「…まぁ、受け入れましょうか。
勿論、気は余り進まないけれどね。」
1933年9月20日、紅魔館の執務室で
私、レミリア・スカーレットは
アールグレイを嗜みながら、
外務大臣の隼一による定例報告を受けていた。
最近は風雲急を告げるドイツ情勢への
対応の検討や研究が多かったので
私は淡々と聞いているだけで良かったのだが…
今回に限ってはそうも行かなかった。
その原因は、外務省に送り付けられたと言う
私宛ての2通の書簡の扱いの如何を
決めなければならなかったからである。
内容自体は2通とも丸っきり同じで、
何れも紅魔館への訪問を希望すると言う物。
送り主は日本の新外務大臣である広田弘毅と、
ドイツの宣伝大臣ヨーゼフ・ゲッベルスだ。
片や同盟国の外務大臣、片や仮想敵国の怪しい男。
本来後者の依頼については断る所だが、
前者の依頼を受ける場合、
後者を断ると理由はどうあれ
正直言って印象は余り良く無い。
である以上、双方の依頼を受けるべきだろう。
それに、一応は後者の依頼についても
こちらに多少は利がある話なのだ。
“敵を知り己を知れば百戦危うからず”とは
美鈴が薦めてくれた中国由来の本に
書いてあった事柄であると記憶しているが、
これは非常に的を射ていると言えよう。
仮想敵国の要人の人柄や背景を知れば
いざという時に必ず役に立つだろう。
…この様な計算を根拠に承諾した私だが、
隼一は不安そうに私を見つめて来る。
「陛下、承諾なさるのですか?
今回の事は断りを入れたとしても
そう大きな問題になるとは思いませんから、
陛下がお望みで無いとの事でしたら
私からそう伝えさせて頂きますが。」
「いえ、そう言う事では無いわ。
確かに面倒で億劫な仕事だけど、
これはきっと必要な事なのよ。
それに、私がやると決めた以上、
人間相手に下手を打ったりはしないわ。」
「…畏まりました。陛下の仰せのままに。」
深々と頭を下げる隼一。
…それにしても、すっかりこの男も
外務大臣が板についた物だな。
咲夜は完璧で瀟洒な従者だけれど、
別に外務大臣が本職では無かったし。
私は彼に向かい少し話を振る。
「…頭は下げなくて構わないわ。
所で、ここで貴方に幾つか
聞いておきたい事があるのよ。
率直に言って、広田弘毅とは
どの様な男なのかしら?
日本時代に接点もあるでしょう?」
私がそう振ると、隼一は少しだけ
困った様な表情を見せてくる。
「…難しい質問をなさいますね。
私自身実の所広田弘毅との接点は
多くありませんでしたので、
多分に伝聞や風説を含みますが、
それでも構わなければ
お答えさせて頂きます。
私からの印象は、“典型的なエリート”
と言う感じになるでしょうか。
外交感覚は私や吉田氏にも近い物があり、
所謂協調を重んじる様なタイプです。
但し、陛下との相性につきましては
正直言って宜しく無いかと思います。
偉大な先達を悪く言う様な事は
正直言って余りしたく無いのですが、
どうにも、広田弘毅と言う男は
胆力が欠けている男でして…。」
私は隼一がそこまで言った所で、
気まずそうに語られる話を遮る。
そこまで聞けば落ちは読める。
「…ありがとう、その先はもう良いわ。
要するに、“つまらない”男なのね?」
私がストレートに要約してやると
隼一の顔が露骨に引きつった。
どうやら、大いに当たっているらしい。
私が隼一の表情を見て溜息をつくと、
隼一は必死に補足を入れてくる。
「…言葉を選ばず申し上げれば
詰まる所そう言う話ですが、
私自身は日本時代若手でしたから、
彼との接点は殆どありませんでしたし、
決して無能では無いと言う事は
保障する事が出来ますよ。
国際政治の現実を熟知していますし、
大臣としては兎も角として、
官僚としては極めて優秀であると存じます。
陛下のお相手は十分に務まるかと。」
必死になって“先達”を擁護する隼一。
心掛けは結構な事であるが、
今更擁護は不可能では無かろうか。
まぁ、実際の所会ってみたら
印象が変わる何て可能性も0では無いし、
一旦こちらについては保留としよう。
私は次の質問を繰り出す為口を開く。
「取り敢えず、広田については分かったわ。
これ以上具体的な部分については
会ってから判断する事が賢明ね。
…それで、次の質問なのだけれど、
貴方はゲッベルスと言う男については
今の所どの様に分析しているのかしら?」
私の問いに対し、先程とは一転して
隼一は神妙な面持ちで答える。
「…ゲッベルスと言う男を端的に言い表せば、
コンプレックスの塊と言った感じです。
心の内に秘めたる雪崩の様な激情を
理性で巧みに操っているタイプでは無いかと。
あくまで、ドイツの担当者からの報告と
私の主観的な分析を多分に含む評価ですが。
とは言え、ナチス政権の中でも確実に
警戒に値する存在であるとは言えます。
認めたくはありませんが、
彼は極めて優秀な人間です。
特に、大衆の扇動にかけては
右に出る者はいないでしょう。
それこそ、歴史に残るレベルです。」
「ふーん?存外高評価なのね。
それにしても、大衆の扇動ねぇ…。
まぁ、会わない事には分からないけど、
隼一の評価は多分正しいのでしょう。
私に宛てた書簡も在り来たりな物でなく、
まるで女でも口説いてるみたいだったし。
扇動が得意と言うだけはあるわ。」
私がそう言った瞬間、隼一は一転して
ニヤニヤしながら口を開く。
絶対碌な事考えて無いだろ。
「…おや、陛下は彼の想いに
応えるおつもりなのですか?
それは非常に喜ばしい事です。
彼を出迎える為の接遇も
考え無いといけません。」
「残念だけど、今の所脈無しよ。
紅魔館には呼んであげるけど、
それはあくまで外交儀礼の範疇。
私に人間の男何て似合わないわ?」
「陛下がおっしゃいます通り、
見目麗しい陛下に釣り合う男等
この世界にきっといないでしょう。
陛下のご成婚はまだまだ先の話ですね。」
平然とそんな事を言う隼一。
真面目腐った雰囲気の中に
突然ジョークを放り込める辺り、
やはりこの男には魅力があると思う。
外務大臣とは言え、人間の分際で
私をいじれる奴はそういない。
私が知る限り、そんな事が出来るのは
吉田と咲夜ぐらいの物である。
…ただ、やられっぱなしは少々癪に障る。
私はそっと席を立つと、
少しばかり浮き上がり
隼一の耳元で甘く囁く。
「…まぁ、私は確かに人間の男と
絶対に結ばれたりしないわ。
だけど、別にそう言う事に対して
“興味”が無い訳じゃ無いのよ?
例えば、こんな感じかしら。」
私はそう言って、隼一の首元に牙を付ける。
“吸血鬼が、首元に牙をあてる”
これが何を意味しているか、
賢い隼一に分からない筈は無いだろう。
こちらからでは顔は見えないが、
きっと相当焦っているに違いない。
ごくりと息を吞む音が聞こえ、
隼一の心音が高鳴る。
一分一秒がまるで永遠の様に流れる。
扇情的で極めて恐ろしい空気感に
流石に耐えかねたのであろう隼一は、
白旗を掲げる意味合いで
両手を挙げると口を開いた。
「…陛下、御冗談でしょうか?」
「別に、貴方が望むと言うなら
続きをしてあげても構わないのよ?
私だって、男女が何をするか位
流石に知っているわ。」
私がそう言うと、突き当てた牙から
隼一の体温の上昇が伝わる。
流石に焦っているみたいだ。
「…お言葉ですが陛下、お止め下さい。
その先をしてしまうと、私は妻に消されます。
私は、もう少し首と胴を繋げていたいのです。」
「流石に私よりは数段落ちるけど、
身体能力も向上すると思うわよ?
多分その心配は杞憂じゃ無いかしら。」
相変わらず牙を突き立てる私。
にしても、随分久し振りに
こんな事をしている気がするな。
咲夜とかは頑として嫌がるから
こんな遊びはさせてくれないし。
“私は一生死ぬ人間ですよ”何て言って
直ぐに逃げ出してしまうのだ。
まぁ、私は別にそれでも良いけれど。
咲夜ならずっと私の側にいてくれる筈だ。
…私がそんな事を考えているのをよそに、
隼一は冷や汗を流しながら口を開く。
「…お言葉ですが陛下、
私の性癖は妻の様な女性なのです。
断じて、幼女でも熟女でもありません。」
…私はそれを聞いて呆れかえってしまう。
こいつ、この期に及んで言う事がそれかよ。
私は余りに馬鹿馬鹿しくなり牙を離す。
良かったな隼一、度胸は証明出来たぞ。
「…これはまた興醒めね。
随分と言ってくれるじゃない。
私は幼女でも熟女でも無いわよ。
次そんな事言ったら承知しないからね?」
「陛下、御冗談ですよね?」
「えぇ、冗談よ。貴方は優秀だし、
正直言って替えが利かない人材よ。
それに、貴方の嫁を怒らせたく無いし。」
「妻は怒らせると怖いですから。
陛下と言えども安全は保障しかねます。」
…ドヤ顔でそんな事を言う隼一。
何と言うか、この男は私が思うよりも
随分とクレイジーな男だった様だ。
すっかり紅魔館に染まったと言う事か?
私は身も心も染められた外務大臣を見て、
思わずため息をついてしまう。
…まぁ、遊びはこの辺にしておこうか。
この男は優秀で面白いかもしれないが、
正直言って玩具としては不良品だし。
私は執務椅子に座り直すと口を開く。
「まぁ、日独についての対応は
2人が紅魔館に来るまでの当面の間
継続って事にしておきましょうか。
…所で、米国への工作はどうなの?
別に今すぐどうこうってのは難しいけど、
向こうにある何かしらの勢力に
浸透工作ぐらいはしておいた方が
良いと思うのだけれど?
幸か不幸か私は海が苦手な吸血鬼。
余り向こうには行きたく無いからね。
隼一が今の所頼みの綱よ。」
私は日独の話題に続き、米国の話題を振る。
表情豊かな隼一の顔は、突然真顔になる。
「ハッキリ言って、状況は厳しいです。
但し前提として、米国をこちら側の陣営に
組み込む事自体は言う程難しくありません。
先ず、我々には極めて都合が良い事に
ルーズベルト大統領はナチスドイツに
強い警戒感を持っている様でして、
ドイツが欧州で再び大戦を起こすと言うなら
必ずや介入を試みると思われるのです。
仮想敵国が一致している以上、
ルーマニアが米国の攻撃対象に
なる事は無いと私は信じています。
何より、ルーマニアを攻撃する場合には
英国も敵に回す事になりますからね。
米国はそのリスクを冒してまで
ルーマニアを攻めたりし無い筈です。」
真剣な表情でそう言い切る隼一。
だが、そうであるなら”状況は厳しい”
理由とは一体何なのだろうか。
と言っても、私には大凡検討がつくので
隼一に向かって問いを投げ掛ける。
「それでも、“状況は厳しい”のでしょう?
私が隼一の話を聞く限り、重大な懸念があるわね。
ずばり、米国が英国に圧力を掛けた時に
英国とルーマニアが分断されると言う可能性よ。
これを言い出すとキリが無いのだけれど、
米国の国力と実行力の高さを考えれば、
決して有り得ない話でも無いと思うわ。
問題は、米国がそこまでしてルーマニアを
攻め落とそうと思うかどうかだけど、
米国民からルーマニアへの印象はどうなの?
米国はあくまで民主主義の国なのだから、
米国民がルーマニアとの戦争に対して
消極的であれば大丈夫だと思うのよね。」
私がそう問うと、隼一は眉をひそめる。
「…陛下からのご質問に対する答えですが、
印象は良くも悪くも無いと言う感じです。
と言いますのも、米国民の大半は
“ルーマニア”の存在を知らないのですよ。
この際ハッキリと申し上げておきますが、
米国民は満足に地図を読めない連中です。
自国以外にまるで関心が無い訳ですね。
英国の場所すら知らない者が当たり前。
そんな連中がルーマニアについて
興味を持っている訳がありませんよ。
実際の所、連中の頭の中には
株価と野球とラジオの事しか
無いのでは無いかとすら思う物です。」
私はその話を聞きながら、
紅茶に角砂糖を入れる。
「控えめで甘い貴方にしては、
随分と辛辣な評価をするのね。
私が思うに、連中は貴方が言う程
無能では無いと思うのだけど?」
私が砂糖入りの紅茶を飲み干すと、
隼一は私の質問に答える。
「陛下のおっしゃる通りで、
連中はそこまで無能ではありません。
無論無能も一定数存在しますが、
少なくとも政府の人間は違います。
…米国政府におけるルーマニアの評価は、
“神秘主義的で怪しい奴ら”
と言う感じである様ですね。
我々は英国と同盟関係にある事で
ナチスドイツと違って
敵視まではされていませんが、
警戒されている事は確かです。
…私が状況は厳しいと申し上げたのは、
政府や議会に工作を仕掛け懐柔する事は
極めて困難だと見込まれるからです。
最初から警戒されていては、
相当な便宜を図らない限り
関心を持って貰う事は不可能でしょう。
米国は産油国かつ経済大国ですから、
石油の供給や資金援助等も
確実に通用し無いと思われますし。
更に、大半の米国民はルーマニアに
殆ど関心を持っていないと来ています。
こうも八方塞がりの状況下で
どう浸透するんだと言う話です。」
両手を挙げて降参ポーズを取る隼一。
正直言って、話を聞く限り当分の間は
米国へのアプローチは厳しそうだ。
とは言え、これは仕方の無い事だ。
元より難易度が高い事は分かっていたし。
そうである以上、米国への浸透と言う
言わばプランAの実行を諦めて、
プランBに切り替えるべきだろう。
私は隼一に向かって指示を出す。
「…まぁ、仕方無いでしょうね。
当分の間は英国と日本との関係を
絶対に維持して置く事にしましょう。
それと、隼一に指示を出しておくわ。
米国が頼りにならない以上は、
今のままルーマニアが
日英それぞれと同盟関係にいるよりも、
日英を含めた三国同盟の形に
再編した方が望ましいと思うの。
それに、現状ルーマニアと日本との同盟は
対象国がソ連だけになっているしね。
仮想敵国にドイツが浮上して来た今、
これでは余りにも頼りないわ?
三国同盟の対象国には米国以外の
全ての国を適用出来る様にしましょう。
…と言う訳で、忙しいとは思うのだけど
その辺の諸々の調整をお願いしたいわ。
もし可能であるならば、
広田を紅魔館に招くその日に
英国政府からも誰かを招いて
三国同盟の調印式でも出来れば
それがベストだと思うの。
無論、やってくれるわよね?」
「無論です陛下。仰せのままに。」
私の指示に対し、深々と頭を下げて
自らの従順さを示す隼一。
間も無く、彼はすぐさま退室し
仕事へと戻っていった。
私は彼の後ろ姿を見て息を吐く。
…取り敢えず、現状で打てる手は
打つ事が出来たのではなかろうか。
米国が頼りにならない以上、
対ソ戦略だけでは無く、対独戦略にも
日英との同盟を活用したいのだ。
隼一は有能だし、多分やってくれる筈だ。
私は、飲み干した紅茶を淹れ直す為に
執務机の引き出しから茶葉を取り出す。
咲夜?彼女は最近忙しいのだ。
ーーーーーーーーー
「…にしても、何でこんな所にいるのよ。
加速魔法で補助が付いている筈なのに、
ここに来るまで30分位はかかったわよ?」
1933年9月22日、バベルの塔の最上階で
私、アリス・マーガトロイドは
呼び出しをかけてきた咲夜と対面していた。
咲夜は私が不機嫌さを隠そうともせず
言い放ったボヤキを華麗に無視し、
すました顔で用件を述べる。
「今日はアリスが管理している
スカーレットラジオについて
ちょっと話をしたかったのよ。」
…あぁ、そう言う事だったのか。
海軍大臣の私がレミリアなら兎も角
咲夜に呼び出しを食らう理由が
今日ここに来るまで理解出来なかったが、
スカーレットラジオの件ならば納得である。
確かにスカーレットラジオは、
元々レミリアのクーデター以後
まともに機能していなかった
国営ラジオ局の管理運営権を
私とメアリーが貰った所から始まっている。
である以上、ラジオ関連の案件は
私に対して伝えられるのだ。
尤も、番組の大半は私の人形が作っており、
偶にメアリーが出演するぐらいなので
私は滅多に出てきたりはしないが。
…だが、それはそれとして
私としても咲夜に言いたい事があるのだ。
私は感情を乗せて咲夜に伝える。
「…わざわざ苦労して訪れた
私への労いは無いのかしら?」
「当然よ。私やパチュリー様の方が
余程アリスより苦労しているのだから。
それに、良い景色でしょう?
これが高さ10万メートルの世界よ。」
咲夜は窓ガラスを指し示すが、
まるで何も見えないぞ?
特に、上の方は真っ暗だし。
昼なのに夜みたいじゃないか。
私が微妙な顔をしているのを見て、
咲夜は肩を竦めている。
「…どうやら、高さ10万メートルって
景色は全然見えないみたいなのよね。
パチュリー様がしてくれた話によれば、
本当に天まで届いたかもしれないらしいわよ?」
「仮にそれが本当だったとしたら、
咲夜、天罰が下るんじゃない?
レミリアやパチュリーと違って、
貴女は種族的にも人間でしょう?」
「あら、私を人間扱いしてくれるのね。
もしかしてだけど、アリスって
意外と心が広かったりする?」
…神話を持ち出した私に、
両手で口を覆って、如何にも
“驚いています”と示し
自虐的に反応する咲夜。
正直言って反応に困るから
止めて欲しいんだけどな。
「…咲夜は人間だと思うわよ。
確かにその能力を鑑みると
人間離れしているとは思うけど、
人間以外で定義する言葉が無いのよ。
それに、これは誇るべき事よ。
私みたいな元人間より
余程立派な生き方だと思うわ。」
私は咲夜の自虐に対して、
彼女への称賛をもって返す。
事実として、私は咲夜を尊敬している。
私やパチュリーの様に
捨食・捨虫の法に頼らずして
事実上の不老を達成したのだから。
つまり、人間であるがままに
人ならざる事を成し遂げた訳だから。
咲夜は真剣な表情で口を開く。
「アリスやパチュリー様は魔女だし、
私は種族“メイド”になるのかしら?」
「…別に魔女は職業じゃないわ。
メイドは種族にならないでしょ。」
…抜けているだけなのか、
はたまたジョークなのか。
多分咲夜の場合前者だと思ったので
私は思わずストレートに返してしまう。
咲夜は“成程!”と言う顔をしているが、
このままでは一向に話が進まない。
こんな真っ暗な展望台に用は無いので、
私は話を進めるべく質問する。
「…まぁ、別に種族の話は良いのよ。
今日はわざわざこんな所に呼び出して
ラジオの話をしに来たんでしょう?
私は一刻も早く帰りたいの。
さっさと本題に入りなさいよ。」
私がそう言うと途端に真顔に戻る咲夜。
やっぱり、彼女には真顔が似合っている。
「そうだったわね。では手短に伝えるわ。
これは妹様からの要望なのだけれど、
ラジオでリスナーからの投稿を
受け付けてみて欲しいとの事よ。
どうやら、陸軍と空軍では
数少ない軍隊生活の娯楽として
ラジオを使っているみたいでね、
プロパガンダ要素も皆無だし、
結構人気を博しているそうなのよ。
それこそ、全員が聞いているぐらい。
そこで、妹様は思いついたそうよ。
折角なら上官への愚痴みたいな
言いづらい事もラジオに投稿すれば
言いやすくなるんじゃないかってね。
アリスから人形に伝えておいて頂戴。」
上官への愚痴って、愚痴られるのは
フランが多いんじゃ無いのかな?
…思わず私はそんな事を考えてしまったが、
何はともあれ要望が簡単な内容で助かった。
これがもし、プロパガンダに使う為に
放送内容を変更しろとかであったなら、
メアリーが怒り狂いそうな気がしたし。
私は咲夜の頼みを快諾する事にする。
「何だ、そんな事であれば
喜んでやらせて貰うわ。
だけど、別にフランが直接
私に対して言ってくれれば
それで良かった話何じゃ無い?」
咲夜は多忙を極めているのだ。
わざわざ私を呼び出してまで
伝える要件では無いと思う。
私がそう思って発した疑問に
咲夜は平然と答える。
「あのね?アリスは海軍大臣でしょ?
陸軍大臣と空軍大臣を兼任する
妹様がアリスに“お願い”しに行くと
メンツが損なわれかねないじゃ無い。
それと、妹様が言っていたわよ?
海軍でもラジオは人気じゃ無いのかって。
それと、人気なのだとしたら
こう言った要望についても
普通は出て来るんじゃ無いのかとも。」
…私は咲夜の話(正確にはフランの)を聞いて
思わず耳を疑ってしまった。私は口を開く。
「…咲夜、貴女は潜水艦の艦内で
ラジオを聞くと思っているのかしら?
海中で受信が可能だとでも思っているの?」
…私の言葉に咲夜も真相に気付いたらしく、
流石に苦笑が隠せなくなっている。
私は、完璧で瀟洒な従者と呼ばれる
十六夜咲夜が持っている、
ちょっぴり天然気味な側面を
今日だけで幾つも見つけた気がした。
レミリアからのお誘い…”人間の男には興味が無いが、眷属にすればそうとも限らないぞ?”と言う理屈。尤も、今回隼一に仕掛けたそれは単に悪趣味なジョーク。
ヨーゼフ・ゲッベルス…最近映画でも取り上げられたナチスが誇る演出の天才。彼が行った総力戦演説はとくに有名。彼はあくまで宣伝大臣であり、外交交渉と言うよりは親善訪問と言う形でレミリアとの接触を図っている。
高さ10万メートルの景色…多分半分位宇宙だと思います。流石に天まで届いていると言っても過言では無い筈です。尚、底面積が100m×100mと高さを考慮した時に余りにも小さいので、多分遠方から見ようとすると地面に針が刺さっている様に見えると思います。