「終わった……」
ようやく重要な書類の作成が終わり、僕、須藤ソゲンは、背伸びをする。
今日は、いつもより早く帰れそうだ。
そう思っていた時だった。
「おい!!須藤はいるか!!」
「は、はい!」
僕が所属する部署の上司が、顔を真っ赤にしてこちらへ歩み寄って来る。
なんだろう?いやな予感がするんだが。
「なんだこれは?!こんな書類で顧客に満足してもらえると思ってるのか⁉」
「すいません……」
上司から理不尽に怒鳴られ、僕は必死に頭を下げる。
入社してからずっとこんな調子だ。
なんで僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ。
僕は社会人3年目で営業としてこの会社に勤めている。
エリートというわけでも役立たずというわけでもなく、ただの凡人だ。
真面目に忠実にやっているはず、それなのにただただ上司のサンドバックにされる毎日である。
「すいません……。明日までにはやり直しますので、もう少し待っていただけませんか?」
そう言うと上司が書類の入ったファイルで思いっきり僕の頭を叩く。
「明日だと……?今日中にやれ!!」
その言葉に僕は心の中で、ああ……また残業かと悟る。
「わかりました……」
ぶつぶつと愚痴を吐きながら、上司は入り口のドアにカードキーをタッチし、上司はオフィスを後にした。
上司の姿が消えたのを確認し、僕は一人になった部屋で思いっきりあくびをし、立ち上がる。
机の上に置いてある時計を見ると既に11時を回っている。
今日も帰れそうにないし、コンビニにいこう。
椅子から立ち上がり、フラフラと、今にも倒れそうになりながら、入口にカードキーをタッチしオフィスから出る。
今日も帰れそうにないなぁ……、もう何日家に帰ってないんだろ?
お風呂にも入りたいな……シャワーだけじゃ物足りない……。
会社のビルを出て、僕は歩行者信号が青になるのを待っていると、僕の向かい側に一人のスーツを着た女性が立っていた。
可愛いな。
その女性は、綺麗なロングヘアーで、スタイルもよく、まるでモデルさんみたいだった。
僕は21年生きてきて女性経験は全くない。
あんな女性と付き合えれば、僕は間違いなくバラ色の人生だっただろう。
そんなことをして来なかったのは僕の人生最大の汚点とも言える。
やめよう。
そんな事を考えていると虚しくなってきた。
僕は気を紛らわすためにスマホを取り出しニュースアプリを開き、自分の好きなジャンルのページを開く。
あのゲーム、もう新作が出てたのか、でも買いに行く暇もないし、やる時間もないな……。
好きなゲームの新作の記事へ夢中になって読んでいると、目の前にいた女性は急ぎの用事を思い出したのかまだ信号が青になっていないのに少し小走りで横断歩道を横断し始めたのだ。
だがその刹那……。
プーとけたたましいクラクションとともに大きな貨物トラックが猛スピードで横断歩道へと向かって来たのだ。
嘘だろ?
横断している人がいるのに、トラックは、スピードを緩めようとはせず、横断歩道を渡る女性に突っ込んで来ていたのだ。
どうやら、ハンドルに頭を突っ伏して居眠りしるようだ。
助けなきゃ……!!
僕の体は何も考えず走り出していた。
「間に合ええええええ!!」
全速力で女性のもとに走った、僕は、女性に勢いよくタックルをかますようにつきとばすと女性は元居た歩道に突き飛ばされた。
だが、僕の体は横断歩道に残ったまま、女性の身代わりとなってトラック吹き飛ばされてしまう。
僕少しは役に立てたかな……?
歩道にいる女性を横目に見ながら道路にたたきつけられ目の前世界が真っ暗になった。
どれくらい時間がたったのだろうか?
僕は気が付いたら白い何もない空間にいた。
ここはどこだろう?
「お目覚めですか?」
優しく包み込まれるような声だった。
声がした方向を向くと、白い長い髪。
そして透き通るような白いドレス見た目は小学生から中学生くらいだろうか?
「あのー、ここはどこでしょうか?それとあなたは……?」
「ここは天界……迷える死者を案内する場所。そして私の名前は天界の女神エクスシア。」
天界の女神?ここは天国ではないのか??
困惑していると彼女は真剣な顔をして話しかけてきた。
「須藤ソゲン、貴方はトラックにはねられて。お亡くなりました。」
なんでこの娘は僕の名前を知っているんだ?
だけど僕はそんな素朴な疑問よりも気になることがあったのでエクスシアに問いかけた。
「やっぱりそうなんですか……。えっと僕が助けた女性は助かりましたか?」
「ええ、無事ですよ。」
「それは良かったです……」
僕はほっと胸なでおろす。
だけど助けた女性の心配をしている場合ではなかった。
「で、僕はこれからどうすれば良いんですか??」
おそらく僕は、もう生き返ることはできないだろう。
これから僕は、この娘に、何をされるんだろうか?
「貴方には今から2つの選択肢を与えます。」
「二つの選択肢…??」
僕はゴクリと唾を飲み込んだむ。
一体どんな選択肢を突きつけられるのか緊張をしながらエクスシアの選択肢を聞いていた。
「1つ目は、このまま貴方は安らかに死ぬこと。2つ目は正義のヒーローとして別の世界で生きていくこと」
「正義のヒーロー……?」
僕はその言葉に心を揺さぶられていた。
何も役に立てなかった僕が別の世界で正義のヒーローとして生きていける!!
僕は手を握りながら高らかに言い放った。
「わかった!このまま消えるくらいなら、正義のヒーローでもなんでもやってやるよ!」
「やはりそういうと思いました。」
彼女は少し微笑みそしてどこの言葉かもわからない呪文を詠唱し始めると1つの物質を手のひらの上に乗せた。
「貴方にこれを」
「なんだ?これは……?」
「エレフェントドライバー、これが貴方を正義のヒーローディーパに覚醒させる…」
「正義のヒーローディーパ……」
彼女の手のひらにあるエレフェントドライバーと呼ばれる四角い何も書かれていない白く四角い機械を見つめる。
「ですが、このドライバーは貴方だけの力では意味をなさない」
「僕の力だけじゃだめだって言うのか?」
「はい、このドライバーが意味を成すのは精霊と呼ばれる少女と契約した時。まずはその精霊と呼ばれる少女を探してください。」
精霊?契約?僕の頭の中はよくわからない単語を言われて混乱していた。
それを僕にできるのか?
だけど……ブラック企業で役立たずと言われ続けた僕でもやれることがある、そんな感情が僕の心を搔き立てた。
「僕やるよ」
僕は彼女がもっているバックルをつかみ取った。
「やってくれるのですね……!!」
「あぁ!!やってやるさ!どこまでやれるかわかんないけど」
僕の決意に満ちた顔を見て安心したのかエクスシアはニコっと子供のように笑う。
「ありがとうございます。貴方ならきっとできると信じています。では……」
エクスシアは手をかざすと、今度は別の呪文を詠唱し、僕の足元に丸い紋章を作った。
「貴方にこの世界での幸があらんことを……」
急に僕は体が軽くなり宙に浮いていることに気づいた。
エクスシアは微笑みながらだんだんと天高く宙を舞う僕を、笑顔で手を振りながら、見送っている。
そうして優しく微笑んでいた少女の姿が消えると目の前が真っ白となりいつの間にか、また意識がなくなってしまうのだった。