リボーンファンタジア 立香編 推しの子は月にいる   作:ワフこねこ

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BBのアドバイスでオールド・ドバイに向かったアクアたち。そこでは、新たな出会いと再会が待ち受けていて……。

◇◇◇◇

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『( ゚∀゚)o彡°』

とだけコメントください。

なんとか、2024年中に投稿出来ました!
今年は色々ありましたが、来年は、皆様に素晴らしい年になりますように。

来年もよろしくお願いします 



#2 B小町全員集合でドラマ撮影開始!/スーパードラマアクターズ IN THE MOON

 紫の髪に、小悪魔のような、媚びた態度。宇宙に追放され、帰還したカルデアのムーンキャンサー・BBの容貌は、俺たちをひどい目に遭わせた女と瓜2つであった。

 

「人類のみなーさーん! はじめまして! 異世界転移やら転生やらも平気へっちゃらッ! 宇宙追放もなんのその! 私が正真正銘、カワイイカワイイ人類健康管理AI・BBちゃんです!」

「え────い! アンタも口上が長────いっ!」

 

 皆が突然の登場にポカンとする中、有馬が鋭くツッコむ。

 

「むむう……何なんだよぅ……もう」

 

 有馬の大声により、望月さんが不機嫌そうな声を出して目を覚ました。

 

「……ってなんだこの美少女は?」

「え、あのBBドバイとそっくりじゃん! 味方なの?」

 

 ルビーと有馬も、後ろへ2、3歩大きく下がった。俺たちを異世界に閉じ込めている敵とそっくりな人が現れたら、誰だって警戒するのは当然だ。立香はマシュとともに、口角をあげながらヤレヤレと言わんばかりの顔で教えてくれた。

 

「BBちゃんは味方だよ。ビックリしたでしょう。ま、同じ顔が同じ場所に存在するのは、サーヴァントにはあるあるだけどね」

 

 それ、結構職場で困らないかと思いはしつつ、後ろを振り返る。すると、BBが月の女王に近づき、すすり泣いていた。

 

「う、うう……。白野さん、白野さん!」

 

 抱きしめられた白野さんは困りつつも、友人であるBBの頭を撫でた。

 

「ふふ、久しぶりだね」

 

 過去に何があったかさっぱりだが、どうやら、白野さんとBBは親しい関係のようだ。2人の様子に、警戒する気も起きない。あのように大粒の涙を零している。気持ちが理解出来てしまった。もう会えないと思っていた者との再会との喜びは、先ほど俺たちもしてしまっているから。

 

 全く。とんでもない事態でも、良いことはあるのだと、しみじみと感じてしまった。

 

 

       ◈

 

「この案件、別次元の神が首突っ込むとか、初めてのケースです。ダ・ヴィンチさんから聞きましたけど、アルセウスでしたっけ?」

 

 BBにまた詳しく事情を説明すると、彼女はぶつぶつと文句を独りごちた。BBドバイという自分と瓜二つのAIが、AIという人でないモノの未来のために、空虚な選挙を行おうとしている。非常に不服そうだ。立香が質問する。

 

「ねえ、教えて。どうしてみんな強制的にカルデアに退去させられたの?」

「BBドバイの魔力提供に寄るものです。そもそも地球に人類がいないので、サーヴァントの召還と維持は高コストでした。立香さんは、サーヴァントの方々もいないと、この夏休みを心から楽しめない。『幸せカウンター』をセンパイに回させるため、アイツもずっと頑張っていた訳です。他にも、理由はあるとは思いますが」

 

 BBは爪先から目線を逸らし、舵の方を振り返った。

 

「バーソロミューさん、まずはオールド・ドバイに。現状、安全なのはそこしかありません」

「え、撮影所あるところだ。確かに、あそこにはホテルもカフェも、洋服店もあるから、衣食住には困らないけど」

 

 望月さんがペットボトルを左手でちびちびと飲んだ後に身を乗り出す。オールド・ドバイは、この前ロケ地探しで訪れた、古き良き家々や施設が特徴的なアラブらしい町だ。

 

「そこだけ安全な理由は?」

「アクアさん、先ほどの選挙放送見ましたよね」

「ああ、見た。どのサーヴァントも今ごろBBドバイの指示に従って、俺たちをサンプリングしようと部下に探させているはずだ」

「実はですね……」

 BBはどや顔をすると、両腕を掲げて口元を最大まで上げる。

「朗報です! 調査したところ、実はオールド・ドバイに立香さんの仲間が色々といます! カルデアのサーヴァントです!」

 マシュとアイが期待に満ちた眼差しで、宇宙服の助っ人を見つめる。

「BBちゃん、その方とは?」

「どんな人?」

「私が斡旋したムーンキャンサー、ガネーシャさんとエジソンさん、そしてアストルフォさんです!」

 エジソンは知っているが、他の2人の名前は聞いたことがない。マシュが、慌ててインドの商売繫盛の神様だと教えてくれた。元大人気俳優が反応する。

 

「ガネーシャって、ジナコのことだよね」

「知り合いですか、望月さん」

「彼女はオールド・ドバイのリーダーだよ。撮影所を建てていいか、お伺いを立てに一度だけ会っている。容姿は、まあ、その……。色々とインパクトはあるけど、いい人だよ」

 

 口ごもった訳は知らないが、たくさん味方がいることは良いことだ。俺たちにBBは真剣な顔で伝えた。

 

「アクアさん。あなたたちがここに連れてこられ、アイさんが幻霊になったのは、BBドバイの協力者のせいでしょう。BBドバイは、アクアさんの件に一切関わりはありません」

 

 有馬とアイ、ルビーと目を合わせる。

 

「……もしかして、その協力者が私たちの世界の滅亡にこだわっているだけ?」

「そうじゃないか? あの口振りだと当の市長は、自分たちの世界以外はどうでもいいんだろ。世界の行く末を決めるのが、だいぶ変だけどな」

 

 BBは頷くと、アイをちらりと見やった。

 

「推論としてはだいたい合っているでしょう。でも、忘れないでください。その人は何かしらの意図があり、自分勝手な目的のために皆さんを利用しようとしている。アイさんの記憶を取り戻そうと行動することや、ドラマ撮影のことは反対しませんが、相手は強大です。行動は慎重にお願いします。あまり浮かれないでくださいね、望月さん♡」

 

 全身をギクリと震わせ、彼の唇がガタガタと震える。

 

「ソ、ソンナジャナイデスヨ。イクラ『オシ』ガメノマエニイルカラッテ」

 

 BBに蛇のように人睨みされ、タジタジになった男は、仕方なさそうに了承した。

 

       ◈

 

 砂漠の停泊所、立香と白野は少しだけBBを後ろ髪を引かれる表情で見つめていた。

 

「残念だよ、戦力にはなれないんだね」

 

「当分不可能でしょう。皆さんとこの事態を解決できるよう方法を探します。ここにて調査もしますので、またこの船に戻ってきてくださいね」

 

 BBは砂漠エリアに残ることになった。大人数で行動している以上、新たな拠点にいっても俺たちの情報は筒抜けになってしまう。市長と瓜二つの存在が、都市を闊歩してるなんて目立つし、さらにカルデアと俺たちを危険な目に晒すこととなるだろう。

 

 彼女にエレシュキガルが目覚めない理由を尋ねたが、詳しい理由は不明だった。だが、白野さんと同じ立場の助っ人がこのドバイのどこかにいるという。行けば、何か分かるかもしれない。

 

 せっかく新たな仲間が増えたのに、残念だ。BBは何かを思い出すと、ポケットからがさごそと探知機を取り出し立香に渡す。覗いた画面には、3つの点があった。それぞれ『キングプロテア』『キングプロテア・オルタ』と名前が並べられている。

 

「これは……!」

 

 その中で驚いたのは、『パッションリップ』の文字であった。

 

「あれ、なんでリップさんが? 消滅したはずじゃ」

 

 ルビーが疑問と困惑に口を曲げると、BBは気まずそうに明後日の方向に目玉を動かした。

 

「あー、それはですね。皆さんが夏のアクティビティを楽しめるように、用意した仮のボディです。いい感じで私がまたまたラスボス系後輩として華麗な活躍をするために、精神だけカルデアから飛ばしちゃおう! と作っておいたモノだったのですが……。

 

 カルデアのリップについては、手違いにより霊基、まるごと来ていたんですね」

 

「? つまり、どういうことだ。もっと単刀直入に言え」

「また、リップさんには会えたとしても、カルデアや立香のことも忘れている、ということです」

 

 現実を突きつけられた。手の震えが止まらない。そうか、サーヴァントというのはそういうこともあり得るのか。いや。こんなことで、落ち込んでいる場合ではない。この状況を何とかするために進まなくては。

 

「マスター。あなたはBB ドバイの正体を知る必要があります。正体を知れば弱点が判明する。いつものこと、ですよね」

 

 立香も真剣な声色で頷く。

 

「うん。。7騎のサーヴァントも、BBドバイの命令に沿って動いてる。それぞれのエリアのリーダーが誰かも、明らかにしなきゃ」

「ありがとうBBさん。色々教えてくれて」

 

 アイは一歩前に進み、BBと握手を交わす。カルデアのムーンキャンサーは満面の笑みでそれに答えた。

 

「いえいえ、大したことではありません。AIは人類のパートナーですから!」

 

       ◈

 

 オールド・ドバイに到着すると、体が固くなる。性別について疑問があるが、これから会う人はインドの有名な神様だ。失礼があってはいけない。アイ以外のB小町2人もドキドキとしている。

 

望月さんに案内され、暗い部屋に通された。ここでは、監督と呼ばれる彼がホテルのチェックインに向かうため立ち去ると、2台のパソコンが出迎えた。そして、人よりもふた回り大きな象の像が……。

 

『フッフフフ……、イケメンに美少女だらけ……。うわ……。めちゃくちゃ自己紹介しにくい雰囲気……』

「うわっ! 石像が喋った! 何これ?」

「喋れるぞ、なんか、そこの眼がキラキラしている黒髪の美少女よ」

 謎の石像とアイが話していると、立香が呆れた顔で割り込んできた。

 

「こら、ジナコ! アイさんをからかってないで、出てきてよ!」

 

 すぐさま、石像の頭がパッカーンと開く。中から出てきたのは、黒ぶちメガネにゾウの耳、そしてだらけた体型の、気だるそうな雰囲気の女性だ。とても、神さまには見えなくて、緊張していたのがバカバカしくなってしまう。

 

「いやー、ごめんッス、マスター! そしてお久しぶり、マシュさんもこんちはー!」

「ええと、ガネーシャさ……ではなくジナコさん、ここにいたんですね!」

 

 マシュと立香は久々の出会いをして感激しているが、不安がある。俺たちはこの頼りなさそうな助っ人に頼らなければならないというのか。

 

「あれれ、うっそお! 白野さんまでいるじゃないっスか」

「やっほー、ジナコ! 月の聖杯戦争では色々と……」

 

 なんだか、知り合いが知り合いで、疎外感がものすごくある。俺たち別世界組が事情を言い出しにくい雰囲気になっていると、この部屋の主と目が合った。と思ったらかなり顔が強張っている面持ちだ。

 

「あー、そういや知らない人いるな。えーと……。ボク、インドア派プロゲーマーのジナコっス。ごちゃついた経緯で立香のサーヴァント。クラスはムーンキャンサー。気軽にジナコって呼んで! で、マスター」

 

 立香に対し、ジナコは怪訝に眉を曲げた。

 

「誰? このイケメンと美少女集団?」

 

       ◈

 

 ゾウ耳の女性は今までの経緯を感情たっぷりに、事情を聞いてくれた。俺たちについては、『ラノベとかでよくある展開! 異世界転移したら、月だった件とかネット小説が書けそうっスね!』とお気楽に零していたが。

 

「アタシ、17年もマスターたちのこと待ってたんだよ。AIがBBドバイに叩き起こされた時にカルデアから召喚されてさ。そのときはもう、立香やアクアみたいな旧人類はいなくなってたの」

 

 訳も分からず彷徨った彼女は、この街にたどり着いた。そこは、他の都市からの爪弾き者が行き着く場所、オールド・ドバイだった。

 

 ジナコは彼らの温かさに触れたことで、ラスボス総選挙の候補者になった。17年間表向きは『人類総シェルター化という』選挙活動をしつつ、彼らの生活を維持すべく努力したのである。

 

「今更と言わせてもらうが……、話の規模、大きすぎないか?」

「気持ち分かるわー、アクアさん。もう異世界転移とかそういう規模じゃないよね」

「それは私も思ってたけどさ。とにかく、すごいよ、ジナコさん。ずっと、立香ちゃんたちを待ってたなんて、マジですごいよ!」

「俺もそう思う。見ず知らずの場所で感覚が違う人たちと関わるのは立派だと

 

 ルビーと俺が褒めたことをジナコは感慨深そうに瞳をウルウルとさせた。

 

「あ、ありがとうっス、ルビーさん、アクアさん! まー、えらい大変だったけど。耐え忍んできた甲斐、あったっスね! マスターもめっちゃ頑張ってると思う。満点あげちゃうよ!」

「えへへ、そう……?」

 

 ジナコの話を聞き、カルデア組3人は疑問符がアタマに浮かんでいる。マシュが質問する。

 

「AIたちは、BBドバイさんの放送で人類滅亡を知りました。でも、その上で誰一人として不満や疑問を抱かなかったのはおかしいと思いますが」

「事実は受け止めるしかないだろ」

 

 冷静な声と同時に、部屋を仕切っている分厚いアラブ風のカーテンが揺れる。声の主は、望月さんと共に入ってきたドバイの民族衣装を纏った褐色肌の男だった。とりあえずお辞儀をすると、チェックインから戻ってきた望月さんが、ぷくりと頬を膨らませる。

 

「お前~、ドライすぎんだよ、この、このぅ!」

「望月さん、あの、この人は?」

 

 かなが質問すると、男は気を取り直して名乗った。

 

「紹介が遅れて悪い。俺はハサラ。望月のドラマの現場監督をやっている。ま、本来はジナコの世話係……みたいなモンだけどな」

 

 男は、ジナコの前に紙袋を置く。中身はリンゴだった。

 

「いつもサンキューっス!」

 

 ジナコの嬉しそうな表情に、ハサラさんも呆れながらも嬉しそうだ。

 

『お揃いのようですね』

 

 脳内に響く凛とした声に、俺たちは辺りを見渡していた。ルビーが誰?! と問いかけると、目前の空間がぼやけ、鹿のような生き物のホログラムが現れた。

 

「初めまして。私はアルセウス。カルデアに試練を与えようとしていた、別次元の神です」

「アルセウス……!? あなたが? 神様だからてっきり人っぽいのかなーと」

 

 カルデアから話を聞いていたアイが、突如現れた小さい存在を360度、見渡す。アルセウスはアイを冷静に見つめると、一同に呼び掛けた。

 

『状況はこちらからすべて見えていました。白野さん。任務の第1段階であるカルデアとの合流、クリアです。流石ですね』

 

 えっへんと、どや顔する白野さん。ルビーは手を合わせて神を拝む。

 

「すみません! 私たち、元の世界に帰りたいんですけど。あと、できれば私たちのために、アイ先輩の記憶を」

 

 アルセウスは、心底申し訳なさそうに答えた。

 

『残念ですが、分身を送るのが手いっぱいです。それに、他の平行世界で生まれた存在への干渉は、全能である私にも難しいのです。私の子どものパルキアですらも、相当な労力を要します』

 

 有馬の口がひきつったまま固まる。

 

「ええ……じゃ、一生このまま?」

 立香とマシュも困惑するが、その存在の一言が皆の気持ちを救った。

 

『しかし、条件さえ揃えば、3つの目的を達成する方法がないという訳ではありません』

「ホント(か)!?」

 

 同時にルビーと立ち上がってしまった。隣のアイにクスクスと笑われてしまったので、恥ずかしくなり思わず、顔を覆う。

 

『その前に、変質した冥界の女神を起こしますね』

 

 ホログラムがエレシュキガルの頭に移動すると、紫色の波動が放出された。ポンコツな少女の長時間閉じられていた瞼は、やっと開けられたのである。飛び起きると、すぐに立香さんの笑顔が爆発し、ぎゅうとその体を抱き締めた。

 

「やっと、起きたんだ!! 寂しかったよ!」

「ま、マスター。周りが見てる。近いのだわ……」

 

       ◈

 

 女神にあれこれ伝え終わると、全能神は俺たちに呼び掛けた。目覚めなかった理由は、アルセウスは企業秘密だの何だの、教えてくれなかったが、とにかく良かった。

 

『では、条件について。マシュさん、メモのご準備を』

「はい!」

 

 メガネをくいと上げ、盾の少女は胸ポケットからメモを取り出した。彼女に視線を投げかれられる。

 

「……今、胸見ましたね」

「いや、全く」

 

 正直に否定したにも関わらず、マスターの少女にオレンジ色の目に疑われる。気まずいので、神に話を続けてと視線で合図を送った。

 

『まずは、カルデアの場合。通常は平行世界を繋いだ者を倒せばいいのです。しかし、皆さんの世界の場合は条件が異なります』

「? それは……何ですか?」

 

 その場にいた、全員が注目した。

 

「『この世界に住む人々全てを、何かで魅了させる』ことです」

 

 何とも、曖昧な方法だ。望月さんがいつになく興奮し、小さい神の前に身を乗り出す。

 

「魅了させる? それってつまり、夢中にさせるということかな?」

『はい。歌でも……ドラマでも。つまり、皆さんが、普段からやっていること────『芸能活動』をやればいいのです』

 

 望月さんは、やったと小さくジャンプする。

 

「なら、話は早い! 俺の夢、叶えて良いわけだ!」

「良かったね、望月さん!」

 

 隣のアイが手を叩いた。

 

「約束?」

「ああ。劇団ララライにいた頃に、約束したんだ。アイちゃんを主役にした、ドラマを作るってね。でも、色々あって断念しなきゃいけなくて。でも、こーやって、またとないチャンスが巡ってきたんだ! 資金は十分……八百万の神に与えられなかった偉業が、この異世界で達成できる!」

 

 劇団ララライ。アイが生前、所属していた劇団の名前だ。

 

 アイの記憶がその方法で戻るのかは怪しい。望月さんが生前のアイと交流があったのなら、犯人に関しても何かしら覚えているはずだ。

 なら、ドラマを通して聞き出す。手がかりになるかもしれない、劇団時代のアイの話を。

 

「望月さん、主役だけじゃドラマは作れませんよね。アイが出ると言うなら、俺も出ます」

「お、お兄ちゃんがやる気に!?」

「気に入った。演技への執念がいいね。じゃあ主役決定」

「主役!? スゴイ! ヤバい! お兄ちゃんが主役なんて最高だよ」

 

 大きな声でルビーが驚くと、すぐさま有馬が反応する。

 

「待ちなさい、望月さん! もちろん私の役も用意できるわねっ!!」

「有馬さんには、とっておきの役を用意してある。期待してていいよ」

 

 ガッツポーズする有馬に、オレンジ髪の少女はおどおどと手を上げる。

 

「私も、もちろん出演して、いいですよね。マシュや他のサーヴァントのみんなも……」

「え、でも君たちはやることあるじゃん。選挙とか、BBドバイに囚われた仲間の救出とか」

 

 立香の真剣な眼差しに元超天才子役は項垂れるとやれやれとOKサインを作った。

 

「断る理由がないか。だって俺の脚本の原案は、キミたちの旅だからね」

「わ、私も、雑用くらいなら! やれます」

 

 ルビーが手を上げると、望月さんは爽やかに子どもっぽく、椅子から飛び上がった。

 

「よし、だったら急いで撮影しないと。プロデューサーに連絡してくる。みんな、撮影所に行くから準備してて!」

 カーテンを千切れそうなほど勢いよく開け、飛び出していった男に、バーソロミューは不安そうに異界の神に

 

「アルセウスさん、話が出来すぎでは? アクアくんたちのことに関して、まるですべてが望月という男の思い通りだ」

「……たまたま条件が彼の望みに一致しただけです。今回の出来事は、皆さんで解決できる範囲です。私がでしゃばれば、さらに余計な事態になりかねませんので」

「はあ、あなたが言うなら……」

 

 肩をすくめたバーソロミューは、俺たちに向き直った。

 

「よし、アルセウスの話をまとめよう。カルデアの脱出方法は、このムーンドバイトウキョウとBBドバイの秘密を解き明かし、彼女を倒すこと。もちろん、ドラマ撮影と総選挙に出馬しているサーヴァントの調査、仲間の救出も。そして、アクアくんたちの脱出方法は」

望月さんがカーテンから顔だけを出した。アイとルビーが、びっくりして軽い悲鳴を上げる。

「このムーンドバイトウキョウの人々すべてを魅了させて、アクアくんたちを元の世界に返す! ようし、アイちゃんの記憶、絶対取り戻すぞう!」

 

 アイにウィンクするB小町ガチオタに、呆れた視線を返す有馬も、気合いを入れる。

 

「演技やって、元の世界に戻れるなら、やってやろうじゃない!」

「私も、頑張っちゃおうかな! 記憶ないけど、みんなと、思い出作りしたいしね」

 

 アイもやる気に満ちている。ならばやるしかない。お互いのために。

 

「やろう、その無理ゲーってヤツをな」

 

       ◈

 

 ジナコとハサラさんに見送られ、撮影所に向かう。スタッフとキャストの紹介と、今後の打ち合わせのためだ。望月監督以外のスタッフは全員月に住むAIなので、BBドバイや助っ人についての情報が集められるだろう。

 

 BBドバイの計らいなのかは不明だが、東京エリアはムーンキャンサーが存在せず、選挙が開かれていない。外での撮影も禁止されていないため、現在は東京エリアとエジソンとアストルフォがリーダーを務めるエリアFとIのみ、自由に撮影が可能な状況だ。

 

「他のムーンキャンサーに勝利すれば、他エリアでの撮影が出来るのですが……。あ、見えてきましたよ、先輩」

 

 撮影所に入ると、スタッフたちが忙しそうにせかせかと働いていた。突然、悪寒が走る。

 

 丸いサングラスを掛けたド派手な髪に黒いスーツの男が、笑みを浮かべ歩いてきた。耳は尖り、丸いサングラス越しから見える瞳は歯車のような模様が入っている。なぜだろう。全身の細胞から警告音が発せられている。冷や汗が出てきた。

 

 男が立香にナイフを突きつける前に、バーソロミューが払い落とした。そして、空間から銃を生成し、突きつける。

 

「キミ、何者だい?」

 

 海賊は心臓が止まるぐらい冷たい声で、言い放つ。のように、いたずらっぽく細められた。

 

「おや、対応が早いこと早いこと。流石大海賊ですねぇ」

「何の真似だ?! 止めてくれないか!」

 

 凄まじい気迫で望月さんが割って入ると、男の殺気は素早く収まった。

 

「そんな怒らずに、監督。カルデアを試しただけですよ。無礼をお許しくださいね、皆々様」

 

 ジャケットから名刺を取り出すと、カルデアに手渡す。立香は対して驚かず、かといって警戒も解かずに受け取った。

 

「私は名プロデューサー・M。そこの望月さんのドラマを管轄しているサーヴァント、そしてアルセウスに首輪を付けられている助っ人です。真名とクラスは……今は明かす意味がないので秘密☆ では、よろしくということで」

 

 警戒されていることに、Mは先ほどの登場を後悔したように顔をしかめ、肩をすぼめると、アイに気付いてお辞儀をする。

 

「おや、あなたもいるとは。相変わらず美しい人だ」

「……知り合いなのか?」

「ちょっと仕事でね。ここに来たとき、ポスターの撮影を頼まれたんだ」

 

 渋谷のポスターをアイにしたのは、彼だったとは。

 

「同じ女性の顔ばかりの光景じゃ、見飽きてしまうでしょう? なのでこっそりと入れ換えておいたんです。わたくしなりの嫌がらせですよ。ヒヒヒヒ」

 

 待て。この人の顔を思い出してきた。俺が雨宮吾郎だった頃、ちらりとテレビに映っていた。

 

「Mさん。もしかして『罪作りのマリア』の」

 

 白野さんが興味深げにMさんの顔を見つけた。

 

「『罪作りのマリア』? ルビーさんの世界では有名なの?」

「もちろんだよ。昔、テレビで見たことあるもん。視聴率も30%超えてたし。でも、悪魔っぽいシッポなんてなかったハズ」

「……フフーン、お金稼ぎのために、悪魔はどこにでも。ささ、望月監督。早くバーソロミューさんとエレシュキガルさんの演技力を測りましょう。カルデアこちらへ」

 

 カルデア組は望月さんに背中を押され、思わせぶりな胡散臭い男の元から離れていく。エレシュキガルさんが慌てて俺たちに呼びかける。

「アクアさんたち、後でなのだわ!」

 

 あわわと必死になって、エレシュキガルは立香を追いかけていった。

「なんだか女神には見えないね」

 

 アイが苦笑していると、Mさんの後ろから非常に見覚えのある人物が走ってきた。

 

「おや、やって来ましたか。今回のドラマの宣伝担当が」

 

 

 新生B小町メンバー、黄色と黒の髪に八重歯がトレードマークのMEMちょだ。ドーンと有馬とルビーの真ん中に突っ込んできた。ギャン泣きしている。

 

「ウワーーーーン! かなぁ! ルビーぃ!」

「わー、MEMちょ先輩! びっくりですよ、こんなところで会えるなんて!」

「会いたかったよ、みんなあ~。聞いてよ、聞いてよぅ! なんか朝エゴサしてたらさ、いきなり砂漠の中に迷いこんじゃってェ! 砂漠の中で、もう疲れちゃって、全然動けなくてェ……。変なデカいワームに追いかけられてたら、Mさんが助けてくれて、今ここ……って訳!」

「はあ……。なるほど」

 

 とにかくMさんというサーヴァントは悪い人ではないと認識できたところ、横から青みがかった黒髪が視界に入った。有馬が苛立つ。

 

「はあああああああ!? なんで、アンタがここに!」

 

 有馬の反応をガン無視して、あかねはにこやかに、B小町と俺たちに挨拶をする。その間も、有馬はブツブツとあかねに文句を垂れている。非常に含みのある、というか、挑発するように彼女は笑顔を見せた。

 

「有馬さんも、この世界抜け出したいですよね。協力して下さいね」

「はあ、そのセリフそのままそっくり返すわ! 今度の東京ブレイドの舞台、出るからって調子乗らないでよね」

 

 ぐぬぬ……とどちらも威嚇の表情をしながら有馬とあかねは互いに睨みあう。ヒヤヒヤするMEM ちょとルビー。アイはムスッとして2人の間に割って入り込む。

 

「こーら。ダメだよ2人とも。これからドラマを作る仲間なんだから、笑顔でね。こんな所見られたら、スタッフさんのモチベが下がっちゃうよ」

 

 2人はかの有名アイドルに言われたら……とおとなしく引き下がる。

 

「Mさん! こちらにいらしてたのですね」

 

 台本を持って上品な女性が駆けてきた。緑がかった黒い髪は照明に照らされ、キラキラと輝く。蠱惑的で、ミステリアスな雰囲気の少女だ。瞳は宝石の如く眩しく光り、恐ろしいほどの美貌に花を添えていた。

 

「まあ、皆さん方がわたくしと同じ世界の……」

 

「わたくし、立香さんがモデルのドラマに出演いたします、月山アキと申します。アクアさんにルビーさん、MEMちょさんに、有馬さん、どうぞよろしく」

 

 怪しくも、柔らかい微笑みに、ちょっとだけ心臓が高鳴る自分がいる。アイを見るなり、アキは目を輝かせた。

 

「アイさんが主役とお聞きしました! わたくし、あなたの大ファンですの! 嗚呼、テレビよりもキレイですわ!」

 

 年相応の少女のように大はしゃぎする彼女だったが、腕時計を見たMさんが咳払いをして制止した。

 

「皆さん、ドラマについてもろもろの説明と、脚本読みをしなくては。月山さん、『彼氏の望月さん』を呼んできてください。時間がありませんよ。ハリーアップ、ハリーアップ!」

「は、はい!」

 

 月山家の令嬢がこちらに深くお辞儀をし、小走りで立ち去っていく。Mさんもこちらに来るよう手招きをして、急ぐ。

 

 月山家は、芸能界では知らない人はいないほどの芸能一家だ。超大物俳優や女優を輩出し、政治にも影響を与えるほどの権力を誇っている。

 

 

 裏では怪しげな宗教団体とも関わりがあるとか、神通力とか使えるとかというウワサがあるが、たぶんウワサだろう。

 

「望月さん、あんなキレイな人と付き合ってるなんて、いいなー。ああいう人は、クール系アイドルとして一定の需要があるんだよねー」

 

 アキさんの美貌に酔いしれているルビーの横で、MEMちょは訝しげな顔をした。

 

「あれぇ? 月山アキさんって望月さんと同い年だったっけ? それに、随分と元気に見える……」

「余計なこと、おしゃべりしてるヒマはありませんよ、MEMちょさん。さあ、急いだ急いだ!」

 

 向こうに先にいるMさんに呼ばれ、俺たちも会議室に向かう。

 

       ◈

 

 ドラマに関する準備のアレコレを、急ピッチで済ませた翌日、撮影の現場に入り込んだ。

 

「星野アイさん、アクアさん入ります!」

 

 スタッフたちは絶えず動き回る体を止め、俺たちにそれぞれ挨拶を交わしていく。他の主演者やモブたちは既に到着し、それぞれシナリオを読んだり談笑したりしていた。準備にもう少し時間がかかるというので、イスに座らされる。

 

「何やってるんだ、キミたち! そこの資材はまだ使いませんよ!」

「えええ~? ボクちん、絶対この位置に置いた方がいいと思うんだけど」

「いや、俺様はもうちょっと左の方がいいんじゃないかと思うぜェ」

「もっと真面目にやってくださいよ……」

 

 変な口調の騎士姿のAIたちにげんなりとしている金髪のスーツ姿の男は、昨日紹介されたばかりのVFX担当のAI、アントニーさんだ。

 

「ふふ、月いつもの光景」

 

 懐かしいのに、新しい彼女を見てるように思える。

 

 しばらく経って、いよいよ撮影の時だ。主演は初めて。心臓の高鳴りはあるが、復讐に向かうための第一歩は十分だ。

 

 アイと目が合う。気合は十分そうだ。

 

「今日はよろしくお願いします。アイさん」

「よろしくね、アクアくん、立香さん。ちゃんと皆を引っ張れるよう頑張るね!」

 

 立香さんとマシュが、最初のポジションに着く。

 

「頼りにしてます、アクアさん」

 

 2人に頷くと、スタッフが全員にコールする。

 

「それでは本番まで! 3……2……1……」

 

 望月さん、そしてMさんが見守る中、ドラマ撮影の幕が開けた。

 

       ◈

 

 ブルジュ・ハリファの最上階。黒いドレスを纏った人類管理AIは、会議が終わったと同時に膝から崩れ落ちた。

「あまり無理しないで、BBドバイ」

 

 茶髪の青年が穏やかな声で傍らに寄り添い、手を差し伸べる。

 

 BBドバイは払い除けようとわずかに躊躇いながらも、その手を取り立ち上がった。

 

「カルデアのサーヴァントを維持するのは、重労働でしたが、問題ありません。私の世界を、AIたちを奴らから守るためには、これくらい」

「ハーイ、市長。会議は終わったようだね」

 

 明るくも冷徹さを感じられる声がラグジュアリーな部屋に響き渡る。空間が歪み、赤い髪の青年が現れた。スーツ姿にファーがついたマントを羽織り、BBドバイの椅子に堂々と座り込む。不敵な笑みを浮かべながら。

 

 狂魔王。あらゆる平行世界を脅かす謎の組織『トワイライト』の首領が、自分の拠点に入り込んでいる。今回で会うのは2回目だが、AIは、一瞬で未だにあり得ないはずの感情である『恐怖』に縛られる。

 

「あー、あー、ヒマだ! 本体は動けないし、カロスの計画は別の者が主導で動くから任せてるけど! 反対に、キミたちはめちゃめちゃ大変そうだね! マシュがいるカルデアやら、懐かしの仇敵どもと相手しなきゃならないなんて、本当に哀れだよ」

 

 高い声でめちゃめちゃを強調し、皮肉を言う男。BBドバイを守るように、青年が男の前に一歩進んだ。狂魔王は人格が変わったかのように、威厳ある態度で鼻を鳴らす。

 

「そう睨むな、もう一人の月の王、岸波白野よ。貴様の存在には我らも怯えているのだ。月の世界を呑むのは、今の私には流石に堪える。それに……そちらの世界は、あまりにも不味そうでな」

 

 眉をピクリと動かしつつ、冷静に、もう一人の男の白野は唇を動かした。

 

「用件を言え、平行世界を荒らすイカれた悪魔め」

 狂魔王は前のめりに、穏やかに告げた。

「私が送り込んだサーヴァントと、星野アイについてだ」

 

 

To be continued……

 




次回は1月更新です。
続きをお楽しみに!
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