紅魔戦記~カリスマの戯れ~   作:インスタントブルー

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歴史に詳しい方がいらっしゃいましたら
幾らかご教授頂けますと幸いです。



紅い女王と赤い書記長

「…意外と仕事が多いのね。」

 

1930年7月15日。私は執務室にて大量の仕事を抱えていた。

 

…もう何杯紅茶を消費したか分からない。

私は飲み干したティーカップを見やると、

久し振りに自らの手で紅茶を淹れる。

 

最近の咲夜の多忙さを考えると、

この様な些事の一つ一つにまで

彼女を呼び出すのは流石に憚られた。

 

…それに、私が淹れる紅茶の味は

咲夜の物と比較しても負けず劣らずだろう。

実際の所、咲夜に紅茶を淹れさせているのは

例え自分で出来そうな事であっても

従者にそれを任せておく事が

上流階級の嗜みだからである。

 

私は淹れた紅茶を一口飲む。

 

「…流石に腕が鈍ったわね。」

 

些細な違いであったが、

私にはハッキリと違い分かる。

もっと芳醇な香りが必要なのだ…。

 

そうして暫し考察をしながら

休憩を取っていると、

執務室のドアがノックされた。

 

「お嬢様、咲夜です。先日ご依頼のありました

資料の作成が完了しましたので、確認をお願い致します。」

 

「…ありがとう。予想以上の速さね。

流石は完璧で瀟洒な従者よ。

さ、入って来て頂戴。」

 

「失礼します。」

 

私は入室する咲夜を確認する。

…どうにか取り繕っているが、

私の前では誤魔化す事は無理だ。

本当に僅かだが、目元に隈が出来ている。

 

「資料の作成をありがとう。

最近仕事ばかり増やしてごめんなさいね。

折角だから、少し休んでいきなさい。

咲夜、かなり疲れているでしょう?

人間は脆弱何だから、休む事も仕事のうち。

明日は一日休暇を取っておきなさい。

これは私から咲夜への命令よ。」

 

「…了解致しました、お嬢様。」

 

私は咲夜の返事を確認し、

作成した資料に目を通す。

内容は、諸外国の動向と

我が国ルーマニアの各種統計。

そして、考えられそうな国家方針案だ。

 

「…資料を読むと、工業化が課題の様ね。

国内の産業は農業と石油産出に

依存しきっている状況であると。

石油と言うのは確か、最近出てきた

人間が使う燃料の一種だっけ?」

 

私は資料から顔を上げ、咲夜を見やる。

 

「そうですね。私達人ならざる物は

霊力、妖力、魔力を行使する事で

様々な動力へと変換しますが、

そうした力を用い無い人間は

石油の力を使い様々な物を

動かしていると聞きました。

巨大な船、戦車、航空機等

先日の戦争以降進化している

様々な兵器の動力源が石油です。

…そして、欧州で石油が産出されるのは

我が国ルーマニアとソ連位だと。」

 

…成程、石油は案外貴重な資源らしい。

私は咲夜に説明を受けて考える。

私で言う所の妖力に相当する資源。

祝福された地ルーマニアには、

素晴らしい資源が眠っている様だ。

 

「…そう。まぁ、石油については

活用の余地があるでしょう。

だけど、資料にはこうもあるわよ?

ルーマニアは高度な兵器が少ない…と。

何故石油が自国にあるにも関わらず、

こうした兵器を生産していないのかしら?

国を強くする為には兵器が重要でしょ?

人間は、私達の様に強くは無いのだから。」

 

「…それこそが工業化の問題です。

人間は魔法を使えませんから、

兵器の生産は工場で行うのです。

しかし、国民の多くは農民だったり

文字が読めない者である様で、

工場では働けないのだとか。

又、我が国ルーマニアは

予算に限界がある小国です。

戦争中でも無い現状において、

兵器を生産する余力は無い様で。」

 

「…と、なるとどうにか知恵を絞って

工業化を達成する方法を考えるべきね。

咲夜、忙しい中報告ありがとう。

私からもパチェに色々聞いてみるから。」

 

「では、失礼致します。」

 

 

…そう言うと、咲夜は速やかに消える。

私は残りの紅茶を飲み干すと、

先程まで考えていた仕事に戻る。

 

外交日程、経済計画、そして、国土防衛計画。

 

人ならざる物と言えど、私はルーマニア女王。

しかも、専制君主と言う立場なのだ。

ルーマニア国民を富ませる使命がある。

 

ルーマニアの運命を操り、

覇権国家の女王としてのカリスマを

今こそ示すべきであろう。

面倒な仕事にもたらされたモチベーションは、

私を仕事へと駆り立てていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

…検索魔法で探し当てた海軍についての本は

どれもこれも難解な物ばかりであった。

マハンの海上権力史論の様な参考になりそうな

著作もあるにはあったのだけれど、

私には過ぎたる著作だった気がする。

大体、生まれてこの方数度しか

海と言う物を見た事が無い私が、

”魔法が出来る”と言うただ一点に基づいて

海軍大臣になる方が異常なのだ。

しかも、提督まで兼務しろだ何て…。

私は本を机の上に広げたまま、

思わず額を押さえてしまう。

ページにびっしりと並ぶ横文字と図解、

そして特殊な戦術用語の羅列は、

見事に私の理解力を打ち砕いてくる。

 

「…魔法と同じだと思えれば、

多少は気も楽になるのかしら。」

 

思わず声に出た本音に苦笑してしまう。

…私が海軍について全くの素人である以上、

こればっかりは仕方の無い問題だ。

勉強を重ねるしか無さそうである。

 

まぁ、幸か不幸かルーマニア海軍は

駆逐艦と言う艦種の船が4隻と言う

小規模な艦隊しか保有していないらしいので

少なくとも提督として指揮を執る分には

これと言って問題は無いだろう。

私が普段操る人形7体よりも少ない。

 

…さて、今日は少しだけ洒落た衣装で

現場へと向かう事にしようじゃ無いか。

 

何せ、海軍関係者への顔見せの日なのだから。

 

 

~~~~~

 

 

「…こんにちは。話には聞いている?

新しくこの国の海軍大臣として赴任した、

アリス・マーガトロイドと言う者よ。

はいこれ、レミリアがくれた身分証。」

 

私は予め指定された紅魔館の傍にある

大英博物館を彷彿とさせる巨大な柱の

立った建物を訪れている。

紅魔館より豪華な気がするが、

よくレミリアが建築を許可した物だ。

 

勿論、紅魔館はレミリアの私邸の為、

行政の拠点として新しい建築物が

必要だったと言う事情が大きかったのだが。

 

…私は暫し建築物の考察をしていたが、

話しかけた守衛の男が固まってしまい

上の空になっている事を確認する。

 

「…聞いているのかしら?」

 

「…っ!失礼しました!

えっと、海軍省でしたね?

でしたら、2階にある一番奥の部屋が

海軍の会議室となっておりますので、

そちらにお向かい下さい。」

 

「…そ、ありがとね。」

 

私は案内通り、会議室へと向かう。

 

「あの海軍大臣美人だったな…。」

 

「…聞こえてるわよ?」

 

「し、失礼しました!」

 

守衛の男の独り言が聞こえる。

冷静になって考えてみると、

軍人のトップが女性だ何て

珍しい所の話では無いのか。

私が女性であったとしても

部下の全ては男性になるから、

あれこれと噂もされそうで億劫だな。

 

…それにしても。

 

「レディーを褒める時には、

中身を褒めるべきよねぇ…。」

 

私の独り言は、速やかに溶けて消えた。

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

「入って構わないかしら?

この度海軍大臣に就任した

アリス・マーガトロイドよ。」

 

私がそう言ってドアをノックすると、

大男がドアを開けて私を出迎える。

 

私の身長は女性としては高めの172㎝。

そんな私を見下ろすのだから、

2m近くは身長があるのだろう。

 

「…よくぞいっらしゃいました。

私はルーマニア王国海軍駆逐艦

レジェーレ・フェルディナンドの

艦長を務めている者です。」

 

「…そう。わざわざありがとう。

それにしても、貴方が艦長なのね。

指揮所に頭をぶつけたりはしないのかしら?」

 

「…幸い、慣れておりますので。

ささ、是非お掛け下さい。」

 

艦長は笑顔で言う。

 

「…そう。怪我には気を付けてね?」

 

私は紳士的な艦長の指示に従い着席する。

 

「…さて、全員揃いましたので、

早速始めようではありませんか。」

 

どうも私は最後に来ていた様で、

件の艦長がこの場を仕切りだす。

 

「では…大臣の方からも改めて自己紹介を

お願いしても構いませんか?」

 

私は一息つくと、自己紹介を始める。

 

「…この度海軍大臣に任命された

アリス・マーガトロイドと言う者よ。

私が女性である事からも何と無く

理解頂けるかとは思うのだけど、

私は海軍についての知識や知見が

著しく不足しているわ?

…だけど、あの気紛れなレミリアによると、

そんな私を海軍大臣に任命した理由には

私が持っている特技があるみたいなのよね。」

 

私はそこで一度言葉を切ると、

魔法の糸で人形を完璧に操り、

出席者全員に珈琲を振る舞った。

出席者は絶句している。

 

「…と、この様な力が使える。

要するに、私は魔女って訳ね。

それも、世間一般に溢れている

紛い物の魔女では無くて、

正真正銘の本物の魔女よ。

海軍大臣に相応しい人材とは言い難いけど、

決して無能では無いと信じているわ。」

 

「…まさか、あの噂は本当だったのですか?」

 

出席者の1人がそう零した。

 

「噂と言うのは?」

 

「ブクレシュティの人形師は魔女であり、

吸血鬼の館を度々訪れていると…。

魔女と言うだけでも眉唾だと言うのに、

まして吸血鬼の館だ何て…。」

 

私は寂しい笑みを浮かべ、言った。

 

「…ドイツ生まれの哲学者である

ニーチェはこう言ったそうね。

”神は死んだ”…と。

だけど、貴方達は目の前の

事実だけを信じるべきね。

残念ながら、神が死んでも

未だ悪魔は生き残っていた。

魔女も、吸血鬼も、あらゆる非科学も

存在が確認された以上は完全な事実よ。」

 

私がそう言うと、件の艦長を除く

多くの出席者が震え上がった。

 

「…安心しておきなさい。

貴方達が友好的な限り、

私達は友好的な態度で

貴方達と接する事を約束するわ?

それに、私は海軍大臣には違い無いけど

海軍に関しては完全な素人に当たるわ。

だから、暫くは貴方達の意見も聞きながら

仕事をして行く必要があるのよね。

早速だけど、海軍の課題を教えて頂戴。

先ずは仕事をこなす事で、

色々と覚えていかなきゃね。」

 

「…でしたら、課題は明白です。

ソ連の黒海艦隊の様な戦艦が

我がルーマニア海軍に無い事です。

我が国の海軍戦力は、専ら対ソ連の為に

存在していると言っても過言では無い。

にも関わらず、戦力が余りにも不足しています。

我が国の国力では駆逐艦の維持で精一杯。

これではまともな艦隊決戦は不可能です。」

 

成程、絶対的な規模の不足か。

これは如何ともし難い問題だな。

大体、ルーマニアは陸軍国家なのだ。

海軍は専ら黒海の制海権確保の為に

存在しているに過ぎない。

それに、ルーマニアの様な中小国にとって、

海軍を整備するのは至難の業だ。

又、レミリアが自らが関わらない海軍に

喜んで貴重な資源を配分するとも思わない。

 

…とは言え、海軍大臣として

多少は頑張ってみようかな。

彼等の意見や要望を叶えてあげれば

私に対する印象も良くなるし。

 

「…軍艦一隻位で構わないのなら、

多分今年中に建造する事が出来るわ?

ほら、ルーマニア海軍の旗艦よ。

聞いているとは思うけれど、

私は海軍大臣であると同時に、

戦時には提督として指揮を執るわ。

私が乗り込む軍艦が必要だと言えば

レミリアも許可せざるを得ないだろうし、

多少は予算を捻出出来る筈よ。」

 

私がそう告げると、

海軍関係者全員が目を輝かせる。

 

「それは有り難い申し出です。

建造されるのは大型戦艦ですか?」

 

件の艦長が質問する。

残念ながら、それは叶わぬ願いだ。

 

「…結論から言うと、建造するのは

大型戦艦でも、駆逐艦でも無いわ。

従来のどんな船とも違った設計の

特殊な船を作る感じになるかしら。

何せ、機関は皆が想像する様な

仕組みをしていないのだから。

私と私の人形だけで動かすのよ。」

 

私の言葉に、艦長は目を丸くして驚く。

まぁ、確かに人間の常識に照らし合わせれば

異端なのかもしれないけれど。

 

「…お言葉ですが、それは可能なのですか?

大臣は先程海軍の知識に疎いと仰っていましたが。」

 

「…確かに海軍の知識には疎いわ。

だけど、私は本物の魔女なのよ。

私なりに色々と研究して、

貴方達の役に立つ様な設計の

軍艦にして見せるから心配しないで?」

 

「…そうですか。お困りの事がありましたら、

その時は何卒宜しくお願いしますね。」

 

怪訝な目で見つめる艦長に私は聞く。

 

「…他には何かあるかしら?」

 

すると、彼は暫しの間考え、言った。

 

「…でしたら、是非ともこの言葉を

レミリア・スカーレット氏にお伝え下さい。

私達ルーマニア海軍及び海軍軍人は、

スカーレット陛下への奉仕者として、

従順な手足として働きますと。」

 

…ビビっているのか、

或いは媚びを売ったのか。

真意は一切分からなかった。

とは言え、私は彼の軍人らしい

覚悟を秘めた瞳を見て、

その言動が真っ赤な嘘であるとも

特段感じはしなかった。

 

私は席を立つ。

 

「…しっかりと伝えておくわ?

それじゃ、また会いましょう。

私は軍艦の設計でも考えるから。」

 

そう言って部屋を出ようとする間際。

 

「…大臣、折角ですからこの後

一緒にランチでもどうですか?」

 

…先程の艦長に声を掛けられた。

 

「…生憎と、先客がいるの。

他を当たって頂戴ね。」

 

勿論、これは単なる方便である。

艦長は酷く落ち込んでいるが、

立場を考えると仕方の無い事だ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

1930年8月1日。

 

私、レミリア・スカーレットは

従者の咲夜を引き連れて

赤と灰色の色彩に支配された

モスクワ、クレムリンを訪れていた。

勿論、かの男と面会を果たす為に…。

 

 

「…レミリア・スカーレット女王ですね?」

 

緊張が隠せない共産党員が私の名前を呼ぶ。

 

「…如何にも。私こそがレミリア・スカーレットよ。

こっちは外務大臣をしている十六夜咲夜ね。

貴方も話には聞いているでしょうけれど、

彼に挨拶をしておこうと思ってね。」

 

「…ご案内します。」

 

私は就任の挨拶をするにあたって、

先ずソ連を訪問する事に決めた。

ルーマニアと小協商を結ぶ

チェコスロバキアやユーゴスラビアも

訪問先としてはかなり有力だったのだが、

私が視た運命の先にあった、

血に濡れたバルカン半島と、

その背後に佇む赤い影が示す

残酷な未来を回避する為にも、

私はこの残忍な帝国から

目を背ける訳には行かなかったのだ。

 

案内人が執務室とドアをノックし、

正式な入室の許可を得る。

 

そこには、大国ソビエトの指導者

ヨシフ・スターリンが

堂々とした態度で座っていた。

 

「…遠路はるばるようこそ。

モスクワの空気は如何ですかな?」

 

モスクワの空気か…。

私は少し迷ったけれど、

当たり障り無く答える。

 

「…そうね。少しだけ、

冷えるかもしれないわね。

私は平気なのだけれど、

こっちにいる咲夜は少し

寒そうにしていたから。

こっちは温暖な気候だけど

モスクワは北にあるからね。」

 

私の答えにスターリンは首肯する。

 

「モスクワは冷えますからな。

しかし、我が国の人民は

とても暖かい心を持っています。」

 

「あら、それは立派な事ね。」

 

軽妙な返答をするスターリン。

頭の回転はやはり素晴らしい。

私は対面の椅子に座る。

 

「一応自己紹介をしておくわ?

私はルーマニア王国女王の、

レミリア・スカーレットよ。

見て分かるとは思うのだけど、

私は人間じゃ無く吸血鬼なのよ。

けど、貴方は余り驚いて居なかったわね。」

 

私は彼の瞳を見つめるが、

真意を読み取る事は出来ない。

まるで深い硝煙のようだった。

何かを隠している訳でも、

動揺している訳でもない。

”ただ底知れぬ深淵”それが彼の視線だった。

 

「…名乗って頂きましたから、

私からも改めて名乗りましょう。

私はヨシフ・スターリン。

我が国ソ連の最高指導者です。

…私は無神論者でしてね。

貴女が吸血鬼である事についても、

最初はとても信じられませんでしたが、

今は既に特別な事だとは

全く考えていないのですよ。

ただ普遍的な事実の一環として、

貴女は人間では無かったのです。

ただ、それだけに過ぎません。」

 

無神論者…か。つまらない人間だこと。

その言葉を聞いた私は、ある物を取り出す。

 

「…目に見える物しか信じない貴方に、

これを見せてあげるわ?これが分かる?」

 

スターリンは思わず見入っている。

紅に輝くその槍は、私の象徴その物だ。

暫く見入ったスターリンは、

私へと疑問を寄越して来る。

 

「…分かりませんな。この槍は一体?」

 

「これはかの有名なグングニル。

必殺必中の威力を持つ投槍よ。」

 

「信じられませんな。」

 

まぁ、それはそうだろうな。

彼は無神論者なのだ。

流石に槍を見ただけでは

それがグングニルだと信じたりはしない。

ただ紅に輝く槍でしか無いと

つまらない現状認識をしているに違いない。

しかし、その認識は改めてもらわねば。

 

「…そう。なら、試してみる?」

 

私はスターリンを挑発する。

この男の性格を鑑みるに、

恐らくは乗ってこないだろう。

 

「…お戯れはご遠慮願いたいですな。

私には、ソビエト連邦を指導する

責務が残っているのですから。」

 

「…それは残念ね。」

 

案の定乗ってこないスターリン。

私がグングニルをしまうと、

彼は一息ついた後に口を開いた。

 

「…さて、遊びはここまでにしましょう。

単刀直入に述べさせて頂きますが、

私は貴国の現状を憂慮している。」

 

「もしかして、鉄衛団の件かしら?」

 

「そうとも。あの団体は危険なのだ。

聞けば、貴女は鉄衛団の力を借り

女王になったと聞き及ぶ。

もしかの団体が我が国

ソビエト連邦の脅威となるならば、

私は赤軍をルーマニアに

派遣せざるを得なくなりますぞ?」

 

やれやれ。吸血鬼に脅しかよ。

私は彼の態度に呆れる。

無神論者だし、脅してくるし、

この男はどうにも好かない。

私は彼を催促する。

 

「…小難しいやり取りは嫌いよ?

貴方達の要求を聞かせなさい。」

 

「…鉄衛団の排除を願いたい。

貴女は自らを吸血鬼だと述べた。

かの団体の排除に関しては、

速やかに可能だと見えるが。」

 

…成程。まぁ、実際の所私達にとっても

鉄衛団は目の上のたん瘤だ。

一瞬でも目を離す事があれば、

確実に私達に歯向かってくるだろう。

しかし、現状のルーマニアは人材不足。

鉄衛団の力を借りて行かない限り、

国内を纏めあげる事は不可能だ。

彼らの存在は言うなれば、

”必要悪”と言う奴であろう。

…だが、必要悪を切り捨てるという選択を

今この場で私が取るのであれば、

それは未来を切り拓く一手にもなる。

とすれば、焦点となって来るのは

その代償をどう取り立てるかだ。

 

「…私達の要求を飲むのなら、

鉄衛団の排除に合意しましょう。

これはあくまで、対等な取引よ。」

 

しかし、私の言葉を彼は鼻で笑った。

自らの優位性を確信して、彼は口を開く。

 

「…私達が対等で無い事は、

貴女にも理解出来る所でしょう。」

 

「…そ。なら、鉄衛団の処遇は私が決めるわ?

大体、立派な内政干渉じゃ無いの。

望んだ成果の為であれば、

妥協を恐れるべきでは無いわね。」

 

彼は私の反論を聞いて

渋い顔をしながら口を開く。

 

「…話だけでも聞かせて貰おうか。」

 

「…1つ目の要求は、ソ連が抱える政治犯の

ルーマニアへの身柄の引き渡しよ。

仮にも鉄衛団は相応の規模を持つ組織で、

もし組織を壊滅させるとなると

我が国の運営に支障が出てくるのよね。

だから、貴方達が持て余している

所謂都合の悪い人材を

正式なルーマニア国民として

私達に引き取らせて貰う。

そして、2つ目の要求は

ルーマニアへの資金援助よ。

どうも、恐慌で経済状況が

かなり悪いみたいなのよね。

…さて、どうかしら?

取引は成立?不成立?」

 

私の提案にスターリンは5分程熟考する。

 

「1つ目の要求は飲もうじゃ無いか。

我が国としても、不都合な連中なのでな。

但し、ルーマニアへの資金援助は不可能だ。

我が国はこれ以上の譲歩はしないぞ?」

 

…まぁ、よくやったと言えるだろうか。

ソ連の政治犯はソ連に対して

確実に強い恨みを持っており、

我が国の発展にも喜んで

力を貸してくれる事だろう。

いずれソ連と争う日が来た時には、

最前線で戦ってくれるかもしれない。

 

「…分かったわ。それでは、

書面上で取り交わしましょう。

咲夜、ペンを出して。」

 

「はい、お嬢様。」

 

 

 

…その日、秘密協定が結ばれた。

ルーマニア鉄衛団の排除と、

ルーマニアのソ連政治犯受け入れを記した協定が。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ヨシフ・スターリン、

中々に手強い男ね。」

 

特別列車での帰国中、

私は咲夜に話しかけていた。

 

「…お嬢様はあの男やソ連と今後、

どう付き合って行くおつもりですか?」

 

「大っぴらな敵対はしないわ?

だけど、味方では無いでしょうね。

今後の展開にもよるけれど、

仮想敵国と言う認識は

持っておくべきなのは確かよ。」

 

「そうですか…。私としては、

敵対しない事を祈るばかりです。」

 

「あら、怖いのかしら?」

 

私は咲夜をからかうが、

咲夜の蒼い瞳は真剣さを示していた。

 

「お嬢様や私達は兎も角として、

ルーマニアは小国ですから。

私達の力だけでは多勢に無勢。

ソ連に対抗出来る様な国力を

早いうちに持たねばなりません。」

 

「…そうね。まぁ、気長にやれば良いわ?

現状の赤軍の質は低い筈だから。」

 

「…だと良いのですが。」

 

 

咲夜との会話が途切れると、

私はいつの日か訪れるだろう

対ソ連戦争の計画を練るのだった。




紅茶…作者は珈琲党で紅茶は苦手なので紅茶には疎いです。ごめんなさい。

ルーマニアの産業…農業と石油に頼りきり。中小国なのでそんな物。とは言え、石油が出るだけでも恵まれている。

ルーマニア海軍…当時は駆逐艦4隻だったらしい。内2隻は1930年就役。詳細については分からないので指摘を求む。

身長2m弱の艦長…資料が確認出来なかったのでモブです。高身長設定はせめてもの個性付け。情報求む。

ソ連黒海艦隊…正式な命名は1935年らしい。この物語では便宜上そう呼ぶ事にした。

アリスの設計する軍艦…詳細は次回以降に判明。

艦長に誘われるアリス…そりゃ、人形の様な絶世の美女なので。

アリスの身長…ヨーロッパ基準でも172㎝の女性は高めです。作者は167㎝なのでそれより5㎝も高い…。

ヨシフ・スターリン…実は身長は163㎝しか無い。左足や左腕に障害があり、顔には天然痘のあばたが残っていたのだとか。写真の殆どには加工がされていたらしい。しかし、内面的には極めて有能な人物であり、強い自制心と抜きんでた記憶力を有し、また努力家で、学ぶことに対して貪欲だったと評されている。尤も、残酷で残忍、暴力的な人物であった事も事実であり、大粛清は余りにも有名なエピソードである。作者としても好きにはなれない人物。

小協商…第一次世界大戦後にチェコスロバキア、ユーゴスラビア王国、ルーマニア王国の間で成立した同盟関係。主にハンガリーを警戒した相互援助条約である。対ドイツを念頭に置いたフランスも小協商に接近した。

あっさり処理される鉄衛団…思ったよりも大分早かったけど、遅かれ早かれこうなる運命だった。ぶっちゃけ即位した後は用済み。
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