紅魔戦記~カリスマの戯れ~   作:インスタントブルー

7 / 41
更新が大変遅れてしまいました。申し訳ございません。これからも不定期投稿にはなりますが、当作品を宜しくお願い致します。


優雅な茶会、寂しい茶会

「…今年は、ホワイトクリスマスね。」

 

「幻想的で美しいのですが、賓客の方々には寒さが応えるかもしれません。」

 

私の呟きに対し、咲夜が言葉を返す。

1931年12月24日、私レミリア・スカーレットは

去年に続きクリスマスパーティーを開催していた。

尤も、私の仕事は賓客の選定作業だけであるが。

去年はクーデター後突然即位した吸血鬼と見なされ

賓客の多くは名前こそそれなりに通っていても

政治的影響力の無い人間に終止してしまい

主要な賓客と言えば結局の所は

サー・ウィンストン・チャーチルぐらいだったが、

今年は多くの賓客を招き入れる事に成功した。

去年のパーティーが好評であった事もあったろうが、

やはり、英国との二国間同盟成立の影響が大きい。

今回英国からは、親ルーマニアの議員として

すっかり名が通っているチャーチル卿に加えて、

首相であるマクドナルドも招く事に成功している。

 

「…念の為に確認させて貰うのだけど、

例の設計図はちゃんと用意しているのよね?」

 

「勿論用意しております。」

 

私の確認に咲夜は端的に答えてくる。

…彼等には戦闘機の設計図面を

パーティーの席上で渡すと約束している訳だが、

間違いなくガッカリするだろうな。

自国では再現が不可能な設計なのだから、

詐欺まがいの事をしている事は間違い無い。

しかし、別に噓をついている訳では無いし、

中東での所業を見れば分かる通り、

英国側にそれを糾弾する資格も無いだろう。

 

その他、私は賓客として同盟締結を考えている

大日本帝国から駐イタリア大使をしている

吉田茂と言う男を呼ぶ事にした。

親英米派の外交官は対英関係を重視する私にとって

かなり都合が良い人物の一人では無いかと思う。

極東は遠いが、欧州にいるのも都合が良い。

彼の運命を覗いた時、後々大物になる気もしたので

どんな人物なのかは少し楽しみだ。

 

勿論、大国だけを招待する訳でも無い。

隣国のブルガリアからはボリス3世を。

ハンガリーからは摂政ホルティ・ミクローシュを招待した。

…まぁ、彼等には最低限挨拶回りをしておけば良いだろう。

ルーマニアの外交方針に彼等は重要では無いからだ。

ブルガリアやハンガリーとは領土問題を抱えており、

現状の友好的な関係を構築する事は現実的とは言えない。

それでも、長命とは言え新参者の私達が隣国を軽視する事が

得策であるとは言えない事も確かではあるので、

私が直々に挨拶をしておくべきだろうか。

 

「…お嬢様、賓客の方々をお呼びしても宜しいでしょうか?」

 

私は咲夜に声をかけられ、思考の海から戻る。

 

「えぇ。構わないわ?」

 

私がそう発すると、咲夜がドアを開け賓客を招き入れる。

人数が多い事もあって、さながら雪崩の様だ。

 

…錚々たる賓客が着席した事を確認すると、

私は英語で挨拶を行う。去年はルーマニア語だったが、

同盟国としてのちょっとしたサービスだ。

 

「ようこそ、ルーマニア王国へ。ようこそ、紅魔館へ。

今年のクリスマスも皆を招く事が出来て感謝しているわ?

折角のクリスマスだもの、大勢で楽しみたいからね。

それと、特別な感謝をこの席で伝えさせて。

英国からの皆へは大いに感謝しているわ?

去年はここに招いたチャーチル卿のお陰で、

我が国ルーマニアと英国の同盟が相成った訳だもの。

私は今年も友好国を増やす事を目指しているから、

皆で色々な事を語り合う様にしましょうか。

それじゃ、皆グラスを掲げて頂戴!」

 

私の掛け声で、大使館員や賓客がグラスを掲げる。

多くの賓客のグラスの中身は白ワインだ。

 

「1931年に、乾杯!」

 

宣言と同時に、雪崩をうって移動する賓客。

私が呼ぶ前に、わざわざ彼等はやって来た。

 

「お久し振りですな、女史。」

 

相変わらず親ルーマニア的な

チャーチル卿が私に声を掛ける。

英国紳士とは彼の様な人物を指すのだろう。

我が国にも、こう立派な人間が居れば良いのに。

 

「陛下、お初にお目にかかります。

私は英国首相、ラムゼイ・マクドナルド。

貴国との同盟締結には感謝しています。

最近は我が国の統治下においても

反英的な行動をする輩が増えまして、

少しでも軍備の負担を減らしたいと

常々考えていたのですよ。

貴国は最新鋭の戦闘機を開発し

優れた空軍力を持つと聞いております。

設計図面の方も、帰国後我が国の技師が

分析してくれる事でしょう。」

 

「それは何よりよ?図面の方は悪いけど、

今ここの席で渡させて貰うわね?

信頼出来る立場にいる貴方達に

直接渡した方が安全でしょうから。」

 

私がそう言って指を鳴らすと、

咲夜が現れ図面をマクドナルドの両手に渡す。

その後咲夜は私達に一礼すると、

その場を優雅に立ち去った。

 

「…チャーチル氏等貴国に知見のある者から

様々な事柄を聞いていましたが、

やはり貴国には謎が多いと感じます。

彼女の持つ人ならざるその力の正体は、

科学では説明がつかないのでしょう。」

 

マクドナルドは目を丸くしながら

咲夜に対する評価を語った。

幾ら話に聞いていたとしても、

流石に咲夜には驚かされる物だろう。

 

「私達からすれば、これも科学なのよ。

…って、私達の参謀が言ってたわ?」

 

これは参謀である大図書館の台詞だが、

実際の所そこまで間違ってはいないだろう。

基礎となる理論こそ全くの別物だが、

体系化されている事は間違い無い。

 

「…私には真相は分かりません。

しかし、いずれにせよ貴国との関係性は

我が国においても極めて重要な物です。

私は国際連盟の力を信用してはいますが、

もし不測の事態が発生した場合には

貴国の特殊な力を活用したいと考えています。

特に、共産主義国のソ連、拡張主義に走る日本は

潜在的脅威と言えるのでは無いでしょうか。」

 

真剣な表情で切り出すマクドナルド。

しかしながら、私の見解とは少し異なる。

 

「私もソ連については危険だと考えるわ?

もしソ連が我が国に攻め込んで来るのならば、

天下の大英帝国がバルト海の制海権を抑え、

レニングラードに上陸作戦を展開する様な

特大級の戦果を期待したい物ね。

…だけど、私は日本を危険とは思わないわ?」

 

そう言った瞬間に表情が険しくなるマクドナルド。

 

「…それは、何故ですかな?」

 

「簡単な事。日本の仮想敵国はソ連でしょ?

敵の敵は味方なのだから、日本は味方よ。

私は将来的に日本とも同盟関係を結ぶつもりなの。

英国もかつては日本とも同盟関係にいたのだし、

別に不自然な事と言う訳では無いでしょう?」

 

かつての日英同盟は対露を目的とした同盟だった。

今も尚後継国家のソ連が仮想敵国なのに、

私からしたら破棄する方が理解に苦しむ。

 

「…陛下もご存じではありませんか?

日英同盟が解消されたその理由は。」

 

マクドナルドは苦々しい顔をする。

まぁ、理由は薄々感づいている。

 

「…大方、米国に圧力をかけられたのね?」

 

マクドナルドは首を縦に振った。

 

「心配しないで?日本との同盟において

対象国から米国は外しておくつもりだから。

それと、私からもきちんと言っておくわ?

米英との関係はしっかりとしておけと。

きっと話せば分かってくれる筈よ。

私ですら少し考えれば分かる事を、

連中が分から無い訳が無いからね。」

 

私がそう言うと、チャーチル卿が

ここぞとばかりに話に入ってきた。

 

「…お言葉ですがスカーレット女史、

果たして極東の黄色い猿共が、

偉大なる女史の賢明な忠告を

素直に聞き入れたりする物でしょうか。」

 

私は露骨に嫌そうな顔を彼に見せる。

まるで、“出たよ”と呆れる様な表情を。

そして、私の考えをハッキリ伝えておく。

 

「…貴方が日本人をどう思っているかは

この際置いておいて欲しいわね。

彼らの能力が一般的な白人と比較しても

低い物では無い事は最早疑う余地が無いし、

その力は決して侮れない物だと思うわよ?」

 

 

「…申し訳ありません陛下。

私の連れが心証を害してしまいました。

後程私の方から言っておきますので、

ここはお許しを頂きたいのですが。」

 

険悪な雰囲気を感じ取ったマクドナルドが

ここで会話へと割り込んで来る。

一国の宰相として、わざわざ同盟国の

心証を害する事はマズイと踏んだのだろう。

流石にその程度の常識はあるらしい。

ただまぁ、客観的に立場を踏まえれば

この辺が私としても潮時だろう。

 

「…構わないわ?別に心証を害する程の

言説と言う訳でも無かったのだからね。

単に、ありふれた黄禍論に少しばかり

反論をしたくなっただけだから、

気にしないでいて貰えると助かるわ。」

 

「いやはや、申し訳ありませんでした。

…とは言え、日本は果たして陛下の忠告に

耳を貸す物なのでしょうか。

お言葉ですが、貴国の国力が日本より

劣っている事は客観的な事実です。

その辺りは如何お考えなのでしょうか?」

 

丁寧な口調でストレートに懸念材料を挙げ

若干不安そうなマクドナルド。

ただ、私はそんな彼の懸念を否定する。

 

「えぇ。大丈夫、問題無いわ?

今日日本から呼んだ賓客も、

親米英で有名な人物だからね。

彼なら話も通じるでしょうから、

折角なら、後で話しておきなさい。」

 

「…そうなのですか。一体どなたですかな?」

 

「“吉田茂”と言う人物よ。私が見るに、

かなり見所がある人物だと思うわ?

これでも人物眼には些か自信があるから、

悪くない成果があると思うわよ。」

 

「成程…吉田ですか。覚えておきましょう。」

 

頷くマクドナルド。と、そこで

チャーチル卿が私の前に出る。

 

「所で、女史とはこの場をお借りして

お話させて頂きたい事があるのです。」

 

かなり真剣そうな表情のチャーチル卿。

私も少し気合を入れ直す。

 

「…何かしら?」

 

「近頃、ドイツ情勢が不透明でして、

極右勢力や極左勢力が伸長しています。

彼等はヴェルサイユ体制を否定し、

暴力的な手段を問わないかもしれません。

貴国としては、ドイツとの関係について

如何様にお考えなのですか?」

 

強い目つきで私を見据えるチャーチル。

私も負けじと強い視線をぶつける。

 

「ドイツ情勢はまだ不透明だから

確たる事は言えないのだけれど、

天下の大英帝国が味方についていれば

万が一の際にも対処出来ると思っているわ。

だから、対独関係はさして重視していないの。」

 

「…私はドイツ情勢を憂慮しています。

女史もくれぐれもご注意を。

かの国は危険な国家ですから。」

 

「ご忠告に感謝するわ?

是非とも参考にさせて貰うわね。」

 

私がチャーチルに謝意を述べると、

マクドナルドが再び前に出る。

 

「…それでは、本日はこの辺りで。

貴国との交流は今後とも盛んに

行われる事であると思います。

また陛下とお会いできる日を

心から楽しみにしております。」

 

マクドナルドとチャーチルは首を垂れる。

 

「…頭を上げなさい。私も同じよ?

また貴方達と出会える日を楽しみにしているわ?

同盟国として、貴方達と輝かしい未来を

共に歩んで行きたい物ね。」

 

「…ありがとうございます。それでは。」

 

そう言って、マクドナルドとチャーチルは

他国の大使へとも接触を図るべく離れていく。

まぁ、英国とは今後何度も関わるだろうし、

今回のパーティーではこの辺りで良いだろう。

私としても、今回の賓客の中で最も重視する

人物へとコミュニケーションを取りにかかる。

 

「咲夜。」

 

「お嬢様、如何なさいましたか?」

 

私が呼ぶと即座に現れる咲夜。

 

「…吉田茂を呼んできなさい。」

 

「畏まりました。」

 

さぁ、メインディッシュだ。

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

「…まさか、クリスマスイブに地下で

爆破魔法を連続使用する何て、

全く考えもしなかったわよ。

それも、貴女と一緒にね。」

 

「アリスが言い出した事でしょうが。

大体、こうして私も手伝ってるじゃない。

役に立ってるのだから嫌そうな顔を

見せないで欲しい物ね。

私も暇じゃ無いって言うのに。」

 

「…怪しい物よ。」

 

レミリアがクリスマスイブ恒例の

パーティーを開催する少し前の事、

私、アリス・マーガトロイドは

パチュリーと共にブカレスト郊外の地下で

地下ドッグの建設を目指して

爆破魔法の連続使用で掘削を進めていた。

存外この作業は単純で暇なので

話し相手がいる事自体は有り難いのだが、

クリスマスイブに仕事をする、

更に言えばパチュリーと一緒と言うのは

少々気が滅入りそうになる。

私が思わず溜息を付いた時、

パチュリーが呆れた表情で

こちらを眺めて来た。

 

「…溜息はご遠慮願いたいわね。

私も同じ作業をしてるのだから。」

 

パチュリーはそう言うと

一際大きな魔法を発動させ、

私の前の岩盤が一気に吹っ飛んだ。

凄まじい轟音と爆風を防ぐ為に

即座に魔力シールドを展開する。

…爆風が収まった事を確認した私は

パチュリーをジト目で見つめる。

 

「なーにが“同じ作業”よ。

私の爆破魔法より強力じゃないの。

私だって爆破には自信があるのに。」

 

…私の気が滅入っている原因の半分位は、

先程からパチュリーが使う

大規模魔法に由来している。

パチュリーは偉大な魔女なので

爆破位はお手の物だろうけれど、

こうも差があると私が使う魔法が

子供のお遊びみたいに思えてくるな。

 

「…まぁ、雑に爆破するだけだからね。

アリスみたいに一々爆破前に

地盤に気を使わなくて良い様に、

わざわざ保護魔法をかけてあるし。」

 

雑な作業に見えて、きちんと計算している。

…パチュリーらしいやり方には

素直に感心させられるな。

私が少し術式を変更しようかと

あれこれ頭を回していると、

パチュリーが大きく話題を変えてきた。

 

「所で、アリスはクリスマスイブが

もしも仕事で無かったとしたら、

自分が一体何をしていたと思う?」

 

「そりゃあ、勿論…」

 

「そうよね、一人寂しく茶会よね。」

 

…私の答えに被せて言ってくるパチュリーを

私は思いっきり睨み付けてやる。

…今のは結構ムカついたぞ。

なまじ当たっているだけに更にムカつく。

 

「…正確には、“優雅に”茶会を

していたのだと思うけどね。

寂しく何て無いわ。ええ、そうよ?

私には上海と蓬莱がいるのだから。」

 

「…ま、図星って所かしらね。

大体、クリスマスイブは家族で

パーティーを開いた後で、

ゆっくりと過ごす物でしょう?

アリスは人形を侍らしてるだけで、

パーティーをする様な

家族はいないじゃないの。」

 

私の必死の弁明に対しても、

パチュリーは素っ気なく返答し、

爆破魔法を再び地盤に放つ。

魔力シールドを展開しつつ、

私はパチュリーに反撃を行う。

 

「…そこまで言うなら聞いておくけど、

パチュリーこそ紅魔館のパーティーには

出席する予定が無いのかしら?

それとも、呼ばれなかったの?

仮にそうなのだとしたら、

私の事をバカに出来ないわよ。」

 

私がそう指摘すると、

パチュリーは大きく溜息をつく。

…さっき自分で私に向かって

“するな”と言っておいてだ。

 

「…そもそも、私は紅魔館の

パーティーが億劫だからわざわざ

アリスを手伝いに来たのよ?

今年は去年にも増して参加者が増えて、

ゆっくり出来なさそうだったからね。

私は“望んで”爆破魔法を使ってるの。

この違いは大きいと思うのだけど?」

 

完全に開き直るパチュリー。

私はその理屈に呆れてしまうが、

彼女らしい事もまた事実である。

私も来年のクリスマスイブは

その理屈を使おうと心に決めた。

 

 

…あ、いって。

その瞬間、私は爆風で吹き飛ばされた。

“危険な魔法は集中して使用する”

そんな魔法の基本を思い出しつつ、

私は掘削作業へと戻った。

暫くパチュリーとは口を利かないぞ。

 




チャーチルがレミリアを陛下では無く女史とする理由…陛下をつけるのは自国の王室にのみとの信念。貴族の血を引いていると言う事も関係していそう。

チャーチルのアジア人差別…有名な話。吸血鬼であるレミリア相手には問題無いのにね。

吉田茂…次回以降登場しますので暫しお待ちを。

爆破魔法…ダイナマイトの節約になるので、工事費も安く上がります。想定より進捗は良さそう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。