ネレイスは妖艶な雰囲気の少女に銃の引き金をいつでも引けるように指をトリガーに乗せる。
だが少女は全く動じる気配はない。
ネレイスは少女が気味悪くて仕方なかった。自分が射殺されるかもしれないという状況なのに、なぜこの娘は平気な顔をしているのか……。
「私は貴方と同じ精霊だよ~名前はフォンセよろしくね」
「私と同じ精霊?」
こんな小さい娘が私らと同じ精霊?まだ年端も行かない女の子が。ネレイスの考えている事を察したフォンセは頬を膨らませる。
「あー!こんな小さい子が!とか考えてたでしょ!!これでも貴方達より年上だよー」
「そんなことはどうでもいいですわ、この変な空間は貴方が作ったのですか?」
「そうだよー?貴方とお話しがしたくてねー」
お話?とネレイスが返すとフォンセはニコニコと笑って何度も頷いた。
こんな時に、話なんてしたくはないのだが、無視したら何をされるかはわからない。
ここは素直に話を聞こう。
「手短にお願いしたいですわ」
「あのソゲンってやつに力を貸してあげて欲しいんだよねー」
こいつ何をふざけたことを……。
答えはもう決まっていた。
「嫌ですわ。誰があんな奴なんかに……」
そんなお願いのために、こんな空間に閉じ込められたのかと思うと無性に腹が立ってきた。
だがそんなネレイスの感情と裏腹にフォンセはネレイスの腕にまとわりつくように抱き着く。
「ね~お願い~ディーパのピンチなの~頼むよ~」
「うるさいですわね!!撃ちますわよ!!」
腕にまとわりつくように抱き着いたフォンセを振り払い銃を顔に突きつける。
精霊を撃つのは本意ではないがこんなよくわからないやつを早く成敗してこの空間から脱出しよう。
「撃ちたいなら、撃ちなよ」
!?なんだ?この殺気は……さっきまでの健気な少女の顔ではなくなった?ネレイスは今まで感じたことのない強烈な殺気に恐怖を感じる。
「さぁ、撃ちなよ」
「貴方、本当に精霊!?」
「そうだよ~闇の精霊だけどね」
フォンセがニコっと笑うと突如として地面から黒い腕が生えてきてネレイスの体を掴む。
「くッ……なによ!!これ!!!」
「あれれ~持ち前の身のこなしとか、ジャンプが見たかったのになぁ~」
黒い腕を振りほどこうとするが、ガッチリと固く閉ざされた扉のようになっていて全く開こうとしない、あまりやりたくはないがあれをやるしかないか……。
「観念して早くディーパに力を貸しなさないって……えええええ!!???」
そう言う暇もなく、なんとネレイスの姿はない。
液体のように変化していたからだ。
するりと黒い腕からするりと抜けるとネレイスは息を切らしながら元の姿に戻る。
「すっごおおおおい!!」
「はぁ、はぁ……」
ネレイスはその場に倒れこむ自分の体を液体のようにする能力はかなり体力を使う技だ。
できれば緊急事態の時にしか使いたくはなかったが……。
「もう貴方相手に手段を選んでられない……」
ネレイスは銃の引き金を引き水のエネルギー弾を発射する。
「きゃああああ!!」
フォンセの悲鳴とともにどーーーんと大きな音を立て辺りは煙に包まれる。
しまったつい撃ってしまったと、口を押える。
だが煙が晴れ彼女がみたのは……。
「あーあー、もう私も貴方に手段を選んでられないなー」
それは自分の背よりもでかい大剣を軽々と持つフォンセの姿だった。
先ほどまでいた愛くるしいフォンセの姿ではなかった、その姿は悪魔そのものだ。
「そっちがやる気なら!!」
ネレイスは華麗なジャンプで間合いを取りながら銃から何発もエネルギー弾を放つ。だが向かってくる銃弾をフォンセは大剣を軽々と振り回して全て撃ち落とす。
「嘘ッ!?」
「もっと撃って私を楽しませてよ」
フォンセは無邪気に笑いながら剣をネレイスにブン!という風を大きく切るような音を立てながら向ける。
「うるさいですわ!!」
ネレイスはカッとなりさらに銃弾を撃ち続けるが全てフォンセに撃ち落とされてしまう。
それでも無我夢中に銃弾を撃ち続けるネレイス、そして撃ち落としながらじりじりと間合いを詰めるフォンセ、そしてとうとうネレイスはフォンセに近づかれ顔に剣を突きつけられてしまった。
「弱いね」
「くッ……」
強い強すぎる、こんな幼女に負けてしまうなんて……ここでやられるのか……ニコニコと子供のように笑いながら剣を振り下ろされる鉄の塊に万事休すかと目をつぶる。
だが、目を開けるとフォンセの姿はなく、周りには先ほどまでいなかった町の人々が歩いている。そしてどこからともなくフォンセの声が頭に響く。
(ふーやっぱこの姿だときついなぁ~ま、どうせ貴方はディーパにいやでも力を貸すことになるよ、私の予想は当たる。なんちゃって、あと水鏡の祠にも行った方がいいよ早く行かないととりかえしのつかないことになるとかならないとか)
なにを言ってる?とネレイスは疑い深い表情だったがそれはすぐに確信に変わる。
ネレイス様!と慌ただしく兵士達がやってくる。
「水鏡の祠にマーマン族が続々と集まっています!!」
「なんですって!!??」
しかし冷静に考えると3つの宝物がないと封印は解除できないはず……
「それと、水鏡の宝物も宝物庫から盗まれていまして」
「う、嘘でしょ!!?」
ネレイスは水鏡の祠の方向に勢いよく走り出す。
「ネレイス様!!精霊の騎士様をお待ちに!!」
兵士たちの制止をよそにネレイスは「必要ない!!」と叫んで走り去ってしまう。
宝物庫の外で葛藤する僕がいた、ラグナは宝物庫の中で作戦会議をしているが終わるのはいつになるのかわからない、もう日も落ちようとしているし待っていても時間の無駄であろう、セレステの力がないとどうにもできないだけどこのままここにいても状況は悪くなる一方だ、精霊の力がない今の僕にできることは……?
僕はどうすればいい?
僕は何ができる?
葛藤し続ける僕の前に慌てふためいた兵士がソゲン様!!と叫び走ってくる。
「ネレイス様が、一人で水鏡の祠に向かっていってしまいました!」
ネレイスが?一人で?あいつ馬鹿な真似を……葛藤していた僕の意思は固まる。
僕の足は水鏡の祠に向かって走り出していた。
兵士の人が「お待ちください!」と叫ぶ声が聞こえていたが、それでも僕の足は止まらなかった、なんでこうも精霊は一人で背負い込もうとするやつが多いんだ!湧き上がる怒りを抑え込みながら、僕は祠の元へと走った。
祠の周りは張り詰めた空気となっていた、何人ものマーマン族が固唾を飲んで祠を見つめている。
「まもなくだ、まもなくスペッチオは我が物となる」
バスコは3つの宝物を祭壇に置くように命じると、3人の部下たちによって一つ、一つ祭壇に丁寧に置かれていく、そして、最後の大きな祭壇には縄で捕らえられたセレステが立たされる。
「貴方はなぜ……スペッチオを復活させようとしてるの?」
セレステが問うと、バスコはセレステ前に立ち答える。
「無論、俺達の未来を奪ったセイレーンと人間の連中をこの町ごと滅ぼすためだ」
「そんなことをしたら、貴方たちの住む場所もなくなってしまう!!」
「構わない!!セイレーンと人間さえ滅ぼしさえすれば、また開拓すればいいだけの話だ
人間やセイレーンどもが作ったものはすべて根絶やしにする!!」
セレステはバスコに怒りを覚えた、紛争で人間やセイレーンの平和を脅かしておいていざ自分たちが負けたとなると、被害者面をするのが許せなかったのだ。
「貴方たちのやっている事は間違っている!!!いつかその報いを受けるときが来る!!!」
「ふん、どうとでも言うがいい」
バスコがセレステの前から離れるとリーダーが腕に縄を括り付けた、白いコートを着た初老の女性を引っ張ってくる。
「バスコ様、呪術師を連れてまいりました」
バスコは初老の女性に近づくと腰に差していたサーベルのような形をした剣を取り出すと腕をくくっていた縄を切る。
「おい、お前本当にこれで封印を解除できるんだろうな?」
初老の女性はガクガクと震えながら首を縦にふる。
「よし、さっそく始めろ」
「お、お待ちください、儀式を始める前に湖に生贄を差し出さなければ……」
呪術師の女性が震えた声でそういうと隣で赤い液体が飛び散る。
「バ、バスコ様……な、なぜ」
なんと呪術師の隣にいたリーダーをバスコが切り裂いたのだ。隣で血しぶきを上げながらその場で倒れるリーダーを見て呪術師は声にならない叫び声が上がる。
呪術師だけではない、周りにいたマーマン族の阿鼻叫喚の声もたちまち上がった。
それを間近で見ていたセレステもひどいと一言と悲痛な声で呟く。
「これでいいのか?」
「は、は、は……はい……」
「よし、沈めろ」
周りにいた兵士がリーダーの死体を担ぎ上げ湖に沈めると、バスコは呪術師に儀式を開始するように呼び掛ける。恐怖で震えた呪術師は一歩、一歩と祠に近づこうとすると突如として銃弾の雨が祠の周りにいたマーマン族に降り注ぐ。
「何者だ!!??」
バスコが周りを見渡すも誰もいない、そして祠の方に目を凝らすと呪術師が忽然と姿を消していた
「生贄のために仲間を殺害するまでに落ちぶれたんですわねバスコ……」
凛とした少女の声がどこからともなく響くと呪術師を抱っこしたネレイスが空から舞い降りる。舞い降りたネレイスにマーマンの兵士が襲い掛かるが、それに銃から水のエネルギー弾を拡散させ、襲い掛かったマーマンの兵士たちを爆散させる。
抱っこした呪術師の女性を地面に降ろすと早く逃げてといい足早にその場を去るように誘導しこの場から逃げさせることに何とか成功する。
「貴様……水の精霊ネレイス、ローレライ家の小娘か」
「あら、名前を知ってくれていて光栄ですわ」
「丁度いい、ローレライ家の小娘をここで始末してやる」
そういうと、腰の差していたサーベルの形をした剣をもう一度抜き、ネレイスに近づき戦闘状態に入る。
「その剣で斬れるものなら私を斬ってみなさい」
ネレイスもくるくると銃を挑発するように回し構え戦闘状態に入る。向かい合う二人の間に緊張が走る、そして戦いのゴングが鳴ったかのように、二人の間に風が吹く、最初に動き出したのはバスコだった。
「くたばれええええ!!!」
ネレイスとバスコが戦っている中僕は湖のほとりを走っていた。
周りは草木で覆われ、人やセイレーンの姿は全く見えない日もあと二時間ほどで沈んでしまう。急がなくては……急いで僕の目の前に何人かの人影が立っているのがみえる、まるで僕をとうせんぼしているようだ、そして僕を見つけるとぞろぞろと周りを囲み始める。
「お前ら、何者だ……」
「よう、お前が精霊の騎士ってやつか」
現れたのは若いマーマン族の一味だった、ざっと数えて10数人はいる。
僕の中で緊張が走る、こいつらも敵か?僕はドライバーを懐から取り出し戦闘態勢に入ろうとする。
「いや、俺達はお前と戦うつもりはない」
「なんだと?」
「お前に俺の父親、バスコを止めてほしい」