ありふれた|女主人公《ヒロイン》だけど、君が好き。 作:一文字 更新
渦巻く火の柱が無数の骸骨剣士…トラウムソルジャーを包み瞬く間に灰に変える。巻き込まれなかった残党を撃ち抜きながら、ユイは必死にハジメの影を探す。
そして見つけた。
ベヒモスと呼ばれた魔物を拘束するハジメの錬成を。
なんで、なんで…なんでッ!
メルド団長は、天之河光輝は、ハジメを置いて撤退しているんだ…?
「あ、ア、あぁァ"あ"ッ!」
怒りに身を任せ、矢を放つがベヒモスの皮膚を貫くことは出来ない。何処か遠くから八重樫雫とメルド・ロギンスが叫んでいる。
『ユイ!冷静になって!くッ、己を律しろッ!西北結!』
『馬鹿者!そんなんじゃ坊主を助けられんぞッ!』
助け、?
ハジメが死ぬ。嫌だ。ハジメが死ぬ、嫌だ。駄目だ。ハジメ、死んでは駄目だ!
ハジメ…生きて帰ろう。
『グガァァァアッ!!!』
右目。
『グウ!?』
左目。
もう一度。
もう一度。
もう一度。
もう一度。
もう、矢が。
『詠唱完了、そのまま待機!団長、いつでも打てます!』
『よしお前達!坊主を。南雲ハジメを助けるぞッ!』
ハジメが動き出し、ベヒモスの拘束が解けると共にメルド・ロギンスが指令を飛ばす。夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法がベヒモスを打ち据える。
その時、明らかにハジメの方向へ向かう火球があった。
なんで、どうして?わざと?偶然?誰?誰、誰??
粘っこくドス黒い感情がゴボゴボと音を立てて心の器に注がれる。
「檜山大介ェっ!お前ッ!自分が何をしたか、理解しているのかァッ!!」
『…ぉ、俺はやってない!ヤバ…耐えられねぇッ!キ、キ』
『ギッ、ギッヒャヒャヒャッ!そうだよ。俺がやってやったよ!ずぅっと鬱陶しかったんだ!』
『キィ、キヒヒヒ。俺は、俺は…そう。そうだ、これは正当な権利なんだ。俺は正しいんだァ!』
『お前という奴はァァア!!!』
メルド団長の怒号を最後に耳障りな雑音は沈黙する。
支給されていた短剣を番え、放つ。湧き上がる確信。
当たる。
予定調和。短剣は火球の軌道にまるで吸い込まれるように流れていき、核を撃ち抜いた。
まだだ。まだ!
なんで…?
詠唱が止んでいる。
「ぁ…」
怖いのか。怖いのか、ハジメに当たるのが。
考えることはなかった。
「ハジメッ!!!」
あぁ、走る。人とはこんなにも疾いものだっただろうか。
目が潰れていてもあの巨体だ。突っ込まれただけで終わる。
ベヒモスの頭部が赤く赤く染まっていく。
「ぁあ、うわぁぁあ!」
叫んでいたのか、僕は。まったく格好が付かないな。
崩壊していく橋の上でハジメの腕を掴む。
ごめん。
帰れないや。