悪の力? でもそれをどう使うかは私の勝手ですよね!? 作:蒼天 極
それから数日後、うてな達が真珠とネモに対して魔法少女狩りをした事についてのケジメを取らせている間、私は喫茶店でスイーツを楽しんでいた。
と言うのも私がエノルミータと手を組むのはあくまでロード団と相対したときのみ。ならばロード団を裏切った真珠とネモの件で私が出向く必要はないと判断したのだ。
「う〜ん、やっぱりここのパンケーキは最高ですねぇ。最近は具現化の能力を悪用してますけど、やっぱりお金を払って食べるものの方が美味しいです♡」
なにせ作る人もちょっとずつ腕を上げていく。だから私の記憶の再現よりもちゃんと喫茶店でお金を払って食べる方が美味しいと言うのは当たり前のことなのだ。
まぁそれでも記憶したスイーツを再現できるおかげで喫茶店に来る回数は今までよりも減ってしまいましたけどね……。
「……ふぅ、ご馳走様でした」
普段ならスイーツを食べ終えても、もう少し喫茶店の中でのんびりするんですけど、今日はお客さんが多いですね。
さっさとお会計を済ませて待っている人に席を譲りましょう。
「お待たせしました〜、抹茶カヌレでございます〜」
「え? すみませんこれ頼んでないです」
「マスターの奢りだって。えりすちゃんいつも美味しそうに食べてくれるからって」
「マスターありがとう愛してるって伝えておいてください」
「そのまま言ったらマスター勘違いするから適当に表現濁して伝えておくね〜」
……やっぱり具現化に頼るよりもちゃんと来た方がいいですね。
◇
「さーて、ジムで身体を動かしたら今日は帰ってお昼寝でもしましょうか」
カヌレも食べてしまったし、この後お昼寝をするならキツめにやって身体をしっかり疲れさせたほうがゆっくり眠れるかし……おや?
「私の目の前を歩いているのはもしかして小夜じゃないですか?」
「あ……えりす」
人違いではなかったようですね。
目の前を歩いていた小夜に早歩きで追いつくと隣に並ぶ。
「どうしました? しばらくは修行に専念するって言ってましたけど?」
「うん、ちょっとスランプでね」
弱みと向き合うことと自分だけの武器、その二つを上手くイメージ出来なくなったらしく、見かねたマゼンタに気晴らしを提案されて散歩していたのだと言う。
「エノルミータの内乱もいつまで続くか分からない中こんな事してる場合じゃないんだけどね……」
「いえいえ、気晴らしだって重要ですよ。ほら、もっと肩の力を抜いて考えることをやめないと気晴らしの意味がありませんよ?」
「分かってはいるんだけど、どうしても考えちゃってね……。こんな悠長な事をしてる場合じゃないって」
困ったように笑う小夜。
なるほど、気晴らしという名目で自分だけサボっているのが落ち着かないんですね。これでは気晴らしどころではなく本当に無駄な時間を過ごしてしまう事になるでしょう。
…………よし。
「ならば有意義な気晴らしをしましょう」
「有意義な気晴らし?」
「えぇ。ついて来てください」
彼女の手を引いて、行きつけのジムに連れて行く。
どうせこれからここで身体を動かす予定でしたし、普段小夜に付き合ってあげてるんでたまには私が付き合わせてもいいですよね?
それにここのジムは会員の方がお得ですが、会員でなくてもゲストとして利用することが出来るんで契約していなくても気軽に参加出来るんです。
「ここって……」
「トレスマジアは普段模擬戦や滝行をしていますが、強くなりたいならば土台をしっかり固めるべきだと思いませんか?」
「確かにそうだわ。それに何もせずにぼーっとするよりも、身体を動かした方が良いわね」
という事で二人でジムに入り、受け付けに会員証を提示すると早速準備運動と軽い柔軟をこなして運動開始。
さてまずはランニングマシーンで有酸素運動からですね。
「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……も……もう無理……!」
「大丈夫、まだまだいけます!! ほら、足を止めるとランニングマシーンから落ちちゃいますよ!!」
「う、うん……! ……あ、でもこの息苦しさに足の痛みはなかなか……」
「そうです! 快楽をバネに限界を超えましょう!!」
その後時速20キロ(小夜は時速15キロ)の速さで一時間走り続け、次はエアロバイク。
「……く! さ、さっきのランニングマシーンで足が棒みたいなのにこれは…………」
「足の筋力は踏み込みや回避で酷使します。徹底的に虐め抜いたほうがいいですよ!!」
「虐め抜く……分かったわ。足がちぎれそうだけど頑張る!! はぁあああああああああ!!!!」
「ってそれは虐めすぎです。そんな無茶をすると足の腱が壊れますよ? ……まぁ壊れたら回復しますけど」
その後本当に無茶をしすぎて脚を壊した小夜を誰も見てないところへ連れて行って回復。
エアロバイクはほどほどで切り上げてベンチプレスに写る。
「……く、うぅ……!!」
「頑張ってください、60キロは中学生が持ち上げていい重さじゃないですけど、確実に力になるはずです」
「う、腕が耐えられなくなってバーベルが落ちて来たら……」
「セーフティーバーあるんで大丈夫ですよ」
「……ねぇ、えりす。ピンチのときを想定したほうがいいだろうし、セーフティーバー外してやってもいいかしら?」ハァハァ
「スタッフさんに怒られるんでダメです」
さて、最後はストレッチですね。小夜は今回大分身体を追い込んだんで、しっかり伸ばしてあげないといけませんよね。
「イタタタタ……」
「あら、意外と身体硬いんですね」
「えりすが……柔らかすぎるだけだと思う……!」
「自慢です。ほら、痛いけど我慢ですよ。深呼吸してー……」
「くっ……もうちょっと曲げてもらっていい?」ハァハァ
「これ以上は怪我するんでダメです」
◇
メニューをこなしてヘトヘトになった私達は公園で一休みをする事にし、小夜をベンチで休ませると自販機でスポーツドリンクを買ってくる。
「どうぞ」
「あ、ありがとう。……えりすっていつもあんなメニューこなしてるの?」
「普段ではありませんよ。今日はちょっとキツめにしただけで、普段はもう少し手を抜いてます」
あ、別に小夜があるからハードメニューにしたってわけではないですよ? 元々今日はパンケーキとカヌレを食べたからキツめにしただけなんで。文句は受け付けませんからね?
「それでどうですか? ちょっとは気晴らしになりました?」
「うん、身体を動かしてちょっとスッキリしたかも。……明日は筋肉痛確定っぽいけど」
大丈夫ですよ。今の小夜なら筋肉痛なんてただのご褒美でしょう?
そんな事を考えていると、スポーツドリンクを飲み干した小夜が訪ねてくる。
「……ねぇ、なんであなたはこんなに良くしてくれるの?」
「え?」
「だってそうでしょう? 私は元々助けを求めてたあなたを嘘と一蹴して敵と認識してしまった。恨まれても仕方ない事をしたと思ってるわ。……そう言えばマジアベーゼも一番最初は助けを求めてたわね。きっと私達を恨んでるからちょっかいを出しているんでしょうね……」
「ベーゼのそれは絶対違います。だってベーゼはうちの妹を除いたエノルミータの構成員全員に手を出してますもん」
「そ、そうなの? ……まぁ、今はベーゼのことはいいわ。ねぇえりす、あなたは私の事を恨んでないの? どうしてこんなに優しくしてくれるの?」
不安そうに、ですが真っ直ぐ私の顔を見てそう訪ねて来た小夜。
「偶然とは言え正体を知ってしまったから、なんとなく放っておけなかった。それだけです」
それを聞いた小夜は「そう……」と言ってしばらく目を閉じる。そしてしばらくすると目を開けて頷いて私の手を両手で包み込むように握る。
「ねぇ、えりす。以前マゼンタに誘われてたけど、私達とトレスマジアをやりましょう」
「え?」
「あなたは優しい人よ。確かに相手に酷い事をする事に快楽を感じてしまうのかもしれない。それでも悪い事をせず沢山の人を守ってくれた。……落ち込んでる私を励まして、こうして今も支えてくれている。私はあなたと一緒に魔法少女がしたいわ!」
……前回のマゼンタのようなノリで誘った感じでもない。私だから良いと真剣に誘ってくれているんですね。
正直そう言う風に誘ってくれるのはとても嬉しいです。小夜やマゼンタとサルファ……いえ、あの二人は多分はるかさんと薫子さんなんでしょう。あの三人と魔法少女をやれたら面倒くさいだろうけどきっと楽しいはず。
それにうてなも光落ちという事で大喜びする事でしょうし、アリスちゃんの正体が世間にバレたときに庇ってあげられる。良い事だらけです。
……ですが
「ごめんなさい。私には無理なんです」
「……やっぱり魔法少女は嫌かしら?」
「いえ、誘ってくれてとても嬉しかった。ですが私は魔法少女にはなれないんです」
そう言って私は普段家から出るときは肌身離さず持ち歩いているハート型のエンブレムを取り出す。
「え、それって……!?」
「
エンブレムを天に掲げてそう唱えるが何も起こらない。変身失敗だ。
「それは私達の変身アイテムよね!? ど、どうしてえりすが……!!」
「安心してください。これは魔法少女狩りで得たものではありません。……マジアカーネリアン、私の師匠の形見です」
「マジアカーネリアン……それに師匠って……」
「少し昔話をしましょう。どうして私がこれを師匠から受け取ったのか、何故私がこれで変身できなかったのか…………」
次回、えりすの過去