紅魔戦記~カリスマの戯れ~   作:インスタントブルー

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今でこそ何かとバカにされがちな大艦巨砲主義ですが、流石に何の効果も無い訳では無いと思うんです。男の子ってこう言うのが好きなんでしょ?


大艦巨砲主義の本質的効果

「…史上最強の戦艦を建造するわ。

ルーマニアどころか、全世界の海軍を

象徴する程に強力な戦艦よ。」

 

1932年6月15日、海軍省の会議室にて。

私、アリス・マーガトロイドは

壮大な計画をぶち上げていた。

私の声に応じて会議室内から大歓声が上がる。

 

「大臣、それは本当なのでしょうか?

私の記憶に間違いが無ければ、

大臣は潜水艦至上主義者であった筈。

何か、心境の変化がおありでしたか?」

 

期待を込めた目で質問して来るマリウス。

私は彼に自らの計画とその真意を話し出した。

 

「…まず大前提として、マリウスの記憶は

決して間違って居ないと断言するわ。

私は潜水艦至上主義者と言えるし、

戦艦の“戦術的”効果も疑問詞しているもの。

艦隊編成を大きく変更する予定も無いし、

潜水艦の建造は予定通り行なう予定よ。

…今回私が史上最強の戦艦建造を決意した理由は、

戦艦の“戦略的”効果を評価しての事なの。」

 

「戦略的効果…ですか。」

 

唸るマリウス。如何やら彼には

追加の説明が必要そうだ。

私は戦艦の戦略的効果について語りだす。

 

「そう、戦艦には戦略的効果があるわ。

ここで言う戦略的効果には

様々な種類の物があるけど、

まず第一に、抑止力としての効果よ。

強大な戦艦を建造する国力のある国には

侵略戦争を仕掛けるハードルが上がるわ。

人間がちっぽけな存在である以上、

巨大な大砲や艦橋、船体を前にすれば

その視覚的効果が実感出来る筈よね。

艦砲が火を噴く恐怖心を前にすれば

戦争を思いとどまる材料になるでしょう。

第二に、政治的な宣伝効果よ。

強大な戦艦を保有している事は、

国家的な威信の上昇に繋がるわ。

国威発揚は戦意を向上させる上で

決して見逃せないポイントになるし、

外交何かで他国を訪れた時に

相手国に対し自国の格式を

知らしめる事も出来るでしょう。

…私は訪日で横須賀を訪れた際に、

帝国海軍の威容に圧倒されたのよ。

それで、この事に漸く気付いたわ。

戦術的には戦艦の建造よりも

よっぽど有効的なやり方が

存在しているとは思うのだけれど、

こうした戦略的効果に関して言えば

海中で隠密行動を取る事が信条の潜水艦で

戦艦を代替する事は決して不可能でしょう。

見えない物に抱く恐怖心は限定的だからね。

よって、敢えて戦術的な合理性を求めず

史上最強の戦艦を建造するのよ。」

 

私がここまで言い切ると、

大半の者は私に向かって

盛大な拍手を送っていた。

実際、彼等の多くが何だかんだ言っても

ルーマニア海軍における水上艦の少なさに

多かれ少なかれ不満を持っている事は

私も薄々気付いてはいたので、

さもありなんと言った所か。

…但し、マチェラリウは例外だが。

私は彼を名指しで呼ぶ事にする。

 

「…マチェラリウは不満かしら?」

 

私がそう言うと、彼は慎重に話し出した。

 

「…いえ、不満等あろう筈がございません。

大臣の見解には私も同意致す所であります。

しかし戦艦、まして史上最強の戦艦ともなれば

相応の建造コストや維持費の発生は避けられません。

一体、どうやって予算を通されたのですか?」

 

…成程、至極真っ当な疑問である。

元も子もない話になるが、

幾ら急速に成長しているとは言え

ルーマニアはあくまで中小国なのだ。

それも、海軍に費やせるリソースの少ない

ソ連が仮想敵国の陸軍国家である。

国内の発展は急速に進んでいるが、

結局大半が魔法ありきの発展であり

産業構造が変化した訳でも無い。

一応失業率は劇的に低下したのだが、

それはインフラ建設や都市開発で

一時的に大量の雇用が創出されたからであって、

工業化の進展は予想以上に遅い。

私の人形が酷使されていると言うのが

ルーマニアの発展、工業化の現状である。

よって、戦艦を建造する様な予算、

まして維持する為の予算を捻出するのは

不可能とまでは言わないにせよ

難しいと思われるのである。

 

…とは言え、無論私もそんな事は

勿論理解している訳であって。

当然予め手を打っているのだ。

 

「…その件に関しては問題無いわ。

まずこれは大前提何だけれど、

予算については既に通してある。

勿論その為には様々な物を削ったわ。

まず、前衛艦の建造は取りやめよ。」

 

私がそう告げた瞬間、

マリウスは目を丸くして詰めてくる。

 

「…お言葉ですが、大臣。

それは正気の沙汰とは思えません。

幾ら強大な戦艦であると言っても、

前衛艦無しでは沈んでしまうのでは?

それ程予算が不足しているのでしたら、

先に前衛艦を複数揃えるべきです。」

 

一般的に、マリウスの指摘は正しい。

確かに私もその通りだと思う。

…但し、事今回に限って言えば

その事を考慮する必要性は無いのである。

 

「…マリウス、思い出して頂戴。

今回私が戦艦を建造する目的は

戦艦の有する戦略的効果を得る為よ。

つまり、戦術的効果を期待していないの。

それに、仮にも史上最強の戦艦ならば

例え単艦であっても早々沈まない

立派な艦である事を私は期待するわ。

そしてこれが何より大きいけれど、

ルーマニア海軍は元々潜水艦の建造に

多大なリソースを費やしているから、

前衛艦の大量建造はどの道不可能よ。

だったら、使える資源の全てを

一隻の艦に費やした方が効率的でしょ?

それに、私が最初に作らせた旗艦の資源も

思い切って戦艦建造に回すつもりなの。

これはそれ位の覚悟を持って

計画している事だと心得て欲しいわ。」

 

私がそこまで言うと

マリウスは黙ってしまったが、

マチェラリウは臆せずに私見を述べて来た。

 

「…しかし、それでも尚戦艦建造は

維持費含め多くのコストが必要な物。

計画を多少縮小した位では

予算の捻出は難しい筈です。

一体、どうやったのですか?」

 

「…足りない予算についてだけれど、

これに関しても一応目途が立っていて、

2つの方法を採用する事にしたわ。

1つは新規での国債の発行よ。

と言っても、ここで言う国債と言うのは

あくまでも帳簿上の存在であって、

実質的に行うのは貴金属の増産よ。

…私は錬金術の改良を試みていて、

以前よりも速いペースで

錬金する事が可能になったわ。

この貴金属を担保にする事によって

戦艦建造資金を内外から調達するの。

当然これによってインフレになるから

頻繫には使えないやり方だけどね。

次に、富裕層に対する特別税の徴収よ。

増税は受けが悪いやり方ではあるけれど、

過度なインフレを抑制する為であれば

効果のある方法だと思うわ。

いずれにしても、こうする事で

あの気まぐれな幼女を説得して

戦艦建造の予算を通したわ。

建造は来年、1933年に開始して、

3から4年間で完成させるつもりよ。

だから、今のうちに設計図を

きちんと作っておきましょう。

確保した予算は相応の額になるから、

皆で知恵を絞って行きましょう。」

 

…私がそう言うと、マチェラリウは

笑顔を見せながら口を開く。

 

「…流石ですね、大臣。

私は経済には明るく無いのですが、

大臣の言葉には説得力を感じました。

ここまで建造を支援して頂いたのですから、

私達はルーマニア海軍の軍人として

期待に応えなければなりません。」

 

笑顔で、誇らしげに語るマチェラリウ。

これで丸く治まったと私が思ったその時、

とある中堅士官から声が上がった。

 

「待って下さい大臣。

根本的な疑問なのですが、

適切な資源と予算があったとしても、

私達の現状の技術力、工業力では

世界最強の戦艦を作る事等

夢物語なのでは無いでしょうか?

建造のノウハウも持っていなければ、

造船施設だって対応出来ませんよ。」

 

あぁ…その問題か。

私は思わず頭を抱える。

一応結論は出てはいるのだが、

想像するとウンザリして来たな。

嫌な事、しかし大切な事を聞いてきた

その中堅士官の疑問に私は答える。

 

「…貴方が抱いた疑問は真っ当な物よ。

無論、解決策についても考えてある。

まず造船所についてだけれど、

これは咲夜に既存の造船所を

拡張させる事で対応するわ。

無論、地下じゃ無い方についてね。

そして技術力についてだけど、

そこは私達の方でどうにかしてみるわ。

大変面倒な仕事にはなるけれど、

こうするしか道は現状無いのよ。

どうせ一点物ではあるのだし、

どうにかなると信じているわ。」

 

「…となると、維持管理も

大臣や大臣の側近の方々が

担当なさるのでしょうか?」

 

「まぁ、そうなるわね。

だけど、維持管理だけなら

別に大した負担にはならないわ。

結局、修復や修理、メンテナンスは

私達が使う魔法でどうにかなるの。

人件費がかかる以上維持管理費は

支払う事にはなるのだけれど、

多少私の仕事が増えるだけよ。」

 

ウンザリしながら話す私。

そんな私を見つめた件の士官は

苦笑しながら私にこう述べてくる。

 

「…ルーマニアの海軍大臣は、

世界の海軍大臣の中でも

最も優秀なのでは無いでしょうか。

私達は良き指導者を得ました。」

 

本当だよ。もっと感謝して欲しい。

私は彼のその心意気を買った所で、

建造する戦艦について軽く頭を回し始める。

船体は巨大にしたい所ではあるが、

ボスポラス海峡とダーダネルス海峡を

楽に通過出来るサイズである事が前提になるな。

流石に戦略兵器として考えるのであれば、

黒海から出られないのでは話にならない。

また、世界最強の戦艦を自称する以上は、

魔法により防弾性能を向上させる必要もあるだろう。

海上、海中、空中の何れから被弾しても

殆どダメージを受けない様になれば

敵国にとっては脅威となるに違い無い。

更に、鉄その物の強度を高める必要もあるだろう。

強度を高める目的は防弾と言うよりかは

寧ろ速度性能を向上させる為であり、

鈍重になりそうな巨大戦艦に

スカーレット・デビルのエンジンを

丸々転用してしまう事によって

超高速での機動を可能にする狙いがある。

どうせ単艦で運用する事になるのだから、

速度は速ければ速い程良いだろう。

水中の抵抗や戦艦の重量等が判明しない事には

実際どの程度の速度が出るかは不明だが、

強力なスカーレット・デビルのエンジンなら

多分エンジン一基で50㎞程度は出せる筈だ。

取り敢えず左右と中央で3基配置すれば

150㎞…は流石に現実的に思えないが、

まぁ100㎞位までなら確実に出せる筈だ。

この際燃費は度外視で良いだろう。

とは言え、実際に重要なのは主砲だ。

砲弾には全て自動追尾魔法をかけるとして、

戦略兵器足りえる様に大口径主砲で

相手国に対して威圧感を与えたい所。

最低でも日本で見た長門の主砲より

大きくなければ話にならない。

 

…考え出したらきりが無いな。

それに、作るのは私と人形なのだから、

考えれば考える程手間と予算が増える。

その事を思い出して一気に萎えた私は、

探知魔法の改良の為の研究の為の実験を

海軍省の会議室内で堂々と行う事にした。

 

 

--------

 

 

「よく来てくれたわね、茂。

こうして会うのは2月ぶりかしら?」

 

1932年7月15日、紅魔館の執務室内。

私、レミリア・スカーレットは

久し振りに“お気に入り”と面会していた。

吉田は苦笑しながら口を開く。

 

「…私は女史に呼ばれたのですよ。

わざわざ私を指名された物ですから、

事前に外務省に色々と聞かれまして

中々に苦労をしたものです。」

 

「ま、それぐらいは必要経費よ?

けれど良かったじゃない。

今回の件で貴方の名前は確実に

外務省内に浸透したと思うわ?」

 

私がニヤニヤしながら言ってやると、

生意気にも吉田は溜息をついて

私に向かって文句を言って来る。

 

「確かに名前は浸透しましたが、

これではただの悪目立ちですな。

ただでさえ、私は“宇佐見隼一事件”で

悪評が立っていると言うのに。

私は早ければ来月中頃には

ルーマニア大使館に左遷されると

専らの評判なのですよ?」

 

口を“への字”に曲げて

うんざりしている茂を見て、

私は尚もニヤニヤしながら

吉田の発言を訂正してやる。

 

「あら、それは良かったわね。

ルーマニア大使館に派遣って、

とんでもない“栄転”じゃない?」

 

私の変わらない態度を確認した吉田は

遂に手に負えないと判断したのか

反論を諦めて話を進めて来た。

 

「まぁ、左遷か栄転かは兎も角、

私のルーマニア大使館行きは

可能性としてはあり得ると言う話です。

…それはそれとして、女史は

“宇佐見隼一事件”で私がどれ程

追及されたかご存知無いのですか?」

 

…生意気にも、今度は愚痴か。

尤も、流石に今回ばかりは

同情して聞いてやろうとは思うが。

 

「…まぁ、聞いてあげるわよ。

貴方がどんな目に遭ったかについては

流石に私も知っているし、

迷惑を掛けた自覚はあるもの。」

 

“宇佐見隼一事件”

…まぁ、字面から明らかである通り、

これは先月ルーマニア外交団が訪日した時

吉田が選定した案内人の宇佐見隼一が

外交団に付いて来ていたメアリーによって

ルーマニアに連れ去られた事件である。

勿論2人の間には非常に短い間に

愛が育まれていた訳であって、

ただ単に国際結婚によって

日本を離れただけではあるのだが、

隼一の職業が外交官であった事で

吉田や隼一がルーマニアの息のかかった

日本に対するスパイだったとの疑いが

日本では掛けられていたのである。

…実際の所、隼一は兎も角として

吉田は本当に機密を漏洩する等

スパイ行為を行っていたが為に

追及を逃れるのが大変だったそうなのだ。

現在は、事件の収拾をする為に

急遽咲夜とメアリーが再度

短期の訪日をしている。

天皇に跪いてでも許しを請えと

指示を出して送り出したので、

多分許しては貰える筈だ。

…私が事件の顛末について

どうなるか考えていると、

吉田が愚痴を吐き出してくる。

 

「全く、本当に困りますな。

隼一は、外務省の若手の中では

一二を争う優秀な人間でしたから

何れ外務大臣を目指せる様な人材と

私としても思っていたのですよ?

まさか、日本では無くルーマニアで

外務大臣若くして就任する等と

一体どこの誰がそんな事を

考えると言うのでしょうか?」

 

「一応、考えたのは咲夜ね。

人事案を承認したのは私だけど。」

 

嘆く吉田に私は平然と答える。

それを見て吉田は本当にもう

全てがどうでもよくなったのか

急に話題を“本題”に変えてくる。

 

「…私もすっかり疲れました。

そろそろ本題について触れましょう。

内容は事前の合意通りの物です。

ささ、こちらの書類に署名を。」

 

私は吉田から書類を受け取る。

内容は、現状仮の形になるが

日本とルーマニアの同盟案だ。

条文には、日本かルーマニアが

ソ連に宣戦布告された場合に、

もう一方の国家がソ連に対して

宣戦布告をすると言う内容と、

ルーマニアが満州地域において

日本が同盟締結以前に行った

軍事行動を認める事が記されていた。

…結局、日本は現在外交方針を巡って

議論が紛糾している最中であり

満州利権の開放やルーマニアからの

石油の無償提供等の条件は

現状では記載する事は出来なかったのだ。

 

そう言う経緯もあって、

私達は取り敢えず同盟締結を果たして、

その後の事はその後に考える事で

一応の合意を果たしてある。

私は最近新調したパチュリー謹製の

インクが切れない万年筆を取り出して

書類にサインし吉田に手渡した。

彼は私のサインを確認すると、

一歩下がって口を開く。

 

「…サインを頂きまして

ありがとうございます。

所で、折角ルーマニアに

こうして訪れる事が出来たのです。

隼一と面会する事は可能ですかな?」

 

「隼一は外務省にいる筈だし、

面会する事は可能だと思うわ。

…だけど、もし貴方がこの状況で

隼一に会った事が知られたら、

貴方の立場は悪くなると思うわよ?」

 

全ての原因を棚に上げて

すっとぼける様にして述べる私に、

吉田は呆れた顔で言い放った。

 

「…今更ですな。」

 

吉田はそれだけ言い放つと、

“ありがとうございました”や

“失礼します”等の言葉を発せず

雑に執務室を出ていった。

私は吉田を気に入っているし

あれ位されても別に何も思わないが、

外交官として考えた時に

あの態度はどう何だろうか?

いよいよあんな態度をしていては、

ムッソリーニに怒られそうである。

 

…私は余計な心配を瞬時に

思考の中から消去すると、

パチュリーから借りた本を読み始めた。

 

 




タイトル…ちょっと論文みたい。

史上最強の戦艦…国家の特性上、ルーマニアは一点物の兵器の製作は得意な国家です。但し、海軍や空軍ならまだしも陸軍においては質より量が重要になってくるので陸軍は相変わらず大変です。

ルーマニアの発展と工業化の現状…工作機械が少なく基礎工業力の乏しいルーマニアでは、魔力関係の兵器生産を中心としてアリスの様々な人形が生産業務に携わっている。こうして人形の使用頻度が急激に増加したのだが、流石にアリスが人形を毎回手作りする時間は確保出来無いので、最近は専ら人形に人形の生産をさせている。(アリス自身人形の様な容姿をしている為に、人形の様な少女が作った人形が人形の生産をしていると言うややこしい構図が出来上がっている)また、アリスが予めプログラムした魔法であれば人形だけで行使する事すら可能になった。動力については、アリスの魔力で供給しきれない分は賢者の石を動力源に使っているが、パチュリーの昼夜を問わない研究によって以前よりも速く賢者の石を精製出来るまでになったので問題は無い。尤も、賢者の石その物の使用量が増えている関係上、賢者の石の精製が早まったからと言って兵器生産のスピードが著しく向上する様な事には特になっていない。今後もパチュリーやアリスの研究により賢者の石や人形が活用出来ている限りにおいて、ルーマニアの生産能力は上がっていくだろう。余りにも属人的である。



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