安芸優樹は勇者である   作:三奈木イヴ

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タイトル決める時に花言葉探してたんですが、まさかこんなピッタリな花言葉があるとは思いませんでした


勇者

園子の手により、友奈の勇者御記が開かれた。

そこには──こう記されていた。

 

『はじめに。年末に大赦の人達が私の変化に気づいて、家にやって来た。雰囲気からして、おそらくは優樹くんのお姉さんだった。事情は神託や記録を交えて知ったので、神聖な記録として残したいから、この本に日記をつけてほしいと。』

 

『どうしてこうなったのか。自分は大きな戦いで相当無理をしたようで、体のほとんどを散華してしまった。更に敵の御霊に触れた事で、魂が御霊に吸い込まれてしまった』

 

『気がつくと、そこは東郷さんを助けに行ったあの場所だった。暗く、どこまでも広がる世界』

 

『私は、無我夢中で動いた。どうにか元の世界に戻れないか。でもそこはどこまでも世界が広がっているだけだった。』

 

『東郷さんと優樹くんの声が聞こえて、絶対帰るんだって誓った。』

 

『そうしていたら、青いカラスがやってきた。カラスは私について来いって言ってる気がした。』

 

『それで光の方へ進んで行ったら、戻って来れたんだ。』

 

『でも、体は違っていた。私やみんなは散華から回復したけど、あれは捧げられた供物が戻って来たわけじゃないらしい。回復した体の機能は、神樹様によって作られたものらしい。』

 

『それで、自分の体に馴染むまで時間がかかった。

強引な満開をして散華した私なんかは、治すために全身神樹様が作ったパーツになったわけで、大赦では私のことを【御姿】と呼んでいるとか。御姿は良く言えばとても神聖な存在なので、神様からは好かれるんだそうだ』

 

『だから私は、私の望んだ通り、友達の代わりになる事が出来て、それで世界のバランスが守られた。あれから大赦は私の異変に気づいて調べてくれた』

 

『それでわかった事は、炎の世界がある限り、この体が治る事は無いということ。それと』

 

『私は、春を迎えられないだろうということ』

 

「……続き、読むわよ」

 

園子以外の全員が動揺を隠せなかった。

それでも知らなければならないと風が次のページをめくる。

 

『とても怖いし、私のせいで怪我をさせてしまった優樹くんに申し訳ないし、なんだかトンネルの中にいる気分だ』

 

『1月7日 優樹くんが無事退院出来たのがおめでたい

でも、みんなに移らないよう気をつけなきゃ。やっぱり、口数が減っちゃう。優樹くんが気にかけてくれるのがなんだか申し訳なかった』

 

『1月9日 体の気だるさはとても酷かったけど、部室にいるとそれも忘れられる気がした。『また明日』って言葉が最近好き。明日が来るって約束すれば、明日が来ると思えるから』

 

『1月11日 今日は調子が良い!いっぱい寝たのが効いたのかな。この調子で良い状態が続けば良いな。体にいい事、色々試してみよう』

 

『1月13日 優樹くんが学校を休んだ。あとで大赦の人に聞いたら、優樹くんも天の神の影響を受けてるって。大赦の人たちが言うには、優樹くんも神に好かれやすいらしい。

優樹くん……ごめんね……。』

 

『1月16日 今日も優樹くんは来なかった。何をしてるかは教えてもらえなかった。学校からは、しばらくお休みするとしか言われなかった。体調不良って事になっているけど……今どこで何をしているんだろう……。体の状態は、どんどん悪くなっている。でも、弱音を吐いたらダメだ。私は、勇者だから……。覚悟したんだから。』

 

日記はここで途切れている。

 

「……どういう事よ、春は迎えられないって……」

 

「……」

 

風の言葉に、東郷は玄関へ走り出そうとした。

 

「待ってわっしー!」

 

「止めないで!全部私のせいよ!天の神の怒りは治ってなかった!私が受けるはずの罪だったのに!」

 

「日記に書いてあったでしょ!誰かに移っても、ゆーゆの祟りはこのままなんだよ!」

 

「須美、落ち着け!」

 

園子が東郷の体を掴み、銀も肩を抑えた。

 

「大赦は……またあたしたちに大事な事を黙って……」

 

「迂闊に話せば祟りが移るかもしれない。だから話せなかったんよ」

 

かつて大赦は満開の後遺症を黙っていた事があった。

今回の風の疑いはもっともだろう。だが、今回は違った……。迂闊に話せば、天の神の怒りを買う可能性も否定できなかった。

 

「祟りについて詳しい事がわかったのは……昨日の夜だったんだ……。あっきーの事もそう……。」

 

「友奈……ちくしょう!」

 

銀の握り拳が壁にぶつかった。

 

「アタシ達はなにもしてやれないのか……」

 

真相を知っても、私たちには何もする事は出来なかった。

 

◆◇

 

翌日

 

「あのね、東郷さん」

 

「うん?」

 

「突然ですが、結城友奈は結婚します!」

 

「へぇ、結婚………………はっ!?け、結婚!!!?」

 

「な、な、な、何言ってるの友奈ちゃん!?まだ中学生なのよ!?相手は!?相手は誰なの!?」

 

「神(・)樹(・)様(・)」

 

◆◇

 

事の始まりは──昨日の夕方だった。

 

また大赦の人が家にやって来た。今回は一人だけ。

 

「あの……頭を上げてください……」

 

来客用のお茶を置き、私もその場に正座で座った。

仮面を着けているけれど、やっぱりこの人は……。

 

「きょ、今日は、なんの御用でしょうか……」

 

私が訊ねると、大赦の人は徐に言葉を紡いだ。

 

「急ぎ友奈様にお知らせする事があります。ご両親には全て了解していただいております。」

 

「なんですか?」

 

「私たちを300年守ってきてくださった、神樹様の寿命が近づいております。」

 

「神樹様が枯れてしまわれれば、外の炎から守る結界が消え、我々の暮らすこの世界は炎に飲まれ、消えてしまいます。」

 

「消える……って、待って待って、いきなりすぎます!それはダメ……」

 

「おっしゃる通りです。このまま人間を全滅させるわけにはいきません。全滅を免れ、皆で生きる方法を我々は見つけております」

 

頭の整理が追いつかない……。神樹様の寿命……それが無くなれば……世界が消える……?

 

「あの……それって勇者部のみんなも一緒に聞いた方が……優樹くんも……」

 

「……優樹は……いえ、優樹様には既にお伝えしております。納得はされておりませんでしたが。」

 

「そう……ですか……」

 

優樹くんは一体何を聞かされたんだろう……。

 

「それで……その方法って……」

 

「人類が助かる道。それは──選ばれた人間が神樹様と結婚することです。」

 

「け、結婚……!?結婚って、あの……!?」

 

「はい。古来より神との婚姻は神婚と呼ばれております。」

 

「神……婚……」

 

「はい。神婚とは、神に選ばれた穢れのない乙女と神とが婚姻を結ぶことです。そうする事で、人類は神の眷族となり、悠久の時を神樹様と共に生きる事が出来ます。」

 

「そ、それで……私が?」

 

「神樹様の神託により、友奈様を選ばれました。」

 

目の前で言われていることはとっても大事なことなんだと思う。けど、すごいことばかりで、頭が追いつかない……。

 

「私が結婚すれば……みんなは助かるんですか?」

 

「──はい」

 

「その……全然理解が追いつかないんですが、もしも神婚をすれば、私はどうなっちゃうんですか?」

 

「神婚が成立すれば、選ばれた少女の存在は神界に移行し、俗界との接触は一切出来なくなります」

 

「神婚をした少女は──死ぬという事です。」

 

「死…………」

 

「な、なんでまた私が……?」

 

「心も体も神に近い『御姿』だからです。」

 

御姿……。

 

「……優樹様も神婚の候補となる可能性がありました。」

 

「……えっ?」

 

優樹くん、も……?

 

「御姿では無いにも関わらず、神の干渉を受けやすい存在。ですが、神樹様は友奈様を選ばれました。」

 

「優樹……くん……?」

 

でも、優樹くんは男の子なのに、何故神婚の候補に……。

 

「あ、あの……神婚は穢れのない乙女って言いましたけど……どうして優樹くんも……?」

 

「……優樹様はこれまでに一切記録の無かった異端の存在です。」

 

「異端……」

 

「はい。大赦でも調査しました。しかし、あの子は至って普通の少年です。ただ……御姿のような体質をしているだけです。」

 

「そう、ですか……。」

 

優樹くん……。トレーニングが大好きで、いつも優しくて、みんなのことを見ていて、それでいて……大切な友達……。

 

「あの……もしも私が神婚すれば……優樹くんも、助けられるんですか……?」

 

「…………はい。」

 

「……すみません、すぐ答えられなくて……頭の整理が追いつかなくて……」

 

「どうか慈悲ある選択を。」

 

「……神婚したとして……その、人が神の一族になってずっと生きるというのは……」

 

「言葉通りの意味です。神樹様に管理していただく、優しい世界。信仰心の高いものから神樹様の元へ」

 

「……みんなが、神樹様と共に……」

 

「どうか……この世の全ての人をお救いください」

 

◆◇

 

「いや怪しいでしょ!!何引き受けようとしてんの!」

 

「ゆーゆ……」

 

「違うと思います……」

 

「アタシも同意見だよ。なんで友奈が……」

 

「みんな……」

 

「今の反応でわかるでしょ……友奈ちゃんの考え方が間違ってることが」

 

私は、勇者部で神婚の事を打ち明けた。

一晩考えて、私は打ち明ける覚悟を決めた……。もう、後戻りはできない。

 

「待って!私は…神婚を引き受けるって…」

 

「その必要は無いって!」

 

「だって死ぬんでしょ……」

 

「神樹様と共に生きるって、何なのかな……?」

 

「何かゾクッとくるっていうか…」

 

「とても幸せな事だとは思えないわ」

 

「友奈、考え直せ……」

 

「でも……神樹様の寿命が来たら……世界が消えちゃうんです」

 

「神樹様の寿命はわかるけど、友奈が行く必要無いでしょ!」

 

どれだけ止められても、友奈は考えを曲げようとしない。

 

「風先輩……勇者部は人の為になることを勇んで行う部活なんですよね?これも勇者部だと思うんです……誰も悪くない。世界を守る為に他に選択肢が無いなら……それしかないなら、私は勇者だから…!」

 

「友奈!一回頭を冷やしなさい!」

 

「ゆーゆ、それしかないって考えはやめよう?神樹様の寿命が無くなる前にもっと考えればいいんだよ」

 

「ダメなんだよ…私にはもう時間が…ッ!」

 

言いかけた言葉を飲み込み、友奈は口元を押さえた。

その瞳には、自分の身体に刻まれた天の神の刻印が見えていた。

 

「私たち知ってるの。優樹くんと友奈ちゃんが天の神によって命が危ない事を」

 

「その話はやめて!私は何も言ってない!」

 

東郷が友奈の手を優しく握る。

 

「その件含めて解決してみせるから」

 

「大体おかしいです!友奈さん1人が何でこんな目に遭わなきゃいけないんですか!」

 

「で、でもね樹ちゃん。私は嫌なんだ。誰かが傷つく事、辛い思いをする事が……今回私1人が頑張れば……」

 

「ダメよ!友奈ちゃんが死んだらここにいる全員がどれだけ傷ついて辛い思いすると思っているの!!」

 

「東郷さんだって、皆を助けるために火の海に行ったんでしょ!」

 

「そうよ!でも壁を壊した私の自業自得でもあるの!友奈ちゃんは悪くない!反対よ!」

 

「ずるいよ…私は…私は東郷さんの代わりに…ッ!」

 

友奈は言ってはいけない一言を言ってしまった事に気づき、言葉を止めた。東郷の表情が曇り、しまったと心の中で思った。

 

「友奈ちゃん…」

 

「友奈……。友奈が傷つけば、優樹だって傷つくんだぞ」

 

「優樹……くん……」

 

銀に優樹の事を話題に出され、ほんの一瞬、友奈の中で何かが揺れた。

 

「友奈さんが言うように、勇者は皆を幸せにする為に頑張らないといけないと思うんです。でもその中に友奈さん自身も入っているんですよ」

 

「ゆ、勇者部五箇条!なるべく諦めない!私は皆が助かる可能性にかけているんだよ!!」

 

「あんたが生きることを諦めてるじゃない!!」

 

「勇者部五箇条!なせば大抵なんとかなる!なさないとなんにもならない!!」

 

「友奈!!五箇条をそんな風に使わない!!」

 

「私は時間のあるうちに出来ることをしたいんです!!だからきちんと皆に相談しました!!!」

 

「これじゃあ相談じゃなくて報告だよゆーゆ…相談しなきゃ…」

 

「してるよ!!!」

 

「私が神婚すれば……優樹くんだって救える……だから私は!!」

 

「友奈!自分を犠牲にしたって、優樹は傷つくだけだ!」

 

「それでも!それでも……」

 

銀の言葉に、友奈は言い返す言葉が見つからない。

しかし、友奈の決意は揺るがなかった。

 

私がこんな事をしても優樹くんは喜ばない……それはわかっている。でも……もうこれしか無いんだ……。

 

「そ、その……友奈、無理するな……」

 

「無理なんかしてない!!」

 

「ご、ごめん……」

 

友奈の友達を守りたいという思いが強く、もう、誰の言葉も届いていなかった。

 

「友奈!皆がこれだけ言ってまだ分からないの!?」

 

「待って──」

 

「だから!他に方法が無いからこうなっているんです!」

 

「待って……なんで……こんな、喧嘩なんて……」

 

樹ちゃんが泣いていた。

いつも仲良しの勇者部が諍いを起こしたら、悲しくなるのも無理はない…………。

 

「樹……」

 

一旦冷静になるも事態は平行線だ。

 

涙を流す樹を風と銀が宥めている。

だが、誰も顔を合わせようとしない……。

 

「……っ!!」

 

「友奈ちゃん!」

 

「ゆーゆ!」

 

次の瞬間、友奈が部室を飛び出した。

 

「東郷、乃木!」

 

『はい!』

 

風の声に呼応し、東郷と園子が後を追った。

しばらくして見失ったという連絡と共に、園子の端末に大赦から連絡が入った。

 

◆◇◆◇◆◇

 

「──友奈」

 

「優樹……くん」

 

神樹様への祈りを捧げて外に出ると、白装束の友奈が佇んでいた。

 

「久しぶりだね」

 

それを見て、僕は全てを察した。

何故友奈がここにいるのか、これから何をするつもりなのか。おそらく風先輩達も振り切ったんだろう。想像に難くない。

 

「……うん」

 

「友奈、みんなは君を助けに来る。それだけは覚えておいて」

 

「私は……みんなを救うんだ……。優樹くんだって、もう命を削られることはないんだよ」

 

「……そうだね」

 

本来であれば、僕も友奈を止める。でも、ここまで来てしまったなら、僕は僕のやれる事をするだけだ。

 

「……絶対助けるから」

 

僕は小さく呟いて、その場を離れた。

 

◆◇

 

「勇者様に最大限の敬意を……」

 

「やめてください」

 

大赦本庁から園子の端末に送られた場所へ向かうと、そこには数多くの石碑が並んでいた。

 

そこに刻まれた文字を見て、慰霊碑だと全員が理解した。

そして、園子たちを迎えたのは、仮面を付けた一人の大赦職員だった。

 

園子たちは周囲の慰霊碑を目で追いながらゆっくりと近づいていった。

 

「ここは、歴代の勇者と巫女が祀られている場所」

 

「友奈さんはどこにいるんですか?」

 

「今は大赦におられます」

 

「じゃあ大赦に乗り込むわよ」

 

「友奈様から話は聞かれたかと。世界を救うには、神婚しか残されていない」

 

友奈の元へ向かうべく決断を下した風に、大赦職員が淡々とそれを止めようと口を開く。

 

「ええ!聞かされたわよ!」

 

「急ぐ必要があった。ご存知かと。友奈様の寿命はあと僅か」

 

「友奈さんの祟りを祓う方法は本当にないんですか!?」

 

「我々は探りました。友奈様を救う方法を。しかし、無かったのです。外の炎がある限り、友奈様は祟られたまま」

 

「じゃあ、外の炎をどうにか出来ないの!?」

 

「これしかありませんでした。」

 

「じゃあ……優樹も?」

 

「はい。優樹様も炎の世界がある限り、そう長くはありません。」

 

どちらも天の神によって起こっているものだ。

炎がある限り、優樹も友奈も命が危ない。

 

「優樹は何してるのよ?」

 

「神樹様の元で、祈りを捧げています」

 

「ここには来れないってわけね。」

 

「もう時間がありません。友奈様はこれより、神婚の儀に入られます。」

 

「ふざけるな!止めてやる。そんなもの止めて、優樹と友奈両方救ってみせる!」

 

風の激昂が静かな慰霊の地に響き渡る。

 

「勇者様の多くは、お役目の中で命を落とされました」

 

「友奈様もまた、戦いは違えど皆の為にその身を捧げようとされています。それこそが勇者であると理解して」

 

「だから……私たちにも納得しろと……? 2年前に優樹くんが死にかけた……なのに……」

 

「──そうしなきゃならなかったのはわかってる。それでも子供達を犠牲にして生きてきたなんて、歪みすぎですよ」

 

ここまで口を閉じていた銀の言葉だった。

銀もかつては先代勇者として戦い、友を失いかけている。

 

銀の脳裏には、かつての戦いが蘇っていた。

 

「それしか方法が無いならば……全てを生かすために少数の犠牲が必要なのはやむを得ないのです。それが、この時代における人の在り方」

 

「やむを……得ない」

 

「……そうよ」

 

「ピーマンが嫌い……だったよね」

 

園子の一言に、全員……主に東郷、それと銀が反応を示した。

 

「凄く厳しいけど、弟思いでふとした時に見せるチャーミングなとこが好きだったけど……もう今は……昔の安芸先生じゃないんだね……」

 

「優樹くんの時、安芸先生が静かに悲しんでたのを私たちは知っている。その時の辛さを知っているなら……もう一人も犠牲なんて!!」

 

「姉ってさ、面倒な立場だなって思ったこともあるよ。でも、大切な弟のために涙を流せる人じゃなかったのかよ……安芸先生!」

 

「……変わってやれるのなら、変わってやりたかった。しかし……あなた達しかいなかったのです。神樹様は……私たちを受け入れてくれなかった……」

 

大赦──否、真鈴の姉としての本音が漏れた。

その次の瞬間。

 

『特別警報発令』

 

「こ、これって……」

 

全員の端末からけたたましいアラームが歪な音を響かせる。

直後、大きな揺れが起きた。

 

「もう、来るとは」

 

「ちょ、ちょっと何よこれ!」

 

「あなた達の出番です。天の神は、人間が神に近づいたことに怒り、裁きを下したと言われています。人間が神婚など、もってのほか」

 

「……バーテックスが来る」

 

「いいえ」

 

その言葉と共に、空が暗く、赤く染まりだす。

それは──まるで壁の向こうの世界のように。赤黒い炎が現実世界の空を包み込んだ。

 

「現実の世界に敵!?」

 

「敵……なの? なんなのあれ……」

 

「あ、あんなやつが……」

 

「神婚は友奈様が神樹様の元へ行き、人々の願いの礎となることで契られ、成立します。神婚すれば、人は神の一族となる。さすれば皆は神樹様と共に平穏を得ます。」

 

「これが最後のお役目。敵の攻撃を、神婚成立まで、防ぎ切りなさい。」

 

「そして三ノ輪銀様へ、大赦技術班の花本より預かったものがあります。」

 

「アタシに……?」

 

そう言いながら、真鈴は懐から一台の端末を取り出した。

 

「──これって」

 

「神樹様より賜った、最後の勇者端末です。」

 

「!!」

 

かつて銀が使用していた物は、両視力の散華により、夏凜へと譲渡されていた。存在しなかったはずの新たな勇者端末が、今ここにある。

 

「2年前と同様、精霊は宿っていません。それでも、戦いますか?」

 

「──!!」

 

 

なんの躊躇もなく、銀は端末を手にした。

 

「何をわかりきったことを言ってるんですか。友達を、大好きな人を救うためなら、精霊が無くたって戦いますよ!」

 

「ミノさん……」

 

「銀……」

 

「三ノ輪、あんた……」

 

「風先輩、アタシも行きます。友奈を取り返して、みんなで帰りましょう!」

 

「……そうね、神婚なんてさせない!!」

 

銀と風の言葉を合図に、全員が端末を手に取った。

 

「優樹が居なくたって、私たちは生きて帰る!」

 

『おう!』

 

全員が勇者へと変身し、最後の戦いが始まった。




勇者の章はあと2話で完結します。
長くなってしまいましたが、遂に訪れるその時。最後までよろしくお願いします!!
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