②ルーマニア視点で描写するので、基本的には“陛下”ではなく“天皇”と呼称する事となりますが、不敬をご容赦下さい。作者自身は皇室を崇敬しており、貶める意図は一切ありません事をご承知おき下さい。
③ ①や②で述べた通り、人を選ぶと思います。地雷を踏まれた!と言う類の感想は受け付けておりませんので、ご容赦下さい。
「よく、いらっしゃいましたね。
頭を上げて下さい。」
1932年6月3日、皇居内の一室にて
私、十六夜咲夜はアリス、メアリーと共に
天皇への謁見を果たしていた。
私は吉田から事前に日本における天皇が
どの様な存在であるかを聞いていたので
日本人に好印象を与える為
跪き最大級の敬意を示す事も考えたが、
深々と頭を下げるのみに留めておいた。
私は今回ルーマニアの代表者として
お嬢様の名代としてやって来た訳で、
堂々とする所は堂々とすべきなのだ。
別にルーマニアは日本の属国では無いし、
お嬢様なら絶対に跪いたりはしない。
何なら、頭を下げるかすら怪しい。
別に、敬意と言うのはちょっとした事で
示す事は可能だと思うのだ。
私は流暢な日本語で天皇に挨拶する。
…習得した時はいつ使うのかと
思ったものである日本語だが、
こうも重要な場面で使うとは。
私は七大国の言語とスペイン語を
流暢に話す事が出来るのだが、
日本語の習得には多言語と比べて
相当な時間を要しただけに
感慨もひとしおである。
「…本日は、貴重なお時間を頂きまして
大変ありがとうございます。
私はレミリア・スカーレット女王陛下の
名代として参りました、ルーマニアの
外務大臣を務めさせて頂いております
“十六夜咲夜”と申します。」
私は天皇に自己紹介すると、
隣のアリスに視線をやる。
私とメアリーは今だけは
着慣れ無いスーツに着替えていたが、
アリスは濃紺の軍服姿でここにいた。
「本日はお招き頂きありがとうございます。
私はルーマニアで海軍大臣を務める
アリス・マーガトロイドと申します。
貴国日本は世界でも有数の海軍を有し
その名声はルーマニアにも轟いております。
貴国との友好に貢献させて頂ける事に対して
今この場を借りて感謝させて頂きます。」
アリスは改めて頭を下げる。
…その姿を見たメアリーは
かなり緊張した面持ちだな。
「…私はアリス・マーガトロイドの
助手として働かせて頂いている、
メアリー・レーガンと申します。
本日は宜しくお願い致します。」
…メアリーが頭を下げた時、
私は気づいてしまった。
そう言えば、メアリーには
紹介可能な肩書きが無いのである。
まさかこの場で魔女です等と
自己紹介する事が適切とは思わないし。
私は彼女のやりにくさを思いつつ、
率先して口を開いた。
「…私達は本日から数日程
貴国日本に滞在させて頂きます。
短い期間にはなってしまいますが、
ルーマニアと日本の友好関係を
築く事が出来る事を確信しています。」
「朕も、そう思います。」
私の発言に、天皇は首肯しながら言った。
…私は、天皇が日本で神聖視される
理由の一端を垣間見た気がした。
口数は少ないが、そうであるが故に
一つ一つの言葉の重みが大違いなのだ。
ゆっくりと、丁寧に話すその姿は
明瞭に自らの意思や思考を伝えていく
お嬢様とはまるで違う在り方に感じる。
私がなんとなしにそう分析していると、
天皇は穏やかな語り口で私に質問をしてくる。
「所で、聞く所によれば、貴国の女王は
近年貴国を目覚ましく発展させ、
臣民を富ませているそうです。
果たして、どの様なお方なのですか?」
…お嬢様についての質問か。
どの様に答えるべきか迷うが、
私から見たお嬢様像をありのまま答えた所で
天皇には伝わる事は無いだろうな。
私は無難に返答しておく。
「…女王陛下は偉大なお方です。
容貌は若々しく見目麗しいですが、
その実1502年の生まれでして、
今年で430歳だと聞いております。
その為女王陛下の見識は非常に深く、
国を富ませる為の手法について
きちんと心得ているのです。」
流石に多少は盛った発言だ。
若々しく見目麗しいのは間違いないが、
私から見たお嬢様の姿を正直に表現すると
最早若々しいを通り越して幼女そのものだ。
私より聡明で多くを知っているものの、
行動原理や外見は幼女なのだ。
尤も、それを含めてお嬢様の魅力なのだが。
天皇は感心した様に私の発言を聞くと、
次の質問を飛ばしてくる。
「具体的に、貴国で女王は実際に
どの様な事をなされたのですか?」
「女王陛下はルーマニアを豊かにするべく
経済政策、外交政策、防衛政策、福祉政策に
大変力を入れて取り組んでいます。
経済政策では、新首都とインフラの建設で
恐慌で増加した失業者数の減少に成功しました。
外交政策では、英国との同盟締結に加え
貴国日本との関係強化に取り組んでいます。
防衛政策では、新兵器の研究や生産により
ルーマニアを侵略行為から守る為の
軍事力強化に邁進している次第です。
福祉政策では、成績優秀者を対象とした
高等教育の無償化の他、
陸、海、空軍人の待遇を改善、
育児手当、失業手当、遺族年金の導入、
貧民にかかる医療費の無償化等を掲げ
実際に順次実行に移している最中です。」
…当たり障りない回答だと思う。
別に噓をついている訳でも
機密を明かしている訳でも無い。
強いて言えば、多少盛っている位か。
実際の所、お嬢様が主導したのは
新首都建設、外交方針の策定、軍服ぐらい。
何なら軍服も海軍についてはアリスが決めた。
建設予定のインフラの多くは妹様の発案で、
新兵器開発はパチュリー様、妹様、アリス主導だ。
福祉政策に至っては、やると言う事だけを示して
詳細はデジに丸投げしている始末だし。
とは言え、それでも私はルーマニアの発展を
お嬢様の成果であるとは思っているが。
私がこれまでのお嬢様の歩みを振り返っていると、
天皇は私に真剣な眼差しで言う。
「貴国では、高等教育が無償なのですね。
素晴らしい事であると思います。」
天皇は終始興味深そうに
お嬢様の成果を聞いていたが、
最も評価に値するとした項目は
高等教育の無償化に対してだった様で、
その成果を称賛してくる。
…まぁ厳密に言うと無償化の対象は
“成績優秀者”に限った物なのだが、
成績優秀者の基準が試験成績の
上位5割の学生と言う事になっている為
進学を希望する様な学生であれば
ほぼ全員が無償化の対象となっている。
ルーマニアの大学進学率を考えた時に
上位5割の学生が対象となるのは
些か対象者が多過ぎる気もするが、
家業を継ぐ為にと言って
教育を受けないルーマニア人が
一人でも減る様にとの配慮からも
対象者は多くしたいと言うのが
福祉大臣デジの意向であったのだ。
無論、この対象者には女子も含まれている。
多くの国で女性の教育は軽視されているが、
我がルーマニアはそんな事をしないのだ。
そもそも、ルーマニアは政府の要職の殆どが
女性によって占められている国であり、
旧態依然とした男女差別的な制度は
お嬢様自ら積極的に腕を振るって
抵抗を跳ね除け次々と改革している。
…無論、こうした取り組みの真の狙いは、
もしルーマニアが侵略を受けた場合に
兵力不足に陥る事が無い様に、
男女平等を盾にして女性にも徴兵制を
適用する事にあるのだが。
…少し考え込んでしまった。
私は時折物思いに耽る悪癖があるので
時折時間を止める様にしている。
私は時間停止を解除する。
お嬢様の成果が評価される事は
仕える私にとっても誇らしい物なので、
私は胸を張って答えた。
「はい。女王陛下はルーマニア臣民に
学習の機会を与え、国家の繁栄に
尽力して参ります所存です。」
「大変、参考になりました。」
…陛下はそう言って会話を切る。
まぁ、私達は天皇と会談するのでは無く
あくまで謁見に来ただけであるから
この辺で取り敢えずは問題無いだろう。
事前に吉田から聞いた所によれば、
天皇は日本の統治者ではあるものの、
議会や内閣の決定を追認する事が多く
具体的な政治的な話をするなら
首相や大臣とした方が良いとの事らしいのだ。
今回の訪日において天皇への謁見は
象徴的な出来事には違いないが、
別にメインディッシュでは無い。
私は数秒の沈黙が続いた後、
この謁見の前に私達より緊張していた
案内人である隼一を見やる。
彼は相変わらず緊張しており
天皇とは殆ど目線を合わせていなかったが、
私の意図を察する脳位はあったらしく、
宮内省の職員と見られる男性に頭を下げた後、
私に改めて声を掛けてくる。
「…十六夜様、マーガトロイド様、レーガン様、
お帰りはあちらからとなりますので、
私の方から案内させて頂きます。」
隼一の声が僅かに震えている。
凄まじい程の緊張だな。
彼は一介の官僚に過ぎないが、
私からすると幾ら天皇が高貴でも
別にそこまで緊張する事無いのにと
ついつい思ってしまう。
ルーマニアではお嬢様に対して
不敬な接し方をする大臣が平然と
存在しているだけに殊更そう感じた。
私達は天皇に頭を下げた後退室し、
隼一の後を3人でついていく。
~~~~~~
…天皇の姿が見えなくなった所で
私は隼一に声を掛けた。
「…案内お疲れ様。
私達より緊張していたわね。
予め吉田から聞いていたけれど、
確かに天皇って凄い存在なのね。
少し話しただけだったけど、
私にも感じる所があったわ。」
「ご客人である十六夜様に
労われるとは私もまだまだです。
十六夜様の仰っている通り、
日本において陛下は特別な存在と言えます。
本当を言えば、今日予定していた訪問も
私如きには畏れ多いと言う事で
宮内省の職員に仕事を任せようとしていた位です。
しかし、ルーマニア語を理解出来る
宮内省の職員がいませんでしたので、
畏れ多くも、私もあの場に案内人兼通訳として
参列させて頂く事となりました。
…十六夜様もそうですが、
皆様方があそこまで流暢な
日本語を話されるのでしたら
私は不要でしたでしょうけれど。」
「…少なくとも、私は少しだけ
安心感があったけどね。
更に言えば、不要では無いわよ。
通訳としては兎も角として、
案内人としては役立っているし。」
苦笑しながら今回の謁見の
裏話について話してくれた隼一。
まぁ、ルーマニア語を話す人間は
確かに日本では稀な筈だし
通訳の仕事を任されるのも妥当か。
一体どうやってルーマニア語を習得したか
私にはその経緯が分から無いが、
英語やフランス語何かと比べて
教材は相当少ないだろうに
本当によくやる物だと思う。
…まぁ、そんな事を考えても仕方無いか。
“彼のルーマニア語は流暢である”
その事実があれば十分なのである。
私は思考を切り上げ、昨日食せなかった
帝国ホテルでの夕食メニューを考察しつつ
隼一の後ろをついて行った。
私の本業はあくまでメイドであり、
料理の腕には自信を持っているのだ。
日本が誇る料理人のお手並み拝見と行こうか。
---------
「…私をお呼びしたいとの事でしたが、
用件を伺っても宜しいでしょうか?」
1932年6月3日の夜、帝国ホテルの一室にて
夕食を終えた私、メアリー・レーガンは
ルーマニア外交団の案内人を務める日本の外務官僚…
もとい白馬の王子様である宇佐見隼一を
私的な目的で自室に呼び寄せていた。
職権濫用?そんな言葉、私は知らない!
そもそも、大変遺憾ではあるのだけれど、
私はただの魔女でしか無くて、
濫用する様な職権を持っていないのだ。
…私だって一応色々仕事もしているのに
役職無しでは格好がつかないし、
帰国したらレミリアさんに何か役職を
おねだりしてみようかな?
レミリアさん、ああ見えても
意外とちょろそうな感じだし。
まぁいずれにしたって、
職権濫用の線で咎められる謂れは無い。
夜遅くに呼び出された隼一は迷惑だろうが、
こんなに美しい女性に呼び出されたのだから
その辺りは我慢して貰いたい所である。
何かあったら直ぐに対処するって話だったし
文句は一切受け付けるつもりは無いのだ。
私は困惑気味の隼一の疑問に答える。
「そんなに改まらなくても大丈夫!
ただちょっと、貴方に興味を持ったから
もっと話してみたいなって思って。
後、私的な会話だから敬語も平気。」
私の言葉により一層困惑気味の隼一。
私との距離感を図りかねているのだろうか?
…取り敢えず、まずは距離を縮めないと。
「取り敢えず、ベッドに座って!」
私は突っ立っている隼一をベッドに招く。
勿論、彼に座らせるのは私の隣である。
心理的な距離を縮めるにあたって、
先ず物理的な距離から縮めようと言う訳だ。
これは昔私のお母さんから聞いた話だが、
女性に積極的にアプローチされたら
大概の男性は直ぐに落ちるらしい。
事の真偽については知らないけれど、
私にはその話を信じてアプローチを
かけなければならない事情がある。
今回の訪日は10日しか無いので、
彼を口説き落としたいのなら
今直ぐに動く必要があるからだ。
日本に行く機会何てこの機会を逃せば
死ぬまでにもう一度は多分無いし、
もし仮にあったとしても
隼一に会える保証はどこにも無い。
そんな隼一は、若干抵抗感を示しつつも
私の指示に従って隣に座ってくる。
近くで見るとより顔が良く見えるな。
それに、結構いい匂いもするし。
私がちょっとドギマギしていると、
隼一が私に声をかけてくる。
「…それで、私的な会話って?」
…凄い破壊力だ。敬語が外れただけで
魅力が2倍、3倍にはなっているぞ。
私は取り敢えず適当に話題を振る。
笑顔で、愛想良く見せながら。
「えっと、それじゃ、年齢!
年齢聞いてなかったな~って。
因みに、私は20歳だよ!」
「…自分は1908年生まれの24歳だよ。
一応、4つ上って事になるかな。」
おお、分かっていたけどやっぱり若いな。
年下の私が言う事じゃ無いかもだけど。
取り敢えず、話を拡げる必要がある。
私は次々に質問をして行く事で、
隼一との会話の取っ掛かりを探していく。
「それじゃ、次は出身地を教えて!
私は今こそルーマニアに住んでいるけど、
アイルランドのコーク郊外が出身だよ。
だからまぁ…ルーマニア語って別に
母語って訳じゃ無いんだよね。
まぁ、それを言ったら日本語もだけど。」
私の言葉に隼一は目を見開く。
「…自分の出身地は東京だよ。
それにしても、本当に凄いな。
ルーマニアで暮らしてるなら、
ルーマニア語も理解出来るって事だ。
日本語、ルーマニア語、アイルランド語…
まさか3つの言語を話せる何て。」
感嘆する隼一。しかし、残念ながら
私は別にルーマニア語も日本語も
その一切を習得してはいないのだ。
何故なら、その必要が無いから。
私はからくりを説明する。
「残念だけど、私は言語を習得してないの。
その代わりに、翻訳魔法を使ってるからね。」
「…え、翻訳魔法?」
…私の説明に対して思考停止に陥っている隼一。
そっか、冷静に考えてみればそれもそうだ。
隼一は私が魔女である事を知らないし、
そもそも魔法の存在を知っているかすら怪しい。
知っていたとしても普通は信じないだろう。
取り敢えず、無言はまずいし説明しないと。
「あー…うん、私が悪かったね。
えっと、実は私って所謂魔女で、
魔法を使う事が出来るの。
噓みたいな話だけど、本当だよ?
ほら、ルーマニア外交団に
アリスさんっていたでしょ?
あの人も実は魔女なの。
ルーマニアでは魔女って
ありふれた存在何だよね。」
「…えっと、冗談でしょ?」
…まぁ、こうなるよねぇ。
思考停止に陥っていた隼一
魔法や魔女を説明した所で、
今度は思考放棄に陥るだけなのだ。
とは言え、この辺の認識を
すり合わせない事には
この後の会話がまるで進まない。
こう言う時にすべき事は決まっている。
…そう、実践だ。百聞は一見に如かずって
表現だってあるのだしね。
私は彼に魔法を掛ける。
先ずは私が得意な奴を。
「…そうだなぁ、まぁ、取り敢えず
使ってみるから体験してよ。」
私はそう言って左手を一振り。
使ったのは疲労回復魔法だ。
夜遅くまで頑張って働いている
(メアリーが働かせているとも言う。)
隼一は相応に疲れている筈で、
効果を実感してくれそうだが…
私は隼一の顔を観察する。
…すると、またしても隼一は
目を丸くしていた。今日一で。
どうやら効果はあった様だ。
実際にここまでされたら、
彼の脳内だって魔法の存在を
受け入れざるを得ない筈だ。
「…えっと、もしかして今魔法を使った?」
「うん、使ったよ。疲労回復魔法をね。」
恐る恐る聞いてきた隼一に
私が使った魔法を説明する。
ここまでされても尚困惑する
理解の遅い人間もいるけれど、
彼はエリートなのだから
相応に頭は良い筈であるし、
理解出来ると私は踏んでいた。
…そして、実際に隼一は
未だ魔法に驚きながらも
その存在を理解したらしい。
「…流石にかなり驚いたな。
未だに信じられないのだけど、
君が魔法を使ってくれた時、
体が凄く軽くなる感覚があったよ。
疲れが本当に取れてるよ。
今日は本当に疲れてたんだ。
疲れをとってくれてありがとう。」
…その疲れを増幅させているであろう
私を前にして感謝する隼一。
まぁ、彼がさっき使った魔法を
根源から信じるまでには
暫く時間を要するかもしれないが、
取り敢えず話をする分にはこれで
特に困る事は無い筈である。
しかし、私はさっきの隼一のセリフに
聞き捨てならないポイントが合った。
私はそれを隼一に指摘する。
「えっと、出来れば“君”じゃなくて、
“メアリー”って呼んで欲しいな…何て。」
「え……メ、メアリー?」
…ヤバい。これすっごい破壊力。
イケてる顔をしている癖して
こう言う時だけ子供っぽいのは
何というか、クル物があると思う。
…自分の気持ちを自覚して、
どうしようもない羞恥心に襲われる。
顔面の温度が急上昇して、
沸かしたお湯みたいに暑い。
別に鏡を見た訳じゃないけど、
赤面している事位ハッキリ分かる。
しかし、どうやら赤面しているのは
私だけでは無いみたいで、
隼一も顔を薄っすら赤くしていた。
このままだと主導権を取られそうで
それがどうにも癪だった私は、
隼一を少しからかってみる事にする。
「…もしかしてなんだけど、
隼一って女性経験無かったりする?(笑)」
…私は口に出してからちょっと後悔する。
仮に隼一に女性経験があったとして
そんなのは絶対に聞きたく無いし、
仮に女性経験が無かったとしても、
私の男性経験を聞き返されたら
私にも成す術は無いのである。
そして、隼一はエリートなのだ。
学の無い私に分かる事何て、
隼一に分から無い訳が無い訳で。
「…確かに自分はこれまで
女性には縁の無い人生を
歩んで来たとは思うけど、
メアリーにだってそこまで
男性に縁があったとは思わないな。」
ちょっとだけ棘のある口調から
私に突き刺さる反撃。
こうなってはどうしようも無い。
こう言うのはお互いにダメージを
被っている訳であるが、
非常に残念な事に、
後から攻撃された方が負けと
相場は決まっているのである。
私は苦し紛れに禁じ手を放つ。
「…た、確かに私はこれまで
男性に縁が余り無かったけど、
女性にそれを指摘するって
大概失礼何じゃない?」
「別にそんなつもりじゃ…。」
勝った。私は勝利を確信する。
私が使った禁じ手は、女性の特権だ。
自分が弱者である事を逆手に取り、
男性に弱者保護の義務を強要するテクニック。
尤も、この場合誰がどう見ても
私の方が物理的にも立場的にも
強い立場にいる訳であるから、
心はちょっとだけ痛むけど。
…私は気まずそうな顔で下を向く
隼一の弁明の続きを待っていたが、
数分間隼一は黙ってしまった。
きっと、どうすれば良いのか
最適解がまるで分から無いだろう。
…まぁ、この気まずい空気の責任は
隼一では無くて私にある訳だから、
私が沈黙により重くなる空気を
何とかしないといけないな。
大体、自分のプライドに拘って
白馬の王子様を逃したとなれば
もう人生を全う出来そうに無いし。
「…ごめん、隼一。言い過ぎた。」
「…こちらこそ、ごめん。」
ただただ両者で謝罪を重ねる。
尚も私は気まずいが、
私的な会話と言う名目で
私に呼び出されたとは言え、
案内人と言う立場にある
隼一の方が気まずさは上だろう。
こう言う時に必要なのは…多分笑いだ。
私は面白い事は言えないかもしれないが、
隼一をからかってみる事は出来る。
無論、さっきよりもマシな方法で。
「…所で、隼一ってどんな女性が好きなの?」
「…突然だね。」
隼一は顎に手を当てて暫し思考に耽る。
彼にとっては考えた事も無い問いだったからだ。
別に隼一は良い所の出身とかでは無いが、
漠然と、数年後に自分が一人前になった時に
父親か母親が紹介した女性と
添い遂げる物だと思っていたからだ。
無論、そこに自らの意思等無い訳で。
しかし質問には答えなければならない。
隼一は一度メアリーを見やってから目線を外し、
自嘲気味に質問に答えた。
「…自分は男らしさに欠けるからね。
そこまで積極的な性格はしていないし、
自分の事をしっかり認めてくれて、
時には引っ張ってくれる女性が良いな。」
隼一の口から出てきた理想の女性は、
良妻賢母と言う旧来的な女性の理想像とは
大きくかけ離れた物であった。
尤も、隼一は自分の事だから
女性の好みの如何に関わらず、
将来家庭を築いた自分が
嫁の尻に敷かれるだろうと言う
想像がありありと出来た訳だが。
実際、今夜もメアリーに流され
案内人と言う立場を忘れて
私的な会話を続けている。
本来は丁重に断るべきなのに。
~~~~~
…しばしの間またも無言になる。
多分、5分は経ったのだろう。たった5分間の沈黙さえ、
今の2人には際限の無い程長時間であると感じた。
口を開いたのはメアリーだった。
声は決して大きく無かったが、
だが確実に隼一に届く声で。
「…ね、今夜はここにいてよ。
大丈夫、何かあっても隼一は
絶対に不利益は与えないから。」
さっきから散々顔を赤くしたメアリーにとって、
その言葉を言い切るハードルの高さは
間違い無く低くなっていた。
元より、こうして自室に招いたのだ。
余程空気が悪くならない限りは
メアリーは最初からこうするつもりだった。
尤も、鈍感な隼一は困惑している。
その顔を見て、メアリーは続ける。
「…それとも、黒髪で青い瞳の女に興味は無い?」
そう言って、おもむろにボタンを外すメアリー。
その言葉と行動を目の当たりにすれば、
幾ら鈍感な隼一であっても察する事が出来る。
正直、隼一からしても彼女の容姿は
純粋に美しく魅力的だと思ってはいる。
しかし、その誘いの言葉を理性によって
隼一は強引に押さえつけていた。
「…自分はあくまで官僚だし、
メアリーとは仕事の関係だ。
だから、そう言う事は出来ない。」
彼の下半身は理性に懸命に抗っており
限界寸前ではあったのだが、
それでも理性の方が勝っていた。
隼一はメアリーを突き放す。
外務官僚が外国人と交わった結果
起こりそうな事がどんな事であるか位、
聡明な隼一には理解出来たからだ。
まぁ、俗に言う色仕掛けと言う奴である。
無論、メアリーはそこまで考えて
隼一を篭絡している訳では無かったし、
単に好いた男とシたいだけなのだが、
皮肉にも、構図としては完璧な色仕掛けなのだ。
…とは言え、メアリーの方としても
ここまで来て引き下がるつもりは無かった。
女性経験の疎さから押しに弱そうで、
且つ官僚らしく責任感の強い隼一の事だ。
一度既成事実さえ作ってしまえば
自分の所に来てくれそうな気がする。
幸い容姿が良いからなのか、
隼一の下半身は立派に反り立っており、
男性経験の無いメアリーにも
その意味は理解出来ていた。
そして何より、メアリーの方もそんな立派な物を見て
とてもじゃないが欲求を抑えられそうに無かった。
…そして、隼一にとって不運だったのは、
メアリーは力のある魔女であった事だ。
アリスによって魔法のイロハを叩き込まれたメアリーは
拘束魔法や消失魔法位訳無く使いこなせる様になっており、
右手を軽く隼一に向かって一振りする。
…直後、メアリーは隼一の上に跨る。
その瞬間に、メアリーは告げた。
「…ごめん、もう我慢出来ないよ。
だけど大丈夫だから。
隼一には絶対迷惑はかけないし、
多分気持ち良いと思うから。」
…それを見て、隼一は全てを諦めた。
この期に及んで、外交官の理性等
唱えている場合では無かったからだ。
隼一にはメアリーが凄まじい悪女に見えたが、
彼女の妖艶な容姿と腰を目の当たりにして、
少しずつ、だが確実に堕ちて行った。
~~~~~
…1932年6月4日の午前6時前。
私、メアリー・レーガンは
昨晩の証拠隠滅に走っていた。
夜の時点では夢中で腰を振ったせいで
吐き出された分に対して
消失魔法を使うのが精一杯で
それ以外の事が出来なかったので、
清掃魔法と修復魔法を駆使して
汚れた部分や乱れた部分を直していく。
念の為隼一にも錯乱魔法でも
かけておくべきか迷ったが、
隼一がこんな恥ずかしい事を
誰かに報告するとは思えなかったうえ、
事前に拒否していた割に、
最後の方には隼一の要望で
隼一も上をしてくれて
彼も大分気持ち良さそうだったので
敢えて放置しておく事にする。
そうこうして、私は片付けを終わらせた。
すっかり忘れていたが、ここは高級ホテルで
私は仕事で来ているのだから、
万が一にも粗相が発覚したらマズイのだ。
…にしても、昨晩は流石に積極的過ぎた気がするし
思い出すと顔から火が出そうだけど、
最近ずっとご無沙汰だったし、
やっぱり欲望には抗いがたい物がある。
隼一のは奥まできちんと届いたから
1人でするよりも格段に気持ち良かった。
将来の夫との相性が良い事も分かった私は、
何としてでも隼一を落とすと誓った。
昭和天皇陛下への謁見…流石にこの時代を描いた小説で陛下に触れない訳には行かないので、陛下の描写をさせて頂いた。そもそも私如きが陛下を描写する事が大概不敬なのだが、各種の不敬についてはお許しを願いたい。
昭和天皇陛下への作者の評価…作者は日本人として皇“室”を崇敬しているが、皇“族”を無条件に崇敬する程保守的な人間では無いので、作者の評価が不快な方はブラウザバックして欲しい。具体的には、天皇機関説を否定的に捉える様な方にブラウザバックを推奨する。私から見るに、昭和天皇陛下は心優しく聡明なお方だったと考える。立場に驕らずに自らを強く律していたと言う類のエピソードには枚挙にいとまがなく、生物学の研究者としての功績も素晴らしい物であった。政治的にも、あくまで立憲君主としてあろうとしたその姿は憲政の常道から基礎が形作られていった議会政治を尊重する物であって称賛に値する。しかし一方で、優柔不断で指導力に欠ける面があったとは言わざるを得ない。自らが平和を望むのであれば、開戦を国家の重大事と捉え開戦には断固として反対するべきであったし、そうした重大事では立憲君主と言う立場に拘るべきで無かった。この点に関しては陛下自身も後に反省している点である。皇族も人間であり、完璧である事も無ければ間違いを犯す事もあるのだ。作者は権威者としての皇室を崇敬するが、世俗権力的な為政者個人としての皇族に関しての評価は普遍的な物であると言う事である。当作品内における日本でも陛下の立憲君主としての在り方は大きく変わらないが、陛下が最終決定者である以上、日本の運命は陛下にかかっている。
咲夜の言語能力…時間を止めて勉強したので流暢に話せる様になりました。幾ら時間に余裕があっても過労で倒れそうな程苦労した筈です。特に、欧米人にとって日本語習得は難易度が高いと思われます。言語自体も難解ですが、使用を想定した場合、文化的障壁の大きさを乗り越えなければならない事がネックでしょう。
アリスとメアリーの言語能力…ご都合主義的ですが、翻訳魔法を使っているので会話は特段問題ありません。但し、文章を書くとなるとハードルが高そうです。
メアリーの役職…漠然と身内として扱われて仕事もこなしていたメアリーだが、未だに立場は曖昧なまま。強いて言えばアリスの弟子とかになるのだろうが、アリスの弟子と言うにはメアリーの実力が高過ぎる気もする。
メアリーのコミュニケーション能力…控えめに言ってコミュ障。常識が欠落している。寡黙なコミュ障では無く喋れるタイプのコミュ障なのでどうしようもない。メアリーが才能豊かな魔女で、アリスが近くにいて、容姿が良いから許されているだけである。
奔放なメアリー…メアリーは基本的には欲望に忠実な性格をしており、したい事は我慢出来ない。一見マイナスに聞こえるが、彼女がアリスの魔法を直ぐに習得出来たのは、魔女らしく魔法についての知識や実践を追い求めたいと言う知識欲の大きさ故である等、これは彼女の特徴でもある。また、別に彼女は自分が惚れた隼一相手だから乱れているだけであって、他の男には一切興味が無い。奔放と言うよりは、そう言った欲求が少し強いだけかもしれない。あの夜の出来事は現代的な価値観ではどう考えても強○罪(強制○交等罪)が適用される出来事だったが、実は昔の強○罪は被害者が女性に限定されていた為、仮に訴え出てもメアリーは無罪放免だっただろう。
隼一の運命…襲われた訳ですからかなり可哀想ですけど、可哀想成分と釣り合う程度の幸運は彼にもちゃんと訪れます。