紅魔戦記~カリスマの戯れ~   作:インスタントブルー

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”戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり”――孫子の兵法の一節から引用


良い子へのプレゼント

「マーガトロイド海軍大臣、

以上が対米、及び対独を念頭に置いた

浸透工作における作戦計画書です。」

 

「ありがとう。確認させて貰うわ。」

 

1934年1月15日、私アリス・マーガトロイドの姿は

教会省内に設置された異端調査局のオフィスにあった。

石造りのオフィスには様々な拷問器具が

ガラスケースに入った状態で展示されており、

宛らここが“本当に”異端を調査する

正当な目的で設置された部署であるかの様である。

私は異端調査局の局長に就任した海軍少佐、

アンドレイ・イオネスク(コードネーム:イコン)

が渡してきた作戦計画書の内容を確認する。

 

 

 

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ルーマニア王国 教会省異端調査局

 

極秘扱・複製厳禁

 

作成日:1934年1月15日

 

【対米浸透工作作戦:作戦コード名《サンタクロース作戦》】

 

【Ⅰ.基本方針】

本計画は、ルーマニア王国の国家的利益を確保し、潜在的脅威となりうるアメリカ合衆国社会の内部不安定化を目的として策定された長期的対外工作である。当局は、宗教機関の外郭を用いた諜報活動を通じて、合衆国の民族・階級構造を分断、当国への敵対的態度を削ぎ、ひいては外交上の優位性確保を図る。

 

【Ⅱ.戦略目標】

 

・アメリカ社会における民族対立の深刻化

 

・正教思想の周縁的浸透

 

・白人支配層の精神的無力化

 

・当国による対米交渉の余地拡大(経済・外交・文化)

 

【Ⅲ.浸透工作の二本柱】

 

A. 【黒人解放団体への資金援助および布教活動】

 

・黒人居住区における地域教会建設支援

 

・各種自助団体(例:リベラル派牧師会、民族協会系学生団体)への定期的資金供与

 

・司祭・説教師として潜入した諜報員による教義の操作(非暴力的反抗、白人支配層への不信感の助長)等

 

備考:これらの浸透工作は黒人層の国家機構への不信感醸成及び、合衆国政府の内部警戒網の攪乱を狙いとし、あくまで名目上は黒人層や貧困層への慈悲的な経済援助と宣教活動である事とする。

 

B. 【白人中産階級への聖水無償配布】

 

・世俗的快楽を求める白人層に精製された魔法薬品(通称:聖水)の提供を開始

 

備考:聖水は快楽感と倦怠感の交錯を齎し、2~3回の摂取で強力な精神依存を形成する物であり、礼拝堂前の無料頒布によって白人層の社会的機能不全(財産・健康・教育意識の低下)及び内部不満の増幅と対立の激化を図る。また、この任務において工作員は米国内に材料のみを持ち込む物とし、魔法薬は精製方法を学習した工作員により米国内で精製される。

 

【Ⅳ.今後の展開】

 

年次目標(1934年度):黒人地区に教会を5か所以上建設し、開設黒人団体5組織以上への資金流通を開始する。又、聖水摂取記録200件以上の確保を目指す。

 

中期目標(1934~1937年):米国国内における“東方正教の慈愛”イメージの定着を図り、白人中産階級への聖水の部分的な浸透を目指す。

 

【Ⅴ.特記事項】

 

・本作戦は即効的な効果では無く、あくまで段階的な浸透を念頭に置いた物であって、大胆かつ慎重に事を運ぶ事

 

・必要に応じ、宗教迫害の構図を逆用した世論戦を準備する事

 

局長サイン:〔✝ ICON〕

 

 

 

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サンタクロース作戦…こりゃまた傑作だな。

“良い子のみんなにプレゼントをあげよう。

君には聖水、あなたには援助資金を“

…と、まぁこう言う話と言う訳だ。

しかも、サンタクロースは元々

正教会の聖人であると言うオマケ付き。

おぞましい作戦内容とジョークに満ちた作戦名に、

思わず私は顔を引きつらせてしまう。

流石はフランが原案を考えた作戦と言えるだろう。

私はそのまま、対独浸透工作作戦の内容も確認する。

 

 

 

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ルーマニア王国 教会省異端調査局

極秘扱・複製厳禁

作成日:1934年1月15日

 

【対独浸透工作作戦:作戦コード名《ノアの方舟作戦》】

 

【Ⅰ.基本方針】

本計画は、ドイツ国民社会主義政権下における急速な権威主義的体制強化に対し、ルーマニア王国としての戦略的自衛の一環として策定されたものである。特に当局は、独裁権限を掌握しつつあるアドルフ・ヒトラー率いる国家社会主義労働者党(NSDAP)の動向に警戒を強めており、本作戦は以下の目的をもって、ドイツ国内への組織的浸透を図るものである。

 

【Ⅱ.戦略目標】

 

・ドイツ社会内部の人種・階級的不満の刺激と拡大

 

・魔法薬(聖水)を用いた白人支配層・親衛隊構成員の無力化

 

・ユダヤ人コミュニティーとの非宗教的連携による対独情報収集網の構築

 

・将来的な亡命ルートの確立を通じた外交的交渉余地の拡大

 

【Ⅲ.浸透工作の二本柱】

 

A. 【魔法薬“聖水”による精神浸透】

 

・主に親衛隊、突撃隊、ヒトラーユーゲント構成員の一部に対し、“疲労回復用”と偽った聖水(魔法薬)を間接的に流通させる。

 

備考:聖水は快楽・興奮作用の後、急激な倦怠と精神依存をもたらす特性を有し、ドイツ国民の過剰な国家忠誠心を解体する。又、浸透は教会系福祉施設や、ドイツ国内における慈善的キリスト教系団体を媒介に、支配層周縁部を優先する事とする。更に、これらの浸透はあくまで“医療援助・福祉物資の無償配布”と名目づけ、直接的な正教布教は避ける事を徹底する。強力と思われる警戒網を回避するため、現地精製体制を強化のこと。

 

B. 【ユダヤ人コミュニティーへの資金援助および亡命支援】

 

・ドイツ国内におけるユダヤ人自治組織、医師会、学校、出版機関等へ“人道的支援”としての送金を実行

 

・ユダヤ系知識人や中産層との間に協力関係を構築し、政治・経済・治安情勢の機密情報を取得

 

・希望者にはルーマニア王国への亡命ルートを秘匿的に提供し、技術者・医師・学者等の受け入れによる国家的利益を確保

 

備考:ユダヤ人に対しては正教の宣教活動は一切行わず、あくまでも教会省異端調査局の聖職者による個人的な「人道的・医療的見地からの支援」という建前を貫く。接触は柔軟に、背後に当局の関与が疑われぬよう最大限注意すること。

 

【Ⅳ.今後の展開】

年次目標(1934年度):聖水配布対象200名超の記録取得。ユダヤ系団体4団体以上への資金流入を実現。亡命支援事例10件以上の確保。

 

中期目標(1934~1937年):ユダヤ人知識層を媒介とした独国内情報網の構築を図り、現体制の不安定化を誘導する。加えて、聖水汚染による局所的な思想攪乱を段階的に拡大。

 

【Ⅴ.特記事項】

 

・本作戦に関与した全ての者は、万が一ドイツ当局からの追及を受けた際に“自発的な信仰と慈善活動の一環である”と説明が可能である様に日常から行動を徹底する事

 

・必要に応じ、ナチス政権の“非人道性”を逆利用し、国際世論上の優位性を確保する工作を検討

 

・ドイツ当局の危険性に鑑みて、自身に身の危険が及んだ際は任務を放棄し、作戦計画書だけを持って全力で逃げる事

 

・本計画によって得る事が出来た情報の一部は、日本や英国の特定機関との情報交換に活用される可能性がある

 

局長サイン:〔✝ ICON〕

 

 

 

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…こちらは私が原案を考えただけはあり、

対米作戦よりは若干マイルドになっているな。

最初にフランが考えた対独作戦計画の原案は

ナチス幹部を一人ずつ暗殺すると言う物だったが、

こう言う計画は何よりも発覚しにくい形で

裏から効果を発揮する事が大切なので

アプローチとしては絶対こちらの方が良い。

何より、もし暗殺何て過激な手段に訴えた場合

戦争の勃発は避ける事が出来無いだろう。

英国と日本にも迷惑を掛ける事になるし、

自業自得として見捨てられる可能性も大きい。

…取り敢えず、私は局長のイオネスクに

了承の意思を伝える事にした。

 

「…計画は概ねこれで構わないわ。

後は実際に実行する為の訓練だけね。

取り敢えず、魔法薬の材料や製造法については

パチュリー辺りと調整、訓練をすれば良いでしょう。

それと、対独計画書の方にも記載して貰ったけど、

人的資源は貴重だから、絶対に浪費しない事。

魔法薬や工作資金と違って異端調査局の人員は

補充が極めて難しい事は間違い無いのだから、

少しでも危険を感じたら迅速に逃げる様に

訓練段階から徹底する事を要求するわ。

異端調査局に必要なのは勇敢な人材じゃ無くて、

命が惜しいと感じる臆病者なのだから。」

 

「…了解致しました。」

 

イオネスクは端的にそう言って首肯する。

…にしても、本当に適材適所ってのはある物だ。

彼は出向前の海軍少佐時代から口数が少ない男で

無駄な話を一切しない事で有名な男だった。

実際口を開かせてもこの男は余りにつまらないが、

こと異端調査局のトップとなればそれが長所となる。

“沈黙は金、雄弁は銀”とはよく言った物で、

本音を晒け出さずに必要最低限の会話だけで

済ませる事は諜報に携わる人間に必須の資質なのだ。

 

…イオネスクの言葉の直後、私は淡々と計画書を

茶色い封筒に入れると、異端調査局を退室する。

因みに、異端調査局が設置された教会省の庁舎内を

海軍大臣にして魔女と言う所謂“顔の売れた”私が歩くと

幾ら何でも怪しまれてしまいかねないので、

入退室時は修道女に扮した格好に着替えている。

我ながらこれはこれで中々似合っている気がするぞ。

…とは言え、堂々と聖職者の格好をして

アメリカやドイツに潜入する諜報員は

変装の必要が無くて羨ましいと思った事も確かだ。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

「…成程、男の子だったのね。」

 

「そう何ですよレミリアさん。

名前に関しては隼一からの要望で、

“翔一”にする事に決まりました。

事前に、男の子だったら日本的な名前にするって

隼一と約束をしていましたから。」

 

1934年2月1日、昼前の紅魔館執務室にて。

私、レミリア・スカーレットは

満面の笑みで我が子を抱きかかえる

二児の母、メアリーを前にしていた。

昨日生まればかりだと言うメアリーの第二子にして

長男である翔一は余りに青いその瞳を

興味深そうに私へと向けていた。

もしかして、人間の男の子は赤ん坊の頃から

私の美貌が理解出来るのだろうか?

“そんなまさか”と思いつつも、

完全には脳内から消し去らず、

そのまま私は事務的に質問を繰り出す。

 

「翔一とは又、日本風の名前なのね。

まぁ、隼一らしいと言えばらしいけれど。

因みに、育休の取得予定とかはあるのかしら?

正直言って、取ってくれると嬉しいのだけど。」

 

「育休…ですか?」

 

…私は思わず頭を抱えてしまった。

そうか、メアリーが知らないのも無理無いよな。

頭にクエスチョンマークを浮かべるメアリーに

私は説明をしてやる事にした。

 

「…育休、即ち“育児休暇制度”よ。

これは今年一発目の仕事として

デジが提案した福祉制度でね、

出産した女性労働者に対して半年間

育児を理由とする休暇を

全面的に認める事になったの。

休暇期間中の収入は全額保障されるし、

育休の取得率を高める為にも

育休取得者の人数に応じて

雇用主に税制優遇措置を講ずる制度も

同時に実施する事になったのよ。

デジは将来的にもうちょっと制度を

充実させたいらしいけど、

今は予算制約があるから

正直言って、これが限界だったわ。

それで、メアリーは取得するかしら?」

 

…メアリーは身を乗り出して

私の説明を熱心に聞いていた。

しかし、何故か困った顔になっている。

何故だ?結構良い精度だと思うのだけど。

私が首をかしげると、メアリーが口を開く。

 

「…私って、誰に雇われているんですかね?

一応レミリアさんになるんですかね?

それとも師匠のアリスさんだったりします?

スカーレットラジオは管理してますけど、

あれは仕事じゃなくて単なる趣味ですし。

まさか、“青薔薇公爵”が仕事何て言いませんよね?」

 

「…そう言えば、結構曖昧な立場よね。

一体、誰に雇われているのかしら?」

 

「雇用契約書何て書いた覚え無いですし、

私は無職って事になるんですかね?」

 

“そんなまさか”と私は思った。

メアリーは誰がどう考えたって

ルーマニア政府の一員に違いない。

…しかし、改めて冷静に考えてみると

多分メアリーの見解の方が正しいのだ。

…私はこれについて数分間悩んだ末、

取り敢えずメアリーに告げた。

 

「取り敢えず、育休は取りなさい。

どうしても取らないって言うのなら、

新しく適当に使用人を雇いなさい。

隼一の収入を考えれば出来るのだし。

…賢い貴女なら分かるでしょう?

これ以上、咲夜の負担を増やさないで頂戴。

ただでさえ幼女のエライザの世話をこなしながら

乳児のアシュリーンの世話を手伝っているのよ。

…遂に母親として、一流になる時が来たのよ。」

 

「…はは、そうですよね、レミリアさん。

私も遂に、女性から母親にランクアップです。」

 

私の育児指令に、苦笑しながら述べるメアリー。

…だが、その物言いには些か問題があると見えるぞ。

心意気は極めて素晴らしいと思うのだが、

私としてはどうしても納得は行かなかった。

 

「別に、母親になったからと言って

ランクが上がる訳では無いと思うわ。」

 

一々反応するのはどうかと思ったが、

どうしても言わずにはいられなかった。

何より、メアリーが私に見せる苦笑は、

私がメアリーに見せる顔よりも

遥かに優雅で、妖艶で、女性的に見える。

…だが、決してそこまでは口に出さない。

それは余りにも私らしくは無いからだ。

それでも、私が抱いた矮小な嫉妬心は

母と息子の青よりも青い不思議な瞳に

全てを見透かされている様な気がした。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

「…貴方ですか。お久し振りです。

そう言えば足、治ったんですね。」

 

1934年2月3日、ベルリン近郊の研究室兼自宅にて。

私、メリッサ・アインホルンはドイツのお偉いさん

ヨーゼフ・ゲッベルスの訪問を受けていた。

…珍しくリリーがいない日に限って訪問するのは

迷惑極まりないので出来れば止めて欲しいのだけど、

これがまた不思議な事に、幸か不幸か

この男に対する嫌悪感はそこまで無かった。

私が淹れたてのコーヒーをゲッベルスに手渡すと、

彼は自然な笑顔で私に対して口を開く。

 

「…あぁ、そうだとも。皆に驚かれる。

他ならぬ、私自身が未だに信じられない。

正直な所、生涯ついて回る物だと思っていた。」

 

「一体どうやったんです?

まさかとは思いますが、

治癒魔法でも使ったんですか?」

 

私がコーヒーをカップに追加しながら

その様に問い直してみると、

彼は悪戯っぽく質問で返してくる。

 

「…もしそのまさかだと言えば、

君は果たして何を思うかね?」

 

…私は思わず目を丸くしてしまう。

いやまさか、そんな事が有り得たりする物か?

第一、治癒魔法は様々な魔法の中でも

屈指の難易度を誇る魔法である。

具体的にどの程度の難易度かと言えば、

それなりには腕に覚えがある私でも

習得を後回しにする位には難解だ。

無論個人の資質には左右されるが、

基本的に因果律の深くに干渉する魔法程

術式の構築はなる物である事は常識で、

治癒魔法何てその最たる例である。

…私は彼の言説を疑いながらも、

問いに冷静に答える事にした。

 

「仮にそのまさかがあるのだとしたら、

“このご時世に?”とは思ってしまいますね。

…私が言えた事ではありませんが、

最早1934年現在魔女なる存在は

欧州に5人いるかいないかでしょうから。

まして、難解な治癒魔法を操る技量を持つ魔女は

それこそ1人いるかいないかと言う話な筈です。

尤も、私は私以外の魔女を知りませんので

これが正確な数であるとは思いませんが。」

 

私はそう言って怪訝そうに彼の足を見る。

しかし、別に疑わしい箇所は無かった。

足はどう見ても自然な物だったからだ。

私がコーヒーカップに口をつけると、

彼は誇らしげに種明かしをしてくる。

 

「まぁ、薄々察してくれているだろうが、

私は治癒魔法を使用されたのだよ。

…実は、昨年総統閣下の命を受けて

ルーマニアを訪問する機会があった。

君もあの国については聞いているだろう?」

 

「まぁ、一応。リリーから聞いてはいますよ。

どうも、吸血鬼や魔女がいる国であるそうで。

とは言え、私は生憎インドア派な物で、

それ以上の事は何一つ知りませんが。」

 

私はリリーから寝る前に聞かされた

ルーマニアの話について思い出す。

…まぁ、吸血鬼の女王が治める国って事位しか

まともに思い出す事は出来無かったが。

私が曖昧な記憶の海を漁る中、

彼は感慨深そうに話を続ける。

 

「…あの国は文字通り“不思議の国”だ。

私の足を治した魔女の治癒魔法もそうだが、

外観より内部空間が広いと言う宮殿や、

高さ10万メートルだと言う建築物にも仰天した。

あれがあくまでも吸血鬼や魔女の作品で、

ゲルマン民族の作品で無かった事が心底悔やまれる。

…それと、あの女王の吸血鬼は極めて厄介だ。

私達、いや、人類にとって危険過ぎると言えよう。

もしあれがドイツにいたなら、私は総統閣下に

SSを利用した粛清を進言するだろう。」

 

「それは当然ではありませんか?

だって、吸血鬼何でしょう?

人間の血を吸う怪物ですよ?

逆に安全である方がおかしいでしょう。」

 

吐き捨てる様にそう言った彼を見て

至極当然だと言わんばかりに口を開いた私に

ゲッベルスは溜息をついて言った。

 

「メリッサ…そう言う意味では無いのだよ。

あの吸血鬼は詰まる所、優秀過ぎるのだ。

ここだけの話、彼女の知性は総統閣下より上だろう。

知識量、応用力、何より経験値が違い過ぎる。

彼女の極めて優れた手腕を以てすれば、

10年以内にルーマニアの国力は倍増するだろう。

…私としては、超常的な力を持っている事より

そちらの方が余程脅威だと考えている。

超常的な力は所詮限られた者にしか使えないが、

優れた兵器は人間にも使いこなす事が出来るからだ。

…私は民族や国家に人生を捧げるその覚悟があるが、

市民を串刺しにしようとする野蛮な連中の進軍を

指をくわえて見ているつもりは無いのだよ。

実際の所、総統閣下にも既に報告している。

連中が持っている危険性については。」

 

ゲッベルスはそう言うと、

黙ってコーヒーをすする。

…その表情は、若干複雑そうだ。

彼は力強く言葉を並べていたが、

別に興奮している様子がある訳でも無く、

冷静に私を諭す様にその様に言った。

彼の本心等私には知った事では無いが、

やっぱり足を治して貰った事で

多少は恩義を感じているのかもしれない。

私は口を開き、端的にこう述べた。

 

「…難儀な物ですね。」

 

「全くだ。…だが、メリッサ。覚えておくと良い。

これはあくまで現時点の話に過ぎないのだよ。

私と君には、総統閣下が付いている事を忘れるな。

5年、10年、15年、ドイツは繁栄の時代を迎え、

千年帝国として歴史書に残る偉大な国家になる!

必ずや、必ずや私達は勝利を収めるだろう!!!」

 

…先程から一転して熱弁するゲッベルス。

力強い目線を前に、私は肩を竦め、こう返した。

 

「…私は別に、この家さえあれば

最悪それだけで良いですけどね。」

 

“千年帝国”何かに私は別に興味は無い。

その頃にはとっくに死んでいる筈だからだ。

…私はふと、手元にある魔導書を見つめる。

私からしたら、研究より大切な事等無いのだ。

特に、この魔導書は本当に役に立っているとも。

 

『禁術・マリオネット製造法』

 

…そう言えば、この本ってどこから来たんだろう?

シュヴァルツヴァルトの森にいた頃には

こんな本絶対持ってなかったと思うんだけど。




アンドレイ・イオネスク…オリジナルキャラクター。影も薄いし、今後登場する時は”局長”とか、”イコン”とかで呼ばれている可能性がある。

イコン…主に東方正教会で崇拝される聖画像を指す言葉。異端調査局局長のコードネームとしても最適。恐らく、日本で最も有名な正教会の専門用語でもある。インターネット空間で皆が使う”アイコン”の語源となっている事は結構有名な話だ。

サンタクロース作戦…サンタクロースの元ネタとなった聖ニコラウスは東方正教会の聖人。

魔法薬…魔法薬は魔力が無くても材料と調剤法(精製法)さえ知っていれば一般人にも作成出来ると言うのが本作での独自設定。

宇佐見翔一…1934年1月31日生まれの、隼一とメアリーとの間に生まれた長男。例によって瞳は青い。肌の色はアジア人寄り。

育休制度…1934年当時としてはかなり先進的。福祉大臣のデジが如何に優秀な大臣であるかがよく分かる。因みに、史実の彼は決して無能では無い物の、ここまで有能では無かった。

メアリーの雇用主…実は曖昧だった。関係性としては、”レミリアがメアリーを雇用している”のではなく、”メアリーがレミリアに仕官している”と表現する事が多分一番しっくりくる。

今後出番を増やして欲しいのは?(キャラクターの役職は一応加味しておいてください)

  • 十六夜咲夜
  • アリス・マーガトロイド
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