ありふれた|女主人公《ヒロイン》だけど、君が好き。 作:一文字 更新
熊皮でリュックサックを自作したり…二尾狼と兎肉が無くなって、熊肉に手を付けたユイが悶絶したり、作業を終えスッキリとした表情のハジメに満足の行くまで撫で回されたり、同じく熊肉を口にしたハジメがぶっ倒れたり、と色々とあった。
天歩で丁度いい実験台を探すこと数分。跳ねる毛玉…蹴り兎を発見した。ちなみに爪熊や二尾狼に比べて癖のない味と匂いでユイは結構好みだったりする。
『ユイ、見てて』
「うん。危なくなったら助けるからな!」
ハジメが慎重な手付きでガンショルダーからリボルバー式拳銃を取り出した。黒一色のボディに六連式の回転式弾薬。長方形型のバレル。全長は三十五センチといったところか。
『キュッ?』
蹴り兎がハジメに気付いた。踏み込みで蹴った地面を凹ませ、ドパッと音を立てて高速接近する。おそらく天歩の派生である縮地を用いたのだろう。ハジメを侮っているのだろうか。動きが直線で読みやすい。
『そういうの助かるよ』
銃身から電流が迸る。
ドパンッ!
と…とても大きな破裂音がすると身構えていたが…耳が捉えたのはパシュッと空気が抜けるような微かな音。しかし、結果は真逆だった。蹴り兎の頭はまるで水風船のような柔らかさで弾丸を受け入れたのだ。
『"ナハト"…それがこの子の名前だよ』
熱を持った銃身を優しく見つめるハジメ。それはまるで生まれたばかりの赤子を胸に抱く父親のような表情だった。
「この子にピッタリの素敵な名だな」
『うん』
二人はこの時、確かな希望を見出した。
「…ハジメ。この肉、持って帰ろう」
『そうだね。お肉は幾らあっても困らないよ』
そして方針は決まった。…下層への挑戦だ。予め、二手に分かれた探索で、下層へ続く通路は確認していた。勿論、マッピングもされている。ただ、上層への通路は発見出来なかった。そんな前進以外活路が無い状況の中、ナハトが誕生した。それが背中を後押しする形となったのだ。
下層への通路は光源の無い完全な暗闇だった。リュックに吊るされた緑光石のぼんやりとした明かりが道を照らしている。
気配察知が少し先で動く気配を捉えた。
「ハジメ…」
『了解』
ハジメがわらしべ長者のように光源を付けた虫を飛ばす。
ちょっとした錬成の応用らしい。あの紐に見えるものも、光源に羽を付けた虫(ハジメ曰く蜂)も全て鉱物で出来ている。軽量化の為に限界まで空洞化していて、とても脆い。
光に浮かび上がったのは、巨大なヤモリのような魔物。その、ぎょろりとした目が黄色く光ったかと思うと、先行させていた虫がピシリと乾いた音をあげて崩れ去った。
石化ヤモリ…バジリスクといったところか。
それだけあればこの二人には十分だった。風切音が一つ。通り過ぎた後には、頭が落ちているにも関わらず、壁に張り付いたままのバジリスクの姿があった。
今のはユイが放った風爪を魔力操作によって改良したものだ。大まかな説明をすると、矢を象った矢尻内部に風爪が収納されていて、猫の爪のように、ある程度の衝撃が加えられると爪が飛び出す。これをタガメの前脚のように閉じると先程のバジリスクのようなことになる。
『…進もう』
「うん」
二人の姿は闇の中へと消えていった。