リボーンファンタジア 立香編 推しの子は月にいる 作:ワフこねこ
この物語は『Fate/Grand Order』の
奏章Ⅲのネタバレ
微CP描写が含まれます。
大丈夫な人は、どうぞこの先へ
誰も彼も、芸能人に生まれ変わりたいと考えることはあるだろう。
「星野アイさん、アクアさん入ります!」
容姿もコネクションもすべてが完璧で、皆にちやほやされる。
「今日はよろしくお願いします。アイさん」
「よろしくね、アクアくん、立香さん。ちゃんと皆を引っ張れるよう頑張るね!」
「頼りにしてます、アクアさん」
何より、死んだ芸能人と共演できたなら。そして────。
『星野アイ』を永遠のモノに出来たら、どんな気持ちになるだろうか。
「それでは本番まで! 3……2……1……」
これは2つのカルデアと私が見つけた、未来と嘘を巡る、一番星《アイ》の物語だ。
リボーンファンタジア 立香編 推しの子は■にいる プロローグ
朝起きると、シャツとズボンに着替る。
自分でもまだ不思議だ。鏡の前に立つたび、金色の髪に蒼く輝く瞳の青年がいる。
俺は元々医者の『雨宮吾郎』だったが、事件に巻き込まれて容姿に恵まれた別人、『星野アクア』に転生した。
「美人は3日で飽きる、か。この顔もずいぶん見慣れたな」
鏡がある部屋には、かつての人気アイドルで俺の推し、星野アイのポスターが貼ってある。マンションの外に広がる朝焼けは、何も変わっていない。彼女がいた時代と、残酷なまでに、何も。
部屋からリビングに出ると、妹のルビーがキッチンから顔を出した。
「お兄ちゃん、おはよ! 昨日買ってきた食パンどこ?」
自分と似た整った相貌に、濃いピンク色の宝石のような瞳。妹もまた、誰かの生まれ変わりらしい。
「右隣の戸棚」
「OK、焼いとくね! ……カロリー高いけど、しょうがないか」
いつも通りの明るい声色でルビーはパンを手に取った。支度が終わったら「いただきます」をして飯を食う。
今日は食パンにコーンスープ、サラダ。
うちの朝はしっかり食べる派だ。育ての親兼芸能事務所・苺プロの社長である斉藤ミヤコが「ごはんはちゃんと食べなさい。あなたたちは、まだ若いんだから」と譲らない。
俺としても同意見だけど、ルビーは最近、体重を気にしている。
「今日はちゃんと全部食えよ」
「分かってる分かってる! あれ、ミヤコさんもう行ったの?ぴえヨンのロケ」
「なんでも早朝から、あのヘンテコな格好で東京23区の駅をどこまで周れるか、チャレンジするらしい。YouTubeのためとは言え日曜日に出勤とは、朝から大変だな」
「だよねー。私だったらやらないかもだけど。でも、アイドル活動の一環って言うのならやろっかな。知名度向上にも繋がるし?」
「やんのかよ」
スープを飲みながらルビーは俯く。
「……ねえ、今日も脚本読み?」
「そうだけど」
不服な顔にみるみる変化するルビーは机に両手を置いた。
「ねえ」
よそったスープが波紋を立てて揺れる。
「最近、休んでる? 家に帰っても脚本とにらめっこだし。買い物も付き合ってくれないし」
「休む必要あるのか」
「大事でしょ! 何より……私たちのB小町のライブも終わったしさ。ちょっとぐらい休もうよ」
妹は口を尖らせる。参加する舞台は、もうすぐ俺が出演する予定の2.5次元舞台『東京ブレイド』である。
「ダメだ。体調管理ぐらい余裕で出来るし。それに───」
成功すれば、また鏑木さんからアイが所属していた劇団ララライの情報がもらえる。
あの世界の中に、アイの殺害を命令した真犯人がいるのだ。仇を取るには、芸能界へいることが一番である。
何としてでもその正体を暴いて、その犯人を、
「お兄ちゃん、急に黙ってどうしたの? 疲れてるの?」
「別に、考え事していただけ」
妹には話してない。復讐に巻き込みたくはないから。2度と大事な人を失いたくはないのだ。
「とにかく! 今日の予定、覚えてるよねお兄ちゃん?」
「午前中いっぱい、ルビーの服選びに付き合う」
ルビーは休日に出掛けることに命をかけているタイプで、いつも俺を巻き込む。練習もしたいけど、同行しなければ2日ぐらい口を利いてくれないので仕方ない。
「はい、正解! あとは午後買い物ね」
さっさと出かける支度を済ませて、玄関で妹を待っていると、ルビーは丈が短めのワンピースを着てきた。
露出が多いので着替えてこい、変態に絡まれたらどうすると注意したが、ルビーのワガママに負けてしまった。
「ふふーん、先輩に選んでもらったの着たいから今日はこれでいきたいと思いまーす! ……何? まだ文句あるの」
「いや、今空気が変わったような」
「んー、気のせいじゃない? 早く行こ!」
玄関から外に出る直前、ルビーが一枚の写真に笑いかける。
「行ってきます、ママ!」
「行ってくるよ、アイ」
写真の中には星野アイの姿。
世間にも、芸能界にも絶対に知られてはいけない秘密。
俺たちは、星野アイの子どもだ。
◈
30分後、渋谷駅前の交差点。俺たちはある強烈な違和感の前に困惑していた。ルビーが目を白黒させて辺りをキョロキョロしている。
「な、なにこれ。夢だよね」
建物はまるで変わっていない。しかし、どの広告塔や交通広告も俳優のポスターが違う。それよりかは、小悪魔的印象を受ける、セクシーなドレスを着た紫の髪の少女の広告が圧倒的に多い。
何より渋谷109の大きな広告が────見覚えのない星野アイのソロアルバムのポスターに変更されている。
脳がファンタジックな光景に理解を拒んでいる。これは夢なのか、まだアイが、生きてるだなんて。
「……なんでママ? 今何年前? 構図といいポーズといい、どの広告にも当てはまらない……」
ルビーがぶつぶつと分析中、頬をつねった。痛覚が、ある。
「これは現実だ。ルビー。言いたくはないし、確信したくはないが……その異世界転移とやらに巻き込まれた、としか考えられない」
「え、お兄ちゃんがそんなこと言うなんて……。まー、私たち転生してるもんね。ありなんだなー。宿題サボっちゃえるけど、仕事できないのはヤダなー」
妹が虚ろな表情になり、すぐに我に返った。そして、俺の周りをうろちょろし始めた。
「てかどーすんの?! どうしよう。お兄ちゃん、実は魔法とか超能力とかで無双できたりしない?」
「使える訳ないだろ、そんなん。まずはミヤコさんの安否を確認し」
更なる異常はここからだった。スマホを手に取ろうとバッグを開けると、多くの足音が耳に入った。顔を上げると、周りの老若男女が血相を変えて何かから必死に逃げている。
一番奥には真っ黒な影が、とある少女を捕らえようと追っていた。急激な異常事態に心臓の鼓動は早くなった。ルビーは何を叫んでいるのだろう。突然の出来事に身体の震えが止まらない。
少女は赤みを帯びたボブカットの黒髪に、ベレー帽を被っていた。俺の胸目掛けて飛び込んでくる。
「助けて、アクア!」
有馬かなだ。
一緒に逃げる間もなく、影が彼女の肩を掴もうと手を伸ばした。怪物は5cmほど近い距離にいる。
もう助かるのはムリだ。それこそ、超能力やら魔法でないと。
ギリギリ触れそうになったところで、新たな何かに吹き飛ばされた。
盾だ。十字と円が組み合わさった大盾。それを、ルビーと同じ年齢ぐらいの少女が軽々と振り回し、影の胸を十字の先端で斬り上げていたのだ。
気合の入った斬撃は影の致命傷になったらしく、瞬く間に消滅した。
彼女が俺たちの方を振り向くと、ルビーも俺も、謎めいた圧倒的オーラに気おされその場にへたりこむ。
「お怪我はありませんか? そちらの方々は?」
有馬は尻もちをつき、隣にくっついた。声が震えている。
「あー、うん、ケガはないわ。助けてくれてありがとう。……悪いわね、保護対象が増えて」
「いえ、増えるのは慣れていますので、心配なく!」
ルビーは隣でなぜか有馬に嫉妬しているがそういう場合ではない。周りには、ガヤがどんどんと集まっている。このような状況下でもバズりを狙いたいだなんて、呆れる。
「とにかく離れて下さい皆さん! ここは危険です」
「! また来てる!」
ルビーの言う通りだ。少女は踵を返し、薄いラベンダー色の髪をかきあげ、盾を構え直した。相手は少女より背丈が二回りもある鎧武者の影。大太刀を携え、こちらに向かって疾走している。
「まだ来るの?」
「そこのベレー帽さん、動かないでください!」
「ベレー帽じゃないわ! 有馬かなよ!」
「かなさんですね。他の皆さんも、撃退後安全な場所に案内します。ですので、今はじっとしていてください!」
「ちょっ、ちょっと待っ」
言い終わらないうちに、盾の少女は素早く影の男の足元に滑り込み、足をすくう。が、態勢を崩した影は刀を杖代わりにし、抜刀。紫色の雷は少女の防御のおかげで何とか当たらずに済んだ。
辺りにはアスファルトが焦げ付く匂いが充満し、人々はやっと異常を理解し、次々と走り去っていく。
死ぬかもしれない恐怖は感情の大半を占めているが、非現実さが目の前で再現されていることに、わずかな高揚感もある。
同時に、2人をこのおかしな状況から守りたいという、使命感も存在している。
「「きゃあああああ!」」
ルビーと有馬が身を寄せ合い、落ちた雷に怯えると、体は咄嗟に2人の肩を掴み、庇っていた。
左の手首に強く掴まれる感覚がある、ルビーだ。震えは収まらないが、強く小さな手を握る。
少女は武者のゴツゴツとした手を引っ張り、スクランブル交差点の真ん中へと蹴り飛ばす。盾の側面で再び凄まじい斬撃と、雷を受け止める。
そのまま勢いよく盾を横に振りかぶり、相手の刀さばきを回避しながらぶつける。そして、細い腕で相手を空中へと放り投げ、足で下に叩きつけた。
「これで決めます!」
少女は武者の影に駆け寄ると連続で側面を使い殴打、十字の切り込みで体を切り裂く。
「災いよ、退き給え!」
手元の盾が詠唱とともに一瞬青い光に包まれ消えると、盾が眩しく感じるほど発光し再び現れる。爆風で敵の巨大な体躯が宙に舞う。少女は武器を自分の正面に構えた。
「レイプル、パニッシュメント!」
少女の前に城の岩壁を思わせる紋様が浮かびあがり、光とともに射出された。敵は落下する最中、光の直撃で焼け焦げて消滅した。
「スゴイ! カッコいいー!」
ルビーが拍手して勇敢な戦士を讃えると、盾からくぐもった声が聴こえた。
『マシュ、そっちの赤髪の子は無事? さっき、追いかけられてたよね』
通信越しでもはっきりと聴こえる、凛とした少女の、穏やかな声だ。彼女の名前はマシュというらしい。
「先輩! はい、無事です! あの、先程骨折してしまったおばあさんは手当しましたか?」
通信相手は、ほっと息を吐いた。
『うん、バッチリ。さっき追いかけられてた子の名前は?』
「有馬かなという方です。かくかくしかじかで、知り合いのルビーさんとアクアさんと一緒に行動しています」
『有馬かなって女優の……やっぱり、芸能人か』
「先輩、今どちらに?」
先程とは声のトーンが代わり、真剣な声色になる。
『来た方向のショッピングセンターから、マシュと合流するため、移動中! まだ警戒を解かないで! 全部片づけてない!』
絹を裂く声が聴こえると、1m先のビルから出てきた女性が、赤い槍を持った影に襲われている。
「! 早く止めないと……!」
マシュが焦り、勢いよくヒールを蹴り助けに行こうとするが、新たな敵が出現した。ローブを着た女性の影が、銀色の杖を振るう。
すると、10秒も経たないうちに、顔が鋭い口になっている骸骨の兵に囲まれてしまった。これでは彼女が女性を助けにいけない。
このままではと俺が呟く。すると、ほぼ無人のスクランブル交差点に、大きな金属音が響いた。
「なるほど、ここが今の渋谷か」
一人の男が骸骨兵の槍の動きを止めていた。携えていたのは真っすぐな日本刀。それを構えているのは、黒に近い青緑色の小袖に黒色の袴を纏った、浪人の出で立ちの青年である。
女性はお辞儀をすると、慌てて去っていく。侍は一跳びでマシュの近くに到着した。
「もう朝だというのにシャドウサーヴァントがいる。妙なことになっているな。コイツは俺が何とかする。マシュ殿は手下を抑えてくれ」
「はい、了解しました!」
マシュが骸骨を片付けている内に、侍は刺突を敵に喰らわせた。相手は至近距離のビームで攻撃をいなす。影のは、シャドウサーヴァントと云うらしい。
「貴殿らの目的は知らない。だが、この場所には多くの民草がいる」
男が右側に帯刀している刀の一つに手をかけ、鯉口を切る。
「……加減はしない」
男の影が唸りながら、猛攻を仕掛ける。伊織は攻撃を全部刀ではじき返し、正面に刃を突き出した。
「地の型!」
女魔術師の火炎攻撃を避けると、伊織はもう一つの刀を抜く。名高い宮本武蔵で有名な、二刀流だ。
左手で抜き攻撃を防ぎ、体を回転させ攻撃を浴びせる。一太刀、二太刀、三太刀。かと思えば、二刀の刃を突き出した。
敵の体は有名な本屋があるショーウィンドウに衝突し、割れて落ちたガラスが突き刺さる。
「水の型」
油断したところを肩に一閃切り払われた。マシュがビーム攻撃を跳ね返し、剣士の方を向いた。
「大丈夫ですか!?」
「問題ない。このまま仕掛ける!」
そのまま二刀を荒々しく振るい、相手の攻撃の隙を与えない。ケガの部分からして普通は腕が上がらないはずなのだが、動きに支障はない。あまりにも人間離れしている動きだ。
敵が怯んだところで飛び上がり、猛えさかる炎の斬撃を繰り出した。
「火の型! ハァ!」
槍の男は彼の鮮やかな太刀筋ですぐに消滅した。思わず感嘆する。
舞台の参考に多くの殺陣の映像を見てきたが、これは、ホンモノだ。技の一つ一つが鍛えられている。一体誰からどうやって戦法を学んだのだろうか。演じるキャラ、刀鬼を想起させる出で立ちの男に興味が出てきた。
ルビーは次々に現れた不思議な人たちに興味深々だが、有馬は目まぐるしく変わる状況にぽかんとしていた。
「てやあああ!」
次に骸骨兵の背後から奇襲を仕掛けたのは、少年か少女か分からないが、とても優美な顔立ちの若者だ。剣は常に水を纏い、刀身は波のようにうねっている。
「ヤマトタケルさん! 助力感謝です!」
「「ヤマトタケルぅ!?」」
有馬とルビーが突然のビッグネームに驚く。
「そうだぞ。こっちは宮本伊織。なんと、宮本武蔵の弟子なんだぞ!」
宮本伊織……は知らないが、ヤマトタケルに宮本武蔵と言えば、日本人は知らない人がいないぐらい有名な英雄だ。さっきの声の主はとんでもないモノを従わせているのだろうか。
「セイバー、貴殿もマスターの指示で来たんだな。まだ着いていないようだ」
「魔力供給のパスが短いせいだな。立香がいないと、十分に戦えないから困る」
割って入ってきた骸骨兵の胴体を、タケルはあっさり切り裂く。女の影は、背後から忍び寄った伊織が首を落とす。影は黒い砂になり、消滅した。
[newpage]
「おーい、マシュー! みんなー!」
最後にやってきたのは先程の声のオレンジ髪の少女だった。彼女が例のマスター、立香だろう。
「先輩!」
伊織とタケルは彼女の元にやってくる。マシュは、とても嬉しそうだ。足の震えは止まっていた。こんなに味方がいたのなら、恐怖心もなくなってしまう。ヤマトが腕を組み、少し強めの口調で叱った。
「やっと来たな、マスター! 遅いぞ!」
「いくら一般人がケガしてるとは言っても、先にマシュだけを行かせるのは得策ではないぞ」
「……ごめん」
伊織とタケルはやれやれといった雰囲気で頬を緩ませた。
「まあ、今回は状況が状況なだけに仕方なかったか」
「どこぞの剣士と似て、人助け好きだからな」
「……俺にはその記憶がないのだが」
伊織は、にやついているタケルから目を逸らす。
「はー、やっと終わったわ……」
ずっと座り込んでいたが、やっと精神が落ち着いてきたので立ち上がる。ルビーと有馬も離れた。マスターと呼ばれた少女が、思い出したかのように俺たちの顔を確認する。
「挨拶が遅れてごめんなさい。私は藤丸立香っていいます。かなさんも無事でよかった。えーと、お二人の名前、教えてください」
少女に声をかける。お礼は言わなければ。
「星野アクアに、隣が妹のルビーです。助けてくださり、ありがとうございます。それで」
話の続きは、突如現れたリムジンのエンジン音に遮られた。止められた車のドアから出てきたのは、さっきのポスターや広告に大量に載っていた、妖艶な雰囲気の少女であった。
「あらあら、こんな所にいたんですね。センパイ!」
「……うっ、BBちゃん……」
黒いドレスには大量の金箔。BBと呼ばれた少女のド派手な格好に、苦々しい顔をするヤマトとタケル、マシュ。
「BBちゃんではなく、BBドバイですよ。ちゃーんと覚えて下さいね」
立香たちには可愛く振る舞うが、こちらには怪訝な表情をしたあと、慌てて笑顔を張り直す。
「失礼しました、別世界からの客人ですね。では、改めてご挨拶を」
彼女は黒いドレスの裾をつまみ、礼をした。
「私は自称ラスボス系後輩、兼人類の健康管理AI・BBちゃん、です! ここではBBドバイって呼んでくださいね!」
「か、肩書多いっ!」
いかにも裏があるような笑顔を浮かべる女性だ。転生前からこのような手合いの人たちは、もうわかる。
過去になにかやらかした経験がある、危険なヤツということを。警戒を怠ってはいけないが、とにかく質問してみるか。
「BBドバイさん。この状況は、あなたのしわざなんですか?」
「んー、半分正解で半分不正解です。ま、こんな所で話すのもあれですし」
BBが手を叩くと、観光客用のバスが出現した。
「私の所有するブルジュ・ハリファに行ってからにしましょうか!」
◈
高速道路から見える景色の様子が、ビル群から中東の街へ変わっていく。
かなとルビーは、ぼうっとしていた。気持ちはわかる。異世界に転移したと思いきや東京とドバイが合体し、過去の英雄らしき人物に助けられる。
色々ありすぎて、一旦思考を放棄した。
窓の外を見れば、ビルのあちこちには変な電光掲示板がある。カウントは0000。何を差しているのかはわからない。
帰れるのだろうか。ミヤコさんとも鏑木さんとも連絡がつかない。きっと心配しているはずだ。
乗っていたのは2時間ぐらい。バスから降りると、入り口に至る橋に着く。目の前には空に突き上げる超高層ビル、ブルジュ・ハリファが出迎えた。
しかし、謎めいたピンク色の結界で防がれているため、景観が残念なことになっている。
「うわー! ホンモノだ!」
「図書館の資料で高さは調べたけど、思ったより大きい!」
ルビーと立香が、鋼の塔の美しさにみとれていると、次第に集まってきた市民が、俺たちを讃える。
「うおー! BB様、本日も美しい……」
「キャー! こっち向いて!」
「みんな、BB様のお通りだ。道を開けろ!」
民衆の中心に、再びあの女性だ。こっちに優雅に歩いてくる。
「さっきぶりですね、センパイ!」
「BBちゃん、またなにかやらかした?
説明してくれない?」
「やらかしてませんよ、センパイ。星野さんたちについては、後で!」
立香はホントに? と言わんばかりの怪訝な表情をする。もうあり得ない状況にあることは理解しつつあるが、まだまだ状況説明は不十分だ。
「とにかく、私はセンパイに人類最高の夏休みを経験させるために、色々準備してきたんですよ。ついでに、そこのお客様たちも楽しんでください」
俺たちの手首に時計型のデバイスが出現した。手に取ると、0000の数字が表示されていることに気づく。あの掲示板と同じ表示だ。
BBは大きく声を張り上げると、市民が操られたかのように拍手する。
今から思えば、もう手遅れだった。
この時点で、俺たちは、人類は───。
「ようこそ、2030年のドバイ・トウキョウへ! 人類とサーヴァントの皆さんには、人類最後にして最高の観光を楽しんでもらいます!」
To be Continued……