「…まぁ、予想通りと言えば予想通りよね。」
1932年6月7日、私、アリス・マーガトロイドは
メアリー、咲夜、隼一と共に汽車に揺られながら
日本観光に向かっていた。行き先は京都である。
何でも、隼一が予め京都訪問で話を通していた様で、
行き先は結局京都と言う事に決まったのだ。
まぁ、冷静に考えてみれば分かる事だが、
私達は一応ルーマニアから来た賓客なのだ。
咲夜がレミリアの名代で訪日している以上、
政府首脳と言っても良いかもしれない。
とすれば、当然警備等も考える必要があるので
観光先や移動手段、宿泊施設何かには
予め話を通しておくのは当然の事だ。
これは要人暗殺を絶対に避けたい
日本側のメンツの話でもある訳で、
この際私達に自衛能力がある事は
一切合切関係が無いのである。
一応隼一には私達の意向も聞かれたのだけれど、
メアリーが強硬に京都行きを主張した事や
日本側のメンツを立てると言う意味でも
咲夜と私も合わせる事になったのだ。
別に特別拘りとかも無かったし。
まぁ、メアリーに関しては行きの飛行機で
熱心に京都の本を読んでいた訳だから
さもありなんと言った感じだろうか。
一応あれにも意味はあった訳だ。
…そう言えば、折角の旅路なのだから
食事の時間も大切にしたいな。
捨食・捨虫の法を身に付けた私は
別に食事無しでも死にはしないのだが、
つい最近人間を辞めたばかりの私にとって
食事は完全に習慣化しているのだ。
研究に没頭して忘れてしまった時や
作るのが面倒な時以外はしっかり食べている。
私は進行方向左側に広がる海を見て
昨日の横須賀訪問で圧倒された
長門の艦影を思い出しながら、
食堂車へと向かう事にする。
食堂車には昼食だけで無く、
夕食でもお世話になりそうだな。
何せ、京都までは東京からだと
9から10時間程要するので、
到着は確実に夜になるからである。
…正直自分で飛んだ方が速いのだが、
幾ら何でもそんな事はしない。
隼一が単なる人間である事や警備上の都合、
何より相当疲れる事を考慮すれば
汽車での移動は妥当な選択だろう。
一等車での移動は至極快適だ。
とは言え、こんな時転移魔法が使えたなら
どれだけ便利であった事かとは思うが。
食堂車へと向かう道中、
私は海とは反対側の車窓から見える
形の整った美しい円錐形の山…
隼一に教えて貰った話によれば、
確か富士山とか言うのだったか。
富士山を見て、この先の日本観光の
期待値を少しだけ上げた。
日本は景観に優れた国みたいだから。
--------
「今日は待ちに待った京都観光!
ちゃんと調べてきたからね!」
1932年6月8日の明朝、
私、メアリー・レーガンは
隣で寝ている眠そうな隼一を
ゆすって起こしていた。
私達は昨日の夜京都に到着した後
私達はかのアインシュタイン博士が
宿泊した事もあるらしい都ホテルへ案内され、
そこに宿泊していたのである。
部屋割りは色々議論があったものの、
アリスさんの強硬な主張によって
私と隼一、アリスさんと咲夜さんが
同じ部屋で宿泊する事でまとまった。
…私としてもこの部屋割りは
歓迎すべき所ではあるのだけれど、
何か嫌な予感がしないでも無い。
と、私がそんな事を考えていると
睡眠が深い隼一がやっと目を覚ました。
「…おはよ。相変わらず早いね。」
う~ん、最高!寝起きの隼一は
カッコイイだけじゃなく可愛い。
と言うか、こっちの顔の方が好きかも。
ギャップが良いんだよね、ギャップが。
真面目で御堅い性格してるのに
私には敬語を外してくれるし、
夜にはあんなに乱れてくれるし。
昨日何て声を抑えるだけで
凄い必死そうだったからなぁ。
…まぁ、それは私も何だけどね。
壁も薄そうだったから冷や冷やしたよ。
いずれにしても、私だけが
隼一の特別を独占してるみたい。
私は早速脳を焼かれながらも
それはそれとして本題は伝えようと
予め必死になって調べ上げた
京都観光で行きたい場所を隼一に示す。
「気合が入ってるからね!
今日の京都観光で回りたい場所を
予めリストアップしてきたから、
ちょっと隼一にも確認して欲しくて。」
そう言って、私は冊子を手渡す。
隼一は手渡された冊子を受け取ると
寝起きとは思えない真剣な表情で
冊子の中身を確認しはじめた。
私が冊子に記したのは、
清水寺、金閣寺、銀閣寺、
伏見稲荷大社、八坂神社
…と、寺社仏閣の数々だ。
異国の宗教施設ばかり巡っていたら
イエス様に怒られるかもしれないが、
そんな事知った事では無い。
別に私は正教も、旧教も、まして新教も
特に信仰している訳では無いし、
そもそも私は魔女であるのだから
今更そんな事は気にしていられない。
魔女を狩る様な神様は有難く無いしね。
とまぁ、そんなこんなで
私は自信満々で冊子を出した訳だが、
隼一はこれに対して意見してくる。
「…そうだな、京都観光は2日間。
帰りの汽車は夜行にする予定だし、
今日と明日を使えるって訳だ。
咲夜さんやアリスさんの意向も
当然聞く事になるとは思うから
どうなるかは分からないけれど、
一応ギリギリ回れはするかな。
ただ、自分だったら銀閣寺を外して
竹林の小径を入れ込む方が
余裕を持って見て回れると思う。
あれは見ておいて損は無い筈だよ。
そうすれば、今日は清水寺、八坂神社、
最後に伏見稲荷大社を回って、
明日は金閣寺、竹林の小径を周り
ゆったり観光が出来る筈だ。
明日は多少余裕があるだろうし、
土産物だって買えると思うよ。」
うん、流石案内人の隼一だ。
よくよく考えてみると、
私は行きたい場所だけを考えて
具体的な旅程までは全く
考慮に入れていなかったので、
隼一の助言を受け入れる事にする。
「分かった、それで行こう。
当たり前だけど、私より隼一の方が
よっぽど京都に詳しいだろうし。」
私が隼一を褒めると隼一は
笑いながら言った。
「…ま、だろうね。
何せ、自分の出身大学は
京都帝国大学なのだから。
実家も出身地も東京なのだけれど、
11歳の時から両親の仕事の都合で
暫くこっちに住んでてさ、
そのままこっちで進学したんだよ。
当然、住んでいたら詳しくもなる。」
…成程、京都は彼の第二の故郷なのか。
だからこそ、京都にある観光地の
位置関係等を把握しているのだろう。
私は隼一の過去についてまた一つ
詳しくなった事で満足していた。
~~~~~
「これが清水寺だね!
やっぱり眺めも最高だよ。
確か、読んだ本によれば
“清水の舞台から飛び降りる”
何てことわざが日本にはあるんだよね。
決死の覚悟で思いきったことをするって
意味があることわざみたいだけど、
私だったら普通に助かりそうだな。
そこいらの人間とは違う訳だし。」
私、メアリー・レーガンは
隼一に案内されて訪れた清水寺の
迫力に大興奮していた。
…結局あの後、隼一の旅程案は
アリスさんと咲夜さんに了承され、
私達は清水寺に訪れていたのである。
そんな時、相変わらず興奮が収まらない私に
隼一が肩を竦めながら耳元で囁いた。
「…残念ながら、飛び降りは禁止だ。
明治5年に“清水の舞台飛び厳禁”って
京都府が通達を出しているからね。
因みに、清水の舞台から飛び降りても
8割以上の人間は助かったそうだよ。
半分以上の人間が生存するとなると
この場所は自決には使えなさそうだ。」
…咲夜さんやアリスさんがいる手前、
敬語を外して会話をする時は
私にだけ聞こえる様に小声で囁く隼一。
王子様に囁かれたとなれば
それはもう最高の瞬間な筈なのだけど、
今回ばかりは内容が内容なだけに
少しばかり萎えてしまった。
飛び降りが禁止されているばかりか、
自決にも使えないとは興醒めである。
いやまぁ、私の場合は死なないんだけども。
私は隼一と同じ様に肩を竦めると、
特に返事もせずに清水寺を見て回った。
別に清水寺って舞台だけじゃ無いしね。
~~~~~
「…昼食は如何致しますか?」
清水寺から車で八坂神社への移動中、
私、メアリー・レーガンと
咲夜さん、アリスさんの3人は
運転手を務めている隼一から
昼食の希望を聞かれていた。
…そう言えば、私は食事について
完全に失念していたな。
私が顎に手を当てて考えていると、
咲夜さんが口を開いた。
「そうね、私達は日本に来てから
高級料理ばかり食していたのだし、
ここは1つ庶民的な物にしましょう。」
「あ、それいいわね。私も咲夜に賛成よ。」
「やっぱりアリスもそう思うわよね?
私としては庶民的な事に加えて、
馴染みの無い物だと尚良いと思うわ。
日本でしか知られていない料理でも、
もし美味しいのであれば
お嬢様にもお出ししたいから。」
本職は紅魔館のメイド長である
咲夜さんの意見にアリスさんも同意する。
私としてもその意見には賛成なのだが、
折角京都観光に来ているのだから
こんな時位仕事の事は忘れて欲しい物だ。
私も皆に同意の意思を示す。
「私も庶民的な料理を食べてみたいかも。
と言っても、詳しくは知らないから
店に関してはお任せするけど。」
「…では、私のオススメの店へ。
丁度道中にある店ですから。」
私達の希望を聞いた隼一は
一瞬で目的地を決めたらしい。
う~ん、流石は地元、流石隼一。
~~~~~
…結局、店には案外直ぐに到着する。
「松葉…かしら?そう書いてあるわね。」
咲夜さんから声が漏れる。
如何にもと言った庶民的な店だけど、
ここは一体何の店何だろう?
私が疑問に感じていると、
隼一が説明を寄越してくる。
「ここは有名な蕎麦屋何です。
にしんそばが看板メニューで、
価格も手頃な物ですから、
学生をしていた頃何かは
偶に寄っていたんですよ。」
そう説明を終えると、隼一は店内に入る。
私達も共に店内に入ると…これは凄いな。
川を目の前にした絶好のロケーションに…
えーっと…確か、座敷って言うんだっけか?
昨日ホテルで説明された日本に特有の
建築様式の1つの組み合わせだ。
少なくとも、私の印象は良いぞ。
落ち着いた空間で、優雅に食べられそう。
隼一は中央部にあるローテーブルに
足を痛めそうな座り方で座る。
私もそれを見て隼一の隣に座ると、
咲夜さんやアリスさんも
私達の向かいに座ってきた。
ぎこちなく座る白人3人組の姿は
ちょっと滑稽な気もしたが、
これも日本文化なのだろうか?
私はこっそりと疲労回復魔法を
この場にいる全員にかけておく。無論、私にも。
一方、隼一は私達の着席を見届けると、
店員ににしんそば4人前を頼んだ。
店員がそそくさと去った所で、
隼一が日本文化について説明してくる。
「…これは必要な知識だと思いますので、
皆さんに予め説明しておきますね。
今から提供されるにしんそばは麵類で、
西洋のパスタの様な形状をしているのですが、
西洋のテーブルマナーとは異なり、
日本では麵をすすって食べる事が
推奨される文化があるんです。」
「それは…何と言うか、仰天ね。」
隼一からされる説明に、
アリスさんは目を丸くしていた。
驚いていると言うよりかは、
ちょっと引いている感じである。
勿論、私も異国の文化に驚いた。
…しかし、咲夜さんだけは涼しい顔で
隼一の説明を聞いているでは無いか。
私がその事について聞こうとすると、
その前に咲夜さんが口を開いた。
「…私は当然知っていたわよ?
訪日前に日本のテーブルマナーは
しっかり勉強して来たからね。
異国の地で笑い者にされるのは
お嬢様の名代の座に賭けて
絶対に認められないもの。」
成程、流石はメイド長。
これもまた業務の一環なのか。
だけど、この京都観光って
本来は咲夜さんの休暇であって
私達はあくまでオマケなのだし、
もうちょっと楽にすれば良いのに。
私には咲夜さんの真似は無理そうだ。
…そうして、私が咲夜さんの勤勉ぶりに
感心…と言うよりは同情する中、
注文したにしんそば4つが提供される。
さてさて、日本の庶民的な味とは
一体どの様な味なのだろうか?
私は隼一に指南された通りに、
麵をすすって食す事にした。
~~~~~
「いやぁ、すっかり夜になっちゃったよ。」
「そうなった原因の一端は、
メアリーの理解が遅いからよ…。」
…私はアリスさんに愚痴られる。
事実だから反論はしないけど。
と言うのも、私達3人と隼一の京都観光は
スケジュールが押しに押し、
八坂神社で日本神話のお勉強をした末に
日が暮れてしまっていたのである。
そして、丁度今さっき私達は最後の目的地
伏見稲荷大社に辿り着いたと言う訳だ。
夜、非常に薄暗い微かな照明が
朱に染まった鳥居を照らしている。
…何と言うか、結果的に夜に来て
正解だったんじゃないかな?
ここ、絶対夜の方が魅力的だもん。
「…神秘的ね。幻想的と言った所かしら。
異世界の入り口だ何て言われたとしても
全く驚いたりはしないわよ。」
…私の横で咲夜さんがどこか
感慨深げな表情をしている。
普段は真顔ばかり見ているから、
こんな顔もするんだって思って
私としてはちょっと意外かも。
「私も夜に訪れた事は無いので
今回が初めてなのですが、
確かに神秘的な場所です。
寺社仏閣が多い京都の中で
ここだけが異彩を放っています。」
隼一も純粋に感動しているみたい。
ただまぁ、本番はここからだよね。
何せ、まだ入り口なのだから。
私は隼一の手を取って言う。
「ねぇ、早速くぐってみない?
きっと、何か面白い事があるから!」
…これは魔女の勘って奴だ。
魔力とはちょっと違うけど、
ここだけ非科学的な空気感を感じる。
そうと分かれば行くしか無いでしょ!
魔女は好奇心に正直な生き物であり、
それは人間を辞めていない
私と言えども決して例外では無い。
「アリスさん、私先行ってるね!」
私はそう言うと隼一の手を取り
鳥居の中を走り出した。
まぁ、厳密に言うと走ってるんじゃなくて
超低空飛行で進んでるんだけど。
地面との摩擦が消える関係で、
車よりもずーっと速い速度で進む。
アリスさんが私に向かって
“待ちなさい!”と叫んでいるが、
追って来ていないのか、
それとも走ってはいないのか、
少なくとも飛んではいないのか、
声は遠ざかって行った。
私は急に走った事で息が切れ
恨めしそうに私を見る隼一に
疲労回復魔法を掛ける。
すると、隼一はすっかり回復し
私に対して苦言を呈して来た。
「…ここは仮にも神社だからね。
走るのは勘弁して欲しいな。」
「でも、二人っきりだよ?
デート何だよ、デート。
日本語だと、逢引きって奴かな?」
私がそう言うと、隼一は顔を赤くする。
私はそれを指摘してやった。
「…ほら、隼一も照れてるじゃん。
顔、すっごい赤くなってるよ?」
「…別に赤くはしてないって。
鳥居の色と見間違えたんだよ。」
「…その言い訳は流石に苦しいと思うなぁ。」
私が言うと、隼一はそっぽを向いてしまった。
ありゃ、ちょっと弄り過ぎたか?
私が何かフォローを入れようとした時、
隼一が口を開き小声で主張する。
「…大体、スーツで来ているんだ。
これ、結構高い調度品何だぞ?
もし走って汚れたり破れたりしたら
中々に大変な事になるんだよ。」
…これまた私には通用しない話だ。
隼一はどうやら頭が回っていないみたい。
「汚れる?破れる?私は魔女何だよ?
清掃魔法と修復魔法を使えば
どうにでもなると思うんだけど。」
私は隼一にそう指摘してやる。
「…相変わらず自由だよね、メアリーは。
確かに魔法があれば治りそうだ。」
「でしょ?私って魔女だから。」
私は隼一に勝ち誇る様に言う。
…その時だった、突然の事。
私は完全に無警戒であった。
青天の霹靂とでも言うのだろうか?
何時の間にか、隼一は何と私を
“お姫様抱っこ”して歩き出したのである!
え、隼一ってこんな事する様な
積極的な男性だったっけ???
私は心臓の鼓動の高鳴りを抑えようと
使えそうな魔法を精一杯思い出すが、
動揺した脳からは一切のレスポンスが
返って来る事は無かった。
「…ま、これで攻守逆転って所かな。
別に、嫌って訳じゃ無いでしょ?
随分と分かり易いからさ、
流石にメアリーの気持ちは
ちゃんと伝わって来てた。」
え?え?脳内が“え?”で埋め尽くされ
私は何も言葉に出来ない。
普段はもう少し冷静な私だけど、
完全に余裕が消えてしまっている。
今自分がどんな顔をしているかすら
全く分からない位動揺してる。
隼一が歩を進めながらゆっくり言葉を紡ぐ。
「…まぁ、それでだよ。考えたんだ。
メアリーの気持ちに応えるか、
それともあくまでも突き放すか。
立場上は、突き放すべき何だよな。だけど…。」
隼一はそう言うと、私を降ろす。
私は何とか膝に力を入れて立つと、
何時の間にか頂上の
鳥居と社がある所まで
辿り着いている事に気付く。
…私は落ち着こうと辺りを見回す。
しかし、それはその瞬間の事。
何と、突然隼一が私に跪いて来たのだ!
「…色々考えてはいたんだけどさ、
面倒な駆け引きは僕に似合わないよな。
好きだ、結婚しよう、メアリー。」
…そう言って、隼一は私の足元に
思いっ切りキスをして来る。
こ、これは、私の夢が叶ったって事?
私にあった先程までの動揺が
高揚感に変換されて消え失せると、
急に現実感が戻って来る。
夢じゃ無いかと疑う…
いや、ここまで来るともういっそ
夢でも良い気さえしてきたぞ。
こんな良い夢を見た事は無いし。
…ただ、確認だけはしておく。
「…私は魔女だし、外国人だし、
仕事があって日本に住めないから
隼一に移住して貰う事になるよ。
日本にはそうそう帰れなくなるし、
仕事も辞めて貰う事になると思う。
どれでも、隼一は大丈夫なの?」
…そ、そうだ。そうなのだ。
私だって分かってはいたんだ。
ただ、逃げていただけで。
私にとって隼一は間違いなく
白馬の王子様だとは思うけれど、
自分の全てを犠牲にしてまで
私に付いて来てくれる自信は無い。
だから、振り向かせたいと思いつつ
強引にアプローチをしていたんだ。
もし振られてしまったとしても、
遊びって事に出来る様に…。
私は泣きそうになりながら
懇願する様に隼一に聞く。
「…大丈夫、覚悟は出来てる。
大体、経緯はどうあれ手を出したんだ。
男として責任を取るだ何て
当たり前の事だろう?」
…生きてて良かったな。
もうちょっと感情がある筈なのに、
今の私の思考能力では、
そう考えるだけで精一杯だった。
私は隼一の手を取って、告げた。
「…愛してるよ、隼一。」
「…おめでとう、メアリー、隼一。」
「え…?」
~~~~~
…時は少しさかのぼり、
隼一のプロポーズ数分前の事。
私、十六夜咲夜はアリスに
透明化魔法をかけてもらうと、
透明な状態のまま時間を停止し
伏見稲荷大社の頂上まで
アリスをおぶって歩いていた。
無論、2人を観察する為に。
今朝方アリスから
2人の関係を聞いた時は
少しだけ驚いた物だけど、
メアリーは隼一に対して俗に言う
女の目をして接していたから
さもありなんと言う感じではあった。
そして、アリスが言う所によると
メアリーは結婚願望が強いそうで、
彼女の性格的にどんな手を使ってでも
ルーマニアまで隼一を
連れ去るつもりだと言うから
私にも彼女をどうにかしろと
直々にお願いをされた訳である。
ただ、アリスには申し訳無いのだが、
私としてはもしもメアリーが
隼一を連れ去ってくれるとすれば
それに賛成する気であった。
…何故かって?確実に私の仕事が減るからだ。
現状私はルーマニアの様々な大臣を兼任しており
激務がかなりの負担になっている。
一応お嬢様には度々幾つかの大臣職について
後任に相応しい人材を度々推挙しているのだが、
信用の不足を理由に毎回断られていたのだ。
要するに、身内じゃ無いって訳である。
…しかし、隼一はどうだろうか?
もしメアリーと結婚したとすれば
隼一は私達の身内になるのだから
流石に信用しても良いのでは無いか?
能力に関しても、学力、実務面、
共に申し分無い成果が期待出来る筈である。
若さ故に経験は不足しているが、
裏を返せば伸びしろがあると言える。
多分、お嬢様も断れない。いや、断らせない。
兎に角、人材不足のルーマニアにとって、
若くて優秀で信頼出来る人間等
喉から手が出る程欲しい人材なのだ。
アリスはメアリーの自由奔放さに
頭を抱えているのかもしれないが、
私はあの2人を利用させて貰うぞ。
私は頂上で時間停止を解除した後
アリスに小声で話しかける。
「…好きにさせて貰うわよ。」
「…えぇ。」
…アリスはもうそれしか言わなかった。
それはそれは憔悴しきっていたが、
最早私にそんな事は関係無い。
私の方が立場は上なのである。
私はアリスに頃合いを見計らって貰い、
プロポーズが済んだ瞬間に
透明化の魔法が解除される。
隼一からプロポーズする当たり、
私は彼を男として少し見直したぞ。
私は早速第一声で2人を祝福するが、
2人は相当困惑している様だった。
まぁ、だろうな。私の思惑何て
2人の愛情の前には些事な訳で。
…まぁ、細かい説明は面倒なのだ。
今はただ、自分の仕事を減らしたい。
私も人間なので体力には限界があり、
今はまさに限界であると言えた。
困惑する隼一、混乱するメアリー、
完全に疲れ切った表情のアリスを前に、
私はただ平然と彼に告げた。
「隼一、貴方も大出世をした物ね。
ルーマニア外務大臣への就任、
心からお祝いするわ。」
京都観光…可能な限り調べました。1932年当時の情勢を一定程度反映している筈です。逐一後書きで解説するのは大変なので、気になる方は是非調べて下さいね。
プロポーズ…隼一の側から。決める所は決める、責任感の強い頼もしい男です。
夜の伏見稲荷…プロポーズには…適しているんでしょうか?一応ご利益には安産もあるみたいですけど。それは兎も角、作者が行ってみたい場所です。東方の聖地でもあります。
咲夜の思惑…概ね書いた通りだが、詳細は次回以降説明予定。”幾ら身内とは言え外国人がいきなり大臣に就任出来るのか?”と思うかもしれないが、それを言ったら大臣でこそ無いにせよ、メアリーはアイルランド人である。国籍より身内かそうでないかが問われる。いずれにしても、今回この部分は相当雑に描写したのでご了承を願いたい。
振り回されるアリス…咲夜がメアリーの肩を持つと知ると、もう全てを諦めた。そんなアリスさんに良いお知らせです。二人が結婚すればアリスさんの家からメアリーは退去する筈なので、暫く関わらなくて平気だと思いますよ()