リボーンファンタジア 立香編 推しの子は月にいる   作:ワフこねこ

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⚠️Attention⚠️
この物語は『Fate/Grand Order』の
奏章 『新霊長後継戦 アーキタイプ・インセプション』
『推しの子』
のネタバレ、微CP描写が含まれます。

大丈夫な人は、どうぞこの先へ


#1(前) アイ復活?/月に囚われた俳優たち

「3017年のムーン・ドバイ・トウキョウ。残念ですが、地球に人類はもう────1人もいませんよ?」

「3017年!?」

 月の市長は、満足そうに肯定する。

 

 ブルジュ・ハリファの頂上に位置する豪華な部屋、混乱と衝撃の最中にいた。俺たちの前をサーヴァントたちが守ってはいるが、肝心のマスターは拘束されている。

 

 カルデアの1人であるエレキシュガルはショックで気絶してしまい、必死に他の仲間たちが起こそうと体を揺すっている。有馬は彼女の機嫌を損ね、声を出せなくされていた。

 

 未来の月面都市? 旅行中の現地の人々は、全員AIだと? 異世界にいることは次第に受け入れてきた。それでも、信じられない。あの人たちのどこにも、機械らしい部分は皆無だった。

 

「それに私、旧人類の皆さんを返すつもりは一切、ありません。理由なんて、些細なことです」

「死ぬつもりはない。サーヴァントのみんながいる。お願い」

 

 一呼吸。立香は鋭い口調で願った。

 

「帰して。私たちをあなたの世界に閉じ込めた所で、得になることはないよ」

「そうですね。邪魔ですし」

 

 市長が考えながら指を鳴らすと、宙にパネルが浮かび上がる。画面には、地上に残っている他のカルデアのメンバーが映っていた。

 

「サーヴァントの皆さんだけ、帰しますね」

 

 英霊たちが、次々と光になって消えていく。悲鳴が聴こえる。

 

『うわわわわわ?!』

『一体これは?』

『強制的にカルデアに帰されてるなんて、ピグレットを守るヤツがほとんどいなくなるじゃないか!』

『助けて、マスター! マスター!』

『アクアたちが不味い……! セイバー!』

『伊織!』

 

 強力で頼れる彼女の友人たち。夏休みを楽しもうと意気込んでいた英雄たちが、次々と、偽物のドバイからいなくなっていく。

 

 部屋にいる護衛たちの体も消えかけているが、まだ諦められない様子でいる。動揺を堪え、マシュが拘束を外した。BBドバイに声を奪われた有馬も、歯を食いしばり、睨み付ける。

 

「もうお分かりでしょう。私は、アナタたちの敵です」

「……この嘘吐き!」

 

 冷酷に言い放った市長の前に出ようとしたルビーを、パーシヴァルの槍が遮った。

 

「よくも、騙しましたね。お覚悟!」

 

 それぞれが、ありったけの力を込めて仕掛ける。

 

 だが、まるで相手にならない。彼女をバリアが覆い、神霊であるテノチの武器は容易く折れた。上級AIからあふれ出た金箔は後ろの徐福の動きを鈍らせる。

 

 リップと、札を出しかけていた徐福は、水流であっさりと、左右の壁にめり込んでしまった。

 

 すると、徐福と、鎌を振りかざしていたXXオルタとニチチッチ、テノチは光の玉で包まれ、縮小。瞬く間にBBドバイの体に吸収されてしまった。

 

「はい。弱すぎて相手になりませんでした」

「……!」

「殺してはいません、アクアさん。今のはコーデック。私のコレクションにしただけですにしても、なぜエレキシュガルさんとリップには効かなかったんでしょう? ……まあ、いいです」

 

 残ったのはマシュとリップさん。そして男性陣のカルナさんとパーシヴァルさん、そしてバーソロミューさんだけだ。

 

 仲間を吸収されてもなお、サーヴァントたちは消えゆく体で立ち向かおうとする。残念なことに、まだバリアは傷一つついていない。

 

「うざったらしいですね。なかなか、倒されてくれないなんて」

 

 敵が指を鳴らすと、三人の足元から水流が溢れていく。各々回避しようとするが、水は柱となり、彼らを壁へと叩きつけた。

 

「こうなったら、最終手段です」

 

 ドレスの女の前に、乱雑な光の巨大な紋様が浮かぶ。上から何か音がする。見上げると、銀の巨大な箱がそこにはあった。圧倒的な威圧感。光が集まり始めた。

 

「ムーンセルの観測光を使います。サーヴァントのみなさんも、リップも、霊基の情報ごと消滅してください」

 

「逃げて! 光に触れたら最後、マスターとの思い出ごと消えちゃいます!」

 

 吹き飛んだリップが真っ青になって遠くから叫ぶ。3人はフラフラと立ち上がりながら、主に指示を仰ぐ。

 

「マスター、まだ逆転の手はある。太陽の槍、攻撃が通じないごときで怯まん」

「カルナと同意見だ。戦闘不能にし、帰還方法を聞こう」

「いや、撤退をするべきだ。攻撃が当たらない以上、戦闘の必要はない」

 

 カルナさん、パーシヴァルさんは排除、バーソロミューさんは逃亡。いきなり選択肢を投げられた琥珀の目は、小刻みに震えている。

 

 時間がない。箱の起動音が響く。カルデアのリーダーは戸惑いながらも、マシュに俺たちを縦の内側へと入れるよう指示した。急ぎ、男性陣も入り込む。

 

 リップはどこにいる? さっきまで、起き上がろうとしていたはずだ。

 

 激しい光が襲い掛かってくる。反射で目を閉じた。ダメだ、誰も彼女に敵わない。ああ、なのに。

 

 マシュの前に誰かが手を広げている。大きなカギ爪の、ドバイを案内してくれたガイド。パッションリップだ。

 

 目を開けると、後ろを振り向き、花のような笑顔を浮かべている。その体は、立香がその名前を口走る間もなく、数秒の後消滅した。

 

 カルデアがムリなら、戦闘能力が一切ない人間に出来ることなんて1つもなかった。バーソロミューさんは生き残った。カルナさんとパーシヴァルさんはBBドバイの気まぐれか、コーディックされている。倒れているエレキシュガルも無事。

 

 だが、リップはいない。もう誰も、失いたくないと思っていたのに。

 

 BBドバイは倒れているエレキシュガルに歯ぎしりするが、すぐさま冷静さを取り戻した。

 

「気が変わりました。アナタたちには幸せカウンターを満杯にしたお礼として、人類ラスボス決定戦への参加権を与えます」

「は?」

「アクアさん、殺さないのかという顔ですね。別に、旧人類自体はどうだっていいんです。あの人が、うるさく殺害を指示してるだけですので」

 

 変なAIだ。

 

「では、お帰りください。次は見逃しませんから」

 

 突然、視界が薄れゆく。全員が倒れかけているなか、ドレスの女は固い形相で、立香の頭に何かを撃ち込む。声を出しかけ、意識はそこで途切れた。

 

       ◈

 

 嗚咽が、耳から入り込む。

 

「なんで、なんで?さっきまで、あんなに楽しかったのに。どうして────、どうして────?

 

 何でみんな焼けちゃったの……? 私はなにも悪いこと、してないのに。リップ……、リップ」

 

 泣いていたのは、座り込んでいた立香だった。どうやらブルジュ・ハリファの前に戻されたらしい。

 

 さっき撃ち込まれたモノの影響なのか、様子が変だ。幼児退行ではないだろうけど、記憶が混乱してる。有馬とルビーが、彼女をなだめていた。

 

「おっと、やっと起きたか。アクアくん」

「バーソロミューさん」

「弱った弱った。まさかの事態だ。でも、契約のパスは繋がっているだけマシかな? アハハハハハ」

 

 彼は、周囲を用心深く見渡しながら、銃を握っていた。明らかに強がっている。

 

「泣かないで! アイツに仲間を取られるわ、殺されるわで気持ちは、わかるよ。でもさ、ほら」

 

 妹がおどおどしながらも柔らかい声で、後ろから立香を抱き締める。思い出した。落ち込んでいるとき、アイがこんな感じで励ましてくれて、安堵したことを。

 

 何か、話さなければ。正面に座り込む。

 

「聞いてくれ。リップは犠牲になった。でも、あの行動は無駄じゃない、カルデアと俺たちを帰すためだ。アンタが落ち込んでも、状況はいい方には転がらない。まずは動こう」

 

 話に耳を傾けた少女は、はっと正気に戻ると、首を振って後悔を頭の中から追い出した。

 

「ごめん、取り乱してた。ごめんね」

「謝らなくていいよ、マスター。キミのせいじゃないからね。さて、と。戦力になるシャドウサーヴァントは、何騎ぐらい喚べるかな?」

 

 口調が戻っている。気になるのは先ほどの挙動だが、それどころではない。立香は赤い模様が入った左手を掲げると、地面に召喚陣が浮かぶがすぐに消えてしまう。ぎゅっと、少女の口が引き締まった。

 

「1騎ぐらい。撃たれたせいで、調子が悪いみたい」

「でも、頭に傷はないな」

「確かに、痛くない。アクアさん、私全然なんともないみたい」

「……? 痛みがないなら、いいというモノでもないだろう。フーガリア特異点でのキズのこともある。帰ってから、詳しく検査しよう、マスター」

「うん。でも、この人数じゃ」

 

「船員は減っても、まだ6人もいる。細い水路を辿っていけば、いつかは広い海に着くさ」

「そうか。そうだね。やっぱりバーソロミューは頼りになる」

『いたぞ、捕まえろ!』

 

 後ろから、旧人類を狙うAIたちの群れが追ってくる。

 

「それにしては、大波が過ぎるな! アクアくん、エレキシュガルを運んでくれ」

「は、はい!」

「戦闘は最低限だ、走るぞ!」

 

 すぐさま、反対方向に足を向ける。

 

       ◈

 

 オフィス街に逃げ込んだ。喉はカラカラとしているが、やっと巻いたという安心感の方が感情としては上だった。人は全く見かけない。代わりにスーツの男たちやうさぎのお面にぼろ布の集団が、ゴロゴロと倒れている。

 

 あれほど走ったのにもかかわらず、まだ背中のエレキシュガルは気絶していた。

 

「うわ、どういうこと、って」

 

 共に走っていた有馬の声が元に戻っていた。ルビーが感動し、有馬の両手を握る。

 

「わー、良かったぁ! かな先輩!」

「声、出たのか。有馬」

「BBドバイさんの部屋から、離れた影響でしょうか? とにかくほっとしました!」

 

 マシュが喜ぶ。ベレー帽の赤毛の少女は、強く掴みすぎとルビーに赤面しながら注意する。その眼は潤みつつ、俺の方向を見て笑い返していた。

 

「お、無事だったか! アクアくんとカルデア一同!」

 

 横から望月さんがぬるりと現れた。表情が晴れやかになると、急に近くに寄られる。

 

「さ、さっきぶりです、望月さん。この倒れている人たちは」

「アクアくん、俺がやったんじゃないよ?」

 

 次に現れたのは、スポーツジムのトレーナーの格好をした少女だった。茶髪のポニーテールと、意思が強そうな瞳をしている。立香は、即座に頬を緩めながらその名を呼んだ。

 

「あなたは! ザビ……!」

 

 一瞬、眉を潜めた少女は口元を上げる。

 

「ザビエル、じゃないよ。岸波白野」

「あっ、そうでしたね。ごめんなさい!」

 

 急に現れた人に、当然不信感はある。だが、不思議だ。このスポーツジムの格好の女性には嫌悪感がわかない。根拠もないが、なんとなく白野さんに頼れば、無事に帰れるかもしれないと思えてしまう。

 

 茶髪の少女は優しげな表情を引き締めると、こちらに来るよう手招きする。

 

「来て。さっき治療が終わった人がいるの。流石に3人じゃ、彼女を危険に晒すことになる。カルデアの力を借りたい」

 

「もちろん、協力しますよ。あなたの後輩ですし。でも白野さん、その方とは? サーヴァントですか?」

「たぶん違う。雰囲気からして、私たちの次元の人じゃないと思う。……望月さん、また追っ手がくるかもしれない。見張ってくれる?」

「了解したよ、まだ借りを返していないしな」

 

 望月さんが後ろを見張ると、白野さんにぞろぞろとついて道を曲がる。ビルの柱にもたれかかる何者かがいた。

 

 

「すみま────」

 

 女性が顔を上げる。空に輝く星の如く、キラキラとした瞳。整った唇に鼻、紫がかった夜の如くキレイな黒髪。全部、覚えている。ずっと前から、キミを知っている。過ごした日々も言葉も、鮮明に。

 

 願いが、フラッシュバックする。

 

『ルビーももしかしたら、この先アイドルになるのかもって思ってて。親子共演みたいなさ。楽しそうだよね。アクアは役者さん? 2人はどんな大人になるのかな』

『この言葉は絶対嘘じゃない』

『愛してる』

 

 ただの女性じゃない。やっと声を絞り出す。

 

「アイ……だよな?」

 

 星野アイだ。正真正銘、間違いない!

 

 彼女の目はぱちくりと、交互に妹と俺を見つめた。

 

「ムリして答えなくていい。治ったとはいえ、ケガしたんだろ。ゆっくりでいいから」

 

 ルビーは混乱と驚き、喜びの表情で母親を覗き込み、ボロボロと涙を零す。

 

 次の問答で、凍り付いた。

 

「ごめんなさい。えーと。あなたの名前、覚えてない。ファンの人?」

 

 答えが出てしまった。やっと会えた人は、記憶喪失であることを。

 

 ずっと一緒だったから母親の行動はなんとなく想像がついていた。普通の状態だったら、確実に俺と妹の名前をすぐさま呼んで、慌てて取り繕うだろう。

 

「……そうです。俺たちは、あなたのファンです」

 

 胸が苦しくて、たまらない。やっと出会えた人だったのに、母親なのに。有馬に俺たちのことがバレないように、自己紹介をするなど。

 

 ルビーも、長い期間過ごしてきた憧れのアイドルが、自分のことを覚えていないというショックに絶望している。

 

「わあ、嬉しい! こんなところで会えるなんて!」

 

 アイは雰囲気がおかしいことを察しているのかいないのか、わざと明るく異世界から来た旅人に話しかけた。

 

「私のこと、知ってますか?」

「ごめんなさい、知りません」

「私、B小町の星野アイです。職業は……アイドル! 今度、東京ドームでコンサートあるんだ。女優も、やってます!」

 

 立香も有馬も、なにか俺たちに言いたげにしていたが、その唇からしばらく音が発せられることはなかった。気を遣わせている。俺たち哀れな双子が、アイのファンであることを話していたことを思い出した。

 

 あまりにも、こんな仕打ちはない。

 

       ◈

 

 ビル街にいれば、また機械に追いかけまわされる。白野さんのアドバイスで、さきほど、砂漠に移動した。

 

 辺鄙な場所なら、しばらくは市民に追跡されないだろうが、流石にこのままという訳にはいかない。ホテルに荷物を取りに行ったし、あとは新たな休憩場所が必要だ。

 

 移動手段はラクダではなく、自動も手動も可能なハイテク船である。バーソロミューさんは舵を取りながら、楽しそうに、船に搭載されたAIと会話していた。こちらの方をちらちらと様子を伺いしつつ。

 

 B小町のかつてのセンターはかなり元気そうに、現センターである有馬とアイドルについて談義している。望月さんは仮眠中で、まだエレシュキガルは目を覚まさない。ただ、砂の海を眺めていた。

 

 最悪な気分だ。さっきの再会は、きっと本来なら歓喜に溢れていただろう。だが、このアイドルは、子どもについての記憶はすっぱり抜け落ちていて、俺たちを産んだことすらも覚えていない。憂うつだ。

 

 アイには、この世界のこととカルデア、俺たちの職業についての3つだけ伝えた。自身が死亡していることは、本人の気持ちを考え伝えないことにする。

 

 これには有馬とカルデアの面子も了承済み。未来の最悪なことを伝えれば、きっと酷く狼狽してしまうだろうから。

 

 帰還するために頑張らないといけないのは承知している。だが、心が揺らぐ。このまま、他人同士として接して、普通に帰るのもありだ。

 

 だが、もし記憶が取り戻せるなら、アイの殺害を命じた真犯人について聞けるかもしれない。だが、その方法は? それに、この現状をどうすればよいのか。

 

「貴方、アイさんのファンなんでしょ。話しかけなくていいの?」

「いや、別に。気分じゃないので」

 

 腹の中から心配ような声が飛んできたと思えば、白野さんだ。

 

 船に乗ってすぐに教えてくれた。この元スポーツジムの店員の格好をした少女は、カルデアからの助っ人である。

 

 立香とは似て非なる世界線にて、彼女は月の女王として過ごしていた。だが、そこの例のアルセウスが現れた。警戒した白野さんだったが、とある世界の月に、複数の平行世界を脅かすモノが出現すると感知。アルセウスの依頼を承諾したという。

 

「それで、カルデアに伝言を届けるのと、直々にみんなを助けなきゃって来たの。

 

 他にもうひとつ任務があるんだけど、おいおいね。そういえば、他の護衛のみんなは? アルセウスの報告では、ここにカルデア中のサーヴァントが遊びに来ていたって聞いてたけど」

 

       ◈

 

 白野さんは今までの経緯を聞いた後、空を見上げた。

 

「あれから、成長したんだね。みんなを守ってくれてありがとう、リップ」

 

 白野さんは、ほっぺを叩いて、気合いを入れた。

 

「よし。カルデアに帰還できないなんて、確かに試験どころの話じゃないわね。アクアさんに、ルビーさん、そしてかなさんは、まったく別の世界から迷い込んできた。

 

 アイさんは、いつの間にかこの世界にいて、AIに殺されそうになり逃げていた。で、それを私が助けたっと。うむむ……どうしてこうなった。アルセウス、私たちに任せてないで、仕事して欲しい」

 

 と思いきや、頭を抱える。白野さんは、凛としてる印象があったが、意外とそうでもないらしい。親しみのある感じが、なんだか好ましく感じる。

 

「もうひとつ、アルセウスから重要な伝言」

「何ですか?」

「残念だけど、試験は中止。緊急事態のため、これからは全面的に協力するって」

 

 立香はビックリと眉を上げ、落胆した雰囲気を纏う。

 

「……準備、してたんだけど、そっか。まさかの事態に巻き込まれたし、試練なんかやってる場合じゃないってことだね。ね、マシュ」

「確かにそうですね、マスター」

 

 愛想笑いをしたマシュだが、その表情はまるで、家族旅行がキャンセルになった子どものように不満足そうだ。マスターが力強く、両肩に手を置いた。

 

「今回は運が悪かっただけ。こんなことになって、リブラさんやギルさんも、きっとマシュと同じ気持ちなはず。訓練の経験がムダになるわけないよ。いつも、ドクターが言ってるよね?」

 

 マシュは髪を梳かし、頷いた。たしかに、ポジティブシンキングは大事だ。ただ、打開策がないだけ。試練なしでも、仲間が減ったとしても、立香はきっとこのまま走り続けられるだろう。

 

 喉が渇いた。飲み物があるか尋ねると、変なキーホルダーのついたバッグから、水の入ったペットボトルを渡される。バーソロミューさんは断った。

 

 カルナさんから聞いていたが、英霊というのは本来、飲食や睡眠が必要ない。緊急時には摂らずマスターの警護をすることも多いという。サーヴァント(使い魔)。とことん、主を守るために戦いに特化した存在だ。向こうの世界はそんな彼らが必要なほど、逼迫しているのか。

 

「白野さん、お水ありがとう。とっても美味しいよ!」

 

 アイの昔ながらのキュートスマイルに、白野さんはドキリとする。

 

「うぉ、クレオパトラも見惚れちゃうかわいさ。ネロ・クラウディウスにも負けてないね」

 

「ネロ? クレオパトラ? それって誉めてる?」

「うんうん。とてもね」

「えへへ。毎日、美肌ケアしてて良かったー」

 

 B小町センターは微妙な表情を浮かべた俺と妹に気付くと、真ん中に座った。

 

「ねえ、ねえ。なんだか、全然喉乾かないから、あげる。お腹も空かないし」

 

 すると、ちょっと照れた感じで、なんとペットボトルをこちらに差し出した……!

 

「「いやいやいや、ダメだろ(だよ)、間接キスになっちゃう!」」

「ふふふ、冗談だよ! なんだか元気がないから、からかってみた」

「か、からかうなよ! アイ!」

「もー、ま……アイさんったら! お兄ちゃんは演技以外のキスしない派だから! てゆーか私が許さないから!」

「えー、ホントにー?」

 

 こんな砂漠のど真ん中で、喉が渇かないということは、アイはサーヴァントなのだろうか。疑問はある。でも、幼少期の懐かしさとおかしさが不安を和らげていく。ブルジュ・ハリファを降りてから、初めて笑えた。あの頃に、戻ったみたいだ。

 

 急に、ルビーが有馬の肩をつつき始めた。ベレー帽の少女がイヤそうにすると、間抜けた声で、船のモニターを指さした。

 

「見て!」

 

 写し出されているのはA~Iに振り分けられたムーン・ドバイ・トウキョウの地図と、リップを消滅させた例のヤツだった。

 

『新人類であるAIの皆さん。こんにちは。いよいよ、人類ラスボス決定戦の投票が始まりました。どこかで見ているネズミどものため、まず概要から!』

「ヒドイ、ネズミ呼ばわりしないでよ! そっちが見逃したくせに!」

 

 その内容の突飛さは、一同の予想を超えていた。要約するとこうだ。

 

 俺たちが来たこの世界線にて。18年前、AIたち新人類は、人類存続AIのBBドバイに起こされた。が、いつの間にか、旧人類である人間は滅亡していた。原因は不明。人類の歴史そのものが抹消されているため、調査しても調査しても理由が分からないのだ。

 

 放っておけば、自分たちも同じ轍を踏むことになる。それは、何をしてでも避けるべき事態であった。ならば後付けでも、人類がいなくなった理由を練り上げればいい。

 

『でも、私一人のプランでこのムーン・ドバイ・トウキョウの行く末を決めるのは間違ってます。結論はより多くから選んだ方が、よりよい未来を築けると思いました。ですので、偶然観測できた世界から、7騎の英霊の候補者を召喚、それぞれのプランを提案してもらうことにしました。

 

 その9割はカルデア所属ですが……。まさか、他の次元の、サーヴァントまで2騎召喚されたり、人間まで転移するとは思いませんでした』

 

 BBドバイは舌を出して、かわい子ぶった。

 

『ま、多様な滅亡プランが提出されたのでヨシ! としましょう! 新たに立候補してもOK! 皆さんの支持率が70%を超えたら採用、今後の滅亡の指針とします。現在、最も高い票数を獲得しているのは、元ビーストであるコヤンスカヤさんです』

「コヤンスカヤぁ!?」

 

 少女がオレンジの髪が跳ねさせ、すっとんきょうな声を上げる。どうやら、マシュとバーソロミューは知らないらしい。まあ、数えきれないほどの英霊たちが遊びに来ていたのだ、知らない人もいるだろう。

 

『選挙に投票を考えているAIの皆さん。カルデアのマスターに別次元の人間は、サンプルとして捕獲し、それぞれ候補者のムーンキャンサーのところに連れてきてください。選挙に有利になりますので。

 

 アクアさん、絶対にあなたたちの世界は滅ぼします。私の誇りにかけて。では、ごきげんよう』

 

 ぷつりと、画面は真っ暗になる。ため息を吐いた。市長の行動が理解しがたい。見逃すと思いきや、次は謎理論で市民や部下に邪魔者を捕まえさせる? 俺たちのことはどうでも良いのに、自らの手で処刑したいのか。

 

 それとも、旧人類である俺たちを消すつもりはなく、『あの人』との約束を密かに破りたいのか。そもそも、『俺たちの世界を滅ぼす』理由はなんなのか。考えに一貫性がない。アイのポスターのことと言い、謎が深まるばかりだ。

 

「どんな選挙よ……。AIだのなんだの知らないけど、ほぼほぼこじつけで人類の未来決めてんじゃないわよ」

「だよね、かな先輩、お兄ちゃん」

「はー、まったくだ、いい迷惑。勝手にこっちの運命、決めんじゃねーよ」

 

「アイツにめちゃっくちゃイライラしたけど、放送で頭が冷えたわ。私たちの世界を滅ぼすなんて、きっと本気じゃない。ついで、とか言ってたし」

 

 有馬はため息をつき、たっぷりと水を口に含んだ。アイは神妙な顔で、空のペットボトルをいじっている。AIのリーダーは、何を隠しているのだろう。

 

「はー、人類ラスボス総選挙か。ダサイネーミングだね、マシュ」

「はい、そこだけ、妙に本家らしさがあるというか、なんというか」

「にしても、全然起きる気配ないね」

 

 口を尖らせながらは、エレシュキガルの頬をぺちぺちとした。

 

「いつまで寝てるの、もう! やらなきゃいけないことが山積みなんだよ! BBドバイから、サーヴァントのみんなを救わなくちゃいけない。アクアさんたちの世界がもしホントに滅びるのなら、阻止しないと。決定しただけなら間に合うはず」

「だが、マスター。我々の帰る方法も調査しなくては」

「そうだった、バーソロミュー。や、やることが多い! あー、ここにBBちゃんがいてくれたら……!」

 

 感情的に拳を握りしめた立香。後ろから、何やらセンパーイと呼ぶ声が聴こえる。気のせいか。

 

「アイさんは、どうして記憶を失っているんだろう。あー、ここにBBちゃんがいてくれたら……!」 

 

 手と手を合わせて偽物の空を拝む立香。後ろから、何やらセンパーイと呼ぶ声が聴こえる。気のせいか。

 

「ここに、いますよ! セ・ン・パ・イ♡」

 

 後ろに突然、宇宙服を水着に改造した少女がぬっと甲板の下から現れた。顔はヘルメットで覆われてみえない。驚いて声が出せない俺たちの代わりにアイが歓声を上げる。

 

「わー、宇宙人!? スッゴーい!」

 

 立香は、クールに突っ込んだ。

 

「いや、BBでしょ」

「んもー、センパイったら! せっかくの再会なのに、冷たいですね」

「貴方がただ何もできずに、死ぬわけないでしょ? 生きてるって信じてたよ」

 

 少女はふふふと声を弾ませ、銀色のヘルメットを外す。そして、セクシーな体を一回転させて挨拶する。アイツと同じ紫の髪に、小悪魔のような、媚びた態度。

 

「では、はじめまして。人類のみなーさーん! 異世界転移やら転生やらも平気へっちゃらッ! 宇宙追放もなんのその! 私が正真正銘、カワイイカワイイ人類健康管理AI・BBちゃんです!」

「え────い! アンタも口上が長────いっ!」

 

To be continued ……




推しの子最終話、アカ先生、連載お疲れ様でした。
最終巻楽しみにしてます。

色々言いたいことはありますが、どんな結末であっても、物語はきちんと終わらせるのが自分のルールです。
とにかくリボファン推しの子編、最後までよろしくお願いします。

次回は12月頃投稿します! お楽しみに。
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