京都校との交流会はつつがなく終わる。
京都観光を終えて、東京の高専に戻ってきた。やっぱ東京のほうが落ち着くと思いつつ、だらだらと過ごしているとまた依頼が舞い込んでくる。
「被呪者はこの女性です。おかしいことに見舞われていると」
「おかしなこと?」
「詳細は教えてはいただけませんでしたが……」
と、目の前には虎杖くんと同年代の女の子が立っていた。
見た感じ、見た目の変化もない。だがしかし、これで呪いの被害者なんだという。まぁ、見た目に現れる以外にも体調とかそういった面に現れることはありそうだが、呪いが憑りついてる様子もない。
「名前は
「オッケー。聞き出してみるよ。俺らならいーい? 芦田さん」
「……いえ、すいません。ちょっと恥ずかしくて」
「恥ずかしい?」
「最初に女性の方だけに聞いてもらいたいんです……」
「そっか。釘崎、稲荷。頼めるか?」
「あいよ。ほら、じゃ、男どもは出てったでてった」
虎杖くんと伏黒くんは外に出ていく。
そして、芦田さんは口を開いた。
「その……最近、月のものが来ないんです」
「ん? あー、月のもの」
それってつまりそういうことになるのか?
「えっと、おめでた?」
「違うんです! 問題はそこじゃないんです……。たしかに、その……検査薬を使ってみたんです。そしたら妊娠してたんです、けど……」
「そんな若い身なりで……ママに?」
「違うんです! わ、私、まだ誰ともそういう経験は……!」
処女受胎?
たしかにおかしな話だ。釘崎さんもそれについて疑問があるらしい。
「妊娠したっていう理由で月のものが来ない理由はわかるけど、男がいなくて妊娠したって何? おかしくない? ねぇ、稲荷」
「うん。でも、そういう残穢は見えないけどなぁ」
「聖母マリア様かよ」
「やっぱりおかしい、ですよね。でも……周りは誰も信じてくれなくて、役所に泣く泣く相談してみたら、ここを勧められて……ここってなんなんですか……?」
「ここは呪いを祓う場所よ。でも、呪われたっていうにはそういう呪力がないわね」
「私らじゃお手上げ? 申し訳ないけどあいつら呼ぶ?」
「そうね。みんなで考えてみましょう。あなたのこと、話しちゃうけどいい?」
「……仕方ないと思います」
というので、虎杖くんたちを入れて事情を話してみた。
二人もよくわかってない様子。
「処女で妊娠とかあり得るか?」
「いや……そういうのはこう、まぐわってからだろ」
だがしかし、伊地知さんは何かに気づいたようだった。
伊地知さんがこちらにつかつかと近づいてきて、声を上げる。
「えっと……私はなんとなくわかりました」
「え、マジ?」
「前例があるんですか?」
「あります。虎杖くんは知っていそうなものでしたが……」
「え、俺?」
伊地知さんは眼鏡をくいっと上げた。
「きっと、芦田さんは呪霊との子を孕んでいるんだと思われます」
「えっ、呪霊との子?」
「いや、ありえなくないですか? 呪霊との子だなんて」」
伏黒くんが疑問の声を上げる。
たしかにありえない。人間と人間というわけではなく、まるっきり異種族だ。人間とライオンがヤっても子供なんてできないように、種族が違う時点でまずありえない。
「今から200年くらい前……。そういう体質の方がいたんです。そして、呪霊との子を孕んで堕胎させた結果生まれたものがあります」
「え、なんすか?」
「昨年、受肉した呪胎九相図……と呼ばれる特級呪物です」
「呪胎九相図……」
「脹相たちってそういう経緯で生まれたのか……」
なにやら九相図に心当たりがあるようだった。
「今の芦田さんはその女性と同じ状態……。つまり同じ体質なのではないかと思われます」
「……つまりこの中には脹相が?」
「生まれたら名づけられるでしょう。どのような状態で生まれるかはわかりません。私も以前、雑談を交え脹相さんから聞いた話ですので」
「まー、特級呪物ってぐらいならろくなもんじゃないだろ。さっさとお腹の赤ん坊を……」
「待って!」
虎杖くんは顎に手を当てて動揺していた。
「なんでよ」
「……脹相」
「脹相?」
「脹相の生まれ変わりだとすると、俺は……」
虎杖くんは焦った表情を浮かべていた。
ぽかんとする私と釘崎さん。伏黒くんはなんとなくわかったようにため息を吐いていた。
「脹相って誰よ」
「ほら、俺と釘崎が戦った壊相、血塗の……」
「アレの兄貴ってわけか。でもなんで出てくるわけ?」
「……あれは俺の兄貴だったんだよ。俺のために、必死に戦ってくれた」
ほえー。なんか変な血のつながりですね。
「なるほど。ま、それなら仕方ないわね。でもどうするのよ? 困ってる芦田さんに堕胎させず産んで育ててくださいっていうの?」
「わかってんよー……。俺としてはあまり心地いいもんじゃねえってだけ。悪い、俺は無理だ……」
虎杖くんは気分悪そうに出ていった。
伏黒くんは納得したような顔をしているけど私と釘崎さんは何が何だかわかってない。
呪胎九相図という単語、脹相という単語に引っかかったのか?
「で、虎杖がアレの弟ってなによ? 一人っ子じゃない」
「あー……深い事情があるらしいんだ。そっとしておいてやれ。それより今はどうするかだろ」
「どうするって……」
「芦田……さんはどうしたいんだ? その子を」
「わ、私ですか?」
芦田さんはうーんと悩んでいた。
「この子はその……悪い物? なんですよね? 九相図とかいう……。そんなものを産み出したくはない……です」
「あくまで堕胎させた場合です。そのまま出産してしまったら俺らもどうなるかはわかりません」
「そうですか……。でも、宿った命を粗末にしたくはないなぁ……」
芦田さんは自分のお腹を眺める。
妊婦のように腹が膨れてるわけではない。けど、宿った命であることには変わりがないことに葛藤を抱いているようだ。
周りからは高校生で妊娠した子供と見られ軽蔑されている彼女は、宿ってしまった命に慈愛を抱く。
「産みます。やっぱ、産まれてくる子に罪はありませんからね。どうなろうとも産みます!」
「わかりました。こちらでサポートはさせていただく形とします。ただ……子を孕ませた呪霊は祓わなくてはなりません。何か心当たりはありませんか?」
「えと……毎晩夢を見るんです。化け物が襲いかかってくる夢……。もしかしたらそれなのではないかと……」
「わかりました。伊地知さん」
「車の手配をしておきます」
「お願いします」
伏黒くんはテキパキしてるなぁ。
「釘崎、稲荷。女性の部屋に泊まれるか?」
「祓うのね。任せといて」
「オッケー」
「すいませんが芦田さんは一度自分の家に戻っていただき、釘崎たちがしばらく寝てる際に見張りをしておきます。産気づいたり、何かあった際はまたこちらをお尋ねください」
「わかりました! 頼りにしてます!」
「……はい」
伏黒くんは笑っていた。
そして、車で私たちは依頼者の芦田さんの家に向かう。
「伏黒もだいぶ嬉しそうにしてたわね」
「してたねえ」
「ま、当然よね。こんな可愛い芦田さんに頼られてるんだもの」
「可愛いかどうか微妙ですけどね……。あはは……」
「自信持ちなさいよ。あんたは可愛いわ」
「女の子の言う可愛いって当てにならなくない?」
「そこら辺の女どもと一緒にしないでもらえる? 私は嘘はつかないのよ」
芦田さんは少し笑顔になっていた。
ま、幸せそうならいいか。