ありふれた|女主人公《ヒロイン》だけど、君が好き。 作:一文字 更新
この階層で最も警戒すべきなのは爪熊と二尾狼だ。勿論、戦闘になれば蹴り兎も脅威だ。単純な戦闘能力として頭抜けて高い爪熊は勿論、待伏せを行う二尾狼もそれだけで十二分に厄介。
あの二尾狼の首領はもう直、脅威ではなくなる。であればこそ、アイツには少しでも長く戦ってもらいたいものだ。爪熊に傷手を負わせられれば、今後の憂いも減るのだから。
『全部、回収したよ』
「流石だ、ハジメ」
両者共に白かった毛皮が朱く染まっている。思った以上に首領が善戦していたのだ。その首領は組み合った末に爪熊の首筋を食い千切り、動かなくなった。
『グルル!!』
邪魔者が消え、嬉しそうに鳴く爪熊。
しかし、気分が良かったのはそこまでだった。どういうわけか、先に手を付けようと考えていたものが無くなっていたからだ。己のエモノに手を付けた不届き者がいる。そんな思考を巡らせた時、視界が黒く塗り潰された。
爪熊は怒りを表すように、狼藉を働いた鼠共に向け、一つだけになった目を血走らせる。
『グルル…』
重低音の唸り声がお前達は餌なのだと告げる。
『うーん。ベヒモスよりも小さいから埋め易かった』
「お!それは良いことを聞いたぞ!」
が、そんなことは関係ない。
『でも、やっぱりパワーは凄いね。ここの壁、ベヒモスのより堅いんだけど』
「それなら早めに終わらせるか!」
『そうだね』
今宵は鼠達の晩餐なのだから。
砂利でも噛んだようなザリザリとした歯触りと消しゴムのような食感。食べられはする。
コップに入っていた水を飲んで一息をつく。
ん…この水美味しいな。すぅと頭が冴え渡る感じがするぞ。
あれ。
「ハジメ。冷静になったんだが、魔物の肉って食っていい?」
『…ぁ』
喉に指を突っ込み、消化が始まる前に胃から出そうと試みる。だが、消化機能は思ったよりも優秀だったようだ。
「…グッ!?ゥー…ッァア!」
なんだ、暑い…?
「…グッ゛!?ッ……ク゛…!ア゛゛!…゛…ァッ!ッ…!…!゛ッ」
くっ痛いな!
『ぐぅぅゔあ!!…ぎ、ぎいぃぃッ』
のたうち回るハジメと必死に耐えるユイ。
「ァぐ…ハジ、メッ」
『ぁ…ふ、ふ。ぐぅッ!』
両者は互いの腕を傷付けぬように、けれども強く、強く掴みながら、胎児のように丸まった。
チカチカと瞼の裏で幾度光が弾けただろうか。迷子になる。この痛みは帰る場所がわからなくなってしまう。手の中の温かさが、それだけが道標だった。
「寝ていた、の…か?」
うすぼんやりとした緑光石の明かりがテーブルから溢れている。
「ハジメ。…ハジメ」
『ぅ、ユイ…?ユイ!"俺"達は生きてるのか?』
「うん。生きているらしい。ほら、立つぞ」
『う、うん?』
「ハジメ、なんかデカくなったな。イロイロと」
ハジメの身長が伸びていた。いや、元々成長期ではあった。あったが、それでも急激な成長だ。首周りや腕、胸板、腹、腰周りや足までも一回り大きくなっている。
『いや、ユイも…なんか生えてる』
「…?」
ハジメの視線を辿り、触って確かめてみる。
ワサッ!ピクン ワサ!ピコピコっ
なにかが生えてる。
フリ。フリフリ。
なにかが生えてる!?
「可愛いボソ」
「な、なんでだ?!」
『うひゃぁ!な、なに?』
暫く混乱は続くのだった。