リボーンファンタジア 立香編 推しの子は月にいる   作:ワフこねこ

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⚠️Attention⚠️

この物語は『Fate/Grand Order』の
奏章Ⅲのネタバレ
ゲストのオリキャラ
微CP描写が含まれます。

大丈夫な人は、どうぞこの先へ




#0(後) 未来のドバイ旅行/アイに囚われた男

 BBドバイの宣言の後、俺たちはオールド・ドバイのカフェで腹ごしらえをしていた。古きよき雰囲気が特徴の、穏やかな街である。

 

「いやー、BBドバイさんは太っ腹だね! 別世界の未来のドバイに異世界転移しましたーって話したら、旅行すれば絶対帰れますって、最高じゃない?! はい、お兄ちゃん、口開けてあーん」

 

 安心したのかお腹がすいた。ポテトとパンケーキを頼み、ルビーに食べさせてもらっている。

 

「味は、まあまあ悪くない。今度はルビーだな。はい」

 

 右の席に座るルビーは、俺がフォークでつまんでいるパンケーキの欠片にパクついた。とてもイキイキとしている。

 

 隣のテーブルに座る有馬は、電波の届かないスマホをなんとかしようとWI-FI の設定と格闘しながら、世界で一番の変人を見たかの如く引いていた。

 

「モグモグ! んー、私たち生きてる! 生きてるから、食べれる! 美味しい!」

 

 ヤマトさんは、ルビーを不思議そうに眺めている。

 

「ん? 変わったことをしているな」

「ノリでやってんのよ、ノリで。アンタら、よく他人の前で堂々とイチャイチャ出来るわね」

「? こんなん普通だろ」

「ん? 普通じゃないですか、かな先輩」

「あー、そうですかそうですかふーん」

 

 赤毛の少女は、棒読みで口をひきつりながら顔を反らす。お腹の音が聞こえた。すぐに耳が真っ赤になる。新しいフォークでパンケーキを1つ差し出した。

 

「べ、別に欲しいとは言ってないけど?」

「食えよ。減量中なのは知ってるけど、断食は身体に悪いぞ」

 

 有馬はフォークを受け取り、最後のパンケーキの一欠片を、嬉しさ満点で眺めてから咀嚼した。

 

「ホントに良かった。……生命があって良かった。改めてマシュさん、助けてくれてありがとうございました」

「い、いえ、アクアさん! 当然のことをしたまでですのでっ」

 

 生命がなければ、何も出来なくなる。痛感した事実があるからこそ、心から感謝したい。

 

 立香さんは唇を引き締めて、オレンジ色の髪を揺らし立ち上がった。

 

「あのさ。かなさんもアクアさんもルビーさんも、基本的にはタメ口でいいよ。私たちは同じ旅行仲間ってことになったし、堅苦しいのは好きじゃないからさ。いい、かな」

 

 微笑んで頷くと、立香さん……ではなく立香は口角を吊り上げた。

 

「じゃあ、旅行仲間として最初の質問。立香さん、キミたちは一体誰だ? 午前中の戦いは、明らかに常人ではないだろう」

 

 俺の質問に、白い襟がついた黒いノースリーブワンピースのマシュが、申し訳ないという声で答える。

 

「そうですね。こういう時はいつも、ダ・ヴィンチさんやドクターが説明役なのですが……。通信が繋がりませんので、私が頑張りますね!」

 

 彼女がメガネの位置をもとに戻しながら席を立った。何故だか、めちゃ張り切っていた。

 

       ◈

 

 BBドバイが言っていたサーヴァントというのは、伊織やヤマトのことである。彼らは人間ではなく、英雄などを使い魔にした存在だ(マシュはサーヴァントの中でもかなり特別な存在だという)。

 

 シャドウサーヴァントには彼ら彼女らしか対抗できない。事情は知らないけど、とりあえず人間よりも遥かに戦闘力が高い存在であると、記憶しておこう。

 

 そんなサーヴァントの皆が仕えるマスター・藤丸立香が所属する『カルデア』は、俺たちとは異なる世界からやって来た組織である。

 

「カルデアは、世界を取り戻すため日夜戦ってると。なんだかラノベみたいでカッコイイね、立香ちゃん!」

「……ルビー。人の話は最後まで聞け」

「はーい、お兄ちゃん。ごめんね」

 

 彼女らが来た理由は、2030年のドバイで観光を楽しむためだった。

 

 本来、カルデアはとある目的のために、アルセウスと呼ばれる神の試練を突破するため準備を進めていた(アルセウスもまた、他の平行世界を守る神である)。

 

 なのだが、試練の前に一休みと、BBがカルデアに『ちょっと未来の夏休みの旅行』を提案したという。

 

 彼女らは昨日先に着いていたメンバーと合流したが、ここが、別の世界───俺たちの住む東京と合体していると事態に気がついてしまった。このことはBBドバイにとって想定外だったらしい。

 

 さらに、事前に予習しておいた観光名所の位置が実際と異なるなど、何やら怪しい。なぜ渋谷にアイのポスターがあるのかについても、BBドバイは知らないの1点張りだった。

 

 特殊な環境下で任務をこなしてきたカルデアでも、このカオスっぷりはおかしな状況なのだ。そして、カルデアもBBドバイが何か隠し事があると疑念を抱いている(謎根拠で彼女を信じているルビー以外)。

 

「んー、な、なるほどー。現実味なさすぎだけど、カルデアも私たちも予想もつかないことに巻き込まれたんだね。んー」

 

 かなもルビーも、微妙にめんどくさそうな表情を浮かべている。このようなシチュエーション、認めたくはないが受け入れざるをえない。実際なったことは、信じるしかないのだ。

 

「立香。シャドウサーヴァントは、なんで私を狙ったのかしら?」

 

 彼女はポテトに手を伸ばしつつ、返答する。

 

「んー、それが分からないんだよね。このドバイ・トウキョウで、シャドウサーヴァントは夜しか徘徊してないんだ。不思議なことに、現地の人には何もしてこなかった。今まで人を襲った例は、なかったんだけど」

 

 かなは少しだけ表情を硬くする。

 

「なるほど。私が初めての例、と。……この混沌とした状況下で、今頼れるのはあなたたちカルデアぐらいでしょうし。もしも襲われたら、守ってもらうしかないわね。この『幸せスカウター』を9998にするまでは」

 

 かなは、人差し指で右手の時計型のデバイスを差した。画面には『0030』と並んでいる。

 

 ドバイBBの説明によると、幸せを感じれば、幸福度を感知して値が上がっていく。最後の1ポイントはBBドバイが『特別な出し物』でカンストし、理論は知らないが、最終的に元の世界と時代に帰れるらしい。

 

「話をまとめるわね。カルデアは、私たちとは違う世界からの来訪者。このドバイ・トウキョウは別の世界の2030年のドバイと私たちの世界の東京、2つの平行世界が合体して出来ている、と。で、

 

 シャドウサーヴァントやらからカルデアに身を守ってもらいつつ、観光やらで幸せスカウターを9998にする。そうしないと、元の世界に帰れない」

 

 有馬はベレー帽を被っているのも気にせず、髪をぐしゃぐしゃにした。

 

「ふざけんなぁ! 私には仕事があんのよー仕事が! アイツのせいでしょう、もう!」

 

 有馬と同じ気分だ。観光より、早く、帰りたい。

 

「そうですかねー、かな先輩。BBドバイさん、良い人だと思いますよ。無事に立香さんの仲間も帰還できるって言ってたし、信頼していいと思います!」

 

 頬杖を突くかなに、ルビーは呑気な顔で反論する。自撮りしようとしたが、有馬に目で注意されてスマートフォンをかばんにしまった。

 

「はあ~。全くルビーは純粋過ぎるのよ。アンタ、やっぱり人を見る目ないわね」

「ええ……」

 

 立香はバーガーを一口食べようとしたが手を下ろした。

 

「うーん。BBちゃんはちょっと失敗する時もあるけど、善意はちゃんとある人だよ。でも、なんだかいつもより、イジワルな行動が回りくどいというか。幸せカウンターなんて、なんで用意したんだろう」

「イジワルってやっぱりヤバいヤツなんじゃ」

 

 伊織さんは、口元をナプキンで拭いた後、真剣な顔をする。

 

「BBドバイが何を企んでるか知らないが、アクア殿にルビー殿、それに有馬殿を無事に返すため、善処せねばな」

「もちろんだ、伊織! 観光も警備も両方頑張らねばな!」

「はい、伊織さん、ヤマトさん。皆さんも、よろしくお願いします」

「お待たせしまシタ」

 

 店員が、俺たちが注文したのと同じメニューをヤマトの前に置くと、すぐに彼(彼女?)が口に頬ばった。

 

 あの店員、ラクダの被り物をしている。趣味か? いや、余計な詮索はよそう。未来に、常識は通用しないかもしれないから。

 

「ん~、カルデアのも良いが、未来のドバイの食事も悪くない!」

 

 ヤマトは次々に口に食べ物を放り込む。が、むせてしまい、ルビーが咄嗟に水の入ったコップを差し出す。剣士はお礼を言いつつ、一気に飲み干す。

 

 伊織は父親のように隣でヒヤヒヤしながら、オムライスを食していた。立香が突然、頭を抱える。

 

「あ! 望月さんから頼まれてたこと、すっかり忘れてたぁ!」

「も、望月さん?」

「うん。実は観光の他に、やることがあってね。連絡したし、もうそろそろ来るはずなんだけど」

「それが、先ほど通信機を確認したところ、先程連絡が来ました。あと15分くらいで着くそうです。『迷っちゃった、てへ☆ ごめんね立香ちゃん』と」

「…………」

 

       ◈

 

 カルデアの人々が待ち人を待たず次の行先を決めている間、有馬がオレの隣に座った。

 

「さっきは急に抱きついてごめんなさい」

「状況が状況だけに仕方なかった。悪かったな、肩触ったりして」

「ん、き、気にしてないわよ。あれはセクハラの範疇にないわ」

 

 有馬の頬が少しだけ赤く見える。俺と目を合わせない。

 

「ありがとう、アクア。あのときアンタがいなかったら、影の化け物から1人でずっと逃げて、震えてただけだったから」

 

 トイレから戻った妹が、真っ赤になって俺の前にすっ飛んできた。

 

「ムムムムムムッ! お兄ちゃんから離れてよ、かな先輩! 隣は私の席って決まってるんですから!」

 

 ルビーが怒ると突然ドアが開き、ベルがけたたましく鳴らされた。

 

「やあ、マシュくんに立香ちゃん! 遅れてゴメン!」

 

大きな声が、他の客を振り返えさせる。入店してきたのは、緑がかった黒髪に、黒ブチメガネをかけた青年であった。

 

「旅行で道を間違えるのは仕方ないけれど、早く連絡してくれれば良かったのに」

「ごめんねー。あちこち写真を撮ってたから、通知に気づけなくてさー」

 

 他の客に大声を出したことを謝りつつ、男は立香の前の席のイスを丁寧に引き、座る。ラクダ頭の店員がすかさずやって来た。

 

「お客サン。ご注文は」

「んじゃ、コーヒーを一杯。お、アンタらが例の新しい子羊ちゃん? 俺、望月翠。よろしく」

 

 彼は、震えた左手を前に差し出しかけたが、降ろして反対の手で握手を求めた。メガネの奥にある暗さと明るさ。そして、端正な顔。

 

 この望月という男、アイが生きていた頃にどこかで会ったような。有馬は彼の姿に驚くと、席を立つ。

 

「間違えてたらすみません。あなた、アイが出演してた『それが始まり』の脇役の方ですか!」

「よく覚えてるね。10分くらいしか出番なかったのに。って、あれあれあれ!?」

 

 彼は有馬をまじまじ凝視すると、口をあんぐりとさせた。

 

「キミ、もしやかなちゃん!? え、じゃあ、キミは」

「望月さん、星野アクアです。お久しぶりです」

「うわー、待って。あんなに小さくて可愛かったのに、ビックになって……。で、キミは」

「……すみません。どなたです?」

 

 突如現れたイケメンに、おろおろとするルビーの頬を、元天才子役がつねった。

 

「あなた、伝説の超天才子役に失礼ね! 望月翠を知らないなんて信じられない!」

「で、伝説の超天才子役ぅ?!」

「そーよ! かつて、一世を風靡したドラマ『Letter』で全日本を涙で濡らし、日ドラ『祈りのうた』じゃ、甘いマスクで全国の女性をメロメロにしたわ。1995年の新人ドラマコンクールでは、大賞受賞と脚本の才もある! この人なくして、今の子役界はないわよ」

 

 かなの熱のこもった説明に望月さんは心臓を抑えた。

 

「え、へへへ……。熱弁ありがとう。今の子に昔の功績を誉められるなんて、嬉しいな」

 

 ルビーは真っ正面から先ほどの非礼を詫び、深くお辞儀をした。

 

「改めまして、星野ルビーです。新生B小町っていう、アイドルやってます!」

 

 妹の発言に、元子役の男は嬉しさ半分、困惑半分の顔をする。

 

「B小町!? 俺の最推しのアイちゃんがいた、あのB小町!?」

「復活したんです、有馬先輩とMEMちょと一緒に」

「そうか、君たちがアイちゃんの遺志を継いで」

 

 彼はメガネを外し、目頭を抑えて必死に涙を堪えていた。女の子の前でカッコ悪いところを見せまいとする彼もまた、アイの死に涙した1人だ。

 

 と思いきや、ルビーをちらちらと見てにやつき始める。

 

「いや。……やっばい、ルビーちゃんもめちゃくちゃカワイイ。新しい推し、追加的な? いやいや、待て! お、俺は彼女がいるけど一生アイ推しであることは変わらないんだ。でもな」

 

 情緒不安定な彼は早口で、新たな推しにドキドキとしていた。

 

 しかしこの俳優、映画『それが始まり』の時はこんなに若くなかった。年齢は30代後半ぐらいだったはずなのに、15歳ほど若返っている。透き通った肌がみずみずしい。

 

 望月さんは落ち着きを取り戻すと、一同に呼び掛けた。

 

「んー、よし。大人にならないと。なんでカルデアが俺に協力しているのか、ドラマのことについて、ちょっとだけ話しちゃおうか」

 

[newpage]

 

 俺たちが異世界に迷い込んだことを、彼はよく頑張ったねと頭を撫でてくれた。ちょっと恥ずかしい。彼は色々と訳があるようで、このドバイ・トウキョウでのロケにこだわっていた。

 

 撮影・編集ともに2週間ほどで完成させなくてはならない。早速ドラマ撮影で使うロケ地探しを単独でしていた。しかし、理想のキャストがなかなか見つからなかった。

 

「一人でって、無茶すぎません?」

「はあ、だよね。偶然出会ったカルデアのみんなには、助けられてる。映画と舞台制作の経験があるからね」

「え、映画作ったことあるの?」

 

 ルビーが首を傾げると、立香は首の後ろを掻いて照れくさい様子で咳払いをした。

 

「う、うん。どうしても制作しないといけない事情があって。内輪で楽しむ用に動画が保存してあったんだけど」

「撮影技術も脚本も、どれもプロ並みのクオリティだったよ。キャスティングもバッチリだった。

 

 この人たちならもしやすると、理想のキャストを集められるって観光がてらお願いしたんだ。

 

 けど、それでも難しかったんだよね。なんつーか、情熱がないんだよね、この街の人は。変だよね。あ、いっそのことキミたち出ない?」

 

 有馬と俺も、この一言しか出ない。

 

「「すみません、ここ早く出たいんでムリです」」

 

 素人でも分かる。大体、撮影なんて一週間そこらじゃできない。なぜ2週間なのか疑問は尽きないが、断るしかない。

 

 だいたい、こんな土地勘もない土地でロケ自体無謀がすぎる。

 

 あの有名なドラマ『祈りのうた』の主演俳優であった望月翠が、ドラマのことを知らずにムリヤリなスケジュールでドラマを作ろうなど、一体どういうつもりなのだろうか。

 

「じゃ、ロケ地探しだけでも! 頼むよ、協力してくれないかな!」

 

 立香が瞼を閉じて、手を合わせる。緊張で体がガクガクだ。

 

「ぷっ、アハハハハ! もー、腹くくるわ!」

 

 急にかなが笑い出したのでみんな、彼女の方を振り向く。

 

「いいわ。一周回ってやる気出てきた。今度は私が助ける番。お礼として、付き合ってあげる。これも何かの縁だしね」

 

 立香の目がキラキラしていく。

 

「こんなめったにない状況なんだもの、やってやるわ!」

 

 有馬は立香の手を握る。ルビーはオレンジジュースを飲み干すと、目線で手を取れと促した。困っているなら放っておけない、付き合ってみることにする。

 

「幸せスカウターが9998になったら帰るからな」

 

 ルビーは俺が乗り気になったことにニコニコとしていたが、自分だけ仲間はずれにされたくないと慌てて望月さんの手を取った。

 

「わ、私は演技出来ませんが、お、お手伝いなら出来ますので!」

「うううう……。みんなありがとう。ここじゃ同郷なんてほとんどいないからさ~」

 

 俺たちを拝んでいる望月さんに、ルビーが元気な声で呼びかけた。

 

「よし、じゃ行きましょう! 観光兼、ロケ地探しスタート!」

 

       ◈

 

 こうして、ロケ場所選びという名の観光を楽しむこととなった。まず、望月さんの知り合いがオーナーである豪華なホテルに泊まらせてもらった。

 

 次に、カルデアのメンバーであり、立香の護衛役兼ドラマスタッフとして働いているニキチッチ、テノチティトラン、徐福、カルナ、パーシヴァル、カルナを紹介される。

 

 後にXXオルタという、立香と以前、別の宇宙で知り合ったという少女が加入する。

 

 皆基本はいい人だ。でも、そうとは限らないときもある。

 

テノチはドバイの街並みをしきりに褒め称えたと思いきや、隙あらばマスターである立香にアピールをしてくるのはちょっとだけ不快に感じる。

 

 徐福の方はたまにぐっさまという人を探しに行くので、他人が監視していないとどこかに行ってしまうので、面倒である。

 

 ドバイのあちこちにいるカルデアの面子と関わって、理解できたことがある。

 

 英雄故に、サーヴァントたちが常人には考えられない行動をするのは、仕方ないのだろう。日夜彼らと過ごす立香も、大変な思いでクセがある英霊たちを率いているのは、とても尊敬できる点だ。

 

 ドバイでは、様々な場所を巡っていった。砂漠でラクダレースや、古き良き街並みでのショッピング、海での水遊び。

 

 ホテルでの、朝焼けと頬が落ちるほど美味しいモーニングビュッフェも印象的だった。

 

 もちろん、東京でもロケ場所選びが敢行された。彼女もまた東京出身であり、パートナーのマシュに色々と紹介していた。新しいおしゃれな服も購入したようだ。

 

 BBドバイに雇われたカルデア所属のガイド役であるパッションリップも、協力してくれた。

 

 立香から水着を貰ったときの瞳は、ドバイの波が霞むほど輝きに満ちていた。サーヴァントでも、金の大きいカギ爪があっても、彼女は穏やかな少女だ。

 

 人ではないのに、人に見えること。それがあまりにも不思議な感覚だった。

 

 くだらないことを思い出してしまったが、途中で立香の知り合いが海で暴れていたり、砂漠の真ん中の洞窟で怪しげな儀式をしようとしていたのは、別に忘れてもいいと思う。

 

 そして、あっという間に1週間が経ち────。

 

       ◈

 

「もうカウンターが9998に! 時が経つのが早すぎる!」

「だよね、ルビーさん! 早すぎる!」

 

 最終日。再びブルジュ・ハリファの前に立っていた。ピンクのバリアは消えている。

 

 伊織とヤマトタケルは、俺たちを見送らず、ギリギリまでドバイ・トウキョウを楽しみ尽くしたいので途中で別れた。2人とも、爽やかな表情であった。

 

 立香とルビーの叫びにパーシヴァルさんが、くすっと相好を崩す。

 

「確かにね。不穏な点はあったが、皆が無事に過ごせたことは喜ばしい。

 

 事前情報と地理の違いに、ある程度奥へ行ったら、最初の出発点に戻される砂漠。何より、カルデア本部と連絡が取れないことは残念だったが」

 

「そうだな、パーシヴァル。気になることは山積みだが、楽しい夏をお前たちと過ごせてよかった」

 

 カルナさんがサングラスを外しながら頷く。俺たちが巻き込まれた初日から、影の目撃情報もない。

 

 襲われた理由が謎が謎のまま終わるのは気持ちがいいものではないが、帰れる流れになっているだけマシだろう。

 

「脚本も詰められたし、ロケ地探しもばっちりできた。……できれば、アンタらと撮影できたら良かったけどなー。そっちも仕事あるんならしょうがないか」

「はい。望月さんもお元気で!」

「……こっちこそ。楽しい時間をありがとう」

 

 明らかに未練がある声で別れた男は、自動運転のロケバスに乗り、去っていった。

 俯き、ビクビクしているエレキシュガルに立香は近づく。

 

「もう角は隠さなくて大丈夫だよ」

 

 エレシュキガルはここに来てから、原因不明の頭痛に悩まされていた。なんと、彼女はこの世界を滅ぼせる存在・ビーストに存在が変化しつつあった。

 

 普通なら全力を持って倒さなければならない事態。しかし、この冥界の女神は自分が倒されること、そして自分のせいで夏休みが台無しになることを恐れた。

 

 ビーストの象徴である角を立香から貰った帽子で隠し、皆に黙っていたのだ。

 

 カルデア側からしても、角が生えているだけで生真面目な性分に特に変化はないので、とりあえず様子見していた。

 

 俺たちや望月さん含めて、皆密かに彼女の意向を汲んで黙っていたのだった。

 

「え、も、もしかして私がビーストだって気づいてたの!? な、なんで皆して隠して」

 

 エレキシュガルの質問に、立香は冷静な表情で答えた。

 

「もしBBが本当に悪意をもって何かをやろうとしてるなら、止める時に秘密は邪魔になる。だから、黙ってたの。ごめんね」

「……」

 

 妹は言葉を飲み込んだ。ただの少女がする顔ではない。女神もただ黙って、彼女の好意を受け止めるだけだった。

 

「……ま、こんだけのサーヴァントが揃ってるんだもの。何があっても大丈夫でしょ」

 

 かながシリアスな空気を和ませようと、自信満々にカルデアに笑いかける。

 

 その間に、続々とモールから人々が現れ、拍手する。例のサーヴァント、BBドバイが俺たちの前にテレポートしてくると、民衆の熱気は最高潮に達した。

 

「皆さん、お越しいただきありがとうございます」

 

 なぜ人々が興奮しているのか。理由を熟考しても答えらしきものは出なかった。

 

「BBドバイさん。本当に元の世界に帰してくれるんですよね」

「ええ。サーヴァントの皆さんは帰しますよ。さて、ショーの始まりです! トドメの幸福、プレゼントしてあげましょう!」

 

 上空に幸せカウンターのパネルが表示され、カウントが一つ上がり9999となった。

 

 が、まだ装飾が動く。その下には気味が悪いぐらい小さな文字で『999999……』と表示されていた。桁数はすぐには数えきれないほど跳ね上がっている。

 

「ギャー! なんなのこれ、気持ち悪いよ~!」

 

 徐福が甲高く悲鳴を上げた。笑顔を張り付けたまま、民衆が迫ってくる。花火を打ち上げる音が聴こえる。

 

「おめでとうございます! おめでとうございます! これで人類のやり残しはなくなりました! もう、あなたたちはいなくなって良いのです、アクアさんたちの世界も『なくなって良くなったのです』!」

 

 意味が、理解不能だ。

 

 ますます人混みは膨らむ。彼らにとっては害することも簡単だが、相手は非力な悪意を持たない一般人。一方的な攻撃は許されない。

 

 サーヴァントたちはされるがまま人の洪水に流されていく。

 

 ふわふわとした心底に、暗雲が立ち込める。

 

 このままいては、無事では済まされないのは理解しているが、民衆の言動に、脳が混乱しているのだ。

 

 そんな俺たちを、立香の声が現実に引き戻した。

 

「みんな、ブルジュ・ハリファに登ろう!」

 

 もう助かる方法はたった1つだ。護衛の英霊たちが民衆を押し退けながら作った道を、足早に歩いていった。

 

       ◈

 

 エレベーターから降りると、紫のライトが光る、ラグジュアリーを感じされる部屋があった。窓の外からは夜空が覗く。

 

 そして、見下ろした光景に、息を止めた。

 

 人工なのだ。砂漠も、大きな湖も。そして、夜空の中心には、地球があった。

 

 異世界とか、平行世界という次元の話ではない。地球から地球が眺められる訳がない。考えられるとすれば、そう。たった1つしか思い付かない────。

 

「こ、ここは、月!? 月に作られた人工都市、なんですか?」

「その通りです」 

 

 リップの答えを、唖然とする俺たちの後ろから肯定する女がいる。反応するのもつかの間、勇敢な英霊はそれぞれ武器を構えた。

 

「そこまで身構えなくても結構です。愚かな人類のように、低能ではありませんので」

「どういうこと……」

 

 俺と瓜二つのルビーの瞳が、恐怖と混乱で揺れている。

 

「あらあら。なんて人間らしい反応でしょう! あなた方旧人類には感謝してるんですよ。私たち新人類である、AIでは幸福値のカンストは不可能でしたので」

「新人類が、AI? 信じられません、ね」

 

 テノチを含めた一同は驚くばかりだったが、言われてみれば怪しい部分はあった。

 

 一度も、この街で子どもを見かけず、人々は俳優やアイドルについて知らない。望月さんの言う通り、どこか機械的に物事を捉えていると心のどこかで引っ掛かっていた。

 

 AI故だ。何者か作られたAIを、未熟で間違いを犯す子どもとして造る必要はない。不完全で歪な職業も、不要だ。

 

「これでやっと、人類の終了方法を決定する選挙を開始できます」

 

 髪を振り乱し、かながAIのリーダーに詰め寄る。

 

「意味わかんない! 人類の終わりって何?」

「このドバイ・トウキョウで、旧人類はもう滅んでいい、ということです。アクアさんたちの世界は価値がないのでついでに、消してあげます。ある方の約定がありますので」

 

「頼んだヤツの言いなりになってるから、やるって訳? 冗談じゃな」

 

 有馬の声が突然ぶつりと切れた。口をパクパクとさせている。黒いドレスの彼女の力だった。

 

「かな先輩!!」

「ちょっと黙っててくれます? 旧人類のレベルに合わせて説明しているんですから、ちゃーんと聞いてくれないと」

「……BBドバイ、いやお前はBBじゃないな?」

 

 立香の凄まじい気迫に、彼女はニヤリと不吉な笑いを浮かべた。

 

「はい、私は人類の継続管理AIです。バグで生まれた健康管理AIのあの子なんて、あなたたちが来る前に宇宙空間にポイっ☆ としてしまいました。今ごろ、もう死んでいますよ!」

 

 歯を食いしばり、攻撃をしようとした立香を、BBはすぐに拘束した。

 

「安心してください。この月の滅亡は、立香さんが取り戻そうとしている世界とは無関係なモノですので。……アハハ、まあヒドイ顔をして!

 

 帰りたいのですよね、皆さん。でも、この私がいる限り、決定は覆りません。人類の皆さんは、帰る場所も、居場所もありません。だってここは」

 

 BBドバイはわざとらしい明るい口調で、無邪気に告げる。

 

「3017年のムーン・ドバイ・トウキョウ。残念ですが、地球に人類はもう────1人もいませんよ?」

 

       ◈

 

「なんなんだ、アイツら! 聞いてないんだけど!」

 

 アクアたちと別れた後、望月は黒ぶちのメガネを拭きながら、壊れかけたロケバスに舌を出す。

 

 突如現れたウサギのお面を被ったAIの集団に、突如強奪されてしまったのだ。もちろん抵抗はしたが、集団の動きが読めず、あっさりとバスから追い出されてしまった。

 

情けないし、腹立たしいことだが、今は再びカルデアと合流する方が最優先である。男の今後の計画には、彼女らが必要であった。

 

「……ッ!」

 

 背後から銃弾の音が聴こえ、精神が強張る。後ろを振り返ると、完全武装した3人のAI。そして、脇腹を抑え、苦しんでいる少女。

 

 逆光に照らされている乱れた黒髪の隙間。覗けば、心底にしまい込んでいた思い出が、青年の脳裏に浮かぶ。

 

 いつもいつも応援し、自分の原動力だった、B小町のセンター。

 

『望月さんがお仕事最近頑張ってるの、私知ってるからね』

『また、握手会来てね! 待ってるから!』

 

 未来の月に、究極のアイドルがいる。その理由など些末なこと。久々に芽生える想いがあれば、今はそれで。

 

「貴様、まさか、例の……! この出来損ないの化け物もどきめ、こんな所で何を」

 

 大事な推しとの再会に、機械人形の存在は邪魔である。うんざりしながら、望月はすれ違いざまにうるさい兵士からライフルを奪い、左手のみで、銃床を頭に食い込ませた。

 

 怯んだもう一人の兵士の頭に蹴りを喰らわせると、額にライフルの先を合わせる。

 

「去るがいい。二度は言わせるな」

 

 凄みのある低い声に、兵士は情けない悲鳴を上げ、気絶した2人を抱えながらその場から遁走した。

 

 望月はすぐに少女の傷を確認し、急所が外れていることに安堵するが、まだ安心できる状況ではない。

 

 大量出血している。推しに触れているというドキドキよりも、焦りの気持ちが前に出る。

 

 どこかに治癒能力があるサーヴァントなり人なりいればいいのだが。

 

「そこの貴方、せっかくのイケてる面が真っ青。そこの子も、結構ヤバい血の量だね」

 

 顔を上げれば少し離れた位置に、茶髪の少女がいた。おぞましいモノと化した男にとって、彼女も自分とは相いれない存在である。

 

 けれど、ここは救いを求めるしかない。かつての聖杯戦争の生き残りにして、月の女王ならば、治癒能力ぐらい持ってる。望月は、賭けた。

 

「キミが岸波白野か。頼む、彼女に回復魔術を! 借りはきっちり返すから」

「……ん、分かった。そこどいて」

 

 一瞬、迷った白野はアイに駆け寄ると、傷口に手をかざし始めた。アイの星の如く輝く瞳は、望月を捉える。男はその場で崩れ落ちた。

 

 ああ、ムリだ。この人の存在を、やはり無視できない。やはりアイツの言った通りになった。

 

 愛する人には申し訳ないが、計画の変更を伝えねばならない。

 

 一人、覚悟した男は自らの口元を手で隠した。

 

       ◈

 

 望月翠は、漆黒の願いに溺れた。この出来事が後に、新たな戦いと運命の始まりになることを、ある女と男以外誰も知らなかったのである。

 

To be Continued……

 




次回は11月頃投稿予定
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