リボーンファンタジア 立香編 推しの子は月にいる   作:ワフこねこ

9 / 9
⚠️Attention⚠️

この物語は
『Fate/Grand Order 奏章Ⅲ』
『推しの子』序盤
のネタバレが含まれます。

大丈夫な人は、どうぞこの先へ


推しの子は月に居た/ワンダラー キミはアイドル

 

 

 戦いは激しいものだった。パーシヴァルさんもカルナさんも、マシュとBBを除いたカルデアのサーヴァントたちは全員元の世界に退去させられた。マシュさんも傷つきながらも戦った。B小町とアイは彼が一番好きな『サインはB』を歌い続けた。そして。

 

「マスター! 孔から、カルノミコさんが出ています! マシュさん! 引っ張り出しちゃってください!」

 

 ゴールデンBBの呼びかけでマシュはソトオリヒメさんを小脇に抱えながら、ムーンキャンサーから出てくる攻撃をすべて見切り、BBが作った透明な道を駆けていく。上半身のみ出ているカルノミコさんに名を呼びかけながら、両腕を掴んだ。

 

「カルノミコさま! 今お助けいたします!」

 

 ソトオリヒメの必死の呼びかけにカルノミコさんがまぶたをあけるが、その表情には明るさは一切なかった。

 

「このままにしてくれないか? ソトオリヒメ」

 

「な、なぜです! カルデアやアクアさんたちに、すべてお話したんですよ、私たちのことを!」

 

「─────私は、私はダメな人間だからだ。あの研究所じゃ足手まといで何もできず、アイも殺せない。それどころか、自分勝手な『アイを自分のドラマに出したい』なんて言う黒い願いに、幻霊のアイとみんなを巻き込んだ。このまま死ねば、私の存在はどこの世界にもなくなるんだ。最初から、転生なんて、するんじゃなかった」

 

 今さらここまで巻き込んできて。勝手に死ぬなんて許してたまるか。体が勝手にメガホンを構えていた。

 

「何が……真っ黒な願いだ! 俺は知っているぞ! アンタの作品は、全部見た。どれもこれも、今活躍している俳優たちの演技が際立っていました。あなたの存在が消えるなど、日本のエンタメ界には大きな損失です」

 

「で、でも……アクアくん……ソトオリヒメ。引っ張り出すのは止め……」

 

「このまま消えるなんて、私が許しません。運命が私たちを弄んで、こんなことになってしまったけれど。あなたには、大勢のファンがついているんですよ。どんな理由であれ、あなたを応援してくれた人たちを、裏切るわけには参りませんわよ」

 

「……!」

 

 引っ張り出されたカルノミコさんは憑き物が落ちたかのような穏やかさがあったが、その場から動けない。男の白野さんが跳躍し、その肩を担ぐ。ルビー、アイ、有馬、MEMが下から助けられた彼に手を振る。

 

 ムーン・ドバイ・トウキョウのテクスチャも元に戻り、巨大な白い光のムーンキャンサーもほぐれていく。辺りを見渡す。心地の良い解放感と寂寥感が胸を満たす。

 

 立香さんも晴れやかな顔をしていたが、突然顔が苦痛で歪み、左腕を抑える。その左腕の一部から、三日月型に光が漏れ出ている。焦ったマシュが、立香さんの服の袖をめくると、三日月型の傷がこんもりと膨らみ、わずかに声が聴こえているではないか。なかなかに気味が悪い状態だ。

 

「先輩、これは……!」

 

「あとで徐福に何とかしてもらうから大丈夫! それよりも、白野さん。私たちのいる空間が、ふにゃふにゃなんだけど!」

 

「BBの空間固定が解けかけているんだ! このままじゃ、みんな落ちて後かた」

 

「え、マジぃ!? それって激ヤバじゃないですか!! もうサーヴァントのみんなぜんぜん残ってないし! Mさん、なんとかできない?」

 

 ステージから降りて懇願するルビーだったが、Mさんはイヤそうな顔で首を横に振る。

 

「いやいやいや、できませんよ、こっちはニンゲンの皆さまを守ったおかげでガス欠なんですからネェ! 皆々さま、早く展望台へ!!」

 

 ダッシュで走り出した立香たち。見ている、こっちが焦る。早く頑張ってこっちへ─────。ムーンキャンサーはもういなくなった。

 

 そう思った刹那。理解出来ないことが起きた。突然思考が勝手に切り替わり、頭の中にあの輪の光景が飛び込んできた。周りは白い糸だらけで、誰一人として、いない。俺はいつの間にか蚕の繭に取り込まれてしまったらしい。声が聴こえてきた。

 

『きれいで うまれかわれて うらやましい』

『おまえはひとりぼっちじゃないなんて』

『置いていくなんて最低だ』

『ここはお前の居場所じゃない』

『お前に彼女の仇を取る資格なんてない』

 

否定。妬み。嫉妬。孤独。脳が繭になっていく。感情が消える。ムーン・キャンサー。霊長の座を譲ろうとしない、本能。この体の根底に救う、黒い衝動を否定する誰か。

 

『神様に特別扱いされるなんて羨ましい』

『特別特別特別特別特別特別特別特別特別─────』

 

 体が白い糸になっていく。繭と同化していく。別の世界であっても、人間である限り、例外はない。競争相手を引きずり下ろしたいだけのなにか。

 

何か、脳裏に浮かぶ光景がある。俺のじゃない。カルノミコ……いや、望月さんのだ。

 

       ◈

 

 この時代はノンフィクションだ。善人のふりをして他人の人生を踏みにじる。飛鳥時代でも、大して変わりないこの世のルールだ。

そうしてまで自分の利益を優先して、いい感じに取り繕う。俺もそうだ、この人生でも仮面を被って生きていた。でも、その人の汚い側面ごと愛することができた人物がいた。

 

 星野アイ。享年20歳。彼女は芸能界に殺された。マンションでバカなファンに刺殺されたのだ。彼女の魅力的な笑顔は誰もが目を奪われ、天上の神々の祝福を受けていると思わせる美貌は、俺の人生に光を当ててくれた。導いてくれたのだ。

 

「わ、もしかして……望月さん?」

 

 5月15日、あの日のB小町の握手会でのことを今でも鮮明に思い出せる。行列の先頭にいた俺は後ろにいたきゅんぱん推しの人に顔が赤いのを案じられながら、最後尾のアイちゃんに握手した。そして「望月さん」と言われたその瞬間の胸の高まりは魂に刻まれている。

 

「正解! 俺の名前、覚えててくれたんだ! 超絶嬉しいよ!」

「えへへ、良かった合ってて。今回の新曲、もちろん聴いてくれたよね?」

「もちろん! あ、あ、後さ。ごめん、この前のライブ行けなくて」

「ううん、全然気にしてないよ。望月さんがお仕事最近頑張ってるの、私知ってるからね」

「ああああアイつぁぁん!」

「お時間でーす」

 

 今思えば、握手会でももっとアプローチすれば良かった。はあ……真冬の夕方に出かけるなんて、やはり避けるべきだったのだ。有り合わせのセーターとマフラー、使い古しの薄くなったズボンで出かけるなんて。

 

 黄昏の空には薄雲がポツリポツリと流れ、冷たい2月の風が暗くよどむ心をさらに冷たくする。いつも、B小町のライブはとっておきの服装で出掛けていたのに、思いつきで来てしまった。この震えは寒さのせいなのだ。そうに違いなかった。

 

 せめてもの、仏花だけは良いものをと墓地近くの花屋でちょっとだけ奮発して花束を買い、アイちゃんの前に供えた。手を合わせる。

 

 開催することのなかった東京ドームのライブはどんなモノになっただろう。彼女が主演で俺が監督するはずだった作品は、どのような称賛を受けたのだろうか。悲しみの感情が目から溢れそうになる所で、近くで砂利を踏む音がして、目を薄目で開くと花を持ったスーツ姿の女性と子どもが目の前にいた。

 

 女性はアイのマネージャー……だったと思う。子どもの方は知らないが、天使のような金髪に、蒼い瞳がとてもキレイだ。アイに少しだけ似ている気がする。

 

 2人とも、俺を心配そうな目付きで立っていた。今思い出した。映画の現場で知っている。ああ私のような愚か者が、この場にいることが─────恥ずかしい。唇が早く動いた。少年に「私はもうキミと会うことはないけど、私の分まで頑張って」と声をかけて、その場を去った。

 

 自分のテリトリーに帰ってきた。私以外誰もいない暗い部屋、アイの笑顔のポスターが私を見つけている。そういえば、また家賃が滞納していたな。もう、どうでもよいか。

 

 天の神も地の神も、二回目での人生でも私たちを祝福してくれない。ただ一人を愛せばよかったのに、二つの人生で二人も愛してしまったから。そうに違いなかった。哀しみの次に、どうしようもない感情がある。

 

 突然に苦しくなって、口から血を吐いた。時期に私もアイの元に行くらしい。行きたい。いますぐにでも。

 

 憎い。憎い。アイを殺した男が憎い。死んだなんて信じたくない。私自らが罰を与えたかった。ふと疑問に思う。ソイツが、如何な方法でアイの自宅を、本当に殺したのかと疑わしくなる。

 

 もしも、本当に『別の犯人』がいたのなら。誰か、ソイツを罰してくれないだろうか? 私はもう復讐をする資格なんてない。

 

 私は机の上に置いてあった包丁を心の臓に突き立て、そして─────────

 

「キミー、早く起きてよ。新人サーヴァントくん?」

 

 瞳を開けると、無影灯が顔に当たってくらくらとした。たしか私は……死んだはず。なのに、その男はいた。赤い髪に人外じみた瞳の色。ソイツは人を喰ったかのような声色で告げる。

 

「やあ、いきなり質問だが、すまないな。キミに、手伝ってもらいたいことがあるのさ。その代わり、願いを叶えてあげよう。言ってごらん? キミの炉心……願いはなんだい?」

 

 手足が縛られている。強制の魔眼? どうでもよいか。この人には、告白してもいいかもしれぬ。

 

「すべてが、すべてが欲しい! 我が愛しの妹……ソトオリヒメも! 名声も! アイが自分のドラマに出ている事実も! 私が自ら手に入れたい……!」

 

「フフフ……願いをいっぺんも2つもとは、王族らしく、欲張りでよろしい。少々手は込んだが、準備した甲斐があった。アイ……、アイね。父さんが好きなタイプの容姿だ。喜べ、お前の望みはすべて叶えよう」

 

 医者らしき男女が数人、私を取り囲んだ。そのうちの一人が、私の首に注射器を差し向ける。中身はどろりとした黒と赤が混じりあった液体状の薬品だ。意識が薄れて、思考が単純になる。耳に誰かの叫び声が入る。複数だ。コイツは、マズい気がする。

 

「先にお手伝いしてもらおうか。お前には、我々が開発する新型兵器の実験体テストの一人になってもらう。月から落ちて来た真祖に失敗作。それなりにデータは貰えるかな? もちろん、魂が繋がっていない妹も対象だ」

 

「……私のことは好きにして構わぬ! その代わりだ……。ソトオリヒメには絶対手を出すな!」

 

 私の脅しに、男は一笑に付した。

 

「さて……研究員のみんな。実験を始めてくれ。キミが新しい存在に生まれ変われたら、星野アイを始末してくれないかな? 魂を取って、トワイライトに迎え入れるのさ。頼むね。私は計画の調整があるので失礼するよ」

 

 ヤツの声が聴きずらい。首に例の薬品を打たれた。思考が黒く染まっていく。自分がキライだ。三度目の人生でも運命に流される、自分がキライだ。必死にその男に怒りをぶつけようと声を上げる。

 

「アイを始末する? そんな命令、従えるものか!! 誰であろうと関係ない。私は運命になにをされようとも、諦めないからな!」

 

       ◈

 

 ─────俺だけではない。復讐心を持っていたのは、俺だけではない。運命に抗おうとした人間を、たった今知った。もう復讐心だけで、行動することはできない。彼の無念を、晴らしたい。原点を思い返せば、夢半ば、舞台から降ろされた少女を、誰よりも知っている。

 

「アンタの声は届かない。さっさと死んでくれないか」

 

 糸を引きちぎる。体は元に戻っていた。月に向かって手を伸ばす。だが、前へと進めない。思考が流れてくる。正しいのか。ムーン・キャンサーが説いてくる。犯人を捕まえて、その後、どうする。何より、そんなものが、芸能界を進む、動機でいいのか。最初から転生した時点で復讐する資格などない。

 

 

『ばかげている。復讐心が自分の命を焼き尽くすかもしれない。それでも、未来を語るなんて』

 

「未来、語ってもいいじゃん。前に進む理由なんて、いくらでもあってもいいよね。だよね、アクア」

 

 思考が停止しかかったその時、声が聴こえた。もう、何千、何万も聞いたことある、あの美しい声が。

 

 アイの声が。

 

「アイ……? 記憶が元に戻ったのか?」

「思い出せたよ。アクアとルビーのママっていう記憶と、私がもう死んでるって記憶がね」

「……! っ、俺たちの父親は?! 覚えているか」

「ごめん、そこまでは……。でも、私、本来はムーン・キャンサーとして召喚される予定だったんだ。でも、まだ歴史の積み重ねが足りなくて、幻霊としか召喚されなかったんだ─────」

 

 ありえない奇跡が起こった。感情のまま、抱きしめる。華奢な肩の母親を、憧れのアイドルを。そして、ずっと呼びかった名称で彼女を呼べるのだ。

 

「アイ……、やっと思い出してくれて、良かった!」

「……私も、ずっと、ずっと、アクアのこと、呼びたかったのかも。すごく、すごく嬉しい! もう走り回りたいぐらい! 頭撫でちゃえ!」

 

 久しぶりの感覚だ。さっきからもうずっと涙が止まらない。記憶を失う前も後も、大好きな人がくしゃくしゃの笑顔で抱きしめている。変わらない、この人は。

 

「アクア、復讐してもいいよ。あなたが、前に進むのなら、私はそれでいいからさ。もっと自分を褒めてあげなきゃ。ほら、ゴールに向かって! 私の存在、もうダメみたいだからさ。私の中のアーキタイプが、飛び立ちたいみたいでさ」

 

 アイの体が、ところどころ透けている。ずっと会いたい人だったのに。ご都合主義でも良い、俺は、俺たちは、

 

「そんなの、ダメだ。アイがいないと生きていけない! アイのために生きていないと、俺は、本当の自分が分からなくなるんだ! 行かないでくれ、アイ! 頼むから、俺たちのそばにずっといてくれ! 頼む、お願いだから……!」

「平気、平気。自分の気持ちにウソ、ついてるでしょ」

「ウソ、なんて……ウソなんてついていない!! ホントだ、ホントなんだ!」

「今のアクアもルビーも、私のために生きてるだけじゃない。もう、私がいなくても、平気でしょ」

「……平気なわけ……」

「こら!」

 

 デコピンされて、たじろぐとアイはふくれ面だ。

 

「もう一人じゃないんだよ。アクアにはさ、ルビーもあかねさんも、有馬さんも、MEMちょさんだってついてるんだから。もっと未来を生きて、アクア」

 

 体が消えかかっている。感情が心から溢れ、迸る。

 

「ああ。絶対約束を果たすよ。アイ」

「うんうん、前より大人っぽくなったなー。や、ヤバい、消えちゃう! ……えーと。苦しい時はさ。ルビーと一緒に立ち向かってよね。2人で力を合わせればきっと何とかなるよ」

「だいぶありがちだな」

「カルデアのみんなと望月……カルノミコさんとソトオリヒメさん、Mさんにお礼は絶対言って。あとB小町のみんなに、これからも応援してるよって。あかねさんには、演技マジで表現力高いよって言って。……うーん、時間がもっとあったらなー!」

「ふふ。全部伝えておくよ」

 

 もう体はほとんど見えない。かろうじて顔は見えている。視界はさっきからぼやけて見えない。別れのときがいよいよだというのに、言葉が、上手く言い表せない。

 

「最期に、どうしようかな? 『愛してる』は前言ったし─────そうだ!」

 

 アイは、いつも通りの笑顔でほほ笑む。

 

「アクア、最高の役者になって。私、2人のこと天国からずっと見守ってる。絶対幸せになってね!!」

 

 最高の役者。アイが、自分が死ぬ直前の、お願い─────。あの時とは違う、キラキラとした、星のような瞳。

 

「短い間だったけど一緒にいてくれてありがとう、アイ!」

 

 完全に消えたアイに、まともに言えたのはたったそれだけ。でも、伝えられて胸のつかえは取れた。前に進む。いや、走る。体は自然と月の方向に向いていた。ムーン・キャンサーの小言は完全に無視して。月に吸い込まれていく。

 

 アイから解放されたアーキタイプが、美しく上昇していく。

 

 おはよう。こんにちは、アーキタイプ。

 

 さようなら。俺たちの永遠の推し。月に居たキミは、完全無敵のアイドルだ。

 

       ◈

 

 その後、月面都市に帰還した俺は、落下し、ワームホールから出てきたプロテアに助けられた。立香さんの方も、同じワームホールから出てきた、プロテアにそっくりのプロテア・オルタという巨大な少女に拾われ、合流できた。他の人たちは俺たちが突然いなくなってしまい、みんなで探していたようだ。

 

 ブルジュ・ハリファから降りてから、ルビーはずっとアイがいなくて泣いていた。でも、アイの言伝を聞いたら、すぐに前を向いて、BBや立香さんたちにお礼を言いに行ってくれた。

 

「ただいま帰ってきたのだわ……」

「え、エレちゃん。……もうぜんぶ終わったよ」

「そんな……! あ、あんまりなのだわ……! 私の活躍はなしなんて……あんまりなのだわ─────!!」

 

 復活したエレシュキガルさんは非常に可哀想だったが、今度立香さんがまた旅行に連れていくという。サーヴァントはホントに大変だ。そのまま、カルデアに帰っていった。

 

 次は、もっと活躍できますように。

 

 俺がBBにムーン・キャンサーに取り込まれた時の状況を話した後、この世界がどうなるかについて教えてくれた。ムーン・ドバイ・トウキョウは俺たちが帰ると、東京部分が消滅して元に戻り、ゆるやかに滅んでいくという。そしてBBドバイは肉体は消失したまま3000年ほどこの世界を統治することとなった。

 

 アンソニーさんや他のAIたちもじきに復活し、ドラマの最終回は元の生活に戻ったら、放送されるという。BBには、素晴らしい仕事をありがとうと伝えてほしいとお願いした。どうやら、俺たちの影響でAIたちがドラマを作りたがっているという。文化はしっかりと市民の心に残ったようだ。

 

 俺たちを庇ったリップさんもなんと消滅しておらず、無事カルデアに帰還していた。

 

 ところで、なぜ一部が東京になっていたのか質問すると、えー、BBちゃん分かりませーんと何だかはぐらかされた。俺たちが気にするようなこと……でもないか。

 

「白野さんたちも、やり残しがある。やらないと、カルデアのみんなは帰れない。対決しなければね。なので、アクアくんと先にお別れだ」

 

 アルセウスがワームホールが開く。俺たちも帰るときが来た。

 

「わーん、寂しくなるぅぅぅうう……」

「立香ちゃんに、いい年して抱きつかない! 行きますよ、先輩!」

「はーい! 元気でね、マシュ~! 立香ちゃん! みんな! 私たち新生B小町のYoutubeもヒマなとき見てねぇ!」

「私も行くわ。そっちに帰ったら、仕事の遅れ取り戻さないと。また元の世界でもよろしくね。バイバイ、ルビー、アクア!」

「なんだか、あっという間だったね。皆さん、お世話になりました! アクア、また今度ご飯行こうね」

 

 有馬とあかねは情けない顔のMEMちょを押しながらワームホールをくぐっていく。どちらも、アクアと呼ぶ声に力が入っていたのは、なぜだろうか。

 

 カルノミコが、俺たちに頭を下げる。

 

「我々も、散々迷惑をかけてごめんなさい。ありがとうございました」

「そんな謝らないでよ、カルノミコさん! 私、めちゃくちゃ楽しかったんですから」

「はい、とても楽しい夏休みでした」

「こちらこそ、感謝するよ。私たちはすぐにアイの元に行くから、後のことは頼んだよ。狂魔王を倒してね」

「「……はい!」」

 

 2人の顔に一瞬哀しみが生まれたが、すぐに2人は微笑むと、カルノミコさんは目を細めた。カルデアの2人は再び、2人の白野さんに促され、ブルジュ・ハリファの入り口に向かう。2人の少女が俺たちに手を振った。これからも2人は戦い、サーヴァントたちと出会っていくのだろう。

 

「ふー、トワイライトが干渉したおかげで、アクアさんたちの未来が最悪の結末を回避したとは、皮肉ですね……」

「最悪の結末……?」

「いいえ、なんでもありません。アクアさん、ルビーさん、お元気で。もろもろの世界改変は人類管理AIのBBちゃんにお任せを。そろそろアルセウスが限界だと伝えています。行ってください!」

「ありがとうございました!」

「元気でね、BB!」

 

 BBに促され、俺たちはカルノミコさんとソトオリヒメさんと握手を交わした。

 

「カルノミコさん、今までありがとうございました。また、いつか」

「ああ。いい役者になるんだよ。幸せに、ずっと先まで長く生きてくれ」

 

 ムーン・ドバイ・トウキョウでの最後の景色は、ソトオリヒメさんがカルノミコさんに寄り添う姿だった。ルビーと手を繋ぎ、俺たちは月面都市に別れを告げた。

 

       ◈

 

 オールド・ドバイのどこかにある部屋の一室。私は、ソファーに座って、星野アイのライブDVDを見ている。隣には愛する人。名前は月山愛姫、前世での名はソトオリヒメ。

 

「最期は、オールド・ドバイで二人きりでいさせてくださいって、白野さんにわざわざ言わなくてもよろしかったのでは?」

「ちゃんと言わないと、彼らに失礼だからな。岸波白野という男と女は、平行世界にて私たちよりも努力し、王と女王として市民を纏め上げた。ヤマトタケルも、自国を守るため修羅となった大英雄だ。

 

 ヤマトタケルをこの目で見て確信したよ、私は生まれた時から、他とは違う。それどころか、異星人だ。最初から、施政者たる器ではなかったのだ。……次に会ったら、皇族の血を穢してしまったことを謝らねばな。それに……望月翠としてから、ずっと考えているんだ。私たちが、もしも血が繋がっていなかったら、あのような選択をしなかっただろうと」

「─────それは……、」

 

 彼女が泣きそうな顔で私に近づく。

 

「私は、他の皆さまに、自分の人生に後悔していませんと言いました。でも……わたくし、やっぱり後悔だらけです。もっとお父様を説得できたなら、カルノミコ様が島流しになったり、そもそも2人で命を絶つこと自体が、間違っていたのですわ……!」

「そうだな、そうだな。マジで、そうだな! もっと、他の、方法を考えれば、もっと他の者と相談できれば良かった。いや、もはや、後悔すまい。そうだ、最期にお前に伝えたい─────」

 

 意識が突然、遠のいてきた。ソトオリヒメの手を握る。ああ、ダメだ。ほとんど力が入らない。神々が私を迎えに来たのだ。

 

 我々が死んでも、次にサーヴァントとして召喚されたとて、カルノミコとソトオリヒメが転生したという記録は、絶対に持ち越せない。死者が蘇ったなんて事実を世界が一度認めてしまえば、大変な事態となるからだ。

 

 だが、それは逆に素晴らしいことだ。この面白い、そして夢が叶えられた我々の記憶は、我々だけのものになるのだから。

 

 最期に伝えたいこと。それは。

 

「2度目の生、楽しかっただろう?」

 

 ソトオリヒメは大きく頷いた。ああ。キミはなんて星のような瞳をしているのだ。もっと、見つけていたくなるではないか。

 

「ええ、もちろん。私は、最期まで、生きます。足掻いて、残り少ない命を、もっともっと楽しみますわ!」

 

 最期の力を振り絞って、愛する人の頬に手を伸ばす。もし、また生まれ変われたのなら、絶対にまたアクアたちと映画を撮って。カルデアでご飯を食べて。B小町のライブに、2人で行って。

 

「短い逢瀬でしたけど、ありがとうございました。さようなら─────『望月さん』」

 

「バイバイ、『アキさん』。可愛らしく、愛らしい私のもう一人の『推しの子』よ」

 

 いや、生まれ変われなくても、構わない。私の人生は、もう前世から最高だったのだから。

 

 眠るように、目を閉じた─────。

 

       ◈

 

 元の世界に帰ってきたあと、俺、星野アクアはルビーとともに、3時間ほど目を覚まさなかったということになっていた。ミヤコさんがスゴい心配になって、あちこち医者にも連れていかれたが、どれも疲れが溜まっていたんでしょうという結果しかでなかった。どうやら他の異世界転移してた面子もそんな感じらしい。流石に真実は世間に言えないし、黙っておくしかないだろう。

 

 数か月後、俺たちが『東京ブレイド』の舞台に立っていたぐらいの時期に、芸能界にも影響があった。望月さんの遺族が彼の書き残したメモを発見し、それが元で「罪の終わりはキスから」を放送していたテレビ局を訴えたのだ。

 

 近親相姦の内容を描いたのは、プロデューサーである平野のパワハラから逃れるため、彼は望んでいなかった。結果は遺族側が勝訴。マスコミやネットのニュースでも取り上げられた。

 

 このことで望月さんの監督作品や出演作品は再評価を受け、ネットでも評判を呼ぶこととなった。この前五反田さんも、「やっぱりアイツの脚本、いいって言ったろ。世間は気付くのが遅いな」とほくそ笑んでいた。望月翠という男は、芸能界に名を遺すことができた。成し遂げたのだ。

 

 1月頃。『東京ブレイド』がそろそろ千秋楽が近い公演で、月山さんと再会した。従者とともに車椅子姿で、美しい髪はツヤがなく、ムーン・ドバイ・トウキョウで出会った頃と比べて、かなりやせ細っていた。それでも、あのときと変わらない可愛らしい声で、

 

「アクアさんの演技凄かったよ。立香さん役のときより進化してない?」と感想を言われた。従者はその発言に首を傾げていたが、心の中で、ほっとした。あの不思議な体験は、実際に起こった出来事なんだと。

 

 その2週間後、ネットニュースで月山愛姫が亡くなったと報じられた。たったの、15歳。彼女に心から感謝を。まだ、俺たちが来るまで見守っててくれ。

 

 俺自身にも、変化があった。PDSDの症状が少し改善されたのか、アイの写真を前よりかは見れるようになった。それだけではない。ちょっとだけ、ルビーとの時間も増やした。

 

 東京の繁華街。ルビーと2人で歩いている。

 

「お兄ちゃん、そろそろお腹空かない? 何食べよっか?」

「ん……、そうだな。中華とかいいんじゃないか?」

「はー、お兄ちゃん。それはないって。今ダイエット中なの! 中華はなし、なし!」

「じゃあ、なんで聞いたんだよ」

「お兄ちゃんなら、私の食べたいの当ててくれると思って!」

「言わなきゃ、分かんねーよ……」

 

 ルビーとの会話に夢中で、肩がぶつかってしまった。慌てて謝る。黒い帽子を目深にかぶった、金髪の男だ。

 

「謝ることないよ。こちらこそ、悪かったね。それじゃ」

 

 男は足早に俺たちの後ろを通り過ぎる。雰囲気が、随分と俺と似ている気がする。背筋が寒い。……まさか、コイツが、アイの。

 

 振り返った。─────男はどこにもいなかった。

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

「いや、別に」

「よし行こう、お兄ちゃん! 私たちなら、どこまでも行ける!」

「ああ、そうだな」

 

 歩き出そう。歩いて、生きて、復讐を果たそう。

 

 復讐は、未来のために生きる準備だ。俺は絶対にやってやる。2人で、俺たちはアイの仇を討ってやる─────。

 

 

[chapter:リボーンファンタジア 推しの子編 完]




フシギな月のウソを巡る、アクアとルビーの楽しい夏休みの物語は、これにて完結!

 かなり久々の小説でしたので1 年 5 ヶ月かかりましたが、とても楽しい経験となりました。この世界線のアクアとルビーは、ひょっとしたらより良い結末を迎える……? かもしれません。

 2人や推しの子のキャラたちが幸せになるのは、【神のみぞ】知るかもしれませんね。

今まで応援ありがとうございました!

今度は、pixivや新しい活動の場所でお会いしましょう!
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