ありふれた|女主人公《ヒロイン》だけど、君が好き。 作:一文字 更新
タール状のフラム鉱物で浸された階層を抜け、薄紫色の霧で覆われた階層に到着した二人。
ちなみにタールの階層はハジメの独壇場だった。気配察知が攻撃の直前まで反応しない隠密ザメが居たのだが、ハジメの魚影探知という名の錬成によって姿が丸見えになってからは、浜に打ち上げられた魚のような有り様で、つぶらな瞳には哀愁が感じられた。
しかし、そんな余裕ムードも長くは続かなかった。
霧に足を踏み入れた瞬間、目眩と痺れるような目の痛みを感じた。階層全体が毒霧に包まれていたのだ。必然、神水を服用しながらの攻略となる。
『ユイ、緊急用にコレ。歯に挟んでおいて』
「わかったぞ」
ハジメが渡してきたのは薄い石で出来た容器。中には神水が入っていて緊急時に噛み砕いて使用する緊急回復用のアイテムだ。
薄霧の中、慎重に足を進めていると突然、隣を歩くハジメがピンク色のナニカに絡め取られ霧の向こうに消えていった。
「させんッ!」
全力の縮地によって霧に消えたハジメを追い越し、ピンク色の物体を風爪で切断する。ハジメを絡めたのはビスマスのような体色をした蛙。その口から伸びた舌だった。
虹色蛙の横に広がった瞳孔が縮められる。モゴモゴと喉を膨らませ、粘性のある液体を飛ばす。
検討はついているので大きく跳び退いて躱す。しかし、小さな飛沫がかかっていたようだ。腕に痛みが出始めた。幸い、神水の効果はまだ続いている。数秒で収まるはずだ。
『許さない。オマエは絶対、許さない』
ハイライトが消えたハジメが右手を跳ねさせ、虹色蛙の額を削った。その体は生温かさを感じる粘液でヌトヌトになっていた。しっかりと毒性もあるらしい。舌で絡められたハジメの体がビクンビクンと跳ねていたことも、この目はしっかりと捉えている。
虹色蛙を警戒して天歩で上空を移動していた。その最中にパラパラと粉のようなモノが肌に触れた気がした。
体が動かない…?
直感で容器を噛み砕く。神水の効果の切れ間だった。ハジメも違和感を感じたのだろう。眉を顰めている。
霧の切れ間から巨大な蝶のような魔物が姿を現した。巨大な羽から零れ落ちた鱗粉が、風に乗ってこちらに流れてきている。
鱗粉を防ぐ手段を持っていなければ、気付ぬ内に体が麻痺し、あの虹色蛙のように体液を吸われていただろう。しかし、対空手段を持つ二人からすれば隙だらけも良いところだ。数秒も経たぬ内に決着は下され、その場には欠けのない二枚の翅が残されていた。