ありふれた|女主人公《ヒロイン》だけど、君が好き。 作:一文字 更新
オルクス大迷宮入口。
迷宮の地面を陸上選手のように無駄のないフォームで駆けるラットマン達。しかし彼らが次の一足を出すことは叶わなかった。慣性そのまま転倒したラットマン達の額はどれも風穴が開いていたからだ。
動くものが居ないことを確認すると軽業のような跳躍から、柔らかく着地しハジメの元へ戻るユイ。そこには雁字搦めになり物言わぬオブジェと化したラットマン達が居た。
「流石だな、ハジメ。頼りになる男だ」
『ユイの方も終わったみたいだね』
『良い連携だったぞハジメ、ユイ!よし次、前に出ろ。交代だ!』
初戦で感覚を掴んだ一行。戦闘と休憩をローテーションしながら、順調に階層を降りていった。
二十階層。ここを抜ければ今日の訓練は終了となる。先程までとは景観が少し異なり、所々白乳色の岩肌が下から上に向け突き出でいる。
『擬態しているぞ!周りをよ~く注意しておけ!』
メルド団長の忠告を受け、辺りを警戒するハジメとユイの二人。
その直後、岩肌の一部が独りでに剥がれ、空中で獣の形をとった。白乳色に同化していた体色は今や別物に変化し、攻撃的な眼光を宿している。
『ーグォォオン!』
一切の予備動作もなく跳躍した魔物をハジメの錬成が呑み込む。そこで途切れかけた緊張。まだ終わっていないッ!と団長の注意が飛ぶ。
まるで狙い済ましたかのようにハジメの左右の岩が隆起し、襲いかかってきた。番えていた矢で咄嗟に片側の頭を吹き飛ばすユイ。
バチン!と弾けるような音を立てて歯が噛み合う。
『あ 』
『危なかったッ…!』
眼前で咬合された顎。魔物の体は鉄条網のようなものに絡まって身動きを封じられていた。ぶわりと冷や汗が噴き出る。
『バカヤロウッ!油断禁物だ!』
バシッと背中を叩かれ、しきりに頷く二人。動かなくなった魔物を見てもまだ生きた心地がしない…。
それまで緩んでいた空気が一気に張り詰め、緊張感のある面持ちに戻った一行。
『ロックマウントだ!二本の腕に気を付けろ!豪腕だぞ!』
しかし。
『なッ!?団長!トラップですッ!』
『撤退は無理だ!クソッ!総員戦闘準備!』
事態は最悪の展開に収束していく。
体が軽く浮く感覚と共に視界が切り替わる。それまでの洞窟のような面影はなく、頬を撫でる風の流れを感じた。
どうやら地の底まで続いていそうな穴の上に掛けられた巨大な橋。その上に立っているようだ。
ふと、何かが足りないと気が付く。
いつも隣に居るはずの。
『ハジメ?…ハジメが居ない!』