伊地知さんに死んでいたことを告げると、少し悲しげな顔をしていた。
「助かる見込みは薄いだろうなと思ってはいましたが……。とりあえずお疲れさまでした。今日は高専に戻りますか?」
「そうします」
伊地知さんが運転する車で高専に戻ることになったのだった。
今の時刻は昼といえど、あまり気分がいいものではない。人の死体なんて死滅回游で慣れていたつもりではあったんだけれど、罪もない少年がただただ死んでいた光景を見るとやっぱり人が死ぬのはあまり好きじゃない。
「私も人を殺したんだな……」
「人を……?」
「死滅回游の時ですよ。生き延びるためとはいえ、何人か術師の方を殺したなって」
「そうですか……」
伊地知さんは眼鏡をくいっと上げる。
「最強と呼ばれる術師でさえ、死ぬんです。人間はみな、いつ死ぬかわかりません。私も明日になったら死んでるかもしれません。いつ死ぬかわからない今、生きるために必死になることは悪いことではないと思いますよ」
「そういうものですかね」
「人を殺した罪悪感を抱えるのはいいことだと思います。人殺しは世間一般から見ても悪いことだという認識は間違いではないです。呪術界にいると、そこら辺の境界があいまいになる方が大変多いので」
「……」
「ただ、死滅回游の場合は少し話が変わってくると思います。行動しなければ死ぬ未来が未来にあった。ならば人間は行動せざるを得ないでしょう。誰かに勝手に命を賭けられてしまえば、ただただ動くしかありません」
死滅回游だけは特別……か。
死滅回游自体、私はどういうものだったか理解していない。ただただ、ルールとして19日間ポイントの変動がないと術式が剥奪されるということしかなかった。
術式の剥奪。一度見たことがあった。誰も殺したくないと喚いていた術式を持った男性が何もないところで死んだ。
それを見て、やっぱり術式を剥奪されたら死ぬんだと改めて理解した節がある。
「動くのを戸惑う人もいたでしょう。動きたくないと動かなかった方もいるでしょう。そんな中で動いたあなたはとても立派だと思います」
「……そうですかね」
「えぇ。行動に起こすのもとても大事なことです。気にするなとは言いませんが、殺してしまった方のためにできることは精いっぱい、生き延びるということです。それが残されてしまった私たちにできる唯一の事。私も、精いっぱい稲荷さんたちをサポートいたします」
「……ありがとうございます」
伊地知さん頼りになるなぁ……。こうやって励まされるのは初めてかも。
「死滅回游、伊地知さんも参加したんですか?」
「え? えぇ……。とある方の身代わりとして入ったんです。そこから大変な目にはあいましたが……」
「……伊地知さんって戦えるの?」
「頑張って3級呪霊なら払えるかなー……というぐらいですね」
「えぇ……よくそれで」
「えぇ。無謀です。が、術師の方のためにサポートするために入ったんですよ。こちらには最強の術師もおりましたから」
最強の術師……五条悟か。
名前だけは聞いたことがあるような気がする。
「信頼してるんですね」
「はい。とても頼りになる方でした。ちょっと私をこき使いすぎではありましたけど」
と苦笑いしていた。
「最強の術師が亡き今、未来に行けるのはあなた方です。これからも頼りにしていますよ」
「任せてください」
手に入れた術式、手に入れた力。
人のために活かせるのならいつだって使う所存です。