困惑していたのは、僕だけじゃなかった。
「な、何あれ……?」
「おい、急に鎧騎士になったぞ?しかも一瞬の間に……」
セレステはもちろんの事、村人達でさえも困惑しているようである。
「ふーん……。でも、それで何ができるの!?」
また僕の方へと黒い悪魔のような腕が伸びてきた。
その腕を避けようと、ジャンプすると、普段ではありえないくらいの高さで、僕の体は空中を高く舞う。
すごい飛躍力だ。
これがディーパという正義のヒーローの力なのか……?
「すごーい……でも……」
着地した瞬間、フォンセは、もう一方の手を地面から生やし、がっしりと僕の体を拘束する。
「なんだと……」
「捕まえたぁ♡」
着地狩りとは何て卑怯な事を……。
無理やり腕を振りほどこうとするが、力が強すぎて腕が開かない。
このスーツがないと間違いなく骨は折れていただろう。
「ソゲン君……!」
拘束されているのに気づいたセレステ、今にも倒れそうになりながらも、手から火球を黒い腕めがけて放つと、見事命中。
僕を拘束した腕は消滅する。
「大丈夫?」
「ありがとうセレステ、助かったよ」
「あちち……」
「2対1だ……形勢逆転だな」
2人共満身創痍であったが、優位には立てたはずだ。
だが、フォンセの表情は全く変わっていなかった。
「ふーん……能力を100%開花できていない精霊と、からっぽな力を使う人間ねぇ。実は私もまだ2割しか能力を出してないんだよねー」
「なんだと?」
「弱いものをなぶって殺すことは私の趣味じゃないんだよね。だから今日は一旦引くことにするよー。本当はセレステちゃんを持って帰りたかったけどー。じゃーねー」
笑顔で手を振ると、彼女の体は煙のように消え、その場から立ち去って行くのだった。
息を切らしながら、僕はバックルを引っ張るとベルトが消え、体を覆っていたスーツも粒子となり消えた。
「はぁ……なんだったんだ……今のは……」
「でも、みんな無事で良か……っ……た……」
そう言い残し、そのまま力なく倒れる。
突然の出来事に僕と周りにいた村人たちがパニック状態となってしまう。
「セレステ!?おい!!しっかりしろ!」
何度呼びかけても、セレステは目覚めなかった。
数時間後、僕は荒れ果てた村を修復する作業を村人たちとしていた。
「旅人さん、セレステさんは大丈夫ですよね」
若い村人が今にも泣きそうな顔で僕に話す。
「多分……俺もわかんないけど……」
セレステは村の診療所に運ばれていた。
命に別状はなくおそらくあの闇の精霊が言ってた霊力というものを使いすぎで倒れたのだと思う。
いや、そうであると思いたい。
ていうか精霊って、普通の女の子の見た目してたの?
聞いてなんだけど……。
というか、あの闇の精霊……なぜセレステを狙ってきたんだ?
あの闇の精霊フォンセと呼ばれる少女、そして彼女が言ってたセレステはまだ100%能力を開花できてないその言葉の意味がどういうことなのか……?
それにあの精霊……、この力の事を知っているような口ぶりだった。あの娘とも契約しないといけないんだろうか?
そう考えながら、バックルもう一度お腹に当てるとベルトが出現し腰に巻かれる。
僕は変身した、そして身体能力が向上した、これがディーパってやつの力なのか……?
いろいろと考えていると、先ほど話していた村人がドライバーをまじまじと見つめていた。
「あれ?この紋章は……」
「紋章?」
巻かれているバックルをもう一度みると最初につける前にはなかった紋章が刻まれている。
「なんだこれ?あんた知ってるのか?」
「まぁ知らないといえばウソになるんだけど思い出せないんだよ。うーんどっかでみたことあるんだよぁ。それ、うーん思い出せん」
村人は紋章を見ながら考えこんでしまう。
とりあえずセレステの様子を見に行くとするか。
バックルを懐にしまうと僕は村の診療所に向かって歩き出した。
診療所は闇の精霊が襲撃してきた場所から歩いて5分の所にある。
診療所の扉を開けると、セレステはベッドに眠っていて、その隣にはおばあさんが椅子に座って、見つめていた。
「おばあさん……ごめんなさい……セレステ守れなくて……」
申し訳ない気持ちで、僕は頭を下げる。
だがおばあさんは怒らなかった。
「別にあんたは頭を下げる必要はないよ。さらおうとしてきたやつから守ってくれたじゃないか、礼を言うよ」
小さく会釈する姿に僕はどうもと小さく言うしかない。
「それにしても、セレステもいろいろ一人で抱えすぎだよ」
「いつもあんな感じなんですか?」
「セレステは村人が困ってると放っておけないやつでね。魔物がたくさん襲ってきた時も、いつも1人でボロボロになるまで戦ってるんだよ」
「そうなんですか……」
自分の身を犠牲にしてまで、皆を守るか……。
褒められたものではないけど、なんかセレステっぽいな……。
「旅人さんよここに泊まっていってくれ。セレステに何かあったときのために、あんたがここにいたほうがいい」
「え、僕が?で、でも構わないんですか?」
「えぇ、別に構いませんよ。そちらのベッドをお使いください」
診療所の医者は、承諾して、隣のベッドを指さす。
「じゃ、決まりだな、頼んだぞ旅人さん」
おばあさん僕の肩をぽんと叩いて歩き出し、診療所をあとにした。
「はぁ、今日は……いろいろありすぎて疲れた」
ベッドに吸い込まれるように横になると、よっぽど疲れていたのか僕は一瞬にして意識を失い、異世界での一日目が幕を閉じる。
僕は夢を見ていた。これは元の世界にいた頃のものだ。
リビングと思しき場所で、目の前には3人の男女がいる。
1人の男が俺を指を指したかと思うと、隣にいた2人の女性も同じように僕を指差す。
「お前は役立たずだ」
違う……僕は役立たずなんかじゃ……。
「違う、お前は役立たずだ」
違うんだ……僕は役立たずでも落ちこぼれでもなくて、僕は、僕は……僕は!!!!!!
そう言いかけた瞬間、僕は目を覚まし、咄嗟に起き上がる。
「ソゲン君……大丈夫……?」
「え、わ、わ、わぁ!!」
ベッドの隣には、心配そうな表情で、セレステが座っていた。
「ソゲン君、寝てるとき、すごく辛そうな表情だったよ?」
「うん、いつものことだから……。大丈夫。それよりセレステの方はもう大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ」
なんともないと言っているが僕はセレステが昨日とは少し違うことに気が付いていた。
昨日と変わらず、笑ってはいるがそれは作り笑いだということ。
おそらく、昨日のフォンセとの一件がの事がまだ気になっているのだろう。
「な、なぁ?昨日こと」
それを言いかけるとセレステは喋らせないように僕の口に指をあてた。
「もうあの事は気にしていないよ、私は人間じゃなくて精霊だった。それだけのこと」
「セレステ……」
僕の口からセレスは指を離すとまたニコっと笑う。
「あ、そうだ!ソゲンくん、日課の山菜取り一緒に行ってくれない?おばあさんが旅人さんも連れていけってうるさいから」
「わかった。ついていくよ」
「ありがとう、ソゲン君!準備してくるね!」
ルンルン気分で、セレステは、診療所を出て行くのだった。
村の入り口で待っていると、籠をもったセレステが、小走りでやってくる。
「おまたせ……。待たせてちゃってごめんね?」
「大丈夫。そこまで待ってないよ」
「良かった……。それじゃあいこっか……」
僕はセレステにの後ろをついて歩く。
彼女の後ろ姿は悲壮感に満ち溢れているような、そんな感じがした。
おそらくセレステは一人になりたくないのだろう。
一人でいるとどうにかなってしまいそう、だから話し相手がほしいそんな感情なんだろうと僕は心の中で、そう解釈していた。
何も話さないまま、何十分も歩いていた。
いや何も話せないでいた。
そう表現した方が正しいだろう。
はぁ……話しにくい。
気まずい、気まずい、何を話せば良いんだよ。
この空気をなんとかしないと、そう思って口を開こうと思った時、セレステが急に立ち止まりこちらを振り向いた。
「ソゲン君って家族はいる?」
「え……。いるよ?父と母、それと妹が」
突然の質問に、僕は半ば困惑気味に答える。
「いいなぁ……。羨ましい……」
「それがどうかしたのか?」
そう聞き返した瞬間、彼女の目から一筋の涙がこぼれ落ちた。
「私ね、5歳の時、親に捨てられたの……」
「え……」
驚愕のカミングアウトで、僕の周りの時が止まる。
捨てられた……?
「それと、私にはね、5歳より前の記憶がないんだ。気づいた時には森にいて、必死でお母さん……お母さんって泣き叫んでいるところをおばあさんに拾われたの……」
拾われた時より前の記憶がない?
いろいろと頭の中が混乱していた。
捨てられるときに、親に記憶を消された?
一体何のために?
「じゃあ、てことは親との思い出は愚か住んでるところや、親の顔も覚えてないってことか?」
「うん……そうだよ何もかも覚えてないの……」
なんと残酷な……。
親に捨てられた挙句、5歳より前の記憶が消されてしまうとは……。
「ずっと考えてたの……。なんで私は捨てられたんだろうって……。けど昨日あの娘から私が精霊だって聞かされて分かったの。きっと私が人間じゃないから……精霊だから……だから捨てられたんだって……」
セレステの体はガタガタと震えていた。
それは怒り、いや悲しみ、いや違う両方だ。
セレステは自分が人間じゃなく精霊だって事気にしてないといったのはやはりうそだった。
やっぱり気にしてるじゃないか!
「そ……そんなことはないよ……」
「じゃあ……私はなんで捨てられたの!?」
「セレステ……」
「うわあああん」と声を荒げ、まるで赤子のように泣くセレステを見て僕は彼女の頭をいつの間にか無意識に優しく撫でてしまっていた。
予想だにしていなかったセレステはびっくりして「へっ!」という声を出して僕の顔を見つめる。
「最低な親だよな、セレステの親は……いっそ殴ってやりたいくらい!」
「ソゲンくん……」
「僕はセレステの親の気持ちはわからん、だからこうやって慰めてあげることしかできないんだけど……」
僕はそういいながらセレステを優しく抱きしめていた、急に女の子の体を触るだなんて最低なことだとも思ったが、でも彼女をこうしてあげたいという気持ちが真っ先に僕の体を動かしていたのだ。
「ソ、ソゲンくん?急にどうしたの?」
顔を赤くしながら、セレステは僕の顔をみていた。
それを見て僕は急に恥ずかしくなって正気に戻って急いでセレステを離す。
「ご、ごめん!迷惑だったよな?」
「ううん、気にしないで」
目をそらしながら、セレステはそう言った。
今の気まずい雰囲気をどうにかしようと、少し咳ばらいをして、気を落ち着かせる。
「真実か、どうかわからないことを考えてくよくよしてもしょうがないよセレステ。過去の事を考えるより今を考えて生きよう、そうした方が僕はいいと思うよ」
「ソゲン君……」
セレステは涙を袖で吹き、頬をぱんぱんと叩いきよし!と言いまた歩き出す。
「うん!そうだよね!何か私ちょっとナイーブな気持ちになってたみたいもう過去の事は考えない!ソゲン君の言葉で元気出たよ!」
「よかった元気出て」
「ほーらー早く山菜採りにいかないと日が暮れちゃうよー」
「ちょ、ちょ……セレステ!痛い!痛い!」
腕を掴むとそのままずるずると力なく引きずられていったが、「あっ」という声を出し急にセレステが立ち止まった。
その立ち止まった先を見ると一人の見覚えのあるゴスロリ少女がいた。
「二人とも仲いいんだねーー」
「「フォンセ!」」
二人の声が重なり合った。
黒色の長い髪そしてゴスロリ服、そして子供っぽいけど少し妖艶のある声、あの闇の精霊フォンセが目の前に立っている。
僕はセレステを守るように彼女の前に立つ。
「お前、僕らになんのようだ?」
「ちょ……ちょっと……そんな怖い顔で見つめないでよ。貴方たち二人に村が大変な事になってるよーって伝えようと思って、待っていたのに」
「村が……??」
フォンセのその一言で当たりの空気が一気に下がる。
「おいどういうことだ?」
「さぁ?私にはよくわからないんだけど……さっきやばそうな魔物が、村に向かって行ったのをみたよ?」
「ど、どう言う事だよ……?」
僕がそう聞いている間に何も言わずセレステが村に向かって駆け出す。
「セレステ!?まさか、お前が仕組んだことじゃないだろうな?」
「さぁ?どうだろうね?うふふ」
セレステが駆け出した後ろを姿を見てフォンセ不敵に笑っていた。
「くそ!!」
今はこいつが嘘をいってるかどうかなんて考えてる余裕はない。
不敵に笑みを浮かべるフォンセを横目に僕はセレステの後ろを追いかけた。