身を清め、神樹様の御前に立つ。そうする事で、天の神の干渉を抑えるそうだ。

干渉といっても、自覚症状は無かった。園子から話を聞いて冷静でいられたのは、これが理由だったのかもしれない。もしかしたら神樹様の声が聞こえるかもしれない。そんな事を考えた事もあった。もしも聞こえたならば、僕の命と引き換えに友奈を救って欲しい──と願っていただろう。

 

今の僕に許されているのは、祈りを捧げる事だけだ。

 

「神樹様…………」

 

僕のことは良い……だから、友奈を助けてください……

 

滝に打たれながら祈りを込めた。




次回【勇者】
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