ありふれた|女主人公《ヒロイン》だけど、君が好き。 作:一文字 更新
そこは、一言で表すのであればボス部屋だった。両脇を固めた一つ目の巨人を象った石像。実際に壁に呑み込まれたような、そんな現実味がある。そしてその中央に構えた両開きの扉。繊細で優美な装飾が施されている。今までの自然な…迷宮らしい迷宮ではなく、明らかに人の手によって作られたもの。
好奇心が疼く。
『ボス戦かな。ユイ、一度休息を取ろうか』
「うん!お腹空いてた」
こんがりと焼けたお肉をペロリと平らげてお腹を落ち着けた二人。ぷっくりと膨らんでいた腹はみるみる内に萎んで元の体型に戻った。
扉の前に立つ二人。開かない。コンコンとノックしてみるものの、硬質な音が鳴るだけで返事はこない。興味本位で一つ目の巨人を触るユイ。そしてバジィッ!と赤い電流に弾かれた。
「ハジメ、これ本物の魔物だ」
少し赤くなった手を擦りながら、そう溢した。
精巧な彫刻だと思っていた単眼巨人が砂埃を上げ、動き出した。石化でも喰らっていたのだろうか。体の自由を取り戻し、嬉しそうに咆哮する単眼巨人。そして、力なく立て膝をついた。
『口に投げ入れた方が早い…か。うーん、魔物相手に効果を期待するなら、やっぱり吸い込ませる必要があるね』
「うん。丁度いい実験体が居てくれて助かったな」
魔石を扉の窪みに嵌めこむ。ピッタリだ。すると、扉に浮かび上がった魔法陣に沿って赤い光が走り、扉が開かれた。
『さて…ユイ』
『うん。ハジメ!』
鬼と出るか蛇と出るか。
『「行こう!」』
鼻に立ち込めるカビと微かな甘い匂い。健康な女性の部屋の匂いによく似ている。そして、部屋の中央でなにかが揺れている。
しなだれた金色の髪の下で、ゆっくりと開かれる瞼。静かな夜の月ような雰囲気を纏う紅眼が覗いていた。
『誰…、?』
掠れた声だった。まるで長らく一言も話していなかったような。しかし。しかし、だ。
『これは…!』
「うん…これはあれだ」
ハジメと顔を合わせ、頷き合う。
『「第一村人、発見!」』
『ぁあ…夢、か』
自嘲気味に笑みを浮かべ、目を閉じる第一村人。
しかし、何故首から下は埋められているのだろうか。封印?イタズラ?いや、イタズラにしては"最後まで手が込み過ぎ"ている。
「ハジメ…封印とイタズラどっちだと思う?」
『…。夢、じゃな、!?』
『…十中八九、封印だろうね。ほら、この素材。魔力を通し難い』
片膝を立て、コツコツと村人が埋められているタイルを叩くハジメ。流石に慎重にならざるを得ないか。
『ま、待って…!助け、てほしい!…なんでも!なんでもするから…。だからぁっ』
ぽろぽろと涙を零し始めた…金髪の少女。
『嫌だ…嫌だよ、…そんなに私が憎かったの…?他の皆みたいに、…なんで私を裏切ったの?…答えてよ、…答えて"ディンリード"っ……すぅ』
悲痛な声だった。胸の内にある感情を吐き出したような。…その後、少女は意識を失うように寝てしまった。
「どうする、ハジメ」
出すものは全部吐き出させた。それでも悪い奴には見えなかった。
『リスクはある…。けど、あれはあの子の本心だった…と思う』
「…。あぁ」
『助けたい。どうにも昔から…泣いてる子どもに弱いみたいなんだよね』
「ふふ。知ってるぞ」
だから、責任はちゃんと受け持ってやる。