悪の力? でもそれをどう使うかは私の勝手ですよね!? 作:蒼天 極
マジアアズールの正体が小夜さんだと判明してから、取り敢えず血が出ているところがあったからパパッと治療して私と小夜さんは並んでベンチに腰掛けていた。
「…………」
「…………」
うん、何を話せば良いのか分かりません!!
いやだってアズールの正体が小夜さんって事は私小夜さんの首を絞めたってことですよね!? しかもベーゼとの戦いを見てアズールの闇堕ちで興奮したり鼻血出したり……そんなの気まずくてお話しできるわけ無いじゃないですか!!
「……さっきの戦い……見てた?」
「……はい」
消毒液や包帯を買って来てしまった時点で、もはや誤魔化しは出来ないだろう。ならば嘘をつくよりも正直に肯定する。
「……失望……したわよね?」
「え?」
「情けないわよね……私はトレスマジアなのにエノルミータのいいようにされて、挙げ句の果てには痛いのが気持ちよくなって……何も考えられなくなって……」
静かにそう言いながらポロポロと涙を流す小夜さん。
それは身体が痛くて泣いてるのではなく、ベーゼに負けた悔し涙ではなく、自分が情けなくて泣いているのだろう。
「私……最低よ。みんなを守らないといけないのに、あのときマジアベーゼに怒られなかったら、取り返しのつかないことになってた……。もう戻って来られないかも知れなかった……みんなを裏切るところ……いえ、もう裏切っちゃった」
「……未遂ならまだギリギリセーフですよ」
「アウトよ。……未遂でもなんでも……あのとき、マゼンタもサルファも応援してくれるみんなだってどうでもいいって……思っちゃったんだから」
「…………」
……これ、どうしましょう?
なんか小夜さんを励ます場面になってしまってますけど、え、私に白羽の矢を立てますか普通!?
ここはマゼンタとかサルファとか仲間の役割でしょう!? 首絞めて興奮するような変態がやる役割ではないでしょう!? 闇堕ち賛成派な私がやる役割ではないでしょう!?
……ですが小夜さん……いえ、アズールには前回私の欲求を鎮めてもらった借りもあります。
ならば発破をかけて差し上げてもバチは当たらないでしょう。
「……ならいっそトレスマジアを引退してはいかがですか?」
「……え?」
小夜さんは驚いた顔でそちらを見る。
この顔……元々辞める気は微塵もないと考えて無かったんでしょうね。
「闇堕ちの危険があるならこれ以上魔法少女なんてやるべきではありません。それにネットでベーゼの姿を拝見した事がありますが、彼女はあなた方を痛めつけることに快感を感じている様子。あなたが引退して表舞台から姿を消せば彼女へのダメージになるはずですよ?」
「…………」
もしこれで小夜さんが引退したってなったら、うてなは自分のせいで魔法少女が〜ってなるのは目に見えてますし、私もそれをネタに徹底的に揶揄ってやるため、少なくともベーゼはちょっとは大人しくなるでしょう。
……まぁ引退しなくても明日うてなを揶揄ってやる予定ですけど。
「それに普通の人生も良いものですよ。私の場合だと放課後にスイーツ巡りをしたり、ジムに行ったり、家事をしたり、妹と遊んだり……平和で充実した生活です」
「平和で充実した生活……」
「はい。そしてそれは当たり前だからこそ、大切でかけがえのないものなんです」
本当に大切でかけがえのないものです。何せヴェナリータに絡まれて以降気を落ち着かせられる時間はかなり減ったように感じてしまいますしね……。
「ここらが辞める良いきっかけでは無いですか?」
「で、でもそれじゃあマゼンタとサルファに迷惑が……」
「闇堕ちするのと引退……どっちも迷惑がかかるでしょうが、どちらがより厄介ですかね?」
「っ!!」
うーん、我ながら結構意地悪なことを言ってしまいましたね。
アズールの闇堕ち未遂という事実、魔法少女を辞めるだけでベーゼにダメージを与えられる件、そして闇堕ちと引退のどちらが迷惑がかかるか……。ここまで言われたらもはや引退以外に選択肢はないでしょう。
さぁ、どういう答えを出しますか? 小夜さん。
「…………それでも、私は辞めるわけにはいかないわ」
「どうして?」
「私が辞めればマゼンタ達に迷惑がかかるから……それに私が辞めてしまったら、守れない人が出てきてしまう……!」
「ですがあなたは今日闇に堕ちかけました。闇に堕ちれば守る側から狩る側になる。……意味は分かりますね? 逃げる事でこの先あなたが狩ってしまう命を守れるとは思いませんか? 逃げるが勝ちと言う言葉もあります。逃げても笑う人なんていませんよ?」
「そうね、確かにそうだわ。でもそれなら闇に堕ちなければいい!」
「一度堕ちかけたあなたにそれが出来るとでも?」
「頑張る! 二度と屈服なんてしないように……もっともっと身体も精神も強くなって、もうベーゼに……エノルミータに負けないようにする!!」
そうハッキリと告げた小夜さんの顔は、先ほどのような弱々しいものではなくアズールのときのような凛とした真っ直ぐなものだった。
……あぁ、なんて真っ直ぐな瞳を私に向けてくるんですか、あなたは……。そんな顔をされればメチャクチャに引き裂いてやりたくなります!! ……まぁ流石にここでそれをするのはKYなんでやりませんが。
「……ダメ、かしら?」
「頑張るなんて不確実な言葉では、納得しかねます」
「うぅ……そうよね……」
「ですが……それほどの決意ならば、もう負けたりはしないと確信しました」
「!!」
……おや、なぜ小夜さんは私の顔を見て顔を真っ赤にしているのでしょう? 私の顔に何かついてますかね……?
「杜乃さん……励ましてくれてありがとう。私、頑張るわ!」
「いえ、以前あなたの首を絞めてしまった件の償いとでも思っておいてください」
「え、杜乃さんが私の首を……? え、それって……」
「私にこれほどの啖呵を切ったんです。万が一それでまたベーゼに屈したら……マゼンタでもサルファでもなく……この私があなたをズタボロにしますからね?」
「これはっ……!? 杜乃さん……あなたもしかして…………」
そう言ってトランスアイテムを取り出すと、小夜さんは目を大きく見開く。
……これで絶対私の正体がバレてしまいましたね。ですが私もアズールの正体があなただと知っているのでどっちもどっちですよね。
「今夜の逢瀬は私達二人の秘密にしましょう。みんなには内緒です」
そう言うと小夜さんはしばらく呆然とした顔で私を見ていたが、一度首を振ると笑顔を私に向けて来た。
「……うん、分かったわ。それじゃあまた明日、学校でね?
「えぇ。それではまた明日。お休みなさい
お互い帰路についた私達。
……ふぅ、今回は私の好きな結末ではなかったですけど、私は闇堕ち系が好きってだけでその他もしっかり嗜むんで、これはこれでアリな結末と言えるでしょう。
「くあぁ……随分と長い事話してしまいましたね。早く帰って寝ないと明日に響きそうです」
スマホで現在時刻を確認してみると………………着信157件、メール320通……
「…………」
あ、今夜眠れませんね……。
◇
「おはよう、うてな。なんだが明日世界が終わると言った感じの顔をしてますね」
「……ぁ、おはようえりすちゃん。そう言うえりすちゃんこそ目にクマが出来てるよ?」
「昨日は長時間夜間外出してしまったんでお母さんに徹夜でお説教されてました。……ところで昨日は中々面白い展開になってましたね♪」
「え!? み、見てたの!?」
「バッチリ。いや〜、闇堕ち嫌いなくせに調教するだけして堕ちたら見捨てるだなんて……うてなはやるだけやって子供が出来たら捨てるようなクズ野郎と同列だったんですね?」
「あ"ぁぁぁああああああああああ!!!!」
突如奇声を上げながら、ガンガンと地面に自らの頭を叩きつけ始めたうてな。
恐らくその奇声を聞いて飛んできたのだろう。キウィが私とうてなの間に割って入る。
「えりすてめー、またうてなちゃん虐めてんな〜!!」
「虐めてないですよ〜、ただのスキンシップですよ〜♪」
「嘘つけ〜、うてなちゃんを虐めんならアタシがうてなちゃんもらって行くから、お前は一人で登校しろバーカバーカ」
あらあら口が悪いですねぇ。丁度ハサミあるんで暴言を吐く舌を切ってやりましょうか?
ハサミを取り出してキウィににじり寄っていると、背後から昨日ぶりの声がする。
「あ、おはようえりす。ハサミなんて持ってどうしたの?」
「おや、おはようございます小夜。いつも通りうてなを揶揄ってたらキウィに暴言吐かれたんでね。あの舌切ってやろうと思いまして……」
「揶揄う方が悪いと思うわよ? それに流石にそれは傷害事件になるからダメよ。これはしっかり監視していた方がいいかしら? うてなさん、キウィさん。私も一緒に登校してもいい?」
「え、う、うん。いい「ダメ〜、うてなちゃんは私のだから、お前らは二人で歩いてろ〜!!」キ、キウィちゃん!?」
「あらあら、嫌われた物ですね。仕方ありません。小夜、二人は放っておいて私と登校しましょうか?」
「そうね。それじゃあ私達は先に行くわね?」
今日は予想以上にキウィの独占欲が強いみたいなので、私と小夜は先に行く事にした。
百合カップルは私らのいないところで存分にいちゃついてどうぞ〜。
「ねぇ、うてなちゃん〜、もう学校サボってすし行こすし〜」
「えぇ!? ダメだよキウィちゃん。怒られるよ…………」
「えりすの方向いてどったの? も、もしかしてアタシよりもえりすの方が……!?」
「違うからね? ……いつの間にえりすちゃんと小夜さんあんなに仲良くなったんだろ?」
ノワールカーネリアンの正体がクラスメイトにバレた!(バラした)
小夜とえりすは秘密を共有する仲になった。