ありふれた|女主人公《ヒロイン》だけど、君が好き。 作:一文字 更新
「ハジメ、大丈夫かッ!?」
開幕早々、酸液をぶち撒けてきたのは、巨大なサソリ型の魔物。
『こっちは心配ないよっ』
ヌルヌルとまるで重さを感じさせず、距離を詰めるサソリ。ユイの身の丈程もあるハサミがハンマーのように振り落とされた。
ギィィインッ!
「カッタぁッ!」
豪脚を用いた全力のキックだったが、甲殻には浅く傷を付けた程度、押し返されたのはユイ。その重さとあまりの硬さにユイは歯噛みする。
弓さえ撃てれば。
ユイに抱えられ…えへ、えへへと笑うアレーティア。自分は魔力切れでマトモに動けないとのこと。
駄目だ…片手は使えない。猫の手でもなんでも…。
『ユイ、俺が五秒後にアイツを拘束する!できるか?』
「やる!」
四
サソリが尻尾からマシンガンのように針を飛ばす。
三
その全てを金剛や豪脚を用いて捌きながら。
二
肩を抜け、腿を通り、足に滑り落ちる弓。
一
右足で弓を構え、片手で矢を番えた。
『今だ!』
「"穿射"」
放たれた矢は、サソリの口から直前上の全てを蹂躙し、塵となって消えた。
『やった…?』
「っ!?それを、口にしたら駄目だ!」
頭に?マークを浮かべるアレーティア。時を同じくして、胴体に大穴を開けられたにも関わらず、動き出すサソリ。
「のぉぉお!」
『ユイっ!クッさっきから妨害が鬱陶しいッ』
一方、ハジメとサソリの間では錬成による主導権の奪い合いが起きていた。状況的にみれば、サソリにとっての危険度はハジメの方が上だった。
それでも命の危機に晒されたからか、はたまた別の理由か。リスクを無視し、集中的にユイを狙うサソリ。ユイを追って発射された針がまるで残像のようだ。
『困ってる?』
「…困ってる!」
『それ、私に任せてみない?』
ふふ。と妖しげに笑うアレーティア。大人の色香を出したいお年頃なのだろうか…。
「さっき魔力ないって、」
『そう、んぁ。だはらぃを委へて』
カプという音と共に首筋に弱い痛みが走る。血を吸われた、のか?
「んにゃっ!?さり気なくペロって、舐めんな!」
『フ…バレたか』
悪戯っ子な笑みを浮かべるアレーティア。しかし、その顔がユイにはどこか安堵しているように視えたのだ。
『久しぶりでちょっと固いかも。ハジメに離れてって』
『大丈夫!聞こえたよ』
『"蒼天"』
それは、蒼い太陽の落下だった。指の先から、背中の裏側まで…感じる熱や風も、暗闇に満ち満ちた…この奈落を、煌々と照らす、存在感も。
それには、太陽の温もりを感じられた。
『ユイもハジメも…泣いて、るの?』
『「…へ?」』
『全く、皆…泣き虫、だねっ』
三者三様…。お互いの頬を転がる大粒の滴に笑い合ったのだった。