紅魔戦記~カリスマの戯れ~   作:インスタントブルー

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今回は例によって少し短めです。


サザンクロス

「いや~それにしても、大臣のお陰で

赤道直下の7月だって言うのに、

艦内が涼しくって何よりですよ。

艦長だってそう思いますよね?」

 

「馬鹿言え。お前が大臣に向ける視線で

艦内温度が3度は上がってるわ!」

 

ドッと笑いが起きる艦内。

…そんな光景を呆れながら見ている私、

アリス・マーガトロイドは1933年7月15日、

ルーマニア海軍が誇る最新鋭潜水艦である、

マーガトロイド級1番艦に乗り込んで、

英国領東アフリカはモンバサ港へと向かっていた。

…この潜水艦、最高速度90㎞を実現する

超強力な魔力エンジンに加えて

自動追尾魔法を掛けた魚雷を装備する等

性能面は非常に優秀なのだが、

如何せんルーマニア海軍の技術力では

潜水艦の設計は中々に難易度が高く、

居住性はハッキリ言って劣悪なのだ。

無論、冷房何て無い訳だから

ただでさえ海の男だらけの艦内は

尋常では無い暑さになってしまう。

私は白色の軍服を華麗に着こなす

気ままな水兵に頭を抱えながら、

艦長を務めるカタリンに語りかける。

 

「…暑いなら冷却魔法を重ね掛けしとくわよ?」

 

「いえ、私の事は結構ですから、

大臣は他の水兵達を気遣って下さい。

彼等も狭い艦内で参っているでしょうから。」

 

私に話しかけられたカタリンは

さっきまでの態度とは打って変わり

真剣な表情で私へと対応する。

ま、流石と言った所だろうか。

このカタリンと言う男は海軍内でも

中々に評判が良い士官なのだ。

部下思いで、仕事が出来て、

何よりオンとオフの切り替えが

しっかり出来る事が魅力だ。

私は汗一つ流していないカタリンに

事務的な質問を飛ばす。

 

「…ま、良いわ。それよりも、

モンバサまでは後どの位かしら?」

 

「全速ですっ飛ばして後2時間、

そろそろ浮上航行に移ります。

入港までの手続きや接岸作業も

所要時間には含まれますから、

実際はもう少しかかりますが。

予定通り進める事が叶えば、

恐らく到着は12時頃であるかと。」

 

「成程ね、概ね理解したわ。

流石、完璧なスケジュール管理ね。

将来は秘書でもやってみる?」

 

「大変有り難い申し出ですが、

私は現場が板についていますから

丁重にお断りさせて頂きます。」

 

「それは残念ね。」

 

やはり、この艦長は仕事が出来る。

ルーマニア海軍は良くも悪くも

自由な人材が多い空間なので、

彼の様に手帳等一切見ずに私に堂々と

これからの流れを説明出来る人間は

実は案外多くは無いのだ。

私がカタリンに感心していると、

今度は紺色の軍服に身を包む

別の水兵が口を開く。

 

「…大臣、艦長を秘書にする何て

止めておいた方が良いですよ?

何せ、スケジュールは管理出来ても

財布と嫁さんを管理出来ていませんから。」

 

「おい、それを言うなって!

折角大臣に良い顔出来てたってのによ。」

 

一気に情けない顔をするカタリン艦長に

水兵達がドッと豪快に笑い出す。

笑顔の絶えないアットホームな職場とは

こう言う職場の事を言うのだろうか?

私はさっきの水兵に質問する。

 

「…艦長、尻に敷かれるタイプなの?」

 

私からの質問を聞いた水兵は、

ニヤリと笑って楽しそうに説明する。

 

「えぇ、そりゃあもう有名ですよ。

大臣はご存知か分かりませんが、

艦長の嫁さんは良い所のお嬢さんでして。

気が強いって事でよく私達に

苦労話を持って来るんですよ。

しかも、艦長は金銭感覚が少々

ずれている節がありましてね。

この間借金してまでアメリカから

自動車を個人輸入した物ですから、

嫁さんはカンカンに怒りっぱなし。

そんな事もあって、財布の紐も

今や取られちゃったみたいですよ?」

 

…どうやら、私の人物眼は

レミリアのそれより大きく劣る様だ。

だらしない私生活を晒されたカタリンは

今にも死んでしまいそうな顔で言った。

 

「…本当、嫁には苦労させられてます。

酒でも飲まないとやってられません。」

 

「…アル中みたいな事言わないで頂戴。

大体、私生活も管理しときなさいよ。」

 

艦内でヤケ酒でもされたら溜まらないと

私がカタリンを諌めると同時、

砂色の軍服を着用した水兵が口を開く。

…そう言えば、さっきから全員

軍服の色が違っているな。

 

「艦長、勘弁して下さいよ。

出発前、俺達が積み込もうとした

ラム酒を没収したのは他ならぬ

艦長御自身ではありませんでしたか?」

 

「…お前なぁ。この艦の事を海賊船か何かと

勘違いしている訳じゃあ無いよな?」

 

カタリンのジョークに湧く艦内。

しかし、ニヤニヤしている件の水兵は

カタリンへの追及を止めるつもりは無い様だ。

 

「けど艦長、俺は艦長がこっそり艦内に

赤ワインを持ち込んだのを

きちんと知ってるんですからね?」

 

「あのな、赤ワインは良いんだよ。

何たって、品とセンスを感じるだろ?

赤ワインにはあるが、ラム酒には無い。

赤ワインにはな、高貴な歴史、文化、芸術。

その全てが揃っている事を覚えとけ。

あれはやはり、艦内に相応しい酒だ。」

 

…確かに私も赤ワインは好きだけれど、

レミリアでもそこまで言わないだろう。

ドヤ顔で魅力を語る艦長に対し、

件の水兵は案の定呆れ顔だ。

 

「けど艦長、貴方の味音痴っぷりは

海軍でも結構有名じゃ無いですか。

ラム酒とワインの違い何て分かるんですか?

この私に言わせてみれば、

海賊船と潜水艦を見分けるよりも

きっと難しいと思いますよ?」

 

流石にラム酒とワインの違いは

飲めば分かる物だと思うのだが…。

私は少々考え込んでしまったが、

どうもカタリンの味音痴っぷりは

私が知るレベルの上を行くらしく、

艦内は大爆笑に包まれている。

まぁ、酒の味の違いは兎も角として、

この空気感は海賊船その物だと思うけどな。

私は愉快な船内の空気を味わいながら、

モンバサ入港後の予定を確認する事にした。

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

「貴女達に会う事が出来て嬉しいわ。

私はアリス・マーガトロイド。

ルーマニアで海軍大臣を務めているわ。

一応、本業は魔女と言う事になるわね。

あのパチュリー・ノーレッジの弟子だから、

それなりに能力はあると自負しているわ。」

 

1933年7月15日、夕刻のモンバサ港にて

私、アリス・マーガトロイドは

ブラウン親子との面会を果たしていた。

到着後暫くは様々な外交的手続きに追われたが、

漸く初対面と言う感じである。

写真でしか知らなかった親子(主に娘の方)を

生暖かい目で見つめている私に、

母親のエスター・ブラウンが口を開く。

 

「…アリス様、この度は本当に

感謝してもしきれません。

まさか、お返事を頂ける所か

ルーマニアへの亡命まで

認めて頂けるとは思いませんでした。

これで漸く、娘は迫害や差別から

解放される事が出来る筈です。

言葉に出来る事には限界がありますが、

今回の御恩は必ずや行動を以て

お返しさせて頂こうと思います。」

 

そう言って、深々と頭を下げるエスター。

確かに手間はかけているかもしれないし

特別待遇である事は否定しないが、

別にそこまで言わなくても良いのに。

私は彼女に口を開く。

 

「…大丈夫よ。頭を上げて頂戴。

私達は常に貴女達の味方なのだから。

それと、もし礼を言うのであれば

レミリア…あぁ、ルーマニアの女王ね。

あいつに言ってやりなさい。

それと、パチュリーにもね。

私は別に何もしていないし、

名前に様を付ける程じゃ無いわ。」

 

「そうは仰いますが、

モンバサは遠いでしょう。

わざわざ出向いて下さったのです。

礼を尽くしても尽くしきれません。」

 

…一度顔を上げてから

再び頭を下げるエスター。

予め分かってはいた事であるが、

彼女の人間性は超一流だな。

しかし、出港予定時刻まで

後1時間程しか無いのである。

 

「…貴女の言葉は有難く受け止めるわ。

だけど、今はやるべき事をやりましょう。

急かす様で本当に悪いのだけれど、

そろそろ出発しないと行けないのよ。

最後に一応聞いておくけれど、

もう祖国に未練は無いかしら?」

 

私がそう問うと、彼女は一瞬だけ

後ろで困惑する様に隠れる

娘のエライザを見やった後、

真剣な表情で語りだした。

 

「…未練が無いと言えば嘘になります。

しかし、差別や偏見、迫害が横行する環境に

娘を置いておく事は母親として出来ません。

少なくとも、彼女が呪われている何て話、

私には受け入れられませんから。」

 

…呪い、か。エスターには悪いが、

それは少々難しいかもしれないな。

しかし、不安にはさせたく無い。

私はポーカーフェイスで告げる。

 

「それじゃあ、一緒に艦内に行きましょう。

詳しい話は出港後にまた話そうと思うわ。」

 

「…本当に、ありがとうございます。」

 

今日何度目か分からない感謝の言葉を聞いて、

私は艦内へと歩を進めていく。

 

…しかし、安心している様な顔をしている

エスターの方とは対照的に

終始不安そうなエライザを見ると、

自分の無力さを感じさせるな。

出会った瞬間直ぐに分かる

凄まじい魔力量を前にして、

私はひたすら思考を回した。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

「ようこそ、ルーマニアへ。

ようこそ、クリムソンへ。

そして…ようこそ、紅魔館へ。」

 

「陛下…この度は私達をお助け頂き

本当にありがとうございます。

私達の様な者が陛下の様な高貴なお方と

謁見出来るとは夢にも思っていませんでした。」

 

「あ~…。その、儀礼的なやり取りは不要よ。

貴女達は訪問者でも亡命者でも無くて、

運命に導かれた対等な客人なのだから。」

 

私がそう言うと、彼女達は頭を上げる。

1933年7月21日夕刻、紅魔館執務室にて

私、レミリア・スカーレットは

母親のエスター・ブラウンと、

娘のエライザ・ブラウンと面会していた。

無論、パチェやアリスも同席の上である。

私は2人に向かって口を開く。

 

「…さて、早速だけど、本題に入らせて頂戴。

今からエスターとエライザの両名には、

かの高名なパチュリー・ノーレッジによる

エライザについての見解を聞いて貰うわ。

予め言っておくけれど、忖度は一切しない。

話を聞く覚悟は出来ているかしら?」

 

私はそう言って、2人をジッと見つめる。

控え目に言って相当な恐怖があるだろうから

多少は待つつもりではあったのだが…

驚く事に、母のエスターが見せた目からは

強い決意が滲んでいる様に感じられた。

 

「…大丈夫です。覚悟は出来ています。

元より、私は娘を救いたいだけなのです。

娘を救う為に真実が必要であるならば、

私はその全てを捧げられます。」

 

そう言って、頭を下げるエスター。

それを見た私はパチェに視線をやり、

彼女は意図を察してエスターの側に寄ると、

エライザについて語りだす。

 

「…立派な覚悟を持っているのね。

そんな貴女達の為に、私は私が知る限りの

全てをここで教えようと思うわ。

…私は、エライザについて

2通りの分析を行ったの。

と言っても、まだ全ては分からないから

断片的な話も含まれるけどね。

それでも、私が行った2通りの分析である

科学的な分析と、魔術的な分析には

それなりの信憑性があると自負しているわ。

さて、どちらから聞きたいかしら?」

 

「…では、科学的な分析から

お聞かせ願えないでしょうか?」

 

パチェの視線に当てられたエライザは

一瞬だけ逡巡しながらも、そう口にした。

パチェは長々と説明を始める。

 

「分かったわ。ではまず、

科学的な分析の結果から述べましょう。

…結論から言うと、エライザには

“先天性白皮症”と言う疾患があるの。

これは俗に言うアルビノと言う奴ね。

これはメラニン色素と言う色素の

生合成に支障をきたす疾患で、

彼女がまるで白人の様な容姿である理由は

この色素欠乏に由来しているわ。

そして、その症状は単に外見的な

変化が観測されるにとどまらないわ。

紫外線に対して極めて弱かったり、

光を通常よりも眩しく感じたり、

弱視だったりと言う症状を有するの。

そして、残念ながらこれは不治の病よ。

症状を緩和する事は出来る筈だけど、

根本的に治ったりはしないの。

…これが、科学的な分析結果ね。

だけど、大丈夫。安心して頂戴。

あそこにいる偉そうな吸血鬼何て、

日光に当たるだけで体が焦げて、

たちまち消失してしまうからね。

昼間の外出は日傘が必須よ。

私達はきっとエライザの

良き理解者になれるわ。」

 

「…理解する事が出来ました。

本当にありがとうございます。

貴女様がお味方ならば、娘エライザは

安心する事が出来る筈です。」

 

一言余計何だよこの陰険魔女!

…とは流石にこの場では言わないが、

さり気なく私を揶揄するパチェに

エスターは少々困惑気味な顔をしながらも

パチェに対して感謝の言葉を述べる。

 

…そして、それを聞いたパチェは

少しだけ顔を曇らせながら説明を続けた。

 

「理解してくれて何よりだわ。

さて、魔術的な分析の結果も伝えましょう。

正直に言って、過酷よ。心して聞いて頂戴。

…魔術的には、現在のエライザの状態は

呪われた状態と言って差し支えないのよ。

私も呪いは専門分野外じゃ無いから

詳細については今後研究の余地があるけど、

彼女が呪われている事は残念ながら事実よ。

判断した根拠は、凄まじい魔力量ね。

…私達魔女は魔法を行使する時に、

魔女本人が持っている魔力を使用するわ。

これは先天的な物だから魔女によって

その量にはそれなりに差が出るのだけど、

原則的には多ければ多い程望ましいわ。

使える術式が増えたり、同時に幾つも行使したり、

連続使用を躊躇い無く使ったり出来るからね。

そして、彼女の魔力量は私をも凌駕しているわ。

…これだけ聞くと、良い事に思えるでしょう。

だけど、彼女の場合ちょっと多過ぎるわね。

ハッキリいって異常とも言える量なの。

現状、周囲が彼女に対して危害を加えない限り

魔力が暴走する様な事態になるとは

考えにくいとは思うのだけれど、

万が一の事があった場合には

何が起こるかは私にも想像がつかない。

それと、俗に“魔力酔い”と呼ばれる症状に

彼女は苦しんでいるかもしれないわね。

その名の通り、魔力酔いの状態になると

酒に酔った様な状態になってしまうわ。

しかも、魔力酔いは酒に酔うのとは違って、

精神的に不安定で悲観的になりやすくなるの。

エライザがよく貴女の後ろを付いていくのも、

単に彼女が幼いからでは無くて、

一人で歩くとふらついてしまったり、

弱視だったりするからかもしれないわね。

これは人間的には余り望ましく無いから、

呪いや魔力酔いを解消する為にも

エライザ自身が魔力行使の技術と

自身の魔力を上手く発散させる技術を

身に付ける必要があるでしょう。

これには高度な魔法の知識が必要だわ。

…だから、その、貴女の娘、エライザを

私達紅魔館で預かって育てたいのよ。

定期的に娘には会える様にするから、

どうか理解しては貰えないかしら?」

 

…パチェは、最近私が見た中で

最も気まずそうな表情でエスターを見る。

そりゃそうだ、娘思いの母親に向かって

娘を預からせて欲しいと要求しているのだから。

エスターはパチェの要求に対し

暫し悩む様子を見せながらも、

慎重にその口を開いた。

 

「それは、どうしても紅魔館で

行わねばならぬ事なのですか…?」

 

「残念だけど、そうなのよ。

現状、エライザに魔法を教えられる魔女は、

私を除けばそこにいるアリスと、

ここにいないメアリーの2人なのだけど、

アリスは海軍の仕事、メアリーは妊娠中かつ

まだまだ経験不足と言う状態よ。

勿論私にも仕事はあるけれど、

私の場合はデスクワークメインだから

エライザがそこにいる限り、

魔法を教える事が出来るのよ。」

 

「…そうですか。分かりました。

私達は貴女様に助けて頂いてばかりです。

どうか、娘を宜しくお願い致します。」

 

…私がふとエスターの方を見ると、

その目には涙が光っている。

その涙の意図が感謝なのか、

或いは寂しさなのか、不安なのか、

実際の所どうなのかは分からないが、

何も言わず、ただ不安そうな表情で

母の後ろからパチェを眺める

一人の魔女の卵の姿を見れば、

この親子を幸せにするのだと

私は改めて決意する事が出来た。




マーガトロイド級1番艦…地下ドッグで建造されたルーマニア海軍が誇る最新鋭潜水艦。潜水艦は数が多いので、艦名はマーガトロイド級○番艦と言う名称がつけられる。尤も、海軍内ではマーガトロイド級1番艦何て呼ぶのは煩わしいので、”M-1”とか”M-2”とかで呼ばれている。性能はアリスの説明の通りだが、自動追尾魔法付きの魚雷や最速90㎞と言う性能は旧式の船体による各種の問題点を補って余りある性能を発揮する。

海軍内の空気…下手したら海賊船より緩いかもしれない。
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