リボーンファンタジア 立香編 推しの子は月にいる   作:ワフこねこ

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6月上旬とか中旬とか言ってたのに、結局下旬になってしまった……。サボり癖がついて申し訳ございません。
10月まで完結はさせるので、お許しください。

奏章Ⅳマジで良すぎました……。
次回更新も頑張っていきますので、応援宜しくお願い致します!


カルデアとアクアたち、海で大はしゃぎ!そして明かされる、望月監督の過去/ミステイクレコニング

⚠️Attention⚠️

 

この物語は

『推しの子』

のネタバレ、微CP描写が含まれます。

 

大丈夫な人は、どうぞこの先へ

 

[newpage]

「わーい! 遊ぶぞー!」

 

 昼の分の撮影が終了し、夕方まで休憩時間になった。スタッフとカルデアのメンツが昼ご飯の準備をしている間、真っ白な水着に着替えたアイは海に飛び出す。波の満ち引きと追いかけっこをしている様は、夏の女神そのものだ。

 

 MEMちょとあかねも、有馬と月山さんも少々派手な水着を着て、遊んでいる。俺も水着姿だが、一応いい大人ではあるのであんな風に遊ぶのはだいぶ気が引ける。

 

 などとパラソルでのんびりとしていると、横からルビーのむすりとした顔がインしてきた。

 

「お兄ちゃん、せっかくだし、一緒に遊ぼうよ~」

 

 海で読書を楽しむ絶好の機会だが、些細なことで後の人間関係に支障をきたすのは不味い。立香さんから日焼け止めを借りて、しぶしぶ付き合うことにする。

 

「えーい!」

 

 俺が合流するなり、月山さんがいきなり後ろから水を浴びせてきた。

「ちょっ、いきなりすぎんだろ……!」

 

 濡れた髪で片目が見えない。口の中まで塩の味が満ちる。少々イラっとは来たので、仕返ししてやった。近くでゆっくり泳いでいる、バーソロミューさんの顔がにやついたのは……気のせいだろう。

 

「お兄ちゃん、やるー! 今度はこっちのターン!」

「ターンってゲームかよ?! ……全くもう、仕方ないな」

 

 興奮してるルビーが、連続でバシャバシャと水をかけようとするが、月山さんはあっさりと回避する。ルビーが後ろを振り向けば、2人の大物女優が挑戦的な顔で佇んでいた。

 

「いくら遊びだからって言って、負ける気しないよ!」

「それはこっちのセリフよ! かかってきなさい!」

 

 と思えば両者睨みあい、少年マンガのようなセリフを吐きながら、有馬とあかねは互いに水を浴びせる。その様子におろおろしている月山さんに、MEMちょは呆れながらも肩を置く。

 

「あの二人は放っておいていいよ。根本的に性格合わない系? だから、たぶん納得するまで放置でいいと思う~」

 

 やはり、仲悪いんだなと呑気に女優たちの対決を眺めていると、アイがゆっくりと俺たちに近づき、不意討ちをしてきた。視界が水でボヤける。

 

「あはははは! どうだー! うっふふふふ!」

「ア、イさ~~ん! もー、止めて下さいって!」

 

 MEMちょが怒りながら、でも嬉しそうに反撃する。あまりにも楽しそうにアイは笑う。俺もルビーも、ただひたすらに楽しんだ。

 

       ◈

 

 砂浜に戻ると、香ばしい豚肉の匂いが食欲をそそる。ひとつ串を網から取って食えば、肉の脂身を堪能できる。ピーマンやエビの焼き加減もいい具合だ。

 

「む、悪くないわねこれ」

「これも美味しいですよ、かな先輩」

「あー、このピーマンめっちゃウマイ! それに、タダで食う肉は上手いぞー! もっと食え、餓鬼ども!」

「ぴ、ピーマンは確かに美味しいけど……くっ、子役時代のピーマン体操を思い出すわ……」

 

 B小町も大満足そうに食べる中、隣の机では、バーソロミューさんがカルナさんとともに、談笑している。大事な仲間が戻ってきた際、大海賊はパーシヴァルさんから俺たちを敵の手から守ったことを感謝され、照れくさそうにしていた。

 

 ちょっと、心が軽くなった。事態は解決していないが、責任を持つ人の肩の荷物が少しでも降りることは、守られる側の精神の負担も軽くなることに結び付くもの。なんとなくだがそう考えられるのだ。

 

 追加で串やメシをよそると、大きな帽子の少女────徐福が女性陣と楽しそうに会話している。よく観察すれば、一番彼女がはにかむ割合が大きい相手はマシュさんである。

 

 今度は、芥さんも誘ってバーベキューだとか、マシュさんがエミヤ直伝の美味しいケーキを振舞うだとか、話の内容は普通の少女のようだ。

 

 ニキチッチはというと、スタッフや出演者たちに耳を触らせていた(隣の竜は、女性スタッフをナンパしていたので彼女に怒られ反省中)。あかねの端正な唇はふにゃふにゃとし、頬は幸福感で色づいていた。

 

気になる。人に動物の耳があるというのは生態的にどういうことなのか、確かめてみたい。

「ニキチッチさん、あの。俺もいいですか」

「おう、良いぞ!」

 

 耳に優しく触れると、未知の感覚に衝撃が走る。獣の手触りの良い質感に人の髪の柔らかさが合わさり、何とも言えない手触り。

 

「いつもムスッとしてるお兄ちゃんが、珍しく幸せそうな顔を……」

 

 感激で手が震えながら、手触りに夢中になっているうちに、妹に写真を撮られてしまった。まあ、怒る理由もない。妹の幸せそうな顔を見れたのだから。

 

       ◈

 

 自分のテーブルに戻ってくると、パーシヴァルさんに話しかけられた。

「やあ、ルビーさん。アクアさん。肉はいるかい?」

 

 爽やかな顔で勧められたが、大皿に乗っている牛肩ロースの山は、5人前以上の量だ。こんもりと積みあがっている。とても食べきれる自信がない。

 

「ちょっと多すぎかもしれないです。た、体型維持が……」

 

 ルビーが気まずい顔で断ろうとすると、カルナさんとバーソロミューさんが助け船に来てくれた。そして、彼の提案で7つのグループにそれぞれ少しずつ分ける事にした。

 

「ありがとう、バーソロミュー。やっぱり頼りになるね。んーうまうま」

「いやいや、あれくらいの提案は大したことはないさ」

 

 立香さんとバーソロミューがBBQ を堪能するなか、変わった格好をしている2人組が立香さんと合流してきた。

 

 ジナコはカルデアと俺たちが来る前に、他のエリアのリーダーと反BBドバイ同盟を結んでいたのだ。戦闘能力が無さそうに見える同盟相手のサーヴァントは全員で4人。

 

「やあ、アクアくんに立香くん。我がアルバトロン社特製、『直流バーベキューコンロ』で焼いた肉の感想は?」

「はい、美味しいです。とっても」

 

 1人は、トーマス・エジソン・オルタ。獅子頭の男で、照明の機械を提供してくれた人物だ。

仕事熱心だが、声がデカイし、ファッションが絶望的にセンスがない。アメリカン・コミックスのヒーローみたいなコスチュームに、両肩に派手なライトを乗っけているのはセンスを疑う。マシュはいい歳こいて、なぜ変な形のサングラスをしているのかと顔をしかめ、有馬もカタツムリの方がまだオシャレだと引いていた。

 

 距離感が分からないのでとりあえずは彼を褒めてみたが……本音を言ったら、肉を焼くのに直流も交流も対して差はないと思う。

 

「お、何か見えたような……! ちょっと様子を見てこよう!」

「待ってください! そのままの格好で海に飛び込むのは危険ですよ!」

 

 スタッフの一人であるアンソニーさんに止められているのは、中性的な顔立ちのメイドの格好をした……少年? のアストルフォである。

 

 元々はアンソニーさんをマスターとしたムーンキャンサーとして街で暴れまわっていたが、望月さんが気まぐれで製作スタッフとして誘ったところ、了承。仲間であるローランとともにすんなりと、カルデアチームに加わった。ドラマスタッフの中では、雑用係である。

 

 仲間であることは確かなのだが、客観的に見て他のメンバーと比べると、アストルフォは子どもっぽく、ローランはやたら脱ぎたがる。立香さんの仲間を悪くは言いたくはないが……戦力としては期待できなさそうだ。

 

 残り1名は大道具兼怪獣役担当のキングプロテア……だが、海には来れない。なぜなら、彼女は巨人ぐらいに大きく、地盤がしっかりしているビル街以外では生活することができないからだ。リモート会議でそのインパクトある見た目には驚かされたが、性格は素直な子どもらしい幼い少女そのものである。

 

『BBったら、またイタズラを仕掛けようとしてたんですね。今度会ったらペシャンコにし奼きます!』

 ……若干、物騒な発言を除けば。

 

「あのー、バーソロミューさん。疑問に思うのですが。貴方はメカクレがお好きと聞きました。それで。、プロテアさんのメカクレ……? にどんな魅力を感じているのですか?」

 

 月山さんの質問に、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに、大海賊が仰々しく語り始めた。立香さんがあちゃーと言わんばかりの表情で顔を背けた。

 

「プロテアのことを聞いたか、良いだろう! 私はカルデアでプロテアの片目の秘密を知らない。だが、もう理解しているとも! 包帯に隠された瞳は、きっとどんな財宝よりも美しいはずだ! もちろん、マシュのミステリアスなアメジストのメカクレも外せない! おっと、稀に見られるアクアさんの美しい星のような片目も忘れてはいけな……」

 

 興味のない話は出来得る限りは聞きたくはなかったが、適当に合わせてその場を離れた。世の中には人のどうでも良い部分にフェチズムを感じる人間が存在する。どうやら、他の世界であってもそういう連中はいるらしい。

 

 目が隠れているのに興奮する? いや、どうも理解しがたい。

 

       ◈

 

 午後の撮影分を終えれば、夕日が俺たちを照らす。そろそろ次の撮影に向かわなければならないが、監督と月山さんはまだ散策をしている。

 

 後ろから声を掛けようとすると、アイの名前が耳の中に飛び込んできた。盗み聞きをするのは悪いことだが、事件の手がかりになることを口にするかもしれない。近くの岩に隠れた。

 

「ね。凄かったでしょ、アイちゃんの演技! 劇団ララライで一緒に演技したこともあったんだけど、やっぱ凄いよね~フフフ」

「フフフ……。語彙力が死んでいますわ、望月さん」

「興奮しちゃって、つい。月山さんはどうだった?」

「私も、憧れのアイさんとの共演には胸が躍りましたわ! ビデオの録画で一生懸命ダンスを練習してたと伝えましたの。あの喜ぶさまは、死んでも覚えていたいですわね」

 

 月山はうっとりとした声で、恋人に語った。

「……ホント、ここに来てから楽しいね」

「ええ、とても。前のお父さまも、今のお父さまも生まれ変わった私たちを見たら、驚いて倒れてしまうかも」

「ハハハ、違いないね」

 

 生まれ変わった? どういう意味なのか。

 

 気になることはあるが時間が迫っているので、俺は2人を連れて撮影陣と合流した。楽しい時間を邪魔されたことに、頬を膨らませている監督を月山さんが宥めつつも、バスがある駐車場に向かう。後ろの皆から少し離れた位置には、立香さんとエレシュキガルが歩いていた。

 

 その様子を一瞥した俺の前にいる徐福は、ぬいぐるみを片手で支えながら、マシュさんの顔を覗く。

 

「エレちゃんとマスターなんか、いい感じー。ほっといて良いの?」

「私は今さら気にしません。先輩を好ましく思うサーヴァントは大勢いらっしゃいますが、私が先輩のファーストサーヴァントであることは変わりませんので!」

 

 マシュさんの自身満々の顔に、周囲のスタッフや俳優たちは閉口した。ルビーすらも。彼女の立香さんに対する気持ちは、理由は知らないが少々重い。空気を察して、Mさんが徐福に絡む。

 

「そういえば……結局『どっちが世界で一番の主論争』には決着が着きませんでしたね」

「はあ……だるー。この一件片付いたら、カルデア来るんでしょ、Mさん」

「あー、はい。アルセウスとボスの指示で一時的って感じです。帰ったら、戦いの続きをしましょうか」

「ボスぅ? ……フーン。そっかあ。おー、本気? 愛が重い系の人、結構いんだよね」

「例えば?」

「清姫、源頼光、メリュジーヌ。シグルドさんの嫁さんのブリュンヒルデ。あとー、なんか謎にマスターのことを夫婦扱いしてくるモルガン」

「ワーオ。ビックネーム祭りじゃないですかぁ、カルデアウワサ通りの激ヤバ集団ですねー」

「あ、そういやさー。Mさんの魔力の流れ、普通のサーヴァントと違くなーい? あ、もしかして、エレちゃんたちと同じ、人間の肉体を依り代にした疑似サーヴァントってヤツ?」

 

 一瞬だけ渋い顔をしたMさんだったが、すぐに元の胡散臭い笑顔に戻った。

 

「……はい! 正確には我々は、一応複数の英雄の要素を持った、ハイ・サーヴァントという存在です。ええ。それよりもほぅら、かなさん! アナタの帽子があんな場所に!」

「ちょっと! んもー!」

 

 有馬は、宙に舞い落ちるサマーハットを取ろうと必死に手を伸ばしていた。

 

       ◈

 

 撮影所に戻った俺たちは、スタッフが準備をするまで撮影スペースで各自待機するように言われ。隣のイスにあかねが座った。バッグにチャームを付けている。夕方、俺が遊び疲れて休んでいるときに渡したモノだ。

 

 彼女とは、恋愛リアリティーショーで共演して以来、ビジネスカップルを演じている関係だ。あかねには調査相手を徹底的に研究しプロファイリングする技術がある。利用価値があるから、近しい関係でいたい。

 

 とは言っても、情がないわけではない。あかねには世話になっているので、何かしらの贈り物をしたいと前から考えていた。

「アクアくん。もう付けてるのって思ったでしょ」

 

 気づいたことに、あかねは頬を膨らませ、横から少々セクシーな声で囁く。

 

「これで、もっと恋人っぽくなったね」

 

 危なかった。すぐスタッフに呼ばれなかったらドキリとしたことがあかねにバレるところだった。

 

       ◈

 

 撮影終了の後、貸切っているカフェで新旧B小町メンバーやカルデアの人々とともにチャッカリムさんの作る夕飯を食べる。皆思い思いのメニューを頼み、俺はチキンと米の炊き込みご飯……マクブースを注文した。

 

 普段であれば、カルデアやアイの話に耳を傾けるのだが、今日はいつもと異なる。

 

「いやー、ワタクシのお願いに付き合って頂きありがとうございます。一度くらいは、立香さんの冒険譚やアナタ方の芸能界の話を、じっくりと聞きたいと思ってたのでねェ♪ えー、誰からいきましょうか?」

「…………で、では私から!」

 

 立香さんが話を切り出してくれたおかげで、Mさんは上機嫌になった。そして、例の男の話題になった。

 

「望月さんもよくやるよ~。別の世界に飛ばされたところで、自分の願いを叶えるためにドラマを撮影しようなんて普通、思わないよね」

「そうですね。確かにスゴイとは思います。ただ、あの時みたいに焦って失敗しないといいですけどねェ。ワタクシ、心配ですよ」

「失敗とは?」

 

 Mさんのポロリと出た言葉に自然と疑問符が浮かんだ。MEMちょが同時に眉を潜める。

 

「あー、そっか。アクアとルビー、立香ちゃんは知らないのもムリないか。事務所の人とかスタッフの間じゃ、話題にされなくてだいぶ経つんだけど。望月監督はね……」

 

       ◈

 

 望月翠は子役として成功した人生がある一方、脚本家としてはかなりの苦労人であった。子役としての人生が閉ざされ絶望した望月は、20歳という若さでコンクールの大賞を受賞し再起した。

 

 けれども、その後の脚本を務めた作品はパッとせず、メディア露出も再び減ることとなった。

 

 有馬はよく望月さんのドラマに出演していたが、望月さんがたびたびプロデューサーやテレビ局幹部と衝突し、苦虫を嚙み潰したような表情で立ち去るのをよく見ていたという。

 

 次第にメインの脚本から降ろされ、超有名天才子役はテレビ関係者の一部から厄介者扱い。

元々自己中心的で、自分の決めたことは曲げないため、協調性が重要視される芸能界で嫌われるのも当然であった。

35歳のとき、ドラマ「罪の終わりはキスから」で彼がメイン脚本を務めた回が炎上する。彼が取り扱ったテーマは────『ソトヨリヒメ伝説』を題材にしたモノであった。

 

「ソトヨリヒメ? ……って?」

 

 アイの質問に、MEMちょは喉を詰まらせ、マシュに目線で助けを訴えかける。

 

「あー、歴史とかよく分からず、見てなくて……。すみません……先輩。ま、マシュ……ヘルプミー……」

 

 泣きつくMEMちょに、マシュは冷静に説明役を引き継いだ。

 

「はい。カルデアの図書館で少しだけ知っている程度ですが。

『ソトオリヒメ伝説』は日本最後の書物・『古事記』に記載されている伝説です。主人公はソトオリヒメとカルノミコという皇族で、内容としては、恋愛ものですが……。2人は同じ母親から生まれた兄妹なんです」

 

「えっ、近親何とかってヤツ? 禁断の恋じゃん!?」

「近親相姦な。信じられない。荒れるのも当然だ……」

 

 ルビーも驚いているが。そんな題材を取り上げなくても、自分の地位を取り戻す方法はいくらでもあったろうに。

 

「で、9年前の1月、彼は突如として行方不明になったと。でも、報道は小規模だったし、大物演歌歌手の訃報の方が注目度高かったからさ。全然バズってなかったんだよー。サンキュー、マシュさん!」

「いえいえ」

 

 MEMちょがとりあえず話をまとめるが、みな、望月さんの努力が報われず、彼が何もかも投げ捨てたことを察しているのだろう。

空気が重いので、話題を変えよう。

 

「立香さん。監督と月山さんって年齢差は、45歳と16歳でだいぶ離れていますよね。ひょっとしたら、監督の正体はサーヴァントという可能性はありますか?」

「うーん。2人がサーヴァントなら、私やマシュが気付くと思いますし、ないと思うんです。行方不明扱いでもサーヴァントになれる例もあるにはあるんですけど……。あれ、そういえば、月山さんって」

 

「死んでいないですよ。ここに来る前に見たネット記事で、月山さんは入院、命の危機だと報道されていたんですけど、ここではあんなに元気そうで……」

 

「んー。そういやなんか月山さんの名前トレンドに入ってたなー。……よーし。考えるのやーめーよっと!」

 

 月山さんと望月さんは、一体何者なのか。俺たちが彼らと協力関係になってから疑問に思っていたことではあったが、答えは出ない。

 

 マシュさんとMEMちょの話から、ある程度の推測は導き出されるものの、大した証拠がないのに意見を出すのは失礼だ。第一、あの人たちに秘密があっても、俺たちの目標を妨げるような事柄ではないだろう。

 

 コーヒーを啜ろうとすると、アイが何かを思い出した様子で目を見開いた。

 

「あ、そういえば! この前、望月さんと月山さんがね……」

 

       ◈

 

「なんだ、急に。ダンスの練習付き合えだなんて」

 

 夜に風呂に入った後のホテルの一室。ルビーはソファーをどかし、振り付けの確認をしている。スマホで音楽を流しながら。

「体なまっちゃうと良くないからね。撮影手伝うのは楽しいし、ママの演技見れるのはいいけど、ダンスの降りつけ、忘れちゃうのは良くないからさ」

 

 『サインはB』のダンスではあるのだが、どうも関節を曲げる部分がぎこちない。

「……で。さっき思い付いたことをMさんたちと話してたけど、何を閃いたんだ?」

「ドラマの挿入歌に私たちの曲使えないかなって相談してた」

「どうだった?」

「……検討してみるって。Mさんは雰囲気的にイヤみたいだから多分無理だと思う」

 

 振り付けの動きが、止まった。

 

「あ、そうだ。明日、ママにダンス教えて貰おうっかなー!  ……アハハ」

「……ルビー。いい加減にしろ。カルデアの人たちも諦めてる。アイは、」

「お兄ちゃん、黙って」

 

 妹は両手の拳を握りしめ、ピシャリと言葉を放った。体が震えている。

 

「頭の隅っこにあるもん。……立香ちゃんが言ってた。ママが……一週間も消えちゃうって。幽霊みたいな存在────幻霊だから」

「……そうだ。こればかりは、どうにも出来ない」

「あ、あと。私たちが元の世界に帰ったら、ここでのこと全部忘れちゃう……って。ママとの思い出も、カルデアのことも。そう言われたよね?」

「……忘れるわけないだろう」

 

 感情を必死になって抑える。薄々脳内によぎっていたことだ、泣く程の、こと、ではない。

 

 黙ってうなずくと、背中を向いている妹の震える肩に手を置いた。

 

 俺だってこんな心が安らぐ日々が続いたら良いとは考えている。異世界に迷い込む前は、勇気を出して貼ったポスターや写真にも胃のムカつきを感じていたのに、今は症状が落ち着いている。アイの顔を見ても、事件の時を自然と思い出さないのは、あまりにも幸せなことだ。

 

 でも、早く帰らなければ。アイドルであったアイの笑顔を永遠に奪った犯人を見つけて、そして。

 

 ドアを軽く2回、ノックする音が聴こえて現実に戻される。

 

「すみません、ルビーさんにアクアさん、まだ起きていらっしゃいますか?」

「夜分遅くに申し訳ございませんわ。少しお時間、頂けます?」

 俺たちは慌てて目を擦ると、パジャマ姿の神妙な顔のマシュさんと月山さんを部屋に通す。すぐに、マシュはルビーに話を切り出した。

 

「あの、ルビーさんはアイドルなんですよね?」

「あ、うん。そうだけど」

 

 妹が肯定すると、月山さんはもじもじとしながら、頭を下げた。

 

「あの、私たち……B小町の曲を踊ってみたいのです!」

「え、踊れるのか?」

 

 肯定する月山さんに、マシュさんが照れくさそうに返事をする。

 

「は、はい。わたしは以前にアイドル特異点……アイドルユニットの頂点に聖杯が与えられるという特殊な世界で、一時的にアイドルをしていたのです。B小町の皆さんのお話を聞いて、また、ダンスをしたくなってきてしまいまして……」

 

 マシュさんの熱弁に当てられてルビーの頭に電球がついた。そして、満面の笑みを浮かべた。

 

「そうだ! 私、良いこと思いついちゃった! 全部忘れちゃうかもしれないなら、ママが叶えられなかったこと、一緒にやってもいいよね!」

 

To be continued……






次回は6月or7月に更新予定です。お楽しみに!
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